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第二章【なにわダンジョン解放編/大悪党に連れられて】

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14 タマコちゃん



『今宵は新たな客人が来ておる。

 古都のダンジョンを平らげ、忌々しくも我が盟友たる呪竜ドウマンを下した軍の将。

 イコマという男じゃ。出てまいれ』


 ナナちゃんと二人でステージの前まで進み、巨大な竜女を見上げる。


「ご紹介にあずかりました。

 こんにちは、イコマです」

『……男ではなかったのか?

 ダンジョンでは、たしかに男であったはずじゃが……?』

「あの、そこツッコまれると長いんで、スルーしてもらえると」

『ま、まあ趣味は好き好きじゃしな、うむ。

 わらわは心が広いからなんでも許容してやるぞ』


 いや、趣味ではないんだけども。

 ごほん、とユウギリが咳ばらいを入れた。


『外部から参加する戦士じゃ。

 双剣、おまえ以来ではないか?』


 竜女がのっそりと視線を向けた先には、丈の長いローブで体を覆い、顔には無骨な白い仮面をつけた男がいた。

 パーティ会場だというのに、グラスも持たずに壁際に突っ立っている。


「…………」

『なんじゃ、珍しく無口じゃのう。まあよい。

 イコマよ、貴様は通路を破壊する不届きもの(ずるっこ)じゃが、実力は間違いない。

 そこなる薙刀使いともども、単独で我が迷宮を走り抜けられる(ツワモノ)じゃ。

 貴様がどのような試合を見せるか、いまから楽しみでかなわんわい』

「それはそれは……過分な評価を頂いているようで」

『こうして直接相まみえてみれば、姿もよい。

 女装が似合う美青年とはのう。

 ますます、わらわのコレクションにふさわしい。

 どうじゃ?

 メイドとして手元に置いて、愛でてやってもよいのだが……』


 ユウギリの大きな手が、小さなタマコちゃんの上体を掴んで引き寄せ、巨大な胸元に抱き込んだ。

 紫色の布ごと、もにゅりととても巨大な丸いものが歪む。


『のう、こうして抱きしめてやるぞ?』

「え!? いいんですか!?」

「お兄さん?」

「スイマセン間違いました!」


 ごほん、と咳払いをする。背中を刺す殺意に冷や汗が止まらない。

 ナナちゃん、『自分が認めてないヒト』と僕が絡むと凄い勢いで殺意ゲージが溜まるんだよな。


「ええと、お断りします。

 デカけりゃいいってもんでもないので。

 適度なサイズが一番ですよ、ハイ」

『くはは。当然、断るか。

 貴様の狙いは――わらわの首じゃろう?』


 ユウギリが言うと、ざわり、と会場がざわついた。

 ……いまの、ざわつく要素あった?

 だって、みんなそのために戦いに来てるんじゃないの?


「……それが、なにか?

 ドラゴンの作ったダンジョンを攻略し、仕掛けられたゲームをクリアする……そういう戦争を仕掛けたのは、あなたたちのほうでしょう。

 僕が挑んで、なにがおかしいのです?」

『くく、かわいいのう、イコマよ。

 竜は倒すのが当然か。ドウマン同様に首を落として殺すか。

 ああ、正しい。正しいとも。

 貴様は、どうしようもなく、正しい――そして、どうしようもなく、つまらん』


 ユウギリはにんまりと笑い、タマコちゃんをフニフニと弄ぶ。

 デカい肉と太い指に弄ばれつつも、仏頂面を崩さない鉄壁のロリである。

 しかし、つまらない、か。

 ドウマンとは真逆の評価だ。


『貴様は、つまらん。

 せっかく人類を法だのなんだのという下らんくびきから解き放ってやったというのに、貴様はいつまでヒトの振りをしておるのじゃ。

 ずるがしこいサルになればよいものを、貴様はひとり『普通』なる概念に固執しておるのではないか?』

「固執……? 普通であることは、素晴らしいことだと思いますけど」

『んー、つまらん! 返答もつまらん!

