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第13罠 7色コッコが揃うとき

 異世界生活13日目。

 昨夜はベッドを奪われたので、リビングのソファで体の痛い朝を迎えた。

 一緒に寝ると言って聞かないレーラから、寝付いた後にそっと空間移動でリビングに逃げたのだ。音もなく移動できたのはスキルに感謝した。

 こんなことに空間移動を使うなんてと言われそうだが、もう少しで抱き枕にされるところだったのでそこは分かってほしい。


 レーラが初めてスキルを使った昨日、ルアーという謎のスキルはレベルが2に上がった。

 レベル1で匂い玉(パフュームボール)というモンスターが美味しそうと感じる匂いを出せるスキルは、昨日初めて使ってみた結果予想を超えた効果だった。

 捕獲したモンスターは、20匹ほどいたが依頼書にないものも多い。一応亜空間に入れてあるが、必要がなければ森に返しに行きたいと思う。


 レベル2はもっとすごいスキルなんだろうと思いながらレーラの話を聞いていると、使ってみるねと言ったレーラは突然、コッコ肉になった。

 ……何を言っているか分からないと思うが、――コッコ肉だ。

 最近肉屋の準備に追われていて自分の頭がおかしくなったかと思った。

 コッコ肉にレーラの赤髪のポニーテールがちょこんと生えていることで、かろうじてレーラかなと分かるが、さすがにスキルでできる範囲を超えていると思う。


 すぐに元の姿に戻ったレーラは、『擬態』というスキルだと話した。

 クルルがネックレスになるようなものだろうか、と思っていると、イエローバードや一角ラットなど次々に違う姿に擬態していく。

 どう考えても食べられるためのスキルでしかないけれど、自分の罠スキルと組み合わせれば効果は絶大だ。

 レーラを危険な目に遭わせることは否めないけれど、結界魔法で守っていれば怪我をする心配はない。

 ……ただ、それは自分の能力次第でもあって。

 自分自身を守るだけではなく、レーラも、周りも守ることができる力。

 その力を、自分は持てているのだろうか。


 改めて、自分のステータスを確認する。

 最近そういえばあまり見ていなかったけれど、俺もスキルがレベルアップしていないかなと期待しながらステータスオープン、と呟いた。


*****************************************************

 ティム   Lv.76


  職業:罠師


  スキル:罠 Lv.5

      ・落とし穴・箱罠・網・トラバサミ・毒矢


      結界魔法 Lv.5

      ・複数種類を同時に無制限に捕獲できる

      ・結界内外の干渉率を調整できる

      ・設置型結界による建物・魔道具作成

      ・結界内の魔力濃度により結界内の

       成長促進、体力魔力回復、状態異常回復


      空間魔法 Lv.7

      ・アイテムボックス

      ・ディメンションホーム

      ・空間移動


      鑑定 Lv.3


  称号:異世界の迷い人

     モンスターファーマー

*****************************************************


 最後に見たときはレベル48だった気がするけれど、いつの間にこんなにレベルが上がっていたのだろうか。

 コッコファームで毎日のようにコッコは捕まえていたけれど、もしかしてあれも経験値としてカウントされていたのかもしれない。


「それにしても、スキルも結構レベルが上がってるな……」


 鑑定だけはレベル3のままだけれど、他のスキルは全てレベルが上がっている。

 罠スキルは、何やら使える罠が増えているようだ。

 落とし穴と箱罠に加えて、網とトラバサミと毒矢か。

 トラバサミと毒矢は、痛そうだし毒とか死んでしまいそうなのでこれはお蔵入り決定。

