第21罠 草原で食べたフライドコッコ
異世界生活21日目。
スロウシープの毛刈りをウェアウルフたちに頑張ってもらって、約40頭分のプレミアムウールを手に入れた。
10頭はまだ子羊だったので毛刈りはしなかったのだが、1日経てばまた毛はモコモコしているし子羊は立派なスロウシープに育っている。
1日でこれなら、ウェアウルフたちにはしばらく毛刈りを続けてもらう必要があるみたいだ。
スロウシープとウェアウルフのエリアが隣ということもあって、結界を繋いで扉を作り、出入り可能にしてみた。
ウェアウルフが勝手にスロウシープを食べる可能性もあるが、増えるスピードを考えれば問題ないだろう。
まぁ、ウェアウルフはそんなことはしないと言っていたけれど。
朝の日課を終えて、解体依頼に肉屋の管理に、と移動していると時間はすぐに過ぎる。
スカーレットパンサーのことをグランに報告していなかったのを思い出し、冒険者ギルドへ向かった。
モリウスから、達成報告書はもらっている。
ギルドの扉を開けると、いつものようにセレンの笑顔があった。
「おはようございます、ティムさん!」
「達成報告に来ました」
「分かりました、すぐにギルド長を呼んできますね」
奥へ消えたセレンと入れ違いに、グランが外から帰ってきた。
「おぉ、ティム。どうした?」
「達成報告に来たんです。ちょうどセレンさんが今グランさんを呼びに中へ……」
「あ!! ギルド長! 出かけるなら声かけてくださいよぅ、探したんですから」
「すまんすまん、ちょっとだけな」
どこに行っていたんですか、とむくれるセレンに、グランがお土産とばかりに渡したのはうちの肉屋の人気メニュー、フライドコッコだ。
「いいんですか!? ありがとうございます!!」
奥で食べてこいとグランが声をかけると、セレンは休憩室のようなところへ入って行った。
「あいつ、俺の分まで食うんじゃないだろうな……。ティムは奥で話を聞くか、今度はどんな話が聴けるか楽しみだな」
「はは、ご期待に沿えるといいんですが」
応接室に入り、グランと向かい合わせに座る。
フェルビラ草原での一部始終を話し、モリウスから預かったスカーレットパンサーの達成報告書を渡した。
「ついにSランクモンスターを捕獲したか……。これもギルドに報告しておくがいいか?」
「はい、構いません」
「そうか。スウィン戦が近づいたな。ギルドと日程は調整して伝える」
「それなんですが、何も出来ないのも恥ずかしいので稽古をつけていただきたくて。せめて、剣と盾の扱い方くらいは」
「 Sランクモンスターにも勝てる奴が何を言ってるんだかなぁ。まぁいい、ティムの実力も知りたいしな。今からちょっと時間あるか?」
ーーグランに連れられて来たのは、冒険者ギルドの地下にある修練場だった。
それほど広いスペースではないが、人が2人戦うには充分な広さはある。
円形に区切られた練習試合ができる場所と、端の方には訓練用の人形が置いてあった。
「こんな場所、あったんですね」
「そうか、ティムは初めてだったな。若い冒険者は皆ここで練習するんだ。まぁあまり広くないから、壊すのは勘弁してくれよ?」
壁に架けてある木剣を手にしたグランは、ヒュッと一振りするとこちらへ投げて寄越した。
驚いて受け取り損ねると、木剣が石造りの床に転がり派手な音を立てる。
「木でできているが、当たるとそれなりに痛いぞ。気を抜くと大怪我するから気をつけるんだな」
「はい、分かりました」
最近は常時結界を見に纏うようにしているので、多分大丈夫だと思うけれど。
「ティム、いつも通りに戦ってみろ。俺も手加減はしないから、勝負だ」
「いつも通り……でいいんですか?」
「何だ、俺だって昔は強かったんだぞ? スカーレットパンサーを捕獲するつもりで俺を捕まえてみせろ」
「……わかりました」
ーー木剣を構えて、戦闘態勢に入るグラン。どうやら本気らしい。
構えた姿勢に隙はなく、どこを攻撃したとしても反撃されそうだ。
対峙しただけで分かる。グランが昔、荒れ狂うレッドドラゴンを倒したのは事実だということが。
「どうした、動けないのか? なら、こっちから行かせてもらおうか!!」
構えていた木剣を振りかぶり、グランが大きく前に出る。
「ん!? う、うおぉおおおお!!」
