第29罠 打ち上げは見学会の後で③
宰相のルーファスに小言を言われて小さくなっている王様は、何だかとても可愛く見えた。
王様にそんなことを言うのはおかしいのだろうけど、この国はこの国なりに、愛すべきジグヴァルド王を支えているのかもしれない。
「ティム殿、国からの褒賞については諮問機関を通して正しい内容で然るべき時にお渡しいたします。ジグヴァルド王は、すぐに口約束をせずにまず私に言ってください。どんなお金も国民が汗水流して納めた血税なのです」
「分かった分かった、いつもルーファスの言うことが正しいのは知っておる。ただ、嬉しくてな。長年の望みがようやく叶う希望があるのだ、喜ばずにいられるか?」
怒られているのにニコニコしている王様は、きっと大臣たちにも同じような感じなのだろう。
エレノアが色々思っているところがあるみたいだったけれど、これはどうやら王様のせいだな。
言っていることはルーファスが正論で、至極まともだ。
「はぁ……、王の喜びは国の喜びでもありますが、王たるもの正しき王政を導いてもらわなければなりませぬ。ジルウェイン王子に笑われてしまいますよ」
「はは、あやつは我が息子ながら帝王学に長けておるからな。儂など追い越して早く王になると言えば良いのになぁ」
「そういう訳にはいきません。全く……、良き王の背中を見せてこそでしょう」
これって、いつもこうなのだろうかと思って見ていると、様子を伺いに来たエレノアが聞いてしまったらしく顔が固まっていた。
……やっぱり、聞いちゃダメなやつだったよね?
「おぉティム、恥ずかしいところを見せてしまったな。いや、いつもルーファスはこうなのだ。褒美をやろうと思ったがすまないな。明後日の試合、楽しみにしている」
「はい、全力を尽くして参ります」
ジグヴァルド王が話を振ってくれて何とかその場を離れることができた。ルーファスはその後もチクチクと王様に小言を言っているようだったが、大臣たちが気にしていない様子なのを見る限りいつものことなのだろう。
展示スペースに行くと、ジェミィが両手一杯の注文書を手にしてニマニマとしていた。
展示品も空っぽになっているので完売したということだろうか。
「これ、全部売れたんですか?」
「もちろんさね。あんないい品、今買っておかなくてどうするんだい」
自信たっぷりに話すジェミィは、今までに見た中で一番機嫌が良い。
「ちなみに、どれが人気だったんですか……?」
展示スペースには牙や爪などを加工した装飾品や、ウールを織った絨毯や生地、コッコの羽を詰めた枕や寝具まであった。
丁寧に玉の形に研磨されたワイルドボアの牙は、乳白色に輝きとてもワイルドボアの牙だったとは思えないくらいだ。
花の形に加工されたイヤリングやブローチも、全て売れてしまったのだろう。
「そうさねぇ……。あのウール、急いで生地にしたけど魔法防御機能がすごくてね。あれでローブを量産して魔術師団に着せる話をしていたら、騎士団長が割って入ってきて、騎士団にも欲しいと。こんな大量受注は久々だねぇ」
「大量って、」
「そりゃ魔術師団に騎士団を合わせたら500人はいるからね。1人1着じゃなく替えもいるだろ? 少なくとも1000着というわけさ」
1000着……! どれだけのウールがいるのだろうか。
そして、金額を考えるともっと恐ろしいのでせめて安く売っていただきたい。
「全てオーダーメイドで作るから1着金貨200枚。1000着なら白金貨200枚だね」
あぁ、遅かった……。めちゃくちゃ高いじゃないか。
「出来栄えによってはもっと高値でもと言われているから、セルニアには頑張ってもらわないと。タバラ町もこれで安泰だねぇ」
「あ、セルニアさんってタバラ町の……」
タバラ町の商業ギルド長。スロウシープを返しに行ったときに会ったっきりだ。
ウールを加工して仕立てるのはタバラ町の技術がすごいって話だったからな。
