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第39罠 ダンジョン第6階層①

 一晩よく寝た後、目覚めて朝という感覚がないのはコッコの鳴き声が聞こえないからだろうか。

 亜空間の家で一晩を過ごすのは初めてで、何だか変な感じがする。


「うーん……、ティム、おはよう……」

「うん、おはようレーラ」


 ベッドが一つしかないので、仕方なく一緒に寝たのだがやっぱり慣れない。


「ティム!! アマイモノがたべたいんだぞー!!」

「うわ、クルル! はい、プリンどうぞ」


 クルルが甘い物を強請ってくると、段々いつもの朝って感じがしてくるな。

 朝のルーティンといえば、ファームの世話があるんだけど一度出てもいいものだろうか。


「レーラ、ちょっと試したいことがあるんだけど」


 ダンジョンを最初からやり直す必要があるかもしれないと話すと、レーラはあっけらかんとした顔でいいけど? なんて言ってのけた。

 あんなに5階層でセイレーンとサハギンを倒すのに大変だったじゃないか。

 もう一度、あれを……? と想像していたら、1番最初に毒の沼で解決でしょ! なんて言われた。怖いことを言う子だ。……まぁ、したのは自分なんだけれど。


 あの時は必死で使ってしまったが、よく考えればあんなにたくさんのモンスターの命を奪ってしまったことになるのだろう。ダンジョンだから消えてなくなるのが、どうにもその辺の感覚が薄れるようで怖い。

 ……モンスター1匹殺せないと思っていた自分が、初めて奪った、命。毒の沼なんて軽々しく使った自分が、急に怖くなった。

 やっぱり、自分らしく捕獲しよう。


 レーラを亜空間に残したまま、ファームへの扉を開ける。

 ダンジョンへの扉を残したままにしておいて、一旦他の場所へ出てもまた戻って来られるかの実験だ。

 朝の日課を素早く終わらせて、ドッポに解体を依頼してファミィからお菓子も買い、肉屋の様子も確認した。

 

 レーラの待つ亜空間に戻って来ると、まだダンジョンへの扉は残ったままだ。

 ……良かった、1階層からやり直さなくていいみたいだ。

 これなら、危なくなったときに撤退することもできる。


 朝食をレーラと2人でゆっくり食べた後に、ダンジョン探索を再開した。


 ダンジョンへ続く扉を、ゆっくりと開く。

 薄暗いダンジョンの6階層は、昨夜見たままで緑色に光る回復エリアがあった。


 中央にある円盤に触れるように書いてあり、手を触れるとポゥ、と青色の光が円盤に灯る。

 浮かび上がった文字で、この円盤を使って帰還した場合はまた6階層に戻って来れるということが分かった。

 ……なんだ、空間移動じゃなくても6階層に戻って来れるのか。


「ダンジョンってそんな機能があるのね、知らなかった」

「……うん、普通に出て戻ってきてもよかったね」


 気を取り直して、先へ進む。

 緑色に光る広間から細い通路へ入ると、急に足元も見えないくらいの暗闇になった気がした。広間が明る過ぎたのかもしれないが、狭い通路で何も見えないのは不安を誘う。


「……ちょ、ちょっと……。ティム、離さないでね!?」


 レーラが、怯えて手を握ってくる。

 こうも暗いと、モンスターが出てきたときに困りそうだ。

 何か、灯りをつけられるような物があればいいんだけど。


「……ふっふーん、オレのデバンか?」

「……っ、クルル!?」


 ぼうんと姿を表したクルルが、尻尾をくるりと揺らす。

 尻尾の先端に灯った光がふわりと宙に浮いて動き、自分たちの目の前を照らした。


「……すごい! クルル、こんなことができるんだ?」

「もっとほめてもいいんだぞ?」

「うん、すごいすごい」

「むぅ……なんかほめられてないきがする」

「はは、褒めてるよ? ほら、今朝焼きたてのシフォンケーキあげるから」

「やった! またピンチのときはたすけてやる」

「うんうん、頼りにしてるな」


 肩の上でシフォンケーキをはぐはぐと食べるクルル。

 ライトボールと言うらしいその照明は、クルルが使える光魔法の一つだそうだ。

 柔らかな光が、通路を照らす。

 真っ暗なときは見えていなかったが、通路の壁は4階層までの岩肌と違って、人工的に造られた石材が蒼く塗られている。精緻な紋様が刻まれている様は、まるで歴史的な建築物のような荘厳さすら感じた。