 ま、だからこそ、貴様は我が闘技場にふさわしいのじゃが。

 ――のう、剣闘士たちよ』


 ユウギリの呼びかけに応じて、会場中の視線が僕に集中する。

 じっとりと張り付くような視線の多くは、僕に対する敵意。

 ……なるほど。

 にわかに殺気立つナナちゃんを手で制しつつ、僕はアダチさんから聞いていた話を思い出す。


「闘技場の剣闘士には、良い暮らしが約束されている……でしたっけ。

 竜の奴隷になって、ユウギリを楽しませるだけで、酒も肉も魚も、滅びて失った物品すらも享受できるなら、そりゃ倒すよりも共生するほうが合理的だ。

 となれば、すでに『甘い汁を吸えている』剣闘士のみなさんは、ユウギリの首を落とされたら困る――と、そういうことだね」

「うーわ、サイテーだね、あなたたち。

 竜が存在するだけで、外ではモンスターが増え、災害が増えていくっていうのにさ。

 自分だけ良けりゃそれでいいの?」

「仕方ないよ、ナナちゃん。

 だれだって命は大事だし、贅沢できるならしたいじゃんか」


 言いつつ、しかし、失望の念がなかったと言えばうそになる。

 ユウギリを倒すために行動したのは、つまり。

 命懸けで古都まで駆けた、アダチさんだけだったのだ。

 うん。


「それでも僕は、あなたの首を落とします。

 頼まれちゃいましたからね」

『なあ、イコマ。それはなんのためじゃ?』

「なんのため、って……だから、頼まれたからです。

 人類にとって、必要なことだからでもありますけど」

『くかかかかっ』


 また笑う。正直、不快だ。むっとしてしまう。


『空っぽじゃのう、貴様。

 つまらん――それゆえに面白い。

 その空っぽの器に、さて、なにが詰まるのか。

 本当に、面白い催しじゃ。

 悪くないぞ、イコマよ』


 ユウギリは抱き締めていたタマコちゃんを、そっと床におろした。


『だれぞ酒を持ってこい。わらわも本格的に飲もうかのう。

 皆の衆、飲んで食って歌って踊って、騒ぎに騒いでわらわを楽しませよ!

 ああ、それからタマコ、こやつらに部屋を与え、ルールを説明してやれ』

「かしこまりました、ユウギリ様。

 お二方、いかがいたしますか?

 もう少しお食事とご歓談を楽しまれてからにいたしますか?」

「いや……もう休ませてもらおうかな。

 どうやらここは敵だらけのアウェイらしいし」

「かしこまりました。案内いたします。どうぞ、こちらへ」


 仏頂面の少女に先導されて、パーティ会場から外へ出る。

 十歳くらいだろうか。アダチさんは小学生の娘と言っていたけど。

 過激なスカート丈で、胸元がざっくりと大きく開いたフレンチ(品のない)メイド服は、その幼い体にはまったく似合っていない。

 なによりも、首に刻まれた紋様が……首輪が、とにかく痛々しい。


「……ええと、タマコちゃん?」

「なんでしょうか」

「僕たち、実はアダチさんに頼まれてここに来たんだけど……」


 先を歩くタマコちゃんが、少しだけ立ち止まった。

 ややあってから、また歩き出す。

 あ、あれ? まさかの無反応?

 予想外の反応に驚いていると、タマコちゃんは静かに言った。


「……愚かなことをしましたね、お客様たちは」

「うわー、辛辣。

 お兄さん、この違法ロリメイド、口悪いよ」

「ちょっと、ナナちゃん。

 相手は子供なんだから」


 ナナちゃんをたしなめる僕を尻目に、タマコちゃんはどんどん先へと進んでいく。


「あなたたちまで奴隷落ちしてしまう前に、帰った方がよいかと思いますが。

 どれだけ腕に自信があろうと、チャンピオンは負けませんから。

 負け戦に挑む必要はないのではないでしょうか」

「へえ。僕らじゃチャンピオンに勝てないって?」

「いいえ。チャンピオンが、負けないんです」


 奇妙な言い回しだ。


「ねえ、そのチャンピオンって、あの意味深な雰囲気の仮面のヒト?

 強そうな雰囲気ぷんぷん出してたもんねぇ」


 ナナちゃんの問いに、タマコちゃんは振り返ることなく答える。


怒りの双剣(レイジング・ツイン)様は上級剣闘士ですが、チャンピオンではありません。

 現在のチャンピオンは無限の拳(ラスト・フィスト)様です」

「なにそのレイジングなんたらとかラストどうたらとかいうやつ。

 剣闘士は恥ずかしい二つ名で呼ばれるルールでもあるの?」

「あります」

「「あるんだ……」」


 思わずハモってしまった。


「それらの説明も、お部屋で。

 お二方は下級剣闘士スタートですので、下級部屋、コロシアム低階層の部屋が割り振られます。

 円形で見わけづらい通路ですので、部屋番号を決してお忘れにならないよう、お気を付けください」


 淡々と必要なことだけを伝えていくスタイル。

 なんだかとってもドライな反応だ。

 僕たちに助けられると思っていないのかな。

 まあ、今後の活動で信用してもらえばいいだろう。


 僕たちが案内された部屋は、下級と言ってもそれなりに広い部屋だった。

 風呂トイレ別だし、ちょっと上質なビジネスホテルの一室みたいにも見える。

 窓から覗くユウギリの王国は、ネオンの光に満ちた妖しい表情を見せていた。

 もっと上の階層から撮影したら、さぞかし綺麗なことだろう。

 テンションを上げて写真を撮りまくるナナちゃんはさておいて、僕はダブルベッドに腰かけた。


「……ん? ダブルベッド?」

「いかがいたしましたか、イコマ様」

「いや、一人部屋にしてはベッドが広いなーって」


 するとタマコちゃんは仏頂面のまま首を傾げた。


「ナナ様より、お二人は相部屋でいいと伺っていたのですが」


 振り返って窓際を見ると、ナナちゃんが真顔でこちらを見ていた。


「いや、なにしてんの、ナナちゃん……!」

「なにって……わざと相部屋にしただけだが?」

「開き直るんじゃないよ!」



フレンチメイド服を着た仏頂面のロリ!?(フレンチメイド服を着た仏頂面のロリ!!)


★マ!

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― 新着の感想 ―
[一言] 思わぬ所で筆者の性癖が吐露された様な? 気の所為でしょうか?
[一言] レ、レイジングツインだとぉ…!!! 一体何者なんだ!!!
[一言] >フレンチメイド服を着た仏頂面のロリ! でもユウギリ様が近くに置きたくなる程度には美少女。 お約束。
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