……すみません、一歩出たら落とし穴に落ちるようにしてました。
勢いよく落とし穴に落ちたグランを速やかに回収すると、何故かめちゃくちゃ怒られた。勝負というものは、とか。落とし穴は卑怯だ、とか。
でも、俺罠師だからこれしかできないし。いつも通りでって言ったのグランだし。
しばらく怒っていたグランは、どうやら久々に戦えるとワクワクしていたのがものすごい勢いで落とされてとても悲しかったらしい。
時間が経って少し冷静になると、向こうから謝ってきた。
「あーー、いや、俺も悪かった。いつも通りで、なんて言ったらこうなるよな。お前が罠師だったのをつい忘れてた」
「いえ、僕もグランさんの迫力がすごくてつい……」
「基本的な剣と盾の使い方を学びたい、だったよな。まぁ、あんなことができれば普通に戦わなくてもいい気がするが」
「……罠だけじゃ、だめなんです。僕自身が、もっと強くならないと。この前も、レーラがウェアウルフに攫われたときにすぐに助けてあげられなかった。レーラに囮のスキルで協力してもらう限り、今後も危険を伴うことは必ず起こります。結界で身は守れるけれど、怖い体験をした記憶はずっと残るじゃないですか。……もう、怖い思いはなるべくさせたくないので」
自然と、唇を引き結んでいた。固く握った拳は、指先が白くなっている。
ーー怖い思いをしたくないのは、……自分自身なのかもしれない。
「……分かった。基礎からしっかり教えてやる。ただ、落とし穴はもう絶対なしだぞ? あれ、中がうねうねしててめちゃくちゃ気持ち悪い……」
「すみません……落とし穴の感想は初めて聞きましたけど、気持ち悪いんですね」
「おう、しかもちょっとぬるっとしてる……あれは落ちたら出られんだろ」
うねうねしていてぬるっと……。だから落とし穴に落ちた後のモンスターは皆しゅんとしてたのか。
気を取り直して、剣の持ち方や構え方から教えてもらう。
剣には体幹が重要で、体の軸がブレてしまうとよろけたり上手く力が入らないのだとか。
剣を構えた姿勢のまま、その姿勢を維持することからだと言われた。
木剣でも結構重たいので、構えているだけでも体幹が鍛えられそうだ。
「武器は使い慣れているものがいいからな、今度一緒に買いに行くか」
「はい、ぜひお願いします」
ココイ村に来たばかりのときに買った短剣は、ほとんど使われないまま腰に刺さっている。
グランが言うにはリーチがある長剣の方が初心者でも戦いやすいのだとか。重たい分、腕の筋力トレーニングにもなるので練習するなら長剣を1本は持っておいたほうがいいと言われた。
「ココイ村でもいいが、お前が空間移動を使えるから王都まで買いに行ってもいいけどな。行くなら色々と案内するぞ? 美味い飯屋から、可愛いお姉ちゃんのお店まで……。あぁ、まだティムは小さいからダメか。お前と話してると、見た目は子どもだが俺と同じくらいの男と話してる気がするんだよなぁ」
……そりゃあ、中身は38歳男性なのでね。
グランと一緒に王都か、楽しそうだな。
美味い飯屋というのがすごく気になる。異世界に来てから、飲食店に出会えてないんだ。
「……グランさん、向こうから視線が」
「ん……? おぉ、セレンか」
「……可愛いお姉ちゃんのお店とか、ギルド長行くんですね」
「いや、セレン! 誤解だ……っ!」
「いいえ、聞きましたよこの耳でしっかりと!」
痴話喧嘩を始める2人に、あぁそういうことですねと頷きながら生暖かい視線を送る。
「……いや、ティム。何か誤解をしているようだが、そういうことはなくてだな」
「いいんですよ、自由ですからね。職権濫用でなければ」
「……あぁもう、俺の味方はいないのか!」
耳まで赤いグランの肩越しに、セレンと目が合う。
ふふ、と笑うセレンの顔は、ーーとても綺麗で。
「そういえば、ジェミィさんが探してましたよ? ギルド長も、呼んで来いって言われてましたよね」
「ああセレン、そうだったな。ティム、解体後のモンスター素材をこっちに預けてくれているだろう? コッコの羽やクチバシ、ワイルドボアの牙や皮もそうだ。品質が良すぎてなかなか買い手がつかなくてな、ジェミィに頼んだら王都に売り出すことになったらしい」
「王都ですか……?」
「それで、全部売っちまっていいのかとか相談したいんだと。ま、相談というか同意の確認だな、契約とか色々あるんだろ。とりあえず行ってみてくれないか」
