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第16罠 ワイルドボア解禁日

 異世界生活16日目。

 今朝は少し早起きをして、コッコたちの世話に行く。

 いつものように無精卵を回収して、色違いのコッコを各ゾーンに分けて、のルーティン。

 クルルにお菓子をあげるのも忘れてはいけない。

 忘れたくても、胸元で赤い宝石が暴れ始めるので忘れられないんだけれど。


「ティム、あたらしいマチにいったのにアマイモノさがさなかった」


 拗ねながら、クッキーを食べる手は止まらないクルル。

 そういえば、タバラ町では洋服ばかりでお菓子を売っているお店は見かけなかったな。


「ごめんって。また今度探しに行こう?」

「ゼッタイだぞ?」


 わかったと頷く自分の口に、よしと言わんばかりにクッキーを詰め込んでくるのでやめてもらいたい。美味しいけど。



 ワイルドボアのファームを見に行くと、数が150頭を超えてウリ坊もたくさん産まれている。

 繁殖がここまで成功すれば、一定数を減らしても問題ないだろう。


 今日はようやく、ワイルドボアの初解禁だ。

 昨日商業ギルドに寄ってソアラたちに連絡を取り、ワイルドボアの販売方法について打ち合わせをした。


 コッコは1羽単位と、胸肉や手羽先など部位別にも販売したが1羽単位で買う人が圧倒的に多かった。

 骨の処理や切り分ける作業が大変かと思っていたが、そこは異世界、慣れているらしい。


 ワイルドボアは、1頭がかなりの大きさなので部位別にキロ単位で販売するのがいいだろうということになった。

 ドッポに解体してもらった時点で、そのままは重くて大変なので部位別の塊肉にしてもらっているのも理由だ。


 店内に量りを設置し、注文された重さによってその場で切り分けて販売することとした。

 あとは、数量制限だ。前回は急遽コッコを追加で出すことになったため、今回はコッコは1人3羽まで、ワイルドボアは5キロまでの制限とした。

 

 調理メニューについては、フライドコッコとコッコ唐揚げ、コッコカツサンドの3種類だったのを、1番人気のフライドコッコを残し、コッコとワイルドボアの串焼きと、ワイルドボアカツにした。

 カツサンドは手間がかかるので、カツだけにして夕飯のおかずにしてもらう目的だ。

 加えて、試食会で人気だった串焼きを食べたいという意見も多く、ワイルドボアの脂の乗ったバラ肉を追加してメニューに加えることにした。もちろん、味付けは塩とタレの2種類を用意。

 串焼き用のコンロを2台設置し、試しにバラ肉を焼いてみたらめちゃくちゃ美味かった。焼き立てをいつでも食べられるようにアイテムボックスに入れておいたのはみんなには内緒だ。


 価格はなるべく安価にという意見はエリオットに聞いてもらい、ワイルドボアは1キロで銀貨3枚となった。

 コッコが1羽2〜3キロで銀貨5枚だから少し割高にはなるが、ワイルドボアの価値を考えるとまだ安すぎるらしい。

 前回の売り上げを考えれば安くても大丈夫な気がするけれど、そこはエリオットが詳しいので任せておくことにする。


 メニュー表を新しくして、ソアラに飾り付けをお願いした。

 カウンターの前には、『本日より販売! ワイルドボアお一人様5キロまで』と大きく貼り出されることになった。



 ーーそんな準備を終えた昨日。


 朝のルーティンを終えて、コッコ200羽とワイルドボア5頭を捕獲しドッポに解体を依頼する。

 解体をお願いする数が多くなってドッポに負担がかかるので、今後は翌日分を毎朝依頼することにした。


 店に行くと、すでにソアラたち3人は準備を始めてくれていた。


「店長おはようございます!」

「今日はワイルドボアの販売、楽しみですね」

「ワイルドボアの価格は、もっと高くてもいいのですが……」


 ソアラとリアラはニコニコと楽しそうだが、エリオットはワイルドボアの価格に納得がいってなさそうだ。

 大方、またジェミィにでも怒られたのだろう。

 売り上げは商業ギルドに1割納めることになっているので、高く売れば納める金額も上がるからな。


 調理メニューの下準備で、肉を大量に串に刺していく。

 1本小銀貨2枚、6本で銀貨1枚の串焼きは、価格も手頃でちょっと食べ歩くにもぴったりだ。

 アイテムボックスに入れておけば熱々のままなので、今日は開店前に大量に作っておく作戦にした。

 自分がいないときはできないけど、今日はワイルドボアの解禁日だし、お客さんも多いだろうから特別に。


 ーー串焼きって、何でこんなに美味しそうな匂いが広がるんだろう。

 串焼き用のコンロで焼き始めると、途端に広がる焼ける肉の匂い。塩もいいけど、タレが焼ける香ばしい匂いもたまらない。

 

