8 足跡
一週間もすれば寂しさにも慣れてくる。
寂しくなくなるのではなくて、寂しい状態に慣れてしまうだけなんだけど。
ロッジの周りには円状に木製バリケードを設置して、ちょっとした要塞にした。
一重だと不安なので二重のバリケードだ。
複製したホーンピッグの角を外側に固定してあるから、モンスターに突撃をためらわせる効果もあるはずだ。
そんなことしたら体がずたずたになるぞ、と。
また、ホーンピッグの脂身と複製したタオルを使って、長時間燃やせるかがり火も作成。
匂いは……うん。我慢しよう。あえて言うなら超本格こってり系がウリの店って感じ。
さらにツタと金属片で作った侵入者警報装置――ツタに引っかかるとカラカラ鳴る――もロッジの周りに張り巡らせてあるから、対モンスター対策はばっちり。
ようやく安眠できるようになった。
A大村にいる間はいろいろやることを溜めすぎちゃって、平均睡眠時間が四時間程度だったから、久々にぐっすり眠れた。
思いのほか疲れていたんだなぁ、僕って。
サバイバル生活のほうがゆったりできるなんて、やっぱり僕ってアウトドア派なのかも。
で、今日は朝から釣り。
せっかく湖があるのだから、釣りに挑戦しようと思った。
竿の素材は細い竹。
さすが竹、謎の植物に浸食された大自然であっても、自然公園の隅っこでしぶとく生き残っていた。
加工の経験から竹竿はなんとかなったけど、糸が問題だった。
テグスなんて持ってないから、細めのツタを竿の先端に固定して釣りを開始。
釣り針はホーンピッグの角を複製してから加工した。おおぶりだけど、強度は十分。
餌は傷んだホーンピッグの肉。匂いが強いほうがいいと聞いたことがあるからこれにした。
当たり前のように釣果ゼロ、いわゆるボウズだった。
残念ではあるけれど、釣り糸を垂らして穏やかな時間を過ごせた。
ゆっくりするのもいい。理想の生活って感じ。
お昼前には湖のそばから引き上げてロッジに戻る。
「昼飯はどうしようかなぁ」
基本的には複製したパン、山菜、狩猟したモンスターの肉で一週間を凌いできたけれど、そろそろオリジナルのパンを食べたほうがいい気がする。
パンは意外と消費期限が長いけど、湿気の多い場所だし今日食べてしまおうか。
ボウズだったから動物性たんぱく質はナシ。
うーん、昼からは狩りに行って、新しく肉を調達したほうがいいな。
冷蔵庫があればよかったんだけど。
A大村では太陽光発電システムで学食の巨大な冷蔵・冷凍庫を稼働させていた。
太陽光パネルだとかケーブルだとかを山ほど複製したのもいい思い出だ。
工学部の学生が生き生きしていたのも懐かしい。
素材さえあれば、複製して再稼働させられそうだけど……樹林化した市街地をやみくもに探しても見つけるのは難しそうだなぁ。
そんなことを考えながらてくてく歩いていると、ふと視線を感じた。
「――ん?」
木々の茂る場所。国道方面に生えた大樹林の奥から、誰かが見ているような。
釣竿を地面に落として、持っていた槍を構える。
「誰だ!?」
大声で呼びかけるけれど、返事はない。
さっき感じた気配も、いつの間にか消えている。
「……気のせいか?」
警戒しつつ大樹林に入る。
誰もいない。モンスターもいない。
やはり気のせいかとも思ったけれど、足跡を見つけた。
手のひらほどの大きさの、イヌ科の動物の足跡。
このあたりに大型のイヌ系モンスターはいないはず。
だけど、ちょっと足を延ばして都市圏近郊に行けば、やつらが巣くっている。
古都を縄張りにするオオカミ型モンスター、ギャングウルフが。
「まずいな……」
ギャングウルフは鋭い牙と爪を持つオオカミだ。
危険度のランク付けでは、単体でCランクだったはず。
つまり『プロ級の戦士じゃないと対処できない』相手だ。
足跡は森の奥へと続いている。きっと偵察兵の足跡だろう。
やつらは集団で狩りをする。
しかも、偵察兵を送ったり、人間の仕掛けた罠を見抜いたり、時には囮を用いて格上のモンスターさえ狩る。
『オールナイト元・日本』でもたびたび注意喚起されていた、総合の危険度ではBランクとされる『達人級の戦士でようやく対処可能』なモンスターである。
あの自信家のレイジでさえ、『絶対にひとりでは戦いたくない』と言っていた厄介な相手だ。
備えなければならない。
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