「……何だか、雰囲気が違うね」

「この模様……ええと……」

「レーラ、何か分かるの?」

「ううん、どこかで見たような気がするって思ったんだけど」


 壁の紋様にライトボールを向けてよく見てみる。

 文字のような気もするけれど、読むことはできない。


「クルル、これって分かるか?」

「またピンチか? しかたないな、ふふん。」

「はいはい、クッキーあげるからよろしく」

「ふむ……、カンタンだぞ。マリョクゾウフクとケッカイのキノウがかかってるだけだ」

「魔力増幅と結界って……どういうこと?」


 クルルが壁の紋様を尻尾でなぞりながら説明する。

 難しいことはよく分からなかったけど、要するにダンジョン内のモンスターが強くなるための仕掛けらしい。


「ケッカイは、ソトにでられなくするためかもな」

「え、それは困るんだけど!」


 せっかく試して大丈夫だったのに、いざという時に使えないのは困る。

 慌ててディメンションホームを開くと、……普通に亜空間が現れた。


「……クルル、できるけど?」

「なら、ダイジョウブだ」


 ……何だ、心配したのに。でも、亜空間が使えないなんてことにならなくて良かった。

 念のためアイテムボックスも出してみたけど普通に使えた。


「何だ、良かった。普通に使えるみたいだ」

「良かったじゃない。先に進みましょ」


 ライトボールで明るくなったら元気を取り戻したレーラが、機嫌良く通路を進んで行く。

 辺りはしんと静かで、自分たちの足音しかしない空間は少し不気味だ。

 しばらく道なりに進んで行くと、急に広い空間に出た。

 ドーム状に丸く形作られた天井にも、壁と同じように装飾が施されている。

 10本程ある石柱と、所々に無造作に積まれている石材。

 壁も床も綺麗に整えられた空間で、石材だけがやけに違和感を覚えた。


「何だろ、ここ……。すごく広いわね。その割にモンスターもいないし」


 レーラが、広間の中を見渡すように進み出る。

 足元の床が、カチリと音を立てて数センチ沈んだ。


 盛大なアラート音とともに、石材だと思っていた物がゴゴ……と動き出す。

 

「レーラ! こっちへ!!」


 通路に戻ろうとしたが、上から壁が降りてきて入り口を塞がれた。

 ゆっくりと立ち上がった石材は、蒼く目を光らせて侵入者である俺たちの方へズシン、と大きな足音を鳴らして近づいてくる。


 自分の背丈を3倍しても足りないのではないかと思うくらいの大きさ。石材が連なって頭や手足となり巨大な人型となったそれは、広い空間に10体はいた。


『鑑定:ストーンゴーレム 体長3〜5メートル、石材に魔力を与えて人形とした大型モンスター。体内にコアとなる魔石を有する自律型と術者が操作する遠隔操作型に分かれる。石材の固さで繰り出される物理攻撃が強力。レア度:S』