 誤算だったのは、カウンターから通りに広がっていく串焼きの匂いだ。

 フライドコッコが揚がる美味しそうな匂いも相まって、ティムティムミートから流れてくる匂いはココイ村の村人たちの食欲を十二分に刺激した。


「……おい、何だこの美味そうな匂いは」

「あぁ、あれだ! 試食会で食べた串焼き……! あれ、めちゃくちゃ美味かったなぁ」

「……いや、あの時とは違う匂いもしないか? もっと脂の乗った、コッコじゃない肉の……! ほら! 見ろよワイルドボアだ!!」

「こんなの……、今並ばなかったら俺は絶対後悔する」

「俺もだ、とりあえず肉を買ってから考えるか」

「……くぅ、美味そうな匂いさせやがって……。並んで待ってる間ずっとこの匂いと空腹に耐えるのか」


 一昨日あんなにコッコ肉を食べたはずの村人が、匂いにつられて店に集まり、カウンターの前に書かれたワイルドボアの文字を見ては並んでいく。

 噂を聞いてワイルドボアの販売を心待ちにしていた村人も、今日から販売なのかと慌てて家を飛び出し並んだ。


 開店1時間前には、広場まで列が伸びていた。

 串焼きは大量に焼けたけれど、前もって準備というよりも宣伝効果の方が強かったので作戦的には失敗だ。

 売り切れを想定して、列の様子を見に行った。


 並んでいるのは100人程度で、村人がほとんどだった。

 今回は前もって宣伝をしなかったので遠方からは集まらなかったのだろう。

 それでも、ちらほらと外からの人たちも並んでいた。もしかしたらまた店が開くのを一昨日から待っていたのかもしれない。


 列に並ぶ人たちに声をかけながら、通りに迷惑にならないようにしてもらう。

 数量制限と売り切れ次第終了の説明を何度もして回り、今後も販売を続けるので売り切れてもまた買いにきてほしいと話した。


「売り切れは仕方ないと思うんだが、あの串焼きとワイルドボアだけは諦めきれないな……」

「どんな味なんだろう、せめてひと口だけでも」


 村人たちの切ない声が聴こえてくる。

 今日はワイルドボア解禁日だし、試食会もしていないので少しだけ並んでいる人たちに振る舞ってはどうだろうか。


 戻ってソアラたちに相談してみると、串焼き1本はさすがにもったいないと言われたので、串から外した肉をひと切れずつ試食してもらうことにした。

 列に戻り、ピックに刺したワイルドボアの串焼きを試食として配ることを説明する。

 途端に、列から湧き上がる歓声。


「いいのか!? さっきから腹が鳴って仕方がなかったんだ……!」

「ずっと美味そうな匂いを嗅いでたからなぁ……」


 先頭から1人ずつ配っていくと、一番先頭に並んでいた男性がワイルドボアの肉を口に勢いよく放り込んだ。


「んむ、う……美味っ、何だこれ! 脂がすごく甘くて、サラッとしつこくないのに旨味がすごいな」


 次の男性も慌ててひと口、がぶりと齧り付く。


「肉汁が噛むほどに溢れて、柔らかいのに肉の噛みごたえがしっかりある……あぁ、俺、今肉食ってるんだな」


 ……どうしよう、肉をひと口食べさせただけなのに泣き始めてしまった。

 次から次に、順番に食べさせていくと村人のみんなからガッツポーズやらハグやら握手やら、とにかく感謝されまくった。


 並んでいる全員には配り終え、開店まであと30分だ。

 ひと口食べてワイルドボアの美味しさは分かってもらえたようだし、喜んでもらえて良かった。

 エリオットは最後まで信じられないという顔で見ていたけれど。


 開店後は、一昨日と同じくひたすら焼いて揚げて売って列を整理しての繰り返しだった。

 ワイルドボアはココイ村にいないこともあって、初めて食べる村人もいたようだ。

 食べたことがある村人も、こんなワイルドボアは食べたことがない、美味しすぎると言っていたが。


 プレミアムワイルドボアだから、普通のワイルドボアとはやっぱり違うのだろう。

 自分で育てた肉しか食べていないので、違いが分からないというのが正直なところだ。

 今度、他の街で食べてみるのもいいかもしれない。


 開店して3時間で店に出していた肉は全て完売した。

 購入制限をつけるとみんな制限ギリギリまで買おうとするのであまり効果はなかったようだが、最初に並んでいた100人には行き届いたみたいなので良かった。

 開けていても仕方がないので、ソアラたちには片付けと明日の準備をお願いして店を閉めることにした。