 気になるのは、網……だな。前にゴッシュたちと罠の話で盛り上がったときに網を仕掛けたら、なんて話をしたけれど、本当に使えるようになるとは。

 これは、今度試してみよう。


 コッコが鳴き始めたのでそろそろ夜明けだ。レーラも起きてくるだろう。

 ソファから起き上がり、朝食のパンをトースターに入れお湯を沸かす。

 昨日ドッポに捌いてもらったワイルドボアの肉があったことを思い出し、朝から少し重たいとは思ったが、試しに焼いてみることにした。

 コンロに火を点け、フライパンを温める。ワイルドボアの大きな肉の塊を少しだけ切り、塩とスパイスミックスを振りかけた。

 綺麗な薄ピンク色の肉質と、透き通るような白い脂身は臭みも全くなく、柔らかいがしっかりとしている。

 鑑定をしてみると、予想はしていたがプレミアムワイルドボアの肉と出た。……うん、美味しいやつだよね。


 温まったフライパンに、肉を置く。じゅう、といい音がして、脂身から溶けてきた油が肉を纏った。


「ちょっと、何か、すごくいい匂いがするんだけど……」

「おはよう、レーラ。今、朝ご飯作ってるから座って待ってて」


 両面がよく焼けたら、蓋をして蒸らす。その間にトーストが焼けたのでお皿に乗せると、そこからはレーラが手伝ってくれた。

 レーラ特製のサラダと一緒に、プレミアムワイルドボアのソテーで朝食だ。


「うわ……! ワイルドボアなんてこの辺にはいないから初めて食べたけど、美味しいのね!」


 レーラはワイルドボアは食べたことがないのか。それにしても、やっぱり鶏肉もいいけど豚肉、美味しい。

 異世界に来てからコッコ肉ばかりだったのもあって、食べられる種類が増えるのは嬉しいな。

 これでトンカツとか揚げたら美味しいだろうなぁ……、生姜焼き、餃子……食べたい料理はまだまだたくさんある。


 美味しい朝食で元気になったところで、コッコとワイルドボアの世話だ。

 レーラは一度ミティたちの家に戻ってくると言うので、2人にもとワイルドボアの肉を渡した。


 コッコたちは今日も元気そうで、餌も結界で増やす方法は上手くいっていた。

 毎日捕獲していても数は増える一方で、2000羽近くになった。白色に混じってピンク、イエロー、ブルーのコッコも増えているのでその都度各色のゾーンに移し続けている。

 各色のゾーンは、100羽近くになっていた。ブルーコッコをまだ食べていなかったと思い、他の色もついでに5羽ずつ捕獲しておく。

 

 相変わらず甘いものに夢中なクルルを横目に、そろそろお菓子を買っておかないとなと思い出す。

 昨日はドッポのところに行くのが遅くなったので、ファミィに会えなかったのだ。


「なぁなぁティム、アイツおもしろいな」


 プリンが入っていた器をペロペロと舐めながらクルルが言う。


「あいつって?」

「あかいカミのニンゲンだ、ニクになったときはわらいすぎてもとのスガタにもどるかとおもった」


 レーラのことか。やっぱり肉になるのはおかしいよな。


「あんなニンゲンはじめてみたぞ、プリンにもなれるのか?」

「何でもなれるみたいだけどな。クルルがネックレスになるみたいだって思ったけど、それとは違うのかな」

「ゼンゼンちがう。オレはこのヒタイのホウセキにもどるだけだ」


 クルルは首を横に振って、額の赤く光る宝石をちょんちょん、と前足で触って見せる。


「そうなんだ。なぁクルル、お前人間が嫌いだって言ってたけどさ。悪いやつばかりじゃないとは思うぞ? レーラは言い方はあれだけど優しいところあるし。あとはさ、ミティとファミィ。2人はクルルの好きな甘いものを作るスキルを持ってるしな。」

「それ、すっごくきになってたんだぞ。まぁオレはティムとはなせればジュウブンだけど」


 話したくなったら、出てきていいからな。そう言って、今朝のクルルとの時間は終わった。


 開店に備えて、コッコとワイルドボアを多めに捕獲した。ドッポに捌いてもらったらアイテムボックスに保管しておいて、売れ行きを見ながら店に出す予定だ。

 ドッポの店に行き、いつものように解体を依頼する。

 

