第1罠 森のお散歩をジャックウルフと
目が覚めると、そこは異世界だった。
――見渡す限りの草原に、雲ひとつない青空。都会暮らしの社畜生活で、しばらく目にしなかった景色が眼前に広がっている。
ここが異世界だなんて、そう思う理由は簡単だ。突如何もない草原に放り出された俺は、何をしていいかもわからずただ空を見ていた。自分が置かれた状況を理解することもできず、ただぼうっと。
遠くで何か、ごう、と響いた気がした。視界に現れたのは、1匹のドラゴン。ほんの一瞬の出来事だった。透き通った青空に、赤い躯体が映える。大きな翼と、ゲームの中でしか見たことのない姿に、ここは異世界なんだと思った。
異世界転生、というやつか。本で読んだことはあるが、自分がその状況に置かれたことにまだ理解が進まない。昔から、考えるのはゆっくりで周囲からは急かされるほうだった。そういえば、元の自分はどうなったのだろう。思い出そうとすると、あの時感じた激しい頭痛と吐き気が思い起こされるようで気分が悪い。長年の社畜生活で、不摂生がたたったのか、それともストレスか。あの日深夜に自宅に帰り着いた自分は、帰ってくるなり玄関先で倒れ、そこからは悪夢のような頭痛と吐き気の記憶しかなかった。
「死んだのかな、俺……」
きっとそうなのだろう。38歳、短い人生だった。家族は悲しんでいるだろうか。職場は、まぁどうでもいいか。自分がいなくても仕事は回るものだ。そんな仕事に、どうしてあれ程縋り付いていたのか。
いや、考えてももう今は異世界に来てしまったのだ。新しい人生、自分の好きなように生きよう。好きなことをして、好きな場所に行って。それと、健康第一。あんな頭痛と吐き気はもう経験したくないからな。死ぬときの感覚だけ覚えているのはさすがに気持ち悪い。
「異世界といえば、あれか?」
様々な種類のスキルとか、職業とか。どんな能力が自分にはあるのだろうか。ワクワクしながら、ステータスオープン、と呟いてみる。
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ティム Lv.1
職業:罠師
スキル:罠 Lv.1
結界魔法 Lv.1
空間魔法 Lv.1
鑑定 Lv.1
称号:異世界の迷い人
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「おぉ、本当に開いた……。名前、勝手についてる」
ティムって名前なのか、俺。なんか異世界っぽいな。よし、ティムと名乗ろう。
「あとは……、職業、罠……師? スキル罠って、何だろ」
試しに、罠って言ってみる。すると、目の前の草原にぽっかりと1mくらいの穴が開いて、そのまま再び草で覆われた。穴ができた部分はオレンジ色で塗りつぶされたみたいに見えるようになった。
「これって……落とし穴!?」
面白くなって、同じように周囲にいくつも落とし穴を作る。周囲に何かいる気配が全くないのが残念だが、しばらく待っていれば何かかかるかもしれない。その間に、結界魔法、というのを試してみよう。
「魔法って、魔法……だよな」
剣と魔法の世界に来たんだと実感するフレーズ。魔法が使えるなんて、どう考えても楽しい。しかし、普通魔法といったら火とか水とかじゃなかったっけ。結界とか、空間とかってあんまり聞いたことないんだけど。とりあえず使ってみないことには分からないしな。でもどうやって使えば……うーん。あれ、そういえば一番下に鑑定って書いてあったような。鑑定ってなんでも教えてくれる便利なやつだよな。よし、この結界魔法と空間魔法を鑑定してみよう。
『鑑定:結界魔法 結界を自分もしくは一定の範囲内に作成する。結界の内部と外部の干渉割合については術者が設定可能。使用できる結界の強度や数、種類はレベルで異なる。使用魔力量が一定に達するとレベルアップが可能。ただし低レベルを繰り返し使用することによるレベルアップの上限は決められている』