「みんな、今日もありがとう。明日からは週4日営業にするので、店のことは任せていこうと思ってる」

「はい! 店長は新しいお肉のほうをお願いしますね」

「お店は任せてください」 

「店長、売り上げが今日もすごいことに……整理して報告します」


 3人ともよく働いてくれるし、これなら店も順調にいきそうだ。時々様子を見に来ることとして、肉の用意だけしてしまえば任せても大丈夫だろう。

 


 店を片付けて帰ろうとしたところに、冒険者ギルドのグランが駆け寄ってきた。


「ティム! 良かった、まだいたか。至急用があるんだが、今からちょっと話せるか」

「ええ、グランさんがそんなに慌てるなんて珍しいですね」


 冒険者ギルドに行き、応接室でグランと向かい合わせに座る。


「ティム、ランドにワイルドボアは持って行ったか」


 ……ん? ランドって、あのアーベスト領主ランドール様のことだよな。


「……いえ、ワイルドボアはまだですが」


 はぁ、と肩を落とすグラン。いいか、と真面目な顔で言われた内容は簡単なことだった。


「新しい肉を販売する時は、まずランドのとこに持って行け。ここ数日、あいつずっと待ってたみたいでな。ついにお前が来ないままだから、ワイルドボアじゃないと食べたくないとか子どもみたいなことまで言い始めたらしい」


 今すぐランドのところに行けるか、と聞かれれば、ワイルドボアの在庫は明日の分があるから渡すのは一応できると思うと答える。


「良かった、できるだけ早く行ってやってくれ。ランドは仕方ないが、付き合ってる使用人たちも腹を空かしてるだろうからな」

「はい……、わかりました」


 なるべく早くと言われたので、空間移動ですぐにランドールの屋敷へ向かう。

 門番は俺の姿を見て、すぐに中に入るように通してくれた。


 執事がすぐに玄関に出てきて、ランドールがいる応接間に案内する。手際が良すぎて本当にずっと待っていたみたいだ、なんて思う。

 扉を開けると、にこりと微笑んでいるランドールがすぐ前に立っていた。


「あぁ、よく来てくれたねティム。ずっと待っていたよ。それはもう、いつ来るか分からない君を門番を増やして森を監視させる程にはね」


 ……本当にずっと待ってた。というかちょっと怖い。


「……あの、ワイルドボアをご所望とお聞きしました。遅くなり、申し訳ありません」

「いや、いいんだよ。ワイルドボアを販売予定とココイ村から情報が入ってね。コックと調理法について語っていたら新しいレシピがもう30はできたところだ」


 めちゃくちゃ楽しみにしてらっしゃいますね。むしろそこまでなら買いに来て欲しかった。


「ティムティムミートまで買いに行くと言ったんだがね、執事にひどく止められて。いや、金貨3000枚持って買い占めてくると言っただけなんだが」


 ……執事さん、ありがとうございます。買いに来てくれなくて良かった。


「……どれくらいご入用でしょうか。今はワイルドボア5頭分しか持ち合わせていないのですが」

「前に契約をしただろう、コッコ肉の定期納品だ。あの契約にね、新しい肉の先行販売と定期納品を追加でお願いしたい」

「承知いたしました。では、次からはその様にいたします」

「よろしく頼むよ」


 執事さんとも話した結果、今日はひとまずワイルドボア2頭分をお買い上げということになった。

 使用人も多いので消費量を考えるとそれでも1週間保たないそうだ。

 あとは価格が市場よりもとても安いので、たくさん買えると喜んでもらえた。領主といってもお金が湯水のように湧いてくる訳ではないので、食費の節約も大事なことらしい。


 ワイルドボアの肉は大きいので食料庫で渡すこととして、執事さんに案内してもらった。

 地下に案内されて入ると、ひんやりと冷気の漂う食料庫は応接間よりも広く様々な食料品が整然と保管されている。


「寒いくらいですね、これなら肉の保存も安心です」

「ええ、この部屋は氷の魔石を随所に仕込んであって、年中冷たく管理できるようにしているのです」

「魔石、ですか」

「おや、見たことがありませんか? こちらですよ」


 部屋の壁に豪華な装飾とともに埋め込まれている、手掌大の大きな青い宝石。

 手を近づけると、冷気を痛いほどに感じた。


「この魔石だけは特別大きいのですが、大昔にアーベスト家の先代がスノウドラゴンを討伐した際に手に入れたと聞いております。魔石は基本消耗品とされているのですが、この魔石は魔力がそれだけ多いのでしょう」