一度はプレミアムウールのせいでタバラ町のウールが売れなくなってしまうのでは、なんて考えたけれど。
こうして一緒に商売が出来るようになったなら、良かった。
ジェミィも、そこまで考えてくれたのではないだろうか。
そう思って横目でジェミィをもう一度見ると、注文書を捲っては楽しそうに笑っている。
……うん、きっと違う。ジェミィは天性の商売人なだけだろう。
ニマニマと嬉しそうなジェミィの顔は見なかったことにして、展示スペースから移動した。
ーー見学会は一通り終わり、歓談の時間もあとわずかとなった。
最後に王の言葉を賜り、本日の見学会は全て終了となる。
前列中央にいたジグヴァルド王が前に出て、皆の方を向いた。
「ローレリア・モンスターガーデンの見学会及び昼食会の開催、誠によくやってくれた。ティム、其方の類稀なる力を充分理解するに相応しい場であったな。エレノア、モリウス、多忙な中での開催、王として心から感謝している。この場に揃った者たちは、今日見たものが事実目の前に起きていることだとは信じがたいかもしれぬ。それ程に、ティムの能力が大賢者を、勇者をも凌ぐ奇跡だということだ。奇跡を目にしたとき、人は何を思う? 天を仰ぐ者、泣き崩れる者、嘘だと思う者、数多の人が存在する中で受け取り方もまた様々だ。……だが、私はこう思う。ようやく、我が夢が叶う時が来たのだ、と。ローレリア国の益々の繁栄を願い、私はティムの未来を全力で応援したい。これは、王としての言葉だ。決して、小さな泣き虫ジグヴァルドの我儘ではない。長年、ローレリア国を支えてくれた皆ならば、分かってくれると……私はそう、思っている。本日はご苦労であった。皆、エレノアの誘導に従って帰るように」
堂々と王としての言葉を発したジグヴァルド王に、反論する大臣は1人もいなかった。
大臣たちの顔を一人ひとりぐるりと見回して、満足そうに席に戻るジグヴァルド。
隣にいる宰相のルーファスは、また王のために国庫を切り詰めないといけませんね、とため息をついていた。
顔は優しく笑っていたので、何だかんだこれで上手くいっているのだろう。
「ティム、私は王都に送り届けてくるから、会場の片付けをお願いできる?」
「分かりました」
エレノアが王様御一行を連れて王都へ移動したので、残されたメンバーで片付けをすることになった。
ランドール家の執事さんたちは、言う前から手際よくお皿などを奥の部屋に片付けてくれていた。
忘れ物がないように確認しながらアイテムボックスに収納する。
お仕事もあるようなので、ランドール家だけは先に屋敷に送り届けることになった。
執事さんや料理長たちに感謝を伝え、お皿などを返却する。
「本当にありがとうございました。またお肉の納品で来ますので、今後ともよろしくお願いします」
「こちらこそ、ありがとうございました。ランドール様も大変喜んでおられました。明後日も必ず観に行くと」
「そうですか、ちょっと恥ずかしいですが頑張りますね」
「私もティム様の勝利を楽しみにしております」
ランドールの屋敷を後にして、モンスターガーデンに戻る。
後片付けは大体終わったようで、豪華な掛け物を外したシンプルな机と椅子が残っているだけだ。
ポマロさんが来てくれていたのを思い出して、打ち上げは本当にするのだろうかとエレノアを探したがまだ戻っていないようだった。
「ティム、ちょっとこっちに来てくれ」
呼ぶ声はグランだと思い、声の方へ振り向く。
見ると、奥の部屋に作ったテーブルのところでポマロさんと一緒にいた。
「どうしましたか?」
「あぁ、すまないな。エレノアが打ち上げするってポマロさんを呼んでくれただろ? けど肝心の料理を店に置いたままらしくてな。何か作ろうにも料理をする場所も無さそうだし、エレノアもなかなか帰って来ないしなぁ」
「あぁ、それなら僕がポマロさんと一緒にトマロ亭に行って料理も運んできますよ」
「悪いな、じゃあよろしく頼む」
