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第97罠 海底魔城再び③

更新遅くなりました…!過去編が少し続きます。

 ——あれは、今から約1000年前。

 そう話しだしたデュラは、クルルの方を急に見やって言った。


『……カーバンクルがいるなら、折角だから使わせてもらうぞ』


 ふわり、と宙に浮いたクルルがデュラの頭の方へ引き寄せられていく。


「う、うわ! ティム、たすけるんだぞ!」

「ちょ、クルル……!」


 ジタバタと宙でもがくクルルに、ふ、とデュラが笑った。


『いや何、少し力を借りるだけだ。安心しろ、痛いことはしない』


 そのままデュラの頭の上に、ゆっくりと降ろされる。

 固まってしまったクルルを覆うように虹色の球が現れると、そこから俺たちの目の前に、まるでプロジェクターから空間に投影するかのように映像が始まった。


『……しばらく、話に付き合ってもらうぞ。何せ、……長過ぎるのだ』


 ——この千年という時は、な。


 そう言ったデュラの声は、ひどく悲しそうで。

 さっき見た王女様の真っ白な顔と、重なって見えた。



***



 目の前に広がる緑の山々がすごい速さで後ろに流れていく。視界が上に向くと同時に、一面の青が飛び込んできた。

 まばらに点々と赤い何かが見えたと思えば、それは次第に大きくなり、翼の大きな何か……ドラゴンの群れだ、と気づく。


 一匹の、角の立派なレッドドラゴンが近づいてきた。

 親しげな顔をして画角いっぱいに近寄ったかと思えば、視界がガツン、と揺らされる。


 ——ああ、これはデュラの視界なのだ。

 

「おい、聞いたか? サグンヴォート様がやられたらしい」

「……へぇ、いい気味だな。あのクソジジイ、弱いくせに権力ばかり振りまいていただろ」


 聴こえてくるもう一つの声は、この視界の主だ。今より幾分高いように聴こえるが、おそらくデュラの声。

 くつくつと、楽しそうに笑う声は目の前の姿とは印象が違って聞こえた。


「祝いがてら、今夜呑まないか? デュラの好きな蜂蜜酒の美味い店があるんだ」

「……ったく、ゾーグは本当に呑むのが好きだな」

「決まりだな、じゃあいつもの場所で」


 バサリと翼をはためかせて、ゾーグが彼方へ飛んで行く。

 大空を舞うレッドドラゴンの群れは、どこを目指しているのだろうか。


 映像が暗転して、夜の景色に切り替わった。

 高い城壁に背を預けて待っているのは、赤髪の短髪にガタイのいい青年だ。

 歩いて近づくと、腕組みをして俯いていたその頭がこちらを向いた。ニッと笑い、肩を組んでくる。


「待たせるじゃねぇか、デュラ」

「……時間ちょうどのはずだけど? ゾーグが早すぎるんだ」

「仕方ねぇだろ、新作エールが俺を待ってんだよ!」

「それが目当てか……、潰れても連れて帰ってやらないからな?」

「ん、大丈夫。ハーピー便頼んであるから」


 城門を通り抜けると、ガヤガヤとした人間たちの喧騒で溢れ返っていた。古びた布で覆っただけのテントの下では、酒瓶を片手に昼間っから呑んでいたとしか思えない酔っ払いたちが転がっている。