 スノウドラゴンの、魔石。

 スノウドラゴンにはまだ会ったことはないけれど、いつか会ってみたいと、思う。

 魔力を多く必要とするモンスターから死んでいっているとクルルが言っていたけれど。

 まだ生きている間に会えるよう、ランクアップも頑張らないとな。


 食料庫にワイルドボアとコッコの肉、卵もついでに移して、早めの定期納品を済ませることとした。

 執事さんに確認してもらって、代金を受け取る。

 

「では、私はこれで。今後ともよろしくお願いします」


 挨拶をして帰ろうとすると、執事さんに笑顔で止められた。


「……え? あの、何ですか……?」


 有無を言わさず応接間まで連れ戻されると、ランドールの座るソファの向かいに誘導される。

 間髪入れずに高級そうなお茶とクッキーが出され、入口の扉がそっと使用人によって閉められた。

 ……やられたな。


「どうしたんだい、ティム? せっかく来たんだ、ゆっくりティータイムでもしようじゃないか」


 ……ノー、と言える雰囲気ではないことくらいは自分でも分かる。

 ランドール様、さては結構暇ですね。


「お心遣いありがとうございます。先程まで肉屋で忙しくしていたものですから」

「そうか、肉屋は順調そうだな。噂はこちらにも聞こえてきているよ」

「はい、ワイルドボアは今日から販売を始めたのですが大変好評でありがたいです。特に串焼きやワイルドボアカツの調理メニューが人気で」

「……料理を、販売しているのか?」

「え、えぇ。……良かったら、少し召し上がられますか? アイテムボックスに入れているので出来立てですよ」

 

 お皿に盛った串焼きとワイルドボアカツ、ついでにフライドコッコも出してみる。

 焼き立てで入れていたので熱々だ。湯気とともに立ち昇る美味しそうな匂いが、部屋中に広がった。

 そういえば試食会にも呼んでなかったからランドール様は食べるの初めてなのか。


「……すごく、美味そうな匂いだな。よし、ではこのワイルドボアの串焼きからいただこう」


 ランドールがバラ肉の串焼きを1本手に持ち、先端から豪快に齧り付く。

 噛んだところから溢れた肉汁と脂が、串を伝ってランドールの指を濡らした。

 豪華な応接間と屋台風の串焼きがすごくアンマッチでシュールだが、肉汁で濡れた指を見つめるランドールは何故だかすごくかっこよかった。


「……美味い。ワイルドボアの肉質ももちろんだが、この串焼きという調理法は実に肉の旨味を引き出している。塩とタレの2種類というのも実にいい。焼き立てだからか、このカリッと香ばしく焼けている表面に、噛むとジューシーな肉汁。脂の質がいいな。しつこくないからいくらでも食べられる。これは、本当にワイルドボアなのか……? 私が知っているワイルドボアはもっと肉も硬く独特のクセがあってな。だがこの肉は何というか……、ナッツのような芳醇な香りがするのだ。餌に何か工夫をしているんじゃないか?」


 言葉が止まらないランドールを皆、温かい目で見守っている。もちろん、俺もその中の一人だ。


「次はこのカツだな。……おお、サクッとした食感の中に分厚い肉の存在感が。これは、さっきの串カツとは使っている部位が違うな。より肉を味わっている感覚が強い。このかかっているソースとの相性が最高だ。切ってくれているがそんな必要がないくらい柔らかいじゃないか。しかし、噛むほどに口の中に広がる肉の旨味……! コッコ肉も美味かったが、ワイルドボアはまた一段と美味いな」