 ……ゴーレムか。

 遠隔操作型なら操っているモンスターが他にいるかもしれない。


「レーラ、離れないで」

「ティム、私だってできるから。見てて」


 レーラが、何かを遠くへ投げた。

 ……キャットフードのような見た目のそれが、地面に散らばる。


「撒き餌よ! これで向こうに行くはず……あれ?」


 ……ゴーレムは、餌とか食べないだろ。

 レーラの撒いた餌に全く反応しないゴーレムたちが、こちらに変わらず近づいてくる。


「ええと……っ、じゃあこれは!?」


 広間の天井から吊り下げられた、くす玉。

 丸いくす玉の中央から垂れたリボンに、『おめでとう!』と書いてある。

 ……当然、意思を持たないゴーレムたちが反応するはずもなく。


「えぇ、何で効かないの!?」

「……レーラ、ゴーレムには意思がないから効かないんだよ。また今度、別のモンスターに試してみよう?」


 しゅんとしてしまったレーラを慰めて、ゴーレムたちの足元に落とし穴を仕掛ける。

 硬そうな石の拳が頭上に降りかかる直前で、ゴーレムはあっさりと落ちていった。

 結界魔法をかけて捕獲すると、ドロップ品の『ゴーレムの魔石』3つと『ゴーレム石』8個を手に入れた。

 ゴーレム石は固くて建築にいいらしい。8個といっても、1個が3メートルくらいの石の塊だ。

 アイテムボックスに入るからいいけど、と思いつつ大量の石材をしまう。


 ゴーレムを全て倒すと広間から出られる仕様みたいで、通路を塞いでいた壁が消えた。

 ドロップ品に魔石が出たということは、自律型のゴーレムだったのだろうか。

 他にゴーレムを操っているモンスターが出てこなくて良かったと思いながら、先に進む。


「……私、やっぱり役に立たないかも……」


 しょぼんとしたままのレーラが、とぼとぼと後ろをついてくる。


「そんなことないよ、グランさんとレーラ、そんなにレベル変わらないんだよ? レーラだって強いんだから、自信持って?」

「……うん。ティム、ありがとね」


 本当に、レーラは強いはずなんだ。

 俺と一緒にモンスターを捕獲したからか、レベルが意外と高くて驚いた。

 いつも俺が結界魔法をかけているからダメージも受けないし攻撃をすることもないから気付かないだけで、きっとランクが低いモンスターなら1人でも余裕で倒せるのだろう。


 再び通路を進んでいると、奥の方からきゃあきゃあと甲高い声が聴こえてきた。


「……女の子の、声……?」


 少し開いている扉の隙間から、中を覗いてみる。

 手の平に乗る程の大きさの、背中に蝶のような羽を生やした女の子たちが、3人。

 見ると、ソファに座って楽しそうにお茶会をしている。ミニチュアのティーカップやお皿が可愛いなと見ていると、こちらに気付かれた。


「きゃああ!! ニンゲン!?」

「え!? まさか、ここまで来れるニンゲンなんているはずが……」

「でも、あれ……」


 バレたようなので、扉を開けて中に入る。

 ぎゃああと羽をバタつかせて部屋の隅に逃げる様子は、攻撃してくるようでもない。


「言葉が、分かるのかな。僕はティム。君たちは?」

「……ロベリアよ。ロベリアフェアリー」


 嫌々口を開いた3人のうちの1人が、目線の高さまで飛んできてそう話した。


「フェアリー……? どうして、こんなところに」

「そんなこと言われても、分からないわ。私たち、気づいたらここにいたんですもの」

「だーれも来ないし、暇だからこうしてお茶会をしていたの」

「ねぇ、あなた面白い話でもしてくれない? 私たち、とっても退屈してて」


 フェアリーたちに背中を押されて、ミニチュアソファの横の床に座る。

 ……流石に床は硬いので、ソファを結界魔法で作ってテーブルも置いてみた。

 後ろで固まっているレーラも触らせて、せっかくなので休憩がてらお茶会に参加することになった。


「あなた、すごいのね! ソファやテーブルも魔法で出せるなんて」

「良かったら、クッキーと焼き菓子をどうぞ。甘くて美味しいですよ」

「……クッキー……?」


 ロベリアフェアリーたちの体と同じくらいの大きさのクッキーを、小さく割ってお皿に出した。

 それでも大きなクッキーに、フェアリーたちは戸惑いながらもいい匂いにつられてはぐ、と齧り付く。

 

