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第二章【なにわダンジョン解放編/大悪党に連れられて】

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97/266

30 ジャストサイズ



 僕の戦い方は、結局いつも通りだ。

 闘技場の土を連続複製し、粗い砂にして、『粘液魔法』で生み出した唾液と混合した泥だ。

 『粘液魔法』で量産した唾液も、土と混ぜて作った混合泥も、『複製』の連打で手に触れられる範囲で増やし続けられる。


 走りながら唾液を口内で増やしておいて、アダチさんとの接敵直前に手で触れ、ローションを『複製』で増やしていくだけ。

 もとの唾液も『粘液魔法』で増やせるし、増加効率は非常に高い。

 砂も地面から一粒でも拾えっておけば、ねずみ算式に増やせてしまうし。

 配合を調整すれば、粘度も重さも自由自在。ランクが下がったところで、土も泥も大した影響は受けない。

 だって、所詮は土と泥だし。

 さらに。


「攻撃じゃないんですよ。僕の『傷舐め』は治療スキルですから」


 重要なのは、これだ。


「……つまり、治癒効果のある唾液を主成分にして、ローションを分泌した……と?」


 うなずくと、アダチさんの頬がひくひくした。

 まあたしかに気持ちのいい状態ではないもんね。

 男の唾液だもん。女の唾液ならいいのかっていうと、そうでもないだろうけれど。


「ようするに、治療用の泥パックですよ。

 効くかどうかは賭けでしたけど。

 そのときはローションで対応するしかなかったので、大変だったでしょうし」


 説明しながらも、泥を連続で生み出し、アダチさんにぶつけ続ける。

 アダチさんもさるもの、泥を振り払いながらローションの範囲を逃れようとするものの、もはやプロレスの技術ではどうしようもないほどのローションと泥がコロシアムの中央に広がっている。

 ぬかるみに足を取られた人間は、たとえ足首程度の深さであろうと、まともに動けなくなる。

 このまま泥で封殺し、治療パックで拘束するのが第一の目的だ。

 もはや格闘とはいえない泥合戦を繰り広げていると、アダチさんがついに重みに負けて倒れた。

 四つん這いで起き上がろうともがくチャンピオンに、ここぞとばかりに大量の泥をのせまくる。


「……ぐ、くぅ! せやけど、ワテの動きを封じてどうするつもりやっ?

 結局、Aランク以上の攻撃手段がないことに変わりはないやろ!

 窒息させようにも、ワテは無呼吸でも一週間以上は生きられる!

 時間経過で無効試合になるだけや!」

「そんなまだるっこしいこと考えてませ――いえ、一回考えましたけど、それよりもAランクの攻撃を用意するほうが確実なので、今回はそっちを仕込みました」

「なにを――わぷっ」


 どばどばと泥をかぶせて、アダチさんの膂力では抜け出せないように重量を足しておく。

 アダチさんと直接触れない泥に関しては、土の比率を高めた『固くて重い』粘土を中心にして、とにかく盛りまくる。

 アダチさんの膂力では抜け出せないように、たっぷりと。

 基本に立ち返って考えてみれば、勝負とはとどのつまり強みの押し付け合いだ。

 だったら、僕がアダチさんに勝っている部分、パワーとスピード、そして『粘液魔法:C』と『複製:B』を最大限に生かして攻略するしかない。


 コロシアムの範囲は、直径百メートルの円形だ。

 その中心に、奇怪な泥のオブジェを建設し終わるまで、しばらく時間がかかった。


 ほっと一息ついて天井を見上げれば、妖しい太陽がぎらつく光を発している。

 あの疑似太陽の看板もまた、直径百メートルであり――このコロシアムの真上にある。

 疑似太陽とコロシアムを中心にして街を集合させたのだろう。

 偶然ではなく、必然。あの太陽が真上にあるのは、ユウギリのデザインに違いない。

 コロシアムとサイズを合わせたのも、デザイン上の問題だろうと思う。


 手を挙げて、観覧席にいるユウギリに大声で呼びかける。


「すみません、いま何時ですか?」

『……昼の、十四時二十五分じゃが』


 ふむ。試合開始から二十五分。ちょっと時間が押している。

 アダチさんは、ローションの中でも予想以上に動けた。経験があったのかもしれない。

 ぬかったな……甘かった。だけど、賭けには勝った。


『イコマよ。拘束した程度では、勝ちとは言えんぞ?

 試合運びは見事じゃったが、見た目も実態も泥臭くてかなわん。

 そこで手詰まりならば、貴様の負けじゃぞ』

「あと五分だけ待ってください!」


 いらいらしている竜女に叫び返しておく。

 ともあれ、残り五分だ。急がなければ。

 僕はコロシアムの端っこまで寄って薙刀を拾い、刃を地面に突き立て、スコップの要領で土を掘り起こした。

 力任せにざくざく掘って、僕が入れる大きさの穴を作る。

 ついでにローションと泥でぐちゃぐちゃになったメイド服の上を脱ぐ。

 観客が「おおお……!」と湧いた。男の上半身なんか見ても楽しくないだろうに。

 ぐちょぐちょのメイド服を複製し、『粘液魔法』でさらにコーティングして、即席の緩衝材をいくつか作成する。

 穴の中を緩衝材を敷き詰めて、潜り込む。

 自分の上にも緩衝材を広げてから、恒例の対ショック姿勢を取った。


 直後、ものすごい衝撃が僕を襲った。


 ごごぉん、という桁違いの震動。脳が揺れる。

 ステータスオールBじゃなかったら、ぜったいにやりたくない作戦だ。


 五分、ギリギリだった。危なかった。

 衝撃がおさまるまで待ってから、布と土をかき分けて穴を這い出る。


 コロシアムにすっぽり収まるように、疑似太陽が落ちていた。

 真下にいたアダチさんのオブジェは、ひしゃげた太陽の残骸に潰されて、跡形もない。

 威力でいえば、ドウマン戦で用いた大極殿屋根落とし以上。

 タフネスAであっても、大ダメージが確実だ。


「……よし!」

『よしではないわああああああああッ!?』



ヨシ!(安全確認)

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― 新着の感想 ―
[良い点] よし、爆破しよう4 質量は正義だよ兄さん! [一言] 闘技場の上に(土と疑似太陽含む)を使っても良い戦闘にしたのがうぬの失態よ!
[一言] ヨシっ!
[一言] 勝てばよかろうなのだぁ! 武器も地面の槌も使っていいなら上にあるのも使っていいよね?
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