『鑑定:空間魔法 術者の魔力量に応じた亜空間を作成する。アイテムボックス内では時間が停止するが、生物は入れることができない。生物を入れる場合は一定の魔力量が必要とされる』
ふむふむ、結界魔法は自分を守ることもできそうだし、さっきの罠で捕まえたモンスターを入れるのにも使えそうだな。空間魔法は、アイテムボックスか! これがあれば荷物を気にしなくて済むし、めちゃくちゃ便利だな。鑑定が使えて良かった。何も分からないままより、まずこの鑑定で色々調べていこう。
思いついたまま、目の前の草を鑑定してみる。
『鑑定:雑草 どこにでもある雑草。食用には適していない』
うん、まぁそうだよな。雑草……雑草か。食えないなら仕方がない。それなら、ちょっと葉っぱの広いこっちの草はどうだろうか。
『鑑定:ポタル草 すり潰して傷に塗ると回復効果がある。食べるととても苦い』
お、回復効果だって。異世界に来てすぐに死んだら大変だし、これは採っておこう。アイテムボックスって本当に使えるのかな……。ちょっとやってみるか。
「アイテムボックス」
言い終わった瞬間に、目の前の空間にキラキラとしたエフェクトが現れた。触ってみると、指がその空間に吸い込まれるように消える。試しに今採ったばかりのポタル草を入れてみると、目の前からポタル草が消えると同時に頭の中にポタル草:1と浮かんだ。
「すげぇ……アイテムボックス、使えた」
これで荷物の心配はなさそうだ。といっても、何も持っていないんだけど。
自分の格好を確認すると、いかにも異世界っぽい白のシャツに濃緑のベスト、ベージュのズボンに革靴。村人その1っぽいな。顔は……わからないけど、どこかで池とか見つけたら見てみよう。いやでも、さすがに何も持ってないってのはひどくないか。せめてナイフとか、当面のお金とか……。あ、もしかしたらアイテムボックスに初めから入ってるとか?それならそうと早く言ってよ神様。
「アイテムボックス」
中に入っているものは分かるシステムみたいだが、何度見てもさっき自分で入れたポタル草しか入っていない。仕方ない、神様はいなかった。鑑定先生に頼りながら食べれるものを探して、できたら明るいうちに村とか人のいるところを見つけたいところだ。
そういえば、さっきの落とし穴はどうなっただろうか。振り向くと、ちょうど草むらの何かと目が合った。ネズミ……? 額に小さな角があるのと、赤く光る眼がこちらに敵意を向けてきているのが分かる。
「ギ、ギィ…!」
角のあるネズミは、こちらを見つめたまま横に移動した。警戒心が強いのか、モンスターみたいに襲ってくるかと思えば逃げようとしているようだった。慌てて鑑定をかける。
『鑑定:一角ラット 体長15cm~30cmの小型モンスター、灰色の体と赤く光る眼に、額に生える1本の角が特徴。攻撃力は低く、逃げ足が速い。肉は臭みが強いため食用には向かない』
食えないのか……うん、そうだろうとは思った。ネズミって病原菌を多く持ってるイメージだし、食べて腹でも壊したら大変だ。
こちらを見つめながら、徐々に距離を空けようとする一角ラット。横に移動しながら後ずさる姿を見ながら、近くにあった小石を投げてみる。逃げてもらっていいんだけどな、と思いながら。
小石は一角ラットのすぐ近くに落ちた。当てるつもりで投げたわけじゃないので、なかなかいいコントロールだと自分で思う。
小石に驚いた一角ラットは、横に大きく飛び跳ねて、……そのまま、俺の作った落とし穴に、落ちた。
「……ギィ!! ギ!!」
可哀想に、といっても自分でやったことだけど。足元にぽっかりと開いた穴の底で叫んでいる一角ラットを見下ろす。穴の幅は1mくらいだけど、深さは俺の身長より深そうだ。
あと、何か登ってこれなさそうな壁の感じ。魔法だからよく分からないけど、内側の壁が波打っていて登ると落とされるんだと思う。すげーな、罠スキル。
さて、こいつをどうしようか。さっき鑑定先生に教えてもらった結界魔法が使えるんじゃないか?
