第2罠 コッコの落とし物と落とし穴
キノコ鍋をたらふく食べて眠りについた翌朝、異世界生活2日目はとびきり大きな鳴き声から始まった。
「コケコーーーー!!」
飛び起きた俺を、レーラが笑って見下ろす。
「びっくりした? この村に住んでいるとこれが当たり前なんだけどね。毎朝、コッコが起こしてくれるのよ」
この鳴き声……鶏?
「それって、飛べない鳥とか」
「そうそう、よく知ってるじゃない。朝になると村の近くで鳴いて、普段は森の奥で暮らしてるのかほとんど姿は見ないんだけどね。時々、卵を落としていってくれるから、朝はコッコの落とし物探しにいつも行くの」
やっぱり鶏だな。異世界にもいるんだ。姿が見てみたいけど、森に隠れてしまうのか、残念。
「ティムも行く? コッコの落とし物探し」
「みんなでさがすと、たのしい」
起きてきたミティが、クマのぬいぐるみを抱えたままにこりと微笑む。誘ってもらえるのはありがたいし、コッコがまだいたら見てみたい。
外に出ると、ちょうど朝日が昇るところで、朝焼けに染まったオレンジの空。遠くでまだ、コッコの鳴き声が聴こえる。
「コッコ見てみたいなぁ」
「運が良ければ見れるわよ、早く行きましょう!」
「しゅっぱーつ!!」
いつもコッコが通る道を教えてもらいながら、卵が落ちていないか探していく。
村の周りをぐるりと一周。それから森へ続く道。道端のふんわりと生えている草の隙間から、赤茶色の殻が覗く。
「……あった!」
『鑑定:コッコの卵 雌コッコが産み落とした卵。殻が割れると鮮度が落ちやすい。非常に美味。』
鑑定でも確かにコッコの卵だ。卵料理、好きなんだよな。卵が異世界でも食べられるのは嬉しいな。
「良かったじゃない、コッコの落とし物を見つけたら、その日1日運勢がいいのよ」
「そうなんだ、いい事あるかな」
「きっと、あるはず」
その後3人で合計5つの卵を拾うことができた。コッコはもう森の中に帰ってしまったらしい。残念だけど、また早起きしてみよう。
ゴッシュは、家に戻ってもまだ寝ていた。あんなにうるさかったのに寝ていられるなんて、逆にすごいな。
「ちょっとゴッシュ! 朝ご飯にするからいい加減起きて!」
フライパンとおたまをゴッシュの耳元でガンガンと鳴らすレーラ。俺の耳の方が痛くなりそうだ。
「んー……、ふわぁ……もう朝か。コッコの落とし物はあったか?」
「今日はティムもいたから5個も採れたわよ」
「そうか、朝からご馳走だな。ティム、よくやった」
肩をバンバンと叩いてくるゴッシュの手が思ったよりも痛くてよろけてしまう。
「ゴッシュ、やりすぎ。ティムがいたそう」
「ん? そんなに強く叩いてないんだがな。悪い悪い、痛かったか?」
はっはっは、と豪快に笑うゴッシュは人の良さが滲み出るような笑い皺が案外可愛い。そんなことないよ、と返して、俺もゴッシュみたいに強くなりたいなぁなんて口に出しかけてやめた。モンスター1匹殺せない俺だから、強くはならなくたって元気に楽しく生きていければいいや。罠スキルだってあるし、自分にできることから色々やってみよう。
香ばしく焼き上がった目玉焼きと、昨日の余ったキノコをたっぷり入れたオムレツが食卓に並ぶ。
「うわぁ……美味しそう」
「美味しいわよ。私が作ったんだから」
「あはは、そうだね。昨日もすごく美味しかった。あれ…? この目玉焼き、一つだけピンク色だね」
よく見る白身と黄身の目玉焼きの中に、白身も黄身もピンクがかった目玉焼きが一つ。
「今日はすっごく運がいいわ。これはね、コッコの中でも特に珍しいピンクコッコの卵よ。こんなの拾えるなんて、1年に1回あるかどうかなんだから」
「すごい、ティム、とってもすごい」
「いやいや、僕は何もしてないよ。これって、味も違うの?」
「まぁ食べてみろよ、美味いぞ」
差し出されるままに、一口ぱくりと口に入れる。
「うわ、美味しい……!」