グランに頼まれてポマロさんと一緒にトマロ亭に向かう。
着くなり、ポマロさんは厨房に行って鍋を火にかけた。
「悪いな、ティムが空間移動が使えて助かった。エレノアに頼まれたはいいが、向こうに着いたら厨房も何もないだろ? 何も出来ずにただ美味い肉を隅っこの席で食っただけで、帰るに帰れないしなぁ。途中まで仕込んでるから、ちっと待っててくれればすぐに作るからな」
何か手伝えることは、と声をかけるがそんなことは気にしなくていいとばかりの手際の良さで、あっという間に料理がどんどん出来ていく。
さっきお腹いっぱい食べたはずなのに、肉の焦げる良い匂いに食欲がそそられてしまう。
「ほい、うちの自慢の煮込みハンバーグだ」
どん、とカウンターに出されたハンバーグはワイルドボア100パーセントで贅沢に作ったらしい。
あ、と思いついて、ひとつリクエストをしてみる。
出したのはコッコの卵だ。
お願いして、目玉焼きを煮込みハンバーグの上にトッピングしてもらった。
半熟の黄身がとろけるのをデミグラスソースと絡めて……うん、お腹空いてきた。
「ポマロさん、もう一つリクエストしてもいいですか?」
「おう、何でも言いな! お前さんの打ち上げでもあるし、明後日の壮行会みたいなもんだろ? 何でも食いたいものを言ってくれ」
……壮行会。そうか、皆そんなことまで考えてくれてたんだ。
リクエストしたのは、デミグラスソースがたっぷりかかったオムレツだ。本当はオムライスが良かったんだけど、米がないので中に入れたいなら芋か麦になると言われてしまった。
次から次に出来る料理を片っ端からアイテムボックスに放り込んでいく。
「出来立てをそのまま保存できるっつうのは便利だなぁ。それがあればいつでも新鮮な食材が使えるってもんだ」
「そうですね、誰でも使えるといいんですけど」
「そりゃあ無理だろう、魔法が使えるのは一部の人間だけだしなぁ。空間魔法なんざほんのひと握りにしか使えないんだろ? 魔石でもあれば俺たちでも使えたりするのかねぇ」
「魔石って、ポマロさんもよく使うんですか?」
「あぁ、このコンロは火の魔石を使ってるよ。木を燃やしてもいいんだが、王都じゃ薪の方が手に入りにくくてな」
見ると、コンロには窪みに火の魔石が嵌め込まれていた。
ガスはないと思ったけど、魔法で火が出ているなんてすごいな。
「よし、これくらいで充分か? 皆待ってるだろうしな、会場に戻ろう」
テーブル一杯の料理を収納して、モンスターガーデンに戻った。エレノアがすぐに見つけて駆け寄ってくる。
「ティム! 悪いわね、ポマロさんも大丈夫でした? すみません急にお願いして」
「いやいや、ティムが連れて帰ってくれたからたくさん料理も作ってきたよ。遅くなってこちらこそすまんな」
会場にはエレノアにグランにジェミィ、ファミィにモリウス。それに冒険者ギルドのセレンに、商業ギルドのスタッフたち。
作った料理に比べると意外とメンバーは少ない感じだ。
「あの、エレノアさん。打ち上げってこのメンバーだけですか?」
「なあに、他にも連れてきたいならいいわよ? グランの奢りですもの。ねぇ、グラン?」
話を振られたグランは、一瞬固まったものの好きなだけ連れて来いと言ってくれた。
それならと、せっかくなのでお世話になっている皆を連れて来たいと話してみた。
急いでココイ村に戻って、行った先はミティとレーラのところだ。
「ティム! どうしたのその格好!?」
「すごい、かっこいい」
「あぁ、今日は王様が来てたからこんな格好なんだ。それで、急なんだけど……」
今から打ち上げパーティーをするので来ないかと話してみる。
レーラは最初断っていたが、モンスターガーデンを作ることが出来たのはレーラのスキルのおかげだからと説得するとようやく頷いてくれた。
ミティは、ジャムを王様がとても美味しそうに食べていたことを話すとすごく嬉しそうに頬を赤らめていた。