結界魔法、と言ってみると、穴に落ちた一角ラットの周りに金色の光で檻のような四角い箱が形作られた。
そのままふわりと浮かび、檻に入れられてしゅんとした顔の一角ラットが、胸の高さに浮かぶ。
確か、干渉割合が決められるとか書いてあったような……。
モンスターを入れるときは、中から外への干渉は0%、外から中へは100%にしておこう。これならどれだけ中で暴れてもこっちにダメージは通らないはずだ。
再度ステータスを見ると、Lvが2に上がっていた。捕獲でレベルが上がるのか。剣とかで殺さないと、レベルって上がらないのかと思ってた。
血とか、苦手なんだよなぁ……。
捕獲でレベルが上がるなら、自分だってこの世界で生きていけそうだ。
捕獲についてちょっと分かったし、このままここにいても日が暮れるだけなので移動することにした。
一角ラットは、そのまま置いておくわけにもいかなかったので小脇に抱えて持って行くことにした。
アイテムボックス、生きてる物は入らないからさ。空間魔法のレベルが上がったら入れられるようになるんだろうか。
見渡す限りの草原を歩いていると、ちらほらと雑草以外の食べられそうな草が見つかった。
木苺みたいなベリーリュという実は甘くて瑞々しくて、乾いた喉にちょうど良い。
2時間くらい歩き続けていると、森が見えてきた。草原で見えるところには他に何もなさそうだし、この森の先に期待するしかなさそうだ。
それにしても、ここまで全然モンスターに遭遇しなかった。さっきの一角ラットがたまたま出てきただけなのか、こいつがギィギィうるさいからなのか。
森に入ると、草原とは違って遠くでチイチィと小鳥の鳴き声が聴こえる。
草原よりも生き物がいそうだな、と思いながら、ここは異世界だった、と思い直す。
小鳥だってモンスターなんだ。頭上から襲われることだってあるし、気を引き締めていこう。
慎重に森の中を進んでいくと、5m程先に動く影を見つけた。横に2mくらいだろうか、結構大きい姿にびくりとする。
『鑑定:ジャックウルフ 体長1.5~3mの中型モンスター、濃灰色の体に長い尻尾を持つ。飛びついて噛み付く攻撃を得意とする。小型モンスター、特にラット系が好物』
飛びついて噛み付かれたら一発で死んでしまいそうだ。逃げるのが一番だが、これはもう気づかれている気がする。何といっても、脇に抱えている一角ラットがずっとギィギィ言ってるからね。
せっかく一緒に連れてきたけど、一角ラットよ、ごめんな。ここでお別れだ。これ以上連れて行けば、あと何匹いるか分からないジャックウルフにずっと追われることになる。一角ラットを地面に置き、そっと後ろに下がる。結界魔法をかけたままなので一角ラットが動けないと見たジャックウルフは、好機とばかりにこちらに近づいてきた。好物って書いてあったっけ……やっぱり食べられちゃうんだろうな。
ゆっくりと近づいてくるジャックウルフ。一角ラットまであと1.5mといったところか。食物連鎖、自然の摂理……うん、やっぱり目の前で食べられるのは可愛そうだ。あいつが食べられているうちに逃げるのは何か寝覚めが悪い気がする。すぐさま、一角ラットとジャックウルフの間に落とし穴を作成。何も知らないジャックウルフは、好物を目の前に……落ちていった。
落とし穴から結界魔法でジャックウルフを捕獲すると、レベルが2から8に上がった。結構強かったんだな、こいつ。それにしても、一角ラットくらいなら持ち運べたけど、さすがにジャックウルフは大きすぎる。浮かせることはできるけど、浮かせたままずっと運ぶのはどうもな。
殺してしまえば……、アイテムボックスに入れられるんだろうけど、殺したくない、という気持ちが先に来てしまう。それに、こんなひ弱な体で自分の体以上もあるジャックウルフを殺せるはずもない。武器もないしね。あったとしても、上手く使える自信もないけれど。
なんかこう……首輪みたいな感じにならないかな。どう考えても担げないし、こいつに歩いてもらうしかないんじゃないか。そう思うと、檻の形だった結界魔法がジャックウルフの体に纏うように煌き、首輪と口輪の形に変化した。リードもついていて、一定距離以上離れられないようだしこちらにダメージも与えられないようだ。
「よし、行くぞジャックウルフ」
声をかけてリードを引っ張るが、ジャックウルフは地面に伏せたまま動かない。付いてくるのがよほど嫌なようだ。何度も引っ張ると、ようやく少しだけ腰を上げた。なんだか散歩したくない犬を無理矢理連れ出してるときみたいだな。
「ほら、来いって。どこか人がいるところに行きたいんだけど、お前知ってるか?」
「ヴゥ……」