でしょう?と言いたげな顔でレーラがふふんと微笑む。食べ比べてみると、ピンクの方がほんのり甘くて黄身もねっとりと濃厚だ。
同じコッコでも、色によって違ったりするんだな。それにしても、鶏といえば鶏肉だと思うんだけど、コッコの肉は食べないんだろうか。
「コッコって、ほとんど見ないって言ってたけど、コッコを捕まえて食べたりはしないの?」
「あー……、そうだな、コッコは肉もめちゃくちゃ美味いんだが、あいつらは逃げ足が速いのが定評でな。朝も村の近くまでわざわざ出てくる癖に、急いで出てきてもすっかり居なくなってやがる。待ち伏せした奴もいたぞ? けど、弓矢もなかなか当たらんしな。あっという間にいなくなるから、その内誰も捕まえようとしなくなった」
「ゴッシュは食べたことあるんだ?」
「俺はまぁ、昔は冒険者やってたからな。コッコの肉は筋肉がつきやすくなるって冒険者にも人気でな。魔法が使える奴は動きを遅くする魔法をかけたりして一網打尽にしてたぞ。干すと非常食にもなるから、よく食べたもんだ。はは、そんな話してたら、久しぶりに食いたくなってくるな」
ゴッシュの昔話とともに朝食を平らげると、レーラが昨日のベリーリュで作ったジュースを持ってきてくれた。甘酸っぱくて、すっきりとした味わいは朝にぴったりだ。
「レーラ、これもすごく美味しい」
「これは、ミティが作ったの。甘いものはミティの方が得意なのよね」
ふふ、と照れ臭そうに笑うミティの金髪が朝日に透けてキラキラと光る。また、ベリーリュも採りに行こう。
そういえば、昨日のジャックウルフと一角ラットはどうなっただろうか。引き渡すのに、とりあえず冒険者ギルドの倉庫に眠っていた檻を出してきて入れたんだっけ。結界魔法は範囲があるみたいで、解除するか俺から離れると消えてしまうみたいだ。
「冒険者ギルドって、何時から開いてるの?」
「あぁ、もう開いてるぞ。何だ、登録したくなったか? お前みたいに色々できるならすぐランクも上がると思うが。……といっても、最近はモンスターも減ってるから冒険者稼業は商売上がったりでな。たまーに村の近くに出てきたやつを倒すくらいで、全然稼げやしない。俺もここに来てからは野菜を育てたり木を切って薪にして売ったり、体がなまって仕方がねぇぜ」
確かに、昨夜訪れた冒険者ギルドはイメージと違って寂れていた。モンスターが少ないのは平和でいいと思うけどな。この世界のことはまだまだ分からないし、とりあえずギルドに行ってみよう。
冒険者ギルドの扉を軽くノックする。ゴッシュも付いてきてくれたので、道には迷わずに済んで良かった。昨夜は暗かったし、人に会わないように細い路地ばかり歩いていて、道順なんてさっぱり覚えていなかったから。
扉を少し開けると、何だかすごい声が聴こえてきた。
「ギルド長〜っ! もうどうにかしてくださいよ!」
受付嬢の泣きそうな声と、ジャックウルフの唸り声。置く場所がなく受付横に置かれた檻の中から、ジャックウルフが噛みつき攻撃を何度も繰り出している。
「それが昨夜報告のあった生きたままのジャックウルフか。捕獲だなんて初めて聞いたが、その少年は?」
「そんなことより! 今これをどうにかしてくださいよぉ。とりあえず受付の横じゃなくて、使ってない奥の解体場所とか! ずーっとガウガウ吠えられてるし、檻から出てこないか気になって全然仕事になりませんっ」
「置く場所がないんだから仕方ないだろ。逃げても悪いし監視は必要だ。買取り先は見つかったか? 早く売っ払っちまえばいいだろうが」
「それが、今朝王都の冒険者ギルドに相談したら魔法学校の訓練用に使いたいって話があったんです。ただ…引き取りに来るまで1週間はかかるらしくて」
「1週間か…長いな。まぁでも、いい値で売れるんだろ?」
「それがですよ、何と、金貨30枚です……! 餌代を引いてもかなりの儲けかと」
悪い顔をする受付嬢に、グッと親指を立てるギルド長。
「それだけあれば、あの天井の雨漏りも直せますし、払われてなかった職員のお給料だって……!」