「明日開店するんだろ? 俺も頑張らないとなぁ」

「お世話になります、毎日持ってくるのでお願いしますね」

「あぁ、任せてくれ」


 ドッポは今日も朝から準備万端で待っていてくれた。

 昨夜初めて捌いてもらったワイルドボアは、3メートルを超えていたのでかなり大変だったはずだ。

 今日もワイルドボアを3頭依頼すると、肉屋の開店に合わせてスタッフを増やしたと解体場に見ない顔が1人増えていた。

 年はファミィと同じくらいだろうか、体格が良くワイルドボアも抱えられる力があり、ドッポの指示に素早く従う姿は同性から見てもかっこいい。

 向こうから呼ばれて道具を持ってきたファミィが、笑顔でその男に渡すのを見てしまい少しモヤっとしたのは内緒だ。


 店内のお菓子を見ていると、ファミィがこちらに声をかけてきた。


「ティムさん、おはようございます! 昨日は私、もう家に帰ってしまっていて……すみません」

「いや、僕が来るのが遅かっただけなので。謝らないでください」

「今日は来られるかなと思って、朝からお菓子をたくさん作ってたんです」


 奥から持ってきてくれたのは、クルルが美味しいと喜んで食べていたお菓子ばかりで。ありがたく全部買わせてもらうことにした。


「いつもありがとうございます。また頑張って作りますね」


 こっそりと、周りに聞こえないようにあれからスキルはどうですかと聞いてみる。


「……実は、シフォンケーキ、というのが作れるようになったんです。今日作ってみようと思っているので、また食べてもらえますか」

「もちろん、喜んで。シフォンケーキだったら、卵が必要ですよね。たくさんあるので使ってください」

「ティムさんの卵はいつも本当に美味しくて、お菓子も一段と美味しくできるんです。じゃあまた50個、売っていただけますか」


 卵50個を渡して、お菓子を受け取り卵代を引いた差額の代金を払う。

 そういえば、と思い出し、ピンクコッコの無精卵が30個ほど溜まっていたので10個を渡した。


「これ、普通の卵よりも甘味が強いので、もしかしたらお菓子に合うかもしれません。良かったら、試しに使ってみてください」

「これ……!! ピンクコッコの卵じゃないですか!! こんな貴重なもの、いただけないです……」

「じゃあ、これで作った試作品は僕もタダでいただいてもいいことにしませんか?」


 材料費と作る時間がかかることを考えるとファミィには損だと思うのだが、ピンクコッコの卵代に悩ませてしまうよりはマシかと思って言ってみた。


「そんなことでいいんですか……? じゃあ、この卵はティムさんに食べてもらうためのお菓子に使いますね」


 結果的に、ファミィが自分のためにお菓子を作ってくれることになってしまった。すごく、嬉しいけれど。


 また来ることを約束し、ドッポの店を後にする。

 自分の店に行くと、ソアラたち3人はすでに店で準備をしてくれていた。


「あ!店長!! 準備、ばっちりですよ!」


 ソアラがカウンター周辺にメニュー表を飾り付けながら、笑顔でガッツポーズをしている。


「フライドコッコの味付け、確認していただけますか……?」


 リアラに差し出されたフライドコッコを一口食べると、熱々のスパイシーな美味しさが口いっぱいに広がる。


「うん、美味しいよ。これならバッチリだね」

「よかった……!」

「骨つきで、1羽を9つに分けた大きさで一個小銀貨7枚で販売予定です」


 価格を決めてくれたのはエリオットだ。

 小銀貨は1枚100円相当、10枚で銀貨1枚になるらしい。

 小銀貨2枚くらいになればいいのだが、肉が貴重で物価が上がっている今、価格を下げすぎるのは危険だというエリオットの助言もあり小銀貨7枚になった。

 

 コッコ肉を冷蔵庫に入れ、調理販売する分の下準備をお願いする。

 そのまま販売する分は鮮度も大事なので朝一番に店に入れることにした。


「みんな、本当にありがとう。明日から開店で大変だと思うけど、何かあったらすぐに言ってほしい」

「店長は新しいお肉の調達をお願いしますね、この前のイエローカリーコッコもすごく美味しかったですし」

「それなんだけど、ワイルドボアが少しずつ販売できそうなんだ。エリオット、いくらにしたらいいか頼んでもいいかな」

「ワイルドボア、ですか。ココイ村では手に入らないですし、サパン村の相場を調べておきます」

「うん、お願いします」


 エリオットがいることでお金の計算や相談をお願いできるのはとても助かる。

 この世界の物価や相場を知って適正な価格をつけるのは市場に詳しくないとできないことだ。プレミアムだということは内緒にしておくけど。


 店の外のコッコ肉ゾンビはとりあえずいなくなってはいたものの、広場をそわそわと歩き回る村人たちは多かった。

 明日の開店が待ちきれず仕事が手につかないなんて声が聞こえてくる。

 明日は忙しくなるだろうし、今日のうちにランクアップは少し進めておこう。


 シュアティレイクの森に行き、昨日仕掛けた落とし穴と箱罠を確認する。


「ここと、ここも……いないか」


 この森のモンスターは警戒心が強いとエレノアが言っていた通り、なかなか落とし穴にも箱罠にもかかっている様子はない。


「……ん? ……あれは……」


 湖のすぐ近くに設置した落とし穴で、小さな反応を見つける。

 近くに寄って見ると、リスのような長くて先が丸まった尻尾をしたモンスターが中でしゅんとしている。

 