 一際ごちゃりとした路地に入っていくと、年季の入った木製のドアに『赤竜亭』といかにもなネーミングが彫られていた。

 ドアがギィ、と錆びついた音を立てて開かれる。

 中は思ったよりも奥行きがあり、その一番奥の席まで既に客でいっぱいだった。


「ああ!! ほら見ろ、デュラが早く来ないから」


 席の心配をするゾーグが、可愛いメイド服の店員に声をかける。店員はこちらを見ると、パッと表情が変わり奥の部屋へ案内してくれた。


「デュラ様、ゾーグ様、ご来店いただきありがとうございます。どうぞVIPルームへ、こちらです」


 一番奥の扉を開くと、現れた階段は地下へと続いている。

 クリスタルで造られたような透明な階段は、踏んだ場所が虹色に光を放った。

 こそりと、ゾーグが耳打ちをしてくる。


「……やったな、デュラ。俺たちも、ようやくここまできた」

「ああ、これからもよろしく。ゾーグ赤竜団長」

「やめろよ照れんだろ、デュラ新魔王様」


 二人して、顔を見合わせて笑い合った。

 席につき、運ばれてきたお待ちかねの新作エールはガラスのジョッキの中でキラキラと輝いている。

 こちらには蜂蜜酒が、木樽を小さくしたようなジョッキの中にトロリと注がれていた。お好みでジジャの擦り下ろしを加えられるよう小皿に添えられている。

 二人してジョッキを掲げると、目を合わせてまた笑い合った。


「……じゃあ、新魔王デュラ様の誕生に乾杯!」

「それやめろって……、ゾーグ赤竜団長に乾杯!」

「ぷ……ッ、ははは!! あんなにちっこかったデュラがな! まぁ、今でも背丈は小さいが」

「ゾーグこそ、お前ばっかり縦に伸びやがって……。人化の術は見た目がいじれないのがダメだよなぁ……」

「まぁまぁ、強さに身長は関係ないからな。……次こそデュラから一本奪いたいもんだが」


 一杯目をもう飲み干したゾーグが、片手を上げて二杯目を嬉しそうに受け取った。

 次々と運ばれてくる肉料理の数々。テーブルいっぱいに並んだ料理を、次から次に平らげていくゾーグはとても楽しそうだ。


「俺から一本取るのはゾーグには300年早いだろ」

「っ、何だと!? 300年はないだろ、さすがに」

「ふは、冗談だよ。……ゾーグの強さは俺が一番知ってる」

「……そっちの方が照れるから、やめろ」


 いいから飲めって、とジョッキを押しつけてくるゾーグに、これも食えと大きな肉の塊を持たされる。


「……何だ? この肉、あまり見ない肉だな」

「それはな、カイザーオーロックスの肉だぞ。魔王就任祝いだとよ。滅多に食えないレアものだから心して食え」


 へぇ、と興味のなさそうな声で肉に齧り付く。骨が突き出た大きな塊肉は表面がこんがりいい色に焼けて表面が肉の脂でてらてらと艶やかに光っている。

 噛み付いた瞬間、肉汁がこれでもかと溢れ出た。キラキラと流れ落ちる肉汁は透き通っていて、油が金色に輝いている。


「……っ、うっっっまぁ!! おいゾーグ、早くお前も食べろって!」

「うお、そんなに美味いのか!? せっかく俺が待っててやったんだからな」


 じゃあ俺も、と肉に齧り付いたゾーグが、目を見開いて固まった。


「……マジか、おい。デュラ、お前魔王なんだからどうにかなんないのかよ」

「知らん、金に糸目はつけないから仕入れるようイグザルに言っててくれ」

「わかった。……けどアイツ、予算にめっちゃ厳しいからなー」

「そういう時はな、ニール通りの菓子店で売ってるジュエルゼリーをそっと渡しておけ。イグザルはあれが大好物だから」


 蜂蜜酒をゴクリと煽りながら、たわいもない話はあっという間に過ぎる。

 新作エールをたらふく呑んでご機嫌なゾーグと店を出たのは、もう店内にまばらにしか客が残っていない深夜だった。


「……ういー、ちょっと飲み過ぎたか……」

「いくらお前でも一樽は飲み過ぎだ、人化している間はこの体に見合った量で足りるはずだろ」

「そりゃ、元の姿なら100樽でも足りんからな? 安く済んだもんだろ」

「……ハーピー便はどうしたんだ」

「ん、さっき合図を出したからもうそろそろ来るはず」


 路地裏から城門を出れば、闇夜の森はもうこっちの領分だとばかりにギャアギャアと魔物たちが鳴き喚いた。

 うるさいので威圧をほんの少し出せば、途端に静かな森に戻る。

 森の奥から、威圧にビクつきながらも美しい翼をはためかせてハーピーが舞い降りてきた。美しい姿とは裏腹に、家まで帰れない酔っ払いを後脚の鉤爪で手荒く掴むやり方はあまり利用したくないと思わせる。