美味しいお肉が食べたいです!! と瞳を輝かせている受付嬢。そんなに冒険者ギルドって大変だったのか……。
隣で自分が売られる算段を聞いていたジャックウルフが、余計に怒った様子で唸り声を上げる。
「まぁそう怒るなって。たった1週間、仲良くやろうや」
檻の前に座ってジャックウルフに話しかけるギルド長。
ジョロロロロ……
片脚を上げたジャックウルフは、あろうことかその顔に向けてオシッコを……かけた。ニヤリ、とさっきの受付嬢より悪い顔をしている。
「今すぐここで捌いて食ってやろうか!? おい!!」
咄嗟に背中の剣を抜いたギルド長は、さすが冒険者といった風格だ。ジャックウルフなんか一撃で倒せるんじゃないだろうか。
しかし悪びれもせず、尻尾を向けてお尻を振るあたり金貨30枚をやってたまるものかといったジャックウルフの意思を感じる。
「待ってくださいギルド長!! 殺しちゃったら、私の可愛い制服と賃金アップとボーナスが……!」
おいおい、何か色々足されてるな。欲望ダダ漏れですよ、受付嬢さん。
ギルド長を後ろから羽交い締めにできるあたり、受付嬢も結構強いのではないだろうか。うん、逆らうのはやめとこう。
「あ!! 昨日の少年!!」
一部始終を見られていたことにようやく気づいたらしい2人は、扉の向こうから覗く俺たちを見るや否や、ジャックウルフの檻の前に引っ張っていく。
「ちょっと、捕獲してるから大丈夫って、君が離れたらダメじゃない! 昨日のやつ、もう一度やってみてくれない? ほら、ギルド長もいることだし。君の能力を示すチャンスよ!」
「いやあの、もう檻に入っていますし……、無理にしなくても」
俺の顔を見たジャックウルフは、急にお座りをして従順そうな振りをし始めた。手を出したらお手でもしそうな雰囲気だ。昨日の口輪がよっぽど嫌だったのだろうか。
「ふむ……、君が件の少年か」
「はい、ティムといいます。よろしくお願いします」
ギルド長がこちらを見定めるような目で見下ろす。こんな少年が本当に、といったところだろうか。
「ギルド長のグランだ。よろしく。言える範囲でいい。どんなスキルを持ってる?」
この世界では、スキルは自主申告でいいらしい。どこまで言うかも自分の自由だと、昨夜ゴッシュたちから教わった。自分でもまだよく分かっていないけれど、罠スキルで落とし穴が作れることと、結界魔法で捕獲できることを説明した。
「ふむ、聞いたことがないな。よほど珍しいスキルなんだろう。なんにせよ、生きたままのモンスターが貴重だということは分かったからな。これからも捕獲できたらここに持ってくるといい」
金貨30枚ですよね……。昨日俺には金貨2枚だったの、しっかり覚えてるんで。次はもっと高く買い取ってもらえるといいけど。
そういえば、一角ラットはどうなったんだろう。
「あの、昨日一緒に買い取ってくれた一角ラットは」
受付嬢がああ、と受付カウンターの下から小さな檻を取り出した。昨日はあんなにギィギィうるさかったくせに、静かになったもんだな。
「……あれ? 角が」
見ると、一角ラットの角が根元から折られてなくなっている。痛いのか、角があった場所に小さな前足を擦りつけては赤い眼に涙を浮かべている。何だか可哀想だな……。
「文献に、一角ラットの角は折れてもまた伸びてくるって書いてあってね。角以外は素材としても肉としても価値がないから、ジャックウルフの餌にしようかと思ったんだけど。角が伸びてくるのか、観察しているの」
また伸びてくるといっても何度も折られるのは痛そうだ。せめて、痛みが少しでも減らせられれば……。そうだ、ポタル草が傷口の治療にいいんだっけ。
「ちょっと待っててください」
俺は、ギルドの外に一旦出て、誰にも見られない場所でそっとアイテムボックスからポタル草を取り出した。すり潰して傷に、って鑑定先生が言ってた通りに、近くにあった石の上にポタル草をひと束置いて、別の石ですり潰し、ペースト状に。