「分かりました、色々とありがとうございます」
冒険者ギルドを出て、商業ギルドに向かう。
通りを歩いていると、歩きながら串焼きを食べている人や、手に肉の包みを持っている人を多く見かけた。
行き交う人たちが、肉を手にして笑顔になっているのを見るのはやはり嬉しい。
商業ギルドに来るのは、いつ振りだろうか。
久しぶりに来た感じがして、黒いフォーマル仕様の受付嬢に少し緊張して声を掛けた。
「ギルド長にお約束はしていますでしょうか?」
「いえ、していないんですが……ジェミィさんに探されていると聞きまして。ティムティムミートのティムです」
「まぁ、ティムさん! 失礼致しました、少々お待ちください」
知らない間にだいぶ有名になったみたいだ。
すぐに奥から出てきたジェミィに急かされるように奥の応接室に通される。
「ティム! しばらく来なかったけどどこに行ってたんだい?」
「すみません、色々とありまして……。どこに、というとフェルビラ草原辺りまで行っていました」
「そういう意味じゃないよ、けどフェルビラ草原かい。あそこは高ランクのモンスターも多いし珍しい草も生えてるからね。何か手に入れたら持ち込んでくれれば買い取るよ」
「分かりました、その時はお願いします。グランさんから、解体したモンスターの素材の件でとお聞きしたのですが」
「良い話と悪い話、どっちから聞きたいかい?」
「……ええと、じゃあ良い話から?」
ニヤリと笑うジェミィは、1枚の契約書を机に広げた。
「素材の質がすごく高いねぇ、あれは他に出回ったことのない品質だ。コッコの羽もワイルドボアの牙も、どれもそうだなんて普通は有り得ないよ。あんたの力なんだろう? これから先も継続的に同じ品質の高さで納品が保証されている、これは商売にとってかなりの強みさ。……素材のほとんどが今、複数の取引先から価格交渉を受けている。どれも王室に献上するような高級店だ」
この契約書に同意すれば、ジェミィが販売交渉して売り上げの2割をギルドに納めることになるらしい。
こちらとしては、全部やってもらって申し訳ないだけなので特に問題はなかった。
「次に、悪い話だね。……量が、多過ぎるんだよ。毎日200羽のコッコと5頭のワイルドボアだろう? 王都までの距離が遠いし、10日に1回往復するとしても量が多いので数人で運ばないといけない。そうなると人件費も馬車代もかかるからね」
「マジックバッグとかはないんですか?」
「そんな高級品は素材の運搬くらいで使わないさ。貴族が大事に仕舞っていたり、一部の冒険者が使うくらいでね。」
「そうなんですか……。あの、良ければ運びましょうか?」
つい、口をついて言葉が出た。
空間魔法のことはジェミィには言っていなかったけれど、こうやって商売をお願いしていく限り秘密にはしておけないだろう。
「空間魔法が使えるので、毎日は難しいですけど時々なら運搬くらいは」
「……びっくりし過ぎて腰が抜けたよ。あんたそんなことまでできるのかい。そりゃあ、運んでくれるなら週に一回でも素材を全部持って行ってくれればこの話は解決だね」
「それなら大丈夫です。王都のどこに運べばいいかだけ分かれば空間移動ですぐですから。今度グランさんが王都を案内してくれると言っていたので、道を覚えておきますね」
課題は解決できたようなので、契約書にサインをする。
ジェミィはまだ、本当なのか疑っている様子だった。
「そういえば、スロウシープのウールが手に入ったのですが見てもらえませんか?」
アイテムボックスから両手に抱える程のプレミアムウールを取り出す。
とても肩からかけている小さな鞄に入る量ではない羊毛を見て、ジェミィの口がずっと開いていた。
「……本当にアイテムボックスみたいだね。疑った訳じゃないけど、容量も大きそうだ」
「そうですね、容量はあってないような物なので何でも入りますよ」
「……まぁいいさ、見せてもらおうか」
まだ洗毛もしていない刈り取っただけの羊毛を、ジェミィが手に取って確かめる。
「……っ、驚いたねぇ。あんたが持ってくる物はどうしてこんな規格外の高級品ばかりなんだい」
「何か、違いますか?」