『鑑定:ロールリス 体長10~20cmの小型種。長くて丸みのある尻尾で体を包み、転がって逃げる習性を持つ。警戒心が強く逃げ足が速い。レア度:E』


 捕獲して近くで見ると、目がくるっとしていてすごく可愛い。毛も柔らかく尻尾もふさふさだ。

 一晩何も食べていないだろうと思いナッツをあげると、口いっぱいに頬張って食べていた。可愛い。


 他の罠も確認すると、ロールリスがもう1匹と昨日見たタイニーフォックスが1匹箱罠にかかっていた。

 昨日ココイの森で捕獲したモンスターもいるし、一度モリウスのところに見せに行ってみよう。


 先にドッポの店でお願いしていた肉を受け取って、モリウスにも手土産に持っていくことにした。

 空間移動で魔物研究所に行き、入口の扉からモリウスを呼ぶ。

 返事がないので扉を引いてみると鍵はかかっておらず開いていた。


「すみませーん、モリウスさん。ティムです」


 少し声を大きくして呼んでみるが返事はない。仕方がないので奥に入ってみる。


「ヴゥ……! ガウゥ!!」

「あぁ、この餌はあまり好きじゃなかったかい? それならこれはどうかな」

「グルルッ……!!」


 モリウスがジャックウルフに餌をあげている。何か……、ドッグフードのようなものを。

 

「あの、モリウスさん。」

「おぉ、ティムか。すまないね、ジャックウルフが可愛くて夢中だったよ」

「それは、ジャックウルフの食事ですか?」


 モリウスが手に持っているドッグフードのようなものをこちらに見せる。


「あぁ、モンスターの食事には何が最も適しているか試していてね。これは麦と芋、あと数種類の野菜を混ぜているんだ」

「……ジャックウルフの好物って、一角ラットですよね? あと、コッコの骨が好きでしたけど」

「……そうなのか?」

「えぇ、ちょうどモリウスさんにと思ってコッコ肉を持ってきているので、骨はジャックウルフにあげてください」


 アイテムボックスからコッコ肉を5羽取り出してモリウスに渡す。それと、ピンク・イエロー・ブルーのコッコ肉も1羽ずつ。


「こんなにたくさん……! いいのか? いや、これは買い取らせてもらうよ。そういえば肉屋を始めるとエレノアに聞いていたんだった」

「いえ、お金はいいんです。ジャックウルフだけじゃなくて、他にもお願いするモンスターが増えるじゃないですか。必要なら肉はいつでも持ってこれるので、言ってください」

「そんなわけにはいかないよ。王様から予算は頂いているから心配しなくていい。……それにしても、この色が違う肉は一体……」


 ピンク・イエロー・ブルーのコッコ肉を一つずつよく見比べて、モリウスが何かに気付いたような顔をした。


「確か、コッコの文献が向こうに……、ちょっと待っていてくれないか」


 奥の部屋に消えていったモリウスは、1冊の本を持って戻ってきた。


「ティム、ちょっとこれを見てくれ」


 開いたページには、コッコと思われる群れの絵と、その中心に一際大きい光り輝くコッコの絵。


「これ……、ゴールデンコッコですか」

「そうだ、よく知っているな」

「ええ、コッコの巣で会ったことがあるので」

「なん……だと? 会ったことが……?」

「エレノアさんから聞いていませんか? すごく大きくて顔が怖かったですよ」

「……その話は後でゆっくり聴かせてもらおう。いや、この一文を見てくれないか」


『白色のコッコが集まりしとき、色を持つコッコが生まれる。7色の色を持つコッコが揃うとき、ゴールデンコッコが生まれる』


「7色……ですか」

「今、ティムが持って来てくれたのはピンク、イエロー、ブルーの3色。色を持つコッコが7色……ということは、あと4色のコッコがいるんじゃないのか」


 モリウスの持ってきた本には、どうやって7色を揃えるかということは書いていなかった。

 けれど、もしコッコファームでゴールデンコッコが生まれたら……、希少な金の卵が採れるかもしれない。

 お金はそんなにいらないけど、金の卵を流通させることで無理矢理卵を奪われるゴールデンコッコが少なくなればいいと思った。

 