再びギルドに戻ると、作ったばかりのペーストを少量手に取って、一角ラットの額に塗りつけた。
「よし、痛いの、治るといいな」
一角ラットの潤んだ瞳がこちらを見つめる。ありがとうって、言ってたり……しないか。
「ちょっと、今のは何?」
受付嬢が俺の手の上にある緑色のペーストを見て話しかける。
「ポタル草をすり潰したものです。傷にいいんですよね?痛そうだったから、こいつ」
「ポタル草は、薬草の中でも上級の高級品よ。この辺ではあまり採れなくなったんだけど……」
そうなのか、偶然見つけただけなんだけど。
「良かったら、作りすぎたのでどうぞ。こいつにも、時々塗ってやってください」
「いやいや! 今ここにある片手半分の量だけでも金貨10枚はするのよ。うちのギルドは貧乏だから、薬屋に売ったほうがいいと思うわ。場所はゴッシュに教えてもらって」
金貨10枚!! 昨日の5倍じゃないか……! よし、ポタル草も今度また採りに行こう。薬屋もあるなら、どういった薬草がいいのか聞いてみるのもいいな。
「おい、冒険者ギルドに登録する話はどうなったよ。それで来たんだろ?」
一緒に来てくれていたゴッシュが焦れたように口を割った。
そういえばそうだった。最初の光景があまりにもあれで、すっかり忘れていた。
「登録ってどうしたらいいんですか?」
受付嬢が、カウンターにあるボードを見せながら説明してくれる。ちなみに受付嬢はセレンさんと言うらしい。そういえば名前聞いてなかったな。
冒険者は、実力と実績に応じてF~SSランクに分けられる。ドラゴンを一人で倒せるような伝説の勇者クラスはSSランクとか、基準が一応あるらしい。誰でも登録は可能だが、登録時に職業と主なスキルを一つまたは二つ提示する必要がある。
俺の場合はさっきギルド長にも言ったとおり、職業:罠師、スキルは罠と結界魔法の二つを登録した。
「では登録料銀貨2枚いただきます。はい、確かに。これがギルドカードです。初めはFランクからスタートです。依頼は採取系がほとんどで、たまに討伐もありますが年に数回といったところですね。村の何でも屋さんみたいな依頼も多いです。依頼をしなくても登録抹消はされませんが、年に1回登録更新料はきっちりいただきますので、そこはよろしくお願いします」
え、これ……もしや辞めたくなっても抜けられないのでは……。不安になった俺に、セレンがにっこりと微笑む。
「大丈夫ですよ、ランクに応じて登録更新料は高くなりますけど、ティムさんならばっちり稼げると思います。あと、登録したギルドに納めるようになってますので、別の街に行ったときもここ、ココイ村のギルドにと言ってくれればどこのギルドからでも払えますからね」
怖い……、新規登録者への圧がすごい……。
何とも言えない気持ちでギルドカードを手にしたまま外に出た俺は、朝と違ってそっ……とゴッシュに肩を叩かれた。いやいや、紹介したのゴッシュだから。哀しい顔をしないでくれ。
幸い、ポタル草のこともあるしお金に困る心配は少なそうなのできっちり納めるようにしたいと思う。1年後なんて、結構先だしね。
ーーこの時の俺は、1年後に結構な額を納めることになるとは思ってもいなかった。
ギルドを出て、向かった先はゴッシュお勧めの鞄屋だ。アイテムボックスがあるから鞄はいらないと思っていたが、何も持っていない冒険者の方が不審がられると聞いて、肩からかけられる鞄を探しに来た。アイテムボックスから出すときも、鞄の中から取り出すように見せるといいんじゃないかって。冒険者をしていたゴッシュは色々と親切に教えてくれる。異世界に来てすぐの自分にこういう存在、本当にありがたい。
目に付く商品は片っ端から鑑定をかけて、値段と相応かどうかを確認した。お勧めの店だけあって、確かに品質は様々だが見合った値段が付けられている。