「スロウシープの毛と言ったが、これだけの品質のウールは見たことがないよ。毛の艶と輝き、普通なら刈り取った後から弱まっていく魔法限弱効果も全く弱まっていないどころか反射する程の効果だ。全然別物といってもいいくらいさね」
「はぁ……」
「知ってるんだろう? そろそろ言ってしまいな、こんな品質の素材が取れる秘密を」
金の匂いには敏感なジェミィが、目敏く聞いてくる。
そうは言っても、育てたらこうなることしか分かっていないんだけど。
「……どれも、僕の結界の中で育てたものです。コッコもワイルドボアも、スロウシープも。どうしてそうなるのかまでは、自分でも分かりません」
「……肉が美味いのも結界で育てたって言ってたねぇ。素材も同じような効果ってことかい」
「ええ、おそらく」
……全部プレミアムなんです、と口が滑りそうになったけれど、そんなことを言ったら一生離してもらえなさそうなのでやめておいた。
「それにしても、スロウシープはタバラ町の周辺にしかいないけどよく捕まえて来れたね。あの町はスロウシープが生命線だから、タダで捕まえるなんて許してくれないはずだよ」
「あぁ、それなら30匹に増やして返すという依頼を受けています。もう50匹以上いるので、いつでも返せるんですが」
「……つくづく、とんでもないスキルだよ。あんたそれで、その最高級ウールの生えたスロウシープを返すつもりなのかい?」
「ええ、そのつもりですが」
「私よりもずっとウールの品質には詳しい奴らだ、一筋縄ではいかないだろうねぇ」
手にしたプレミアムウールをしげしげと見ながら、ジェミィはため息をひとつ、ついた。
「ティム、私も忙しい身でね。今から少しなら時間が取れるからタバラ町に一緒に行くかい」
「……どういうことですか?」
ジェミィの話によると、返したスロウシープの品質が良くなっていることが分かれば、それを増やして売ることができるティムのことは利用したいはずだという。
結界内で生えたウールはプレミアムだが、おそらく草原に返せば品質は元に戻る。環境の魔力量に影響されるからだ。
そうなれば品質の良いプレミアムウールばかりが売れて、売れなくなったタバラ町の経営が破綻する恐れが出てくる。
「ティムがウールをどうするかは勝手だけどね、町がひとつ無くなるかどうかの話だ。商業ギルド長として話をつける責任がある」
ーー事態は、思ったよりも深刻らしい。
スロウシープはランクアップのために捕まえただけなのに、まさか町の存続に関わる問題になるなんて。
急いでファームに戻ってスロウシープを30匹捕獲し、ジェミィとタバラ町に向かった。
依頼を受けた冒険者ギルドに行くと、先日会ったふくよかで柔和な印象のギルド長が出てくる。
「あぁ、先日の。まだ約束のひと月にはだいぶありますが」
「いえ、もうお渡しできますので来ました」
「……30匹ですぞ……? スロウシープは近年殆ど数が増えることもなく、むしろ減る一方で……」
「ポンヌフ、久しぶりだねぇ」
「ジェミィ様! これはこれは、お元気そうで」
「先に、商業ギルドのセルニアを呼んでくれるかい? 大事な話になるからね」
「は、はい……! では、奥でお待ちください」
ジェミィと2人、応接室に通される。
さっきのギルド長の態度を見るに、ジェミィは結構偉いみたいだ。
「ジェミィさん、すごいんですね」
「何を当たり前のこと言ってんだい。ココイ村みたいなど田舎で商売するには人一倍努力が必要なだけさね」
しばらくして、セルニアと呼ばれる女性が部屋に入ってきた。歳の頃は30代くらいの、上質な薄青のロングワンピースを着た美しい女性だ。
セルニアに続いて、先程のポンヌフが入ってきた。
「お待たせしてしまって申し訳ありません」
「いや、こちらも突然だったからね。うちのティムがお世話になったようだね」
「いやいや、スロウシープを増やせると聞きましてね、半信半疑で依頼を出したところでしたが」
「では、30匹お返ししますので外へ。ご確認ください」
外に出て、スロウシープを30匹出す。
結界の中に入れたまま、数を確認してもらった。
「……確かに、30匹いますな。……信じられん、こんな短期間で」
「この子はね、まだ小さく見えるがすごいスキルを持っていてね。モンスターを捕獲して増やせるのでココイ村で肉屋を開いたんだが、これがまた上質で新鮮な肉なので大人気でね。噂じゃ王都からも買いに来ているくらいだよ」
