表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
#壊れた地球の歩き方 【コミカライズ全3巻発売中!】  作者: ヤマモトユウスケ@#壊れた地球の歩き方 発売中!
第二章【なにわダンジョン解放編/大悪党に連れられて】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

77/266

10 ローパーの斬り方



 縦横に張り巡らせた薙刀の結界。

 その隙間から伸ばされた触手に薙刀を叩きつける。


 斬れない。

 ぬるりと潜り抜けた一本が、僕の左腕に絡みつく。

 それでいい。


「ふんっ!」


 絡みついた触手を手繰って引っ張り、設置した薙刀の柄に押し付ける。

 ハサミのように交差させて設置した二振りの薙刀の間に。


 粘液でズレるって言うなら、固定してズレないようにしてやればいいのだ。


 右手に持った一刀を、交差する柄で固定した触手に振り下ろす。

 ぐにゅり、と嫌な反応が手に返ってくる。

 両断はできない――だけど、表面に傷が入った。


「いける……!!」


 結界の隙間から伸ばされる他の触手を力任せに振り払いつつ、もう一度薙刀を振り下ろす。

 最初につけた傷に、再度の斬撃。


 びちり、と触手が跳ねながら地に落ちた。

 まずは一本。

 これをひたすら繰り返す。効率化していく。


 薙刀の柵に侵攻を阻まれるローパーたちが伸ばす触手を、一本ずつ処理する。

 二本以上同時には相手しないよう、一夜城内でポジションを変え、薙刀を替え、五本斬ったあたりでようやく理解した。

 ()して斬るのではなく、引いて斬るのだ。

 力ではなく、速度と技巧による切断。

 ナナちゃんの斬撃を思い出す。

 パワー強化補正のない彼女が、どうやってローパーを両断していたのか――さんざん見てきたはずの達人の技を、今こそ我が物にしなければならない。


 がしゃんっ、と最初の柵が薙ぎ倒され、ローパーが一夜城内に入ってくる。

 でも大丈夫、柵や妨害手段はまだ残っている――逆に言えば、コレが尽きたら、僕はぐちょぐちょ死することになる。

 薙刀一夜城が僕の生命線なのだ。

 袋小路の端、五メートルの範囲が僕の城。


 十本斬ったあたりで、固定した触手を一撃で両断できた。

 二十本斬ったあたりで、一刀両断が安定するようになった。

 三十本斬ったあたりで、固定した状態ならほぼ一刀両断できる自信がついた。


 柵がまたひとつ越えられた。

 無遠慮に伸ばされた触手を、反射的に斬る。

 ずぱ、と速度重視の撫で斬り。

 粘液に軸をずらされることなく走った斬撃が、ぼとりと触手の先端を地面に落とした。

 固定なしでの斬撃、はじめての成功。


「――なんとなく、掴めてきたよ」


 感覚を。

 でもまだ油断はしない。

 床に刺した薙刀・レプリカを引き抜いて、コンパクトで素早い振りを繰り返す。

 粘液でダメになった薙刀は放棄し、新しい薙刀を引き抜き、振り抜く。

 粘液の膜と表皮を撫で斬りで越えれば、そこから先は通常の肉を切るのとなんら変わりない。

 速度で斬って、力で圧す。

 意識的にそういう斬り方を心がける。

 いや、無意識でもそういう斬り方ができなければならないのかも。

 思考停止は悪だけれど、不要な思考と手順は省略できたほうがいい。

 無心で、けれど技巧は尽くして薙刀を振る。


 速く、(はや)く。


 僕のスピードはランクB。ナナちゃんと同じだ。

 ナナちゃんと同じように薙刀を振るえない理屈がない。

 いや、タフネスもパワーもBなのだから、彼女以上の一撃だって目指せるはずなのだ。

 だから、