「ぐあッ! う、じゃあなデュラ……」

「吐くと余計にハーピーに噛みつかれるぞ」


 背中に食い込んだ鉤爪が痛そうだが、ゾーグは手を振って森の向こうへと運ばれていった。


「……俺も、帰るか」


 大気に魔力が満ちる夜は、嫌いじゃない。そう呟いて夜空を眺めれば、城門から一人の旅人が出てくるのを見つけた。

 汚れた布をフード代わりにすっぽりと被って、薄汚れた格好をしているソイツは何かから隠れるように森の方へと足を進める。

 こんな夜中に森に行くのは死にたい奴くらいで、華奢な体つきから食っていけなくなったとかだろう。つい目で追うと、汚いフードの隙間から美しい金髪がシュルリと風に吹かれてなびいたのが見えた。

 

「……女か……?」


 思わずボソリと呟いた声が聞こえていたのか、その女がこちらを見た。

 蜂蜜色の瞳が、真っ直ぐにこちらを捉える。

 向こうも、こんな夜中になぜと思っているだろう。

 ……魔王だとも、知らずに。


「……ねぇ、貴方のせい? 森が怖がってる」


 近づいてきた女は、堂々とした物言いでそう言った。

 俺を見て怖がるでもなく、むしろ責めるように。


「……は、ちょっとうるさかったから鎮めただけだろ。人間ごときが俺に何を」

「貴方にとってはちょっとでも、小さな子たちは死んでしまうことだってあるから」


 それだけ言うとクルリと踵を返して、女は森へスタスタと入っていく。

 こっちが言い訳をしただけになるのが悔しくて、思わずその背中を追いかけた。


「……っ、おい、待て!」


 肩に手をかけた瞬間、真っ白な光が触れた場所から爆ぜる。

 激烈な痛みに顔をしかめると、ついて来ないで、と冷たく言い放たれた。

 そのまま森の奥へと入っていく背中を追いかける。


「……っはぁ!? 文句を言いたいのはこっちだ!」


 走って前に回り込んで正面から話しかけると、フードで避けるように顔を背けられた。

 隙間から見える艶やかな唇。華奢な骨格。見間違いではない、緩やかな弧を描く金髪。


「……人間の女が、こんな夜更けに森の奥まで何の用だ」


 キッとこちらに向けた目は、とても死に場所を選びに来た人間の顔ではなかった。けれど、いくら腕のある冒険者でも夜中に森に一人で行く馬鹿は聞いたことがない。

 

「……貴方には関係ないじゃない。それとも、言わないとここを通してくれないの?」

「っ、あ、ああ、そうだ。この森は俺の管轄だからな。許可なく立ち入るなら俺に理由を述べろ」

「……そう、じゃあ一緒に来て」


 いや、理由を言えって、と言う声は聞こえなかったのか、女は森を勝手知ったる様子でどんどん奥へと進んで行った。


「……着いた。貴方、見ててもいいけどさっきの威圧は絶対出さないでね」


 急に振り向いてこちらを見たので思わず素直に頷くと、女の口角が少しだけ上がったのを見て心臓がドキリと跳ねる。

 少しして、微笑まれたのだと気づいて耳が熱くなった。


 フードをハラリと落として、合わせた両手を胸の前から上へ花が開くように掲げていく。手のひらからキラキラと舞い上がっていく真っ白な輝きは、触れた端から森を癒していった。

 女の足元に群がるように集まるタイニーフォックスなどの矮小な魔物たち。どれも痛々しい傷を負っていたが、見る間に傷が癒えて森に次々と戻って行く。


 どこからか吹いた風になびく長い金髪に、露わになった女の気高い顔は、今まで見てきたどんな竜属の女たちよりも美しかった。


「……なぁ、お前、名前は」

「……リィナルージュ。長いからリィ、でいいわ」


10万PVありがとうございます!!

いつもブクマ、評価ありがとうございます。大変励みになります。

仕事と別作品の執筆が忙しく更新がゆっくりになるかと思いますが気長にお付き合いいただけますと幸いです。



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