 ……一人で食べ続けるランドールを、またも使用人たちが悲しそうに見つめている。前にもこんなことあったな。

 そうだ、イエローカリーコッコのときだ。

 さすがに申し訳ないので、取っておいた串焼きたちを後で少し分けてあげることにした。


 満腹になった様子を見計らって、また納品に来ますと言ってランドールの屋敷を後にした。

 こっそり執事さんに串焼きを渡したときに、次回からは調理メニューも納品リストに加えてもらうようお願いされた。



 自宅に戻って、追加でコッコとワイルドボアを捕獲してドッポの店に行く。

 急遽領主様に持って行ったので明日の分がなくなったと話すと、快く受けてくれた。


「毎朝と約束したばかりなのに、すみません」

「いやぁ、領主様のことだ。ワイルドボアが食べたくて仕方なかったんだろう? こっちはいつでも解体ならできるから気にせずいつでも持ってきなさい」

「いつも、ありがとうございます。……そうだ、ドッポさん。いつもコッコとかの肉以外の部分は全てお任せしてしまっているのですが、魔石とかって出たりしますか?」


 ドッポは、あぁ、とばかりに奥の棚からガラス瓶を出してきた。


「素材についてはグランに渡しているからね。買い手がつけば報酬を受け取ってもらったらいい。魔石は、時々出るんだがコッコは持っていないことがほとんどだ。ワイルドボアのは、まだ少しだがこれだよ」


 ガラス瓶の中には、数個だが透明な石が入っていた。小指の先ほどの小さな石だ。


「……小さいですね、あんなに体格は大きいのに」

「そりゃあそうだ。ドラゴンなんか何十メートルもあるのにどんなに大きくても手掌大が精々だ。この魔石は、ワイルドボアにしたらかなり大きいサイズだと思うがな。元々、低ランクのモンスターには魔石を体内に宿すほどの魔力なんてないんだ」


 結界に魔力を満たしていると、魔石も出来やすかったりするんだろうか。

 魔石があれば、ランドールの屋敷みたいに冷蔵庫が作れたり魔法のような力が使えるかもしれない。


「ドッポさん、この魔石は透明ですけど、何ができるかとかは色で分かったりするんですか?」

「その辺は儂なんかより魔法の専門家に聞いたほうがいいだろう。とりあえず魔石がいるならこれは渡すから、また時々取りに来てくれ」

「分かりました、じゃあ魔石は貰いますね」


 ガラス瓶の中を数えてみると6個。無色透明な魔石で、少しずつ形や大きさが違っている。

 魔力が散らないように特殊なガラス瓶ということだったので、ガラス瓶は返して魔石だけをアイテムボックスに入れた。

 毎日ワイルドボアの解体はお願いするので、時々もらって帰ろう。まだ何に使えるか分からないけれど。


「あぁ、言い忘れたがそのくらいの大きさの魔石なら一個で金貨数十枚は下らないと思うぞ」


 売っ払っちまうのもいいと思うがとドッポに言われたけれど、そんなことを聞いてしまったからには綺麗なので部屋のスイッチにしてみますとか言えなくなってしまった。


 店を出ると、もうすぐ日が暮れる時間になっていた。

 ミティにお土産を渡しそびれているのを思い出し、久しぶりに一緒にみんなでご飯を食べたくなった。

 ワイルドボアのお肉もあるし、ゴッシュも喜んでくれるかな。


 ミティたちの家に行くと、ちょうどゴッシュが麦の袋を担いで帰ってきたところだった。


「おうティム、元気にしてるか? たまには一緒に夕飯でも食おうぜ、腹減ってるだろ?」

「あ! ティム!! きてくれてうれしい!」


 向こうからミティが走り寄ってくる。

 タバラ町のお土産だよ、と黄色と赤の毛糸で花の模様に編んだブレスレットを渡すと、とても喜んでくれた。


 ゴッシュには、お肉をとワイルドボアの塊肉を出す。


「またお前、すごいの育ててんだなぁ。エール、まだあったよな!? ちょっと探してくる!」


 嬉しそうに倉庫に戻っていったゴッシュ。

 家に入ると、レーラはエプロン姿で料理を作ろうとしていた。


「ティム! 今日はお肉屋さんお疲れさま。大盛況だったわね」

「うん、すごい人だったよ。これ、ワイルドボアのお肉。みんなで食べたいと思って」

「わぁ、大きいわね! これならゴッシュもお腹いっぱいになりそう」


 久々に、みんなで囲む食卓。

 レーラが作ってくれたのは、バラ肉を焼いて葉物で巻いて食べる、豚肉の焼肉みたいな料理だ。

 焼き立ての肉を、サンチュルという葉っぱに巻いて塩をつけて食べる。


「美味いなぁ!! これはエールが足りんな!!」

「ゴッシュは、のみすぎ」

「ほら、ミティに怒られるわよ」


 美味しいものは、独りで食べるよりもみんなで食べるともっと美味しい。

 ランドールに聞かせてやりたいな、なんて思いながら夜は更けていった。


続きが読みたいと思った方はブクマ・評価をどうぞよろしくお願いします。

感想や誤字報告もありましたら大変ありがたいです。

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