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第二章【なにわダンジョン解放編/大悪党に連れられて】

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11 なにわダンジョン第三階層



 天井から突き出すネオン看板、『高級』の『高』の下側の穴に薙刀の柄を引っ掛けて、思い切り力を籠める。


 ばき、と軽い音がして、ネオン看板が床に落ちた。

 その後、天井からボコボコ音がして、新しいネオン看板が生えてくる。

 今度は『フィリピン』だ。

 うーん、フィリピン料理のお店ってことかな?

 深くは考えないようにしよう。


 さて、なんとも言い難い不思議な光景だけど、ユウギリの修正パッチとはこういうものらしい。

 ダンジョンが破壊されても、即時回復が行われるのだ。

 もしもプラスチック爆弾を用いて床を掘り進めたとしても、掘ってる間に穴が埋まるし、下手すると穴を掘る自分ごと埋められてしまうかも。


 例の噴水の残骸に腰かけて、落とした『高』を手で弄びつつ、考える。

 周囲、使い捨てた薙刀・レプリカが散乱していて、剣呑な雰囲気だ。

 全身粘液だらけで、気持ちが悪い。

 はやく体を洗いたい。


 ローパーの群れは、なんとか殲滅できた。

 ただ、どこからから追加でローパーが湧いてきて、ぜんぶ倒すまでに時間がかかってしまったのだ。

 その上、おそらくあと十分ほどで『再接合』の時間になる。

 いまから探索を再開するより、しっかりと休息して『再接合』後に備えたほうがいいと判断した。


 ナナちゃんたちと分断されてから、すでに一時間半ほど経っている。

 激しい運動を繰り返したからか、喉に渇きを感じている僕だ。

 壊れた噴水の底に変な匂いのする黒いどろどろがあったけれど、さすがにアレを飲むのは体に悪いだろう。

 戦闘込み、水と食料ナシならBランクのタフネスを持つ僕でも、せいぜいあと二時間が限度。

 アダチさんみたいにAランクのタフネス持ちなら、話は変わるだろうけど。


「しっかし、趣味の悪いダンジョンだよ、ホント」


 高耐久かつ、そこそこのリーチを持つローパー。

 長物を振り回しにくい通路形式のダンジョン。

 なにより、『再接合』が致命的にイヤらしい。

 地下一階と二階、通路のつながりをシャッフルし、三階層への道を遠ざける仕組みだと教えてもらっているから、焦りは少ないけれど。

 アダチさんに教えてもらっていなかったら、ここが全部で何階層なのかもわからなかったに違いない。

 『再接合』次第では、このダンジョンが無限に続く迷宮だと勘違いすることだってあり得る。

 混乱と焦りが、精神を摩耗させる――ここはそういうダンジョンだ。

 古都ダンジョンの骨の群れとはまた違ったいやらしさ。


「……そういえば、アダチさんはなんで『三階層』って知ってたんだろう。

 抜け出した際に数えた?

 いや、『再接合』を食らうと自力カウントは当てにならないし……一時間以内に抜け出したか、あるいはユウギリに聞いたか……」


 呪竜ドウマン同様、おしゃべりなドラゴンなのかも。

 おしゃべりなドラゴンだといいな。

 会話から得られる情報は多いし、呪竜ドウマン同様に『竜の制約』があるはず。

 言葉を用いてユウギリに『縛り』を加えられれば万々歳。

 ベストは言葉や『縛り』のみでユウギリを無力化することだけど、そこまでうまくいくかどうか、そもそもそう簡単に竜と話す機会を得られるのか――。


「おっと」


 考え込んでいる間に、また、かくん、と衝撃があった。

 『再接合』だ――お尻の下にあったはずの噴水の残骸が消えて、僕は中腰で床に着地する。


 油断なく薙刀を構えながら膝を上げ、持っていた『高』をその辺に投げ捨てる。

 周囲に敵影はない。ネオン看板と配管が続く、つまらない光景だ。


 ここから先は、スピード勝負。

 どれだけ早く下り階段を見つけられるかが問題だ。

 『粘液魔法:C』で口内に唾液を溜めて、水分代わりにしてみたけれど、のどが潤うわけではないらしい。

 気分的にはややマシになるので、時折『粘液魔法』をダバっとやりつつ、通路を行く。


 四十分ほどの探索と合計四回の戦闘で、下り階段を見つけることができた。

 さらに、階段にかけられたネオンの表示は『三階層行き』――どうやら、直近のシャッフル後は二階層だったらしい。

 今回の『再接合』はラッキーな場所を引き当てたようだ。

 ユウギリも、ある程度は公平なランダム性を保って『再接合』を行なっているのだろう。

 趣味が悪いことに変わりはないが、運が良ければシャッフル後すぐに第三階層に辿り着くこともあるわけか。

 いや、ダンジョン最深部に放り出されるのだから、逃げ出したい人にとっては運が悪いことになるし、ケースバイケースか。


 周囲を警戒しつつ、ネオンに照らされた階段を降りると、開けた場所に出た。


 広大な空間が、そこにあった。

 床から天井まで、ゆうに五百メートルはあるように見える。

 少なくとも、昔見た東京タワーくらいはすっぽりと入る大きさだ。

 そして、僕の立つ壁面から、大空洞の反対側がよく見えないくらいに広い。


 広いけれど、殺風景とは無縁で、むしろ酔ってしまいそうなくらい煌びやか。

 壁や天井には所狭しと並んだネオン看板がぎらぎらと輝き、眼下にはおもちゃ箱みたいにごちゃごちゃした巨大な街が広がっている。


 絶景だ。

 思わず、写真に収めたくなるほどに。


「う、わ――」


 ひときわ巨大なネオンがある。

 空洞の中央、巨大な街の直上に、天井から太いフレームで吊り下げられた大きな看板が。

 ぐるぐる巻いた丸の外周にいくつもの三角形をくっつけた、ラフな太陽の記号。

 ネオン看板のくせに、まるで太陽の代わりだとでも言うかのように、煌々と赤く輝いていた。

 直径数十メートルはあろうかという、ニセモノの太陽だ。


 下り階段が繋がっていたのは、壁からせり出した踊り場。

 高さは……下を向くと後悔する程度には、高い。うん。

 錆びついた鉄製のはしごが壁に取り付けられていて、地面まで降りられるようになっていた。

 え、これで下に降りるの?

 百メートルくらいありそうだけど。

 マジで? このはしごで?

 参ったなあ、もう。


 ともあれ。

 なにわダンジョン第三階層、ユウギリの王国に、ようやく到着した僕である。



到着……!


ダンジョンの中の街って楽しそうですよね(他人事)


★マ!


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