2人が来ると頷いたところで、ゴッシュが帰ってきた。
畑で今日もたくさん働いてきたようで泥だらけだ。
とびきりのエールがあると誘うと、すぐに水を浴びてくると走って着替えに行った。
「ふふ、ゴッシュうれしそう」
「そうね、最近ずっと忙しそうだったもの。たまには息抜きしなきゃ」
2人も着替えてくると言って部屋に戻り、待っているとゴッシュがバタバタと戻ってきた。
「おう、待たせたな。エールか? エールがあるのか!?」
「全部グランさんの奢りらしいので、好きなだけどうぞ。ジェミィさんのセレクトなのできっと美味しいですよ」
「ティム、お前ってやつは……!」
あの日会えて良かった、なんて大層に言い始めるものだから笑ってしまう。
そうこうしている内にレーラとミティも可愛く着替えてきたので出発することにした。
移動した先は、ティムティムミート。つまり自分の店だ。
店内ではソアラとリアラ、エリオットの3人が機敏に働いていた。
「あ、店長! どうしたんですか、そんな立派な格好で」
「あぁ、うん。それより店は今日はもう閉めて、3人に来て欲しいところがあるんだ」
「今からですか?」
「うん、打ち上げパーティーがあるから、皆にもぜひ来て欲しくて」
3人は飛び上がって喜んでくれて、お店を閉める片付けだけ少し待って欲しいと言う。
その間に解体屋に行き、ドッポさんも誘ってみることにした。
「いやいや、私なんて滅相もない。ファミィが行っているんでしょう? どうぞよろしくお願いします」
「いえ、ドッポさんがいなければ解体も出来なかったので。いつもお世話になっているのでぜひ」
「ううむ……では、少しだけ」
全員を連れて、モンスターガーデンに戻る。
「……え!? うわ、何で……」
ーー目に、飛び込んできたのは。
『頑張れティム! 絶対勝てる!』の横断幕。
さっきまでの会場とは全然違って、黄色と緑の色鮮やかな飾り付けに目を奪われる。
「主役が戻ってきたわね、じゃあ始めるわよ」
「ティム、明後日の昇格試験頑張れよ! お前なら絶対大丈夫!」
「腰抜かすくらいの試合が見たいもんだねぇ」
エレノア、グラン、ジェミィが笑顔で激励してくれる。
周りの皆も、拍手で囲んでくれていた。
……うわ、何かちょっと、泣きそうだ。
「ちょっと、何泣いてるのよ。試合は明後日なんでしょう? 勝ってから泣きなさいよね」
側にいたレーラが、背中をバシバシと叩きながら笑っている。
「もぅ、レーラったら。ティムがいたいでしょ?」
それを制してくれる優しいミティ。
向こうから見ているファミィが、ふふ、と柔らかく微笑んでいた。
エレノアに促されて、皆の前に出る。
「皆さん、今日はお集まりいただきありがとうございます。明後日の昇格試験は、どうなるかは僕にも分かりませんが、精一杯頑張りますので応援よろしくお願いします」
ペコリと頭を下げると、拍手で迎えられた。
こういう場は慣れないので、何だか気恥ずかしい。
「……あの、今日はグランさんの奢りで打ち上げパーティーのつもりだったんです。王都のトマロ亭からポマロさんが美味しい料理をたくさん用意してくれていますので、いつもお世話になっている皆さんと楽しく食べたくて……」
「何だティム、今日は俺の奢りだから好きなだけって言っただろ? 皆、そういうことだから今日は好きなだけ食って飲んで騒いでくれ!」
円形に設置し直されたテーブルの上に、アイテムボックスから熱々の料理の数々を出した。あと、とびきりの冷えたエールとグラスも。
「……うわぁ! すっごく美味しそう!!」
「エールだ! 肉だ!!」
「お肉、すごいですねぇ! ……ギルド長、いつもこんな美味しそうなものを?」
皆、口々に喜び食べ始める。
リクエストしたオムレツはトロトロで口に入れると溶けていくようだ。卵の味も濃厚で、デミグラスソースと絡まるとさらに旨味が増して美味しい。