『鑑定:ジャイアントスネーク革の鞄(小) 希少なジャイアントスネークの皮をふんだんに使った、傷のない高価な品。作成されてから3年経過しており、いい風合いが出てきている』
このジャイアントスネーク革の鞄が金貨20枚。希少だと書いてあるし、見た目も白黒でかっこいい。
『鑑定:アンバーピッグ革の鞄(中) 泥の中に生息するアンバーピッグの革は、泥成分で手触りはいいが泥臭さが抜けにくく市場での人気はあまりない。低価格で取引されるため農作業には重宝される』
これは銀貨3枚。さっきのより倍くらい大きいけどすごく安い。嗅いでみるとヘドロみたいな臭いがして、とても持って歩く気持ちにはなれなかった。
「気に入ったのはあったか? お勧めはこれだな、ビリジアンブルの革だ。柔らかくて持ちやすいし、耐久性もある。あと、色がいいだろ。綺麗な深緑色で、お前の目とも似てる」
『鑑定:ビリジアンブル革の鞄(小) 深い森に生息するビリジアンブルの革は柔らかく加工のしやすさで人気が高い。元来高価な素材だが、集団で行動するため時期によって大量に市場に出回る場合がある』
本当だ、色がすごく綺麗。あと、銀貨7枚ってすごくお得な気がする。
「普通だともっと高いんだけどな、今年はたくさん獲れたらしくて安いんだ」
「じゃあ、これにします」
ビリジアンブルの鞄と一緒に鞘付きの小さなナイフを買って、しめて金貨1枚。腰にナイフ、肩に鞄をかけると、何だか本当に冒険者になったみたいだ。
「よし、じゃあ戻るか」
「そうだね、そろそろお昼だし」
ココイ村の生活は、基本的に自給自足で成り立っているらしい。畑で採れたものや、森で採ってきた食材を食べて暮らしている。村人みんなで協力して育てているのが麦で、パンや芋が主食。卵や肉は、ここ数年モンスターが減ってきたこともあって時々しか食べられないご馳走になっている。森に居る動物は基本モンスターだから肉にして食べることが普通だと言うけれど、ジャックウルフのことを考えるとちょっと胸が痛い。生き物の命をもらって生きるなんて、コンビニ飯やレトルト食品じゃ全然実感なかったからな。
この世界で生きていくために、できることから頑張ろう。まだ、なかなか勇気は出ないけれど。
泊めてもらっているのに申し訳ないので、昼食の後は森に食べられる物を探しに行ってみた。鑑定先生で手当たり次第に鑑定すると、オレンジみたいな果物や、カブみたいな根菜、クルミのようなナッツを見つけた。アイテムボックスに次々放り込んで持って帰ると、ミティはすごいすごいと喜んでくれたけど、レーラには次も収穫できるように全部採っちゃダメと怒られた。次からは気を付けよう。
「あのさ、一つ思いついたことがあるんだ」
夕食を囲みながらそう言うと、3人は興味深そうに話を聞いてくれた。
「明日の朝までにコッコが通りそうな場所に落とし穴を仕掛けてみたいんだ。まだよく分かっていない部分もあるから、なるべく人が通るような明るいうちの設置は避けたくて。あと、設置後の持続時間や距離も試してみたい。それと、俺が寝ていても罠は発動するのかも知りたいと思って。家の近くにも設置したいから、3人が間違って落ちたら大変だし、話しておきたかったんだ」
「なんだそんなこと。いいわよ、私も興味あるし」
「コッコの肉が食えるかもしれないのか!」
「おもしろそう、私もみてみたい」
「ミティはダメ、もう暗いし危ないでしょ」
「えー、ティムがいっしょならだいじょうぶ」
ウキウキと話す3人に、俺まで楽しみになってくる。
「設置は一人で行くから大丈夫だよ。すぐ戻ってくるから心配しないで」
暗闇の中、道の端の方やなるべく人が通らなそうな場所を中心に5ヶ所落とし穴を設置した。距離は、設置してしまえばどれだけ離れても存在が分かる感覚があった。大丈夫だ。
あとは、これが朝まで残っているかと、俺が眠っても大丈夫かの確認だな。消えてしまっても仕方ないし、どれだけできるのかは知っていて損はないだろう。
明日の成果を楽しみにしながら、俺は2日目の眠りについた。