しぶしぶ、といった感じで歩き始めるジャックウルフ。こちらとしても気は進まないが、捕獲した後に開放するとその場で襲われそうなのでとりあえず一緒に来てもらうしかない。一角ラットを抱えたまま、ジャックウルフと森のお散歩だ。
しばらく歩いていると、道っぽい場所に出た。獣道よりちゃんとしているようだし、地面に道のところだけ草が生えていないから、人が通るのかもしれない。よし、この道をずっと行ってみよう。もしかしたら立て看板とか立ってたりするかもしれない。
「……っきゃあ!」
突然、少女の叫び声。道の向こうに、ふわふわとした金髪の少女が怯えた顔でこちらを見ている。
「どうしたの、ミティ」
木の向こうから、もう一人の少女。こちらは赤毛でポニーテールの、強気そうな子だ。金髪のミティ、と呼ばれる少女より少し年上だろうか。まだ10代前半といった感じで、森の中に少女二人だけで来るには危なくないか心配になった。
「そこ……ジャックウルフが」
「え……? こんなところまで出てくることはないはず……っ! ちょっと、人がいるじゃない!」
俺の姿に気づいたらしい赤髪の少女は、人だと言っているにも関わらずこちらに弓を向けて矢を番えた。
「いやいや、待って! 射たないで欲しい!」
両手を挙げて無抵抗を示すと、なんとか笑顔を作って無害アピールをしてみる。しかし、小脇に一角ラットを抱えてジャックウルフにリードを着けて散歩している様子は常人ではないのだろう。明らかにこちらを見る目がおかしいのが分かる。
「君、……それ、何してるの?」
よかった、話しかけてもらえた。
「モンスターを捕獲したんだ、こちらに攻撃はできないから大丈夫」
「捕獲……?君、そんなことできるんだ」
赤髪の少女が弓を向けたまま近づいてくる。どうやら、少し警戒心は解いてもらえたらしい。まだ、今にも射たれそうではあるけれど。
「あ、ああ。出会ったばかりで信じられないとは思うが、信じて欲しい。村を、探しているんだ。何も食べてなくて……」
異世界に来てから、もう何時間経っただろう。日が沈みかけてきている。腹がぐぎゅう、と鳴ったのを聞いて、赤髪の少女がぷっと吹き出した。
「仕方ないわね、もう日が落ちかけているし、この辺はモンスターが滅多に出ないところだけどそろそろ帰ったほうがいいわ。君も、私たちの村で良ければ付いてきていいわよ」
「あ、ありがとう。助かるよ」
「それにしても、どこから来たの?こんなところ、森の向こうなんて草原しかないのに」
異世界からきました、なんて信じてもらえないだろうな。ここは適当にごまかして……。
「それが、覚えてないんだ。自分のことも、家族のことも……」
驚いた二人は、それ以上は聞いて来なかった。……ちょっと重すぎただろうか。
森を抜けると、のどかな田園風景が広がっていた。家が立ち並び、人の声も聴こえる。良かった、ひとまず森の中で一夜を明かすことは避けられたな。
「おう、ミティにレーラ。遅かったな、いいベリーリュは採れたか?」
村から一人のおっさんが出てきた。革の胸当てに斧を背負っており、俺よりもやや中年だが筋骨隆々としている。
「ただいま、ゴッシュ。あんまり採れなかったわ。その代わりキノコがたくさんあったから、晩ご飯に使って」
「キノコか、今美味いんだよな。よし、キノコ鍋にするか! ……って、その坊やは誰だ?おい、連れてるのはジャックウルフじゃねえか!」
「待ってゴッシュ、捕獲しているらしいの。危害は加えないって」
「はぁ!? 捕獲って、生きたままモンスター連れてくるとか聞いたことねぇぞ」
「すみません、あの……。捕獲しているので、こちらにダメージは与えられないんです。ほら」
俺は、いたたまれず会話に割って入って自分の腕をジャックウルフの口元に押し付けた。唸り声を上げているものの、ジャックウルフは口輪の効果もあってか噛み付くことはできない。
「……信じてもらえませんか」
これで村に入れて貰えなければ、やはり森に返してくるべきだろうか。とりあえず連れてきたけど、確かに危害がないといっても村の中にモンスターを入れるのは危ないと思うだろう。
「……俺じゃよく分からんから、冒険者ギルドに行ってみるか。まだ開いてるはずだ。ミティとレーラは家に帰ってキノコ鍋作っててくれ。美味いのを頼む」
「美味しくないって言ったら二度と作らないって前から言ってるけど?」
「分かった分かった、いつもとびきり美味いって」
ミティとレーラと別れ、ゴッシュと一緒に冒険者ギルドに向かう。なるべく人の通らない通りを選んでくれたようで、村人に叫ばれることはなくギルドに入ることができた。
「ようこそ冒険者ギルドへ! って、きゃあ、ジャックウルフ!?」