「他の色は、何色なんでしょうか」

「書いていないけど、これは大変興味深い。また他の色が生まれたときにはぜひ教えてほしい」

「わかりました。……それで、今日来たのは捕獲依頼の達成報告なんですが」


 捕獲したモンスターの依頼書を見ながら、確認してほしいので広い場所に行きたいと伝える。


「外の方がいいかな。捕獲したモンスターを入れるための部屋もいくつかあるので、後でそこに運ぶこともできるだろうか」

「運ぶのはどこでも大丈夫です。では、外で」


 外の広い敷地に移動し、依頼以外のモンスターも含めて23匹を結界の檻に入れた状態で外に出した。


「これ、全部昨日だけで捕まえたのか!?」

「シュアティレイクの3匹は今朝、昨日仕掛けた罠にかかっていたのを捕獲してきました」

「本当にすごいな……、ありがとう、全部買い取らせてもらうよ」

「依頼書にないものもあるんですが」

「追加で依頼書を書くから大丈夫だ、報酬も追加しておくからギルドで受け取ってほしい」


 檻の中に入れられたロールリスやタイニーフォックスたちは大人しくしている様子だが、モリウスが近づくと威嚇して噛み付こうとした。結界の中に入れているのでこちらにダメージはないのだが。


「これ、すごく便利だね。こちらからは触り放題だけど、モンスターからの攻撃は受けないのか」

「はい、結界魔法でそう設定していますので」

「ずっと入れておきたいけれど、そうもいかないんだろう?」

「それなんですが、ジャックウルフも狭い檻の中で可哀想だなと思っていたんです。もしよければ、ここの敷地内に飼育設備を建ててもいいでしょうか」

「……そんなことが、できるのか?」

「広さはどこまで使ってもいいですか? あと、何かご希望があれば対応しますが」

「いや、ここの敷地はどこまででも王の領地だから心配しなくていい。……希望か。モンスターたちを、なるべく近くで観察できると助かるんだが」

「分かりました、ちょっと作ってみますね」


 モリウスには少し離れてもらい、広大な敷地に向けて手をかざす。

 イメージは、動物と触れ合える動物園だ。


 全体の敷地は可能な限り広く取り、モンスター別にエリアを区切り網やガラスで囲った。

 各エリアの中には木や草を生やし、コッコファームと同様に結界で成長を早めることで餌を追加しなくてもいい状態にした。餌の量についてはモリウスに観察してもらい足りないようであれば調整すればいいだろう。 

 もちろん、餌を直接あげたい時もあるのでガラスや網の一部を丸く加工し、蓋を開ければ餌を渡すこともできるようにしてみた。これなら近くで観察したいときには餌をあげればいいし、モンスターも少しは懐いてくれるかもしれない。

 肉屋と同様にモリウスを入口の扉に登録して、完成だ。

 

「どうでしょうか、これならモンスターも自然の環境に近い状態で過ごせるかと」

「……すごい、凄すぎるよ……!! あぁ、ロールリスが木の上で木の実を食べている。頬袋にたくさん詰め込んで、なんて愛らしい……!」


 シュアティレイクの森エリアは、まだ3匹だけなのでちょっと寂しい状態だ。

 ココイの森で捕まえたホーンラビットやウッドディアーなどは、元々同じ森に住んでいたのでココイの森を再現した広めのエリアに一緒に入れてみた。もちろん、ジャックウルフも一緒だ。

 見ると、よく日が当たる草むらで転がって昼寝をしている。ジャックウルフって、もっと暗闇で獲物を狙うような感じじゃなかったっけ……。


「餌は、基本的には森の中で育った草や木の実、虫などを食べるのであげなくても大丈夫ですが、もし足りない場合は追加できるので教えてください。あと、餌をあげたい時はここから入れてあげてくださいね。安全のためエリアの中には入れない仕様にしていますが、僕が一緒のときは空間移動で入れますので」