ワイルドボアカツを卵でとじた料理は、甘辛い味付けがカツ丼みたいですごく美味い。ご飯が欲しくなるな……。
「ワイルドボアがトロトロに煮込んである……! これ、すごく美味しいわね」
「ああ、これは俺も初めて食べたな。ポマロさん、これは?」
「それはワイルドボアの角煮だ。柔らかくなるまでじっくり煮てな、パンに挟んでも結構美味いぞ?」
「お、本当だ、美味いな!」
グランとエレノアがポマロさんと盛り上がっているが、あの角煮もすごく美味しそうだ。
テーブルの場所によって食べる物が違うくらい、ポマロさんが色々な料理を作ってくれているので料理の話だけでも話題が尽きないと思う。
会が進む内、飲むのが好きなエレノアとゴッシュとグラン、ジェミィ、ポマロが集まり、ドッポとモリウスがモンスターのコアな話で盛り上がり、セレンたちは商業ギルドのスタッフたちとギルドの愚痴大会になっていった。
余った訳ではないが比較的子どもに近い年齢の自分たちは、大人たちとは少し離れて座っている。
……つまり、俺とレーラとミティとファミィ。
女の子たちに囲まれて、これはもしかして幸せすぎる時間じゃないだろうか。
レーラとミティはいつも一緒だが、2人より少し年上のファミィは知っていてもあまり話はしたことがないみたいで、少しぎこちない。
けれど、甘いものの話になるとファミィとミティの意気投合具合がすごかった。
お砂糖を作るのにどうやってるんだとか、あの植物の汁が甘いだとか、いつもは舌ったらずなミティが流暢にジャムの知識を熱弁し出したのでとても驚いた。
熱中している2人をそっとしておこうとレーラと話していると、レーラがブドウジュースと間違えてジェミィのワインを一気飲みしてしまい、今度は別の騒動が起きた。
「あえ? わたし、ぽやーっとふわふわで、ふふーー!」
分からない言葉を話して笑い出したかと思えば、レーラが突然ぼうん、とコッコ肉に変身した。
「うわぁ!? れ、レーラ!?」
めちゃくちゃ驚いていたのはゴッシュだ。
見せてなかったのか……。
グランは一度見せたことがあるので、アルコールの力もあってか爆笑している。
「レーラ! 肉もいいけど他のも見たいぞ!」
酔っ払いのグランがまた面白がってそう言うと、一瞬レーラに戻ったかと思えばまたすぐに変身した。
「グルルッ……!!」
「う、うわぁっ!!」
なんと、変身したのはスカーレットパンサーだ。
燃えるタテガミまで見事に再現して、壁を横っ飛びに走り回って見せる。
何も知らない商業ギルドのスタッフが悲鳴を上げると、スカーレットパンサーもとい酔っ払いレーラは、俺目掛けて飛んできた。
「レーラ! 分かるか?」
咄嗟に大きく声を掛ける。
結界があるので大丈夫だと思いつつも受け止める覚悟をした。
すると、レーラは耳をぴんと立て尻尾をくねらせて、俺の足元にじゃれついてきた。上を向いて転がりお腹を見せたその姿は、とてもスカーレットパンサーには見えない。
「ちょ、レーラ……! 元に戻って……」
「ゴロゴロ……グル……」
すっかり猫と化しているレーラ。
「か、可愛い……っっ!!」
我慢し切れず飛び付いてきたのは……もちろん、モリウスだった。
こんなときでもないと出来ないと撫で倒しているが、それは一応レーラの体だ。セクハラになるのでやめてくださいと冷たく言うと泣かれてしまった。
たくさん持ってきたはずのエールとワイン樽が空っぽになったところで、会はお開きとなった。
酔っ払いはエレノアとともにその辺に寝かせておき、他の人たちは自分がきっちり送り届けた。
あとはモリウスが何とかしてくれるだろう。
明後日の準備をしないといけないけど、大人たちは二日酔いで動けないんじゃないだろうか。
トープの薬屋に二日酔いに効く薬がないか、聞いてみよう。
ベッドの中でそんなことを考えながら、長い1日が終わった。
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