「ほぉ、肉屋ですか。それはぜひ私どもも味わいたいですな」
「……あの、よければ召し上がられますか? 当店自慢のフライドコッコです」
鞄から熱々のフライドコッコをひとつずつ包んでポンヌフとセルニアに渡す。
「おぉ……! 貴重なマジックバッグをお持ちなのですか。これは有り難い、では失礼して……はぐっ」
渡されたフライドコッコのスパイシーな香りに我慢できず齧り付くポンヌフ。カリッと音を立てる皮の奥からジューシーな肉が覗いた。
「お、おぉ……!! これはまた……っ!! 臭みが全然ない肉は久々に食べましたな、臭みどころか肉の旨味が口の中いっぱいに広がって、はぁ……、もぐ、ううんっ、はぐっ……。……あの、もう一つないですかな……?」
……仕方ないのでもう一つ渡すと、すぐ横からも手が出てきた。ジェミィだ。
「……仕方ないじゃないか、誰かが食べてると食べたくなるもんだよ」
確かに、と思い結局4人でスロウシープを眺めながら野外でフライドコッコを食べた。何やってるんだろう、俺。
美しいセルニアも肉には勝てないようで、最初は遠慮していたもののひと口食べてからは何度もおかわりしていた。
満腹になってから、改めてスロウシープの話題に戻る。
ウールを取り出して見せると、セルニアが歓喜の声を上げた。
「まぁ……!! すぐに分かりますわ、こんなに上質なウールは私も見たことがありません。この輝き、艶、魔力の強さ……!! 触り心地も柔らかくしなやかで、どんな生地にも出来そうですわ」
「確かに、このスロウシープの毛も輝いているような素晴らしい毛艶ですな。どんな育て方をされたのでしょうか……」
「ポンヌフ、そこは秘密というもんさね。そうだね、ティム?」
「え? あ、そ、そうですね」
「ふむ……それはそうでしょうな。無粋なことをお聞きしてしまい申し訳ありません」
スロウシープを草原に離し、応接室に戻る。
離すといってもあまり動かないのでしばらくはその辺にいるだろう。
ポンヌフから達成報酬の金貨50枚を受け取り、ギルドへの達成報告も合わせてしてもらった。
「ポンヌフ、セルニア、一応言っておくけどね。ティムのところにはまだ増えたスロウシープがいるしこれからも増えるだろう。あの品質だ、私が王都に売ればそれなりの金額がつくだろうね。ただ、そうすればタバラ町名産の服や織物が売れなくなるかもしれないよ。……いいのかい?」
「……先程のお肉をいただいて思いました。あんなに美味しいお肉を出せる方に、ウールの品質も敵うはずがありません。ティム様はきっと、もっとすごいことをされるお方ですわ」
「うむ……そうですな。おそらく、これはタバラ町の皆が考えていたことですが、減っていくスロウシープに頼って生きていくことはいずれ難しくなります。……そうなるのをただ見ているだけなんて、そんなに弱い町民ではないんです」
「ウールも、おそらく品質で卸す先も違いますわ。庶民に親しまれるお手頃価格の商品も必要だとは思いませんか? ティム様のウールは王様に献上するマント、私たちの目指す商品は町一番の美女になりたくて選ぶドレスなのです」
ーーセルニアもポンヌフも、前を向いている。
自分が余計な心配をしただけなのかもしれない。
そう、思わせてくれるような強い顔をしていた。
「……分かった。じゃあ遠慮なくウールを販売させてもらうことにするからね」
「ええ、良き商売になりますことを。ウールの扱いに関しては私どもの職人が役に立つこともあるかと思いますわ。お手伝いできることがありましたら何なりとご相談くださいね。もちろんお代はいただきますけど」
ニコリと笑うセルニアは、さっきまでとは変わって完全に商売の顔をしている。
……ジェミィの顔を見たら、もっと怖かったので見なかったことにした。
ギルドを出て、ココイ村に戻る。ジェミィは次の用事があるようですぐに行ってしまった。
ウールをどう使うかはまだ決まっていないけれど、何に加工するか考えるのも楽しそうだ。
ウールといえば、セーター、コート……鞄も面白いかも。
魔法を反射するなら盾に使えば強そうだし。
考えるのはとても楽しいし、色々試してみようと思う。
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