冒険者ギルドの受付嬢が、甲高い声で叫ぶ。まぁ、当然の反応だろう。こんなところにジャックウルフがお散歩スタイルで連れられているのだから。みんな触れてこないが、小脇に抱えた一角ラットも一緒である。ギィギィ鳴くのは疲れたのか、途中からちょっと大人しいので存在感が薄いみたいだ。
「おう、驚くよな。こいつ、ジャックウルフを捕獲したんだとよ。俺じゃどうしていいか、わからんからな。連れてきた」
ゴッシュが困り顔で受付嬢に話しかける。
「捕獲しているので、危害は加えないんですが……」
「どなたですか?」
口を挟んだ俺に、受付嬢からの質問が飛ぶ。
「ティム、と言います」
記憶がなくてどこから来たかも覚えていないこと、手持ちもなく困っていることを説明する。
「……モンスターを捕獲、なんて聞いたことがないですが、出来ているのだから仕方ありませんね。困っているようですし、生きたままのモンスターの需要がギルドとしても未知数なので、一旦買い取らせてもらおうと思います。幸いジャックウルフは毛皮が良質で貴族に好まれますし、素材も肉も高級品です。臭みが少しありますが、スパイスで煮込むと美味しいんですよ。最近数が減っているので、みんな喜ぶと思います」
ニコニコとジャックウルフの美味しさを語る受付嬢に、ジャックウルフが怯えている。食べられちゃうのか、お前。
「生きたままの金額は相場が難しいですが、素材と肉を考えれば金貨2枚ですかね。一角ラットもですか。角が素材として薬の材料になるので、銀貨2枚で買い取ります」
この世界の貨幣価値が良くわからなかったので鑑定してみると、金貨が1万円、銀貨が千円といったところみたいだ。当面の生活費は必要だし、散歩はしたけどペットではないので2匹をギルドに引き渡す。少し寂しいが、お金にはなったのでありがたかったな。
ゴッシュに礼を言い、受付嬢からお金を受け取る。金額から考えれば、宿に泊まったりもできるんじゃないか。
「ありがとうございました、あの、この村で泊まれる宿とかがあれば教えていただきたいのですが。」
「ん? 家に泊まってけよ。ミティとレーラも気にしてるだろうしな。キノコ鍋、美味えぞ。あと、その歳でしっかりした話し方だが、まだ小せえのにな。もっと楽に喋っていいぞ」
……ん? そういえばさっきから時々坊やとか呼ばれてた気がするが、俺いくつなんだ?確かに背は低くなった気がしていたが。
ギルドのガラス窓に映る自分の顔を見ると、まだ13才くらいの少年だった。金髪に、翠色の眼。まだ幼さの残る顔には、元の自分の面影は微塵もない。……これは、ティムだな。何か名前に合ってる感じするわ。可愛くてテディベアとか似合いそう。
気を取り直して、せっかくゴッシュが泊めてくれるようなので二つ返事でお願いした。何も知らない異世界で知り合いができるのはありがたい。
ゴッシュの家に着くと、中からミティとレーラが飛び出してきた。
「おかえりなさい! どうだった?」
「……だいじょうぶ、なの……?」
レーラの後ろに隠れながらミティもおずおずと顔を出す。どうやら、心配してくれていたようだ。
冒険者ギルドに引き取ってもらったことを説明し、村まで連れて来てもらったことに改めて感謝を伝えた。
「別にいいわよ、面白そうだったし。あはは、散歩させられてるジャックウルフなんて早々見れるもんじゃないわ」
「困ってるの、助けたかったから……」
レーラはともかく、ミティはいい子だな。そういえば、ベリーリュを採りに行ってたんだっけ。森に入る前に、たくさん見つけたのでアイテムボックスに入れていたんだった。
「あの、良かったら、これ……」
ベリーリュを両手一杯に出すと、3人が目を丸くして驚いた。
「それ、もしかしてアイテムボックスか…?驚いたな、王都に使える魔術師が数人いるって聞いたことがあるけど、生で見たのは初めてだ。捕獲といい、こりゃとんでもない奴が現れたな」
「人前であまり使わないほうがいいかもね、みんなびっくりしちゃうから」
「ここだけの、ひみつ……」
思っていたより、3人は優しいらしい。俺のことを思ってアドバイスしてくれるし、追い出したりもしない。最初に出会ったのが、ミティとレーラで良かったな。
「分かった、ありがとう。気をつけるよ」
「うん、気をつけてね。村は平和だけど、いい人ばかりじゃないから。あと、ベリーリュありがとう。私たち、これが大好きなの」
「ベリーリュたくさん、嬉しい」
「よし、ベリーリュはデザートにして、キノコ鍋だな!」
「そうね、みんなで食べましょ!」
レーラとミティで作ったキノコ鍋はとても美味しく、ようやくありつけた温かい食事にちょっと泣きそうになった。
なんでも、3人は血は繋がっていないが訳あって一緒に住むようになったのだとか。家族みたいに仲の良い3人と一緒に囲む食卓は、ずっと独り暮らしでカップ麺やコンビニ飯ばかりだった俺にはひどく沁みた。