「あぁ、これだけしてくれていれば充分だ。……これは、研究が捗りそうだな」


 目をキラキラと輝かせるモリウスは、クールな見た目に反してその時だけは少年のように見えた。

 好きなものを目の前にすると、みんなそうなるものだよね。



 依頼書をモリウスから受け取って、王都の冒険者ギルドに行き依頼達成の報告をする。


「はい、達成報告ですね。23件、と。……え、1日で23件ですか?」


 そのリアクション前にも聞いたな。王都の受付嬢は何人もいるようで毎回違う人だが、反応が同じで面白い。


「……確かに、達成ですね。あなた、エレノア様と一緒に来ていた冒険者ですよね。達成報告に来たらランクアップ交渉に来るので呼んで欲しいと言われていたのですが……。これだけの実績であればエレノア様がいらっしゃらなくてもランクアップになりますね。ギルド長に報告しますので少々お待ちください」


 受付嬢が奥に報告に行くと、しばらくして奥から若い男性が出てきた。まだ20代前半だろうか、短い銀髪に甘い顔面からは想像がつかないような、冷たく圧縮された魔力を感じる。


「……君がティムか。受付嬢から報告は聞いたよ。少し、奥で話さないか」


 通されたのは応接室。王都の冒険者ギルドは大きいだけあって、応接室も数段豪華な造りになっている。エレノアと一緒に来ればよかったと少し後悔した。


「ランクアップ、したいんだったね」

「はい、王様からのご命令で、Sランクまで上がるようにと」

「はは、Sランクか。そんな冒険者はこの国にもひと握りしかいないが、君のその年ですぐにSランクとはねぇ」

「難しいとは分かっていますが、少しずつでも上げていければと」

「捕獲と聞いたが、珍しいだけのスキルでどこまでやれるか、期待しているよ」


 言い方に刺があるが、言われていることは事実だ。


「あぁ申し遅れたが、私はここ王都の冒険者ギルド長をしているスウィンだ。ランクはSS、最年少でアースドラゴンの単独討伐を達成した王都の英雄だ」


 ――こいつ、ドラゴンを殺したのか。わざわざ殺さなくても死んでいっているのに、希少なドラゴンを自分の名誉のために殺すなんて。


「そうですか。それで、ランクアップは可能ですか」

「……ふん、そうだね。特別にDランクに上げてやろう。捕獲だけで討伐をしたこともない冒険者には異例の待遇だ、感謝するといい」

「……ありがとうございます」


 ランクは上がったが、正直もう来たくない気持ちになった。

 エレノアが今度来たら、スウィンのことを聞いてみよう。


 こういうときは可愛いファミィの顔でも見るに限ると思い、ドッポの店に向かった。

 店内に入ると、お菓子の甘いいい匂いで満たされている。


「あ、ティムさん! ちょうど今、シフォンケーキが焼けたんです」


 ファミィのピンクの髪が揺れる。他の大きなものも揺れているけどあまり直視はできないので目をそらした。

 持ってきたシフォンケーキは、普通と違って綺麗なピンク色をしている。


「これ、ティムさんのピンクコッコの卵で作ったんです。ピンク色で可愛いですよね」


 目の前で切り分けられて、一口どうぞとフォークに刺して口の前に差し出された。

 ちょっと恥ずかしいが、パクリとファミィの手から食べる。

 ピンクのシフォンケーキは、ふわふわの食感で噛むと桃のような果実の甘みが広がった。


「これ、果物が入っているんですか?」

「いえ、卵だけなんですよ。びっくりしますよね」


 どうやらピンクコッコの卵をお菓子に使うのは大成功だったようだ。ぜひ持って帰ってほしいと言われ、残りをもらって帰った。クルルが喜びそうだな。


 家に帰ると、勢いよくクルルが元の姿に戻り肩の上で暴れるので、まだ焼きたてのシフォンケーキを渡す。前足で器用に受け取ったクルルは、ふぅふぅ、と息を吹きかけてから大きく齧り付いた。


「これ、めちゃくちゃフワフワでうまいぞ!!」


 クルルの辞書に、また一つシフォンケーキという言葉が増えたようだ。


続きが読みたいと思った方はブクマ・評価をどうぞよろしくお願いします。

感想や誤字報告もありましたら大変ありがたいです。

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