18 初試合
「ぐはははは、貴様ら外部の剣闘士なんか、おれらの敵じゃねえ!
おれらは週に一回は試合で戦っている歴戦のぐわあああああああ!!」
ナナちゃんの初戦は、対戦相手のしゃべりに飽きたナナちゃんが高速で薙刀をぶち込んで終わった。
南無三。
週一どころか、一ヶ月ぶっ続けで古都戦争をやっていたナナちゃんだ。歴戦度合いがまるで違う。
刃を潰してあるとはいえ、薙刀は三メートル超の長物――威力は高い。
ユウギリの用意する武器は、軒並み刃を潰されて死人が出にくいようになっていた。
もっとも、ヒトの命を大事にするわけではなく、長く遊びたいだけなのだろうけれど。
事実、ナナちゃんの強烈な打撃を腹に叩き込まれた対戦相手は吹っ飛んで気絶した。
刃を潰してあろうとも、凶器は凶器なのである。
あまりにもあっけない試合で、興行としては下の下だけど、観客席の一番高いところでふんぞり返っているユウギリが爆笑しているからセーフなんだろう。
他のお客さん――なにわの人々も、無料で配られるコーラやらビールやらを片手にヤジを飛ばして盛り上がっていた。
「しっかりしろ」とか「立って戦え」とか、ひどいヤジだと「いいからパンツ見せろ」とか。
なんというか、本当に『闘技場』なんだなと実感する。
戦いを見て楽しむ場所なのだ。
同時に、街の人々のガス抜きも兼ねている……の、だろう。
「……うう、緊張するなぁ」
おなかをおさえる僕に、戻ってきたナナちゃんが呆れたように言う。
「古都を救った英雄が、この程度で緊張してどうするの」
「いや、たくさんのヒトに見られるのは事情が違うって」
「大丈夫? おなか舐める?」
「舐めない」
「じゃあ、おっぱい揉む?」
「揉むほどないでしょ」
「よおし、今すぐ表に出ろお兄さん」
じゃれつく僕らに、仏頂面のロリメイドことタマコちゃんが、冷めた口調で言う。
「下級剣闘士は試合が詰まっているので、いちゃいちゃしてないでさっさと次行ってください」
「タマコちゃん、専属のわりにいつも僕らのそばにいるよね」
「昨日も言いましたが、放任主義ゆえにあまりやることがないのです。
お二人のお相手するのは暇つぶしですね」
彼女のつんとした態度にも慣れてきた僕らである。
ともあれ、ナナちゃんとの遣り取りで多少はリラックスできた。
「それじゃ、行ってくる」
「頑張ってね、お兄さん」
手を挙げて応じつつ、闘技場に入る。
ちょうど、偽太陽の真下がコロシアムの吹き抜けになっている都合、妖しいネオンの灯りが視界に滲む。
『おお、ようやくイコマの番か!』
楽しそうなユウギリの声が響いた。
体のサイズに見合った大きな声だ。
『くかかか、イコマよ!
古都を平らげたその実力、存分に見せてみよ!』
わああ、と沸く観客席はあまり意識しないように気を付けつつ、戦場を確認する。
円形の闘技場内すべてがフィールド。地面は固めた砂だ。
受け身は取りやすそうだけど、スニーカーの先でほじくれる程度には脆い。
石などの不純物はなく、整備されている。
視線を前に向ける。
対戦相手は短剣を逆手で構えた青年剣闘士――どっかで見た顔だな。
「くくく、おれの純情を弄んだ責任をとってもらうぜ……!」
「ああ、昨日の酔っぱらいさんか!」
責任ってなんだよ。
「具体的にはおれが勝ったら女装ママになってもらう」
「一晩でどれだけ拗らせてんだ、キミは」
女装ママにされるのは嫌なので、僕も薙刀をしっかり握って構える。
対戦準備が整ったと判断した審判役のメイドさんが、掲げた右手を振り下ろした。
「はじめっ!!」
その言葉と同時に、青年剣闘士が疾走する。
けっこう速い。スピードはCランクくらいありそうだ。
僕のほうが速いとはいえ、油断大敵。
本気で行こう。
「――『複製』」
まずは手に持った薙刀(打撃)をいつも通り地面にぶっ刺して『複製』。
ランクの下がった薙刀・レプリカを「そおい!」と青年にぶん投げた。
「う、うわあッ!?」
パワーBの膂力、スピードBの瞬発力で放たれた薙刀が回転しながら飛んでいき、青年が慌てて体を伏せて回避――したところに、すでに次の薙刀を投擲済みだ。
「ぐぇッ!!」
がんッ
と鈍い音を立てて、青年の体が大きくのけぞる。
両腕を交差させて防御したけど、パワー補正も受けのテクニックもなかったらしい。
力を受け流せず、腕ごと防御姿勢を弾き飛ばされた形だ。
短剣という武器から察するに、おそらく『スピード強化:C』を主体に戦闘を組み立てているのだろう。
短剣術のような武芸スキルもなさそうだ。タフネスは不明。
足を軸にして体を回転させながら地面の薙刀に触れ、瞬時に複製。
回転の勢いを殺さず、そのまま投擲。
ブーメランみたいに回転する薙刀が、ものすごい勢いで飛んでいく。
「うわあ……ッ! ちょっ、やめ……!」
逃げ回る青年に、遠距離から薙刀を投げまくる。
ステータスオールBで、なおかつ『複製』を持つ僕だからできる力技である。
とはいえ、これはあくまで小手調べ。
大味で繊細さの欠片もない、ちょっとした小技である。
「こ、こうさ――ひぇッ、あぶねー!」
こうさ?
交差……? なんだろう。
よもや、この程度の小技で降参するということはないだろうし。
気にせず薙刀をぶん投げ続ける。
「こう――あひんっ」
「よっ」
「ま、まけ――ひゃわあッ」
「ほっ」
「だれかたすけ――ひィッ」
ふむ。
なんらかの戦略があるのだろうか。
情けなく逃げ回っているけれど、そういうフリで油断を誘う作戦か?
よろしい、そちらがそのつもりなら、僕は油断など一切せず、攻撃の密度を上げてやろうじゃないか。
「よし、速度を上げていくぞ――!」
「まままま、負けぇッ! おれの負けでいいからッ!
だからもうやめてぇッ! 死んじゃうッ!」
「――あえ?」
汗だくの青年が土の上に尻餅をついて、ぜえはあと息を乱している。
どうやらタフネス強化もなかったらしい。
「無理ゲーだろッ、こんなもん!
最初の薙刀受けた時点で腕イカれてんだよ、こっちはッ!」
審判のメイドさんが手を挙げて「勝者ッ、イコマ!」と宣言をした。
え、終わり?
なんだかとてもあっけない。
『くかかっ、ずるいのー!
ひとりだけ武器投げ放題とか、ちょっとずるすぎじゃろ!
スキルゆえ見逃すが、ずるっこの所業じゃな!
くかっ! 下級剣闘士では相手にならんのう!』
めちゃくちゃ楽しそうなユウギリの声が闘技場に響く。
観客はわあわあと手を振り上げてなにか叫んでいるけれど、よく聞き取れない――「いいぞ」とか「もっとやれ」とか、そんな感じっぽい。
『ステータスオールBなうえ、自前のテクニックもそれなりときておる。
ひとつ前の薙刀使いともども、次から上級で良さそうじゃのう』
「僕まだ百本くらいは投げるつもりだったんだけど、こんなんでいいのか……?」
首をかしげると、青年剣闘士が半泣きで言った。
「殺す気か、おまえ!
そんな怖いママはいらない!」
……。
いや、僕も殺す気はないけどさ。
死の危険を覚悟した闘技場の剣闘士じゃないのか、キミは。
あとママじゃねえよ。
まあこうなるよね。
★マ!