「……っ、美味しい……!」

「本当、甘くてほろりと口の中で溶けていきますわ」

「お口に合って良かったです」


 紅茶も淹れて、自分も焼き菓子を食べた。やっぱりファミィのお菓子は美味しい。


「あなたって、何者ですの? ここに来るまでに、ゴーレムがたくさんいたでしょう?」

「ええ、いましたけど」

「まさか、倒したとか……言いませんわよね」

「全部倒してきましたよ、じゃなきゃあの広間出られないでしょう?」

「本当ですの!? 魔法防御、物理防御、物理攻撃を全て強化したあの場所で、普通のストーンゴーレムの数十倍は強かったあのゴーレムですわよ!?」

「一発殴られるだけで即死は免れないはず……」

「魔法も剣も効かない防御力で、傷一つつかないはずですのに……」

「そんなに詳しいってことは、あのゴーレムは君たちが?」

「いいえ、知っているだけ。暇ですもの」

「じゃあ、他のことも教えてくれるかな。報酬は、このプリンで」


 アイテムボックスから、ちらりとプリンを見せる。

 あんまりあげるとクルルに怒られるからな。

 まぁでも、体も小さいし一つだけならいいだろう。


「ごくり。……それも、とっても美味しそうですわね」

「甘くてとろける美味しさだよ。ぜひ、食べて欲しいんだけどな」

「……何が知りたいんですの」

「このダンジョンのこと。どうしてこんな構成にして、入ったら誰も帰って来れないようなダンジョンにしてあるのか。あとは、この先の階層の情報があれば」


 プリンに手を出したロベリアフェアリーからプリンを遠ざけ、先払いはなしだよとアイテムボックスにしまう。


「……私たちは、先程も話した通りこのダンジョンで生まれてこの階層のことしか知らないのです。あなたが言っている、誰も帰って来れないダンジョンというのはあの強すぎるゴーレムのことかしら? それなら、あれをお造りになったのはこのダンジョンの主であるアクアドラゴン様がご存知と思いますわ。あとはこの先の階層のことですわね。これより下層は、あってないようなもの。もし降りても、またこの階層で無限にゴーレムと戦うだけですわ」


 ……今、アクアドラゴンって言ったか?

 それに、これより下層はないようなものって……。


「ちょっと待って。ここから下はもうないってこと?」

「ええ。来る途中に帰還用の円盤が置いてましたでしょう?」

「用が済んだらあれでお帰りになってください。ここにはもう何もないので」

「いやいや、アクアドラゴンは? ダンジョンの主って、最後に出てくるものじゃないの?」

「アクアドラゴン様は、戦ったりされませんわ」

「いや、戦わなくていいんだけど、ええと……。どこで、会えるのかな」

「ニンゲンとはお会いにならないと思いますわ」


 話はこれで終わりですわね、とプリンを1つ要求されて渡す。

 お茶会は強制終了となり、部屋からバタンと追い出された。


「……何だったんだ……」

「小さくて可愛かったけど、最後はちょっと怖かったわね」


 仕方なく通路を逆に戻る。

 先に進んでも同じなら、戻っても同じだろう。


「……なぁ、クルル」


 胸元の赤いネックレスに話しかける。

 アクアドラゴンが、この湖にいる。そのことが本当なら、やっぱり会ってみたいと思った。

 捕獲するとかじゃなく、クルルが喜ぶんじゃないかと思ったから。


「きいてたぞ、オレも。ムカシ、アクアドラゴンといっしょにこのミズウミであそんだことがある」

「そうなのか!? じゃあ、そのときの」

「わからない、あれからダイブたってるしな。このミズウミはいちど、モンスターがゼツメツしたんだ」

「モンスターが、絶滅……?」


 クルルが言うには、その昔魔王が現れたときに激しい炎で湖が全て蒸発する程焼き尽くされたらしい。

 アクアドラゴンもその時に湖を離れたはずだと。


「何百年も経ってるなら、戻ってきたって可能性は?」

「あってみないとわからないけどな。もし、オレがしってるアクアドラゴンならやさしくていいヤツだったぞ」

「……そっか。会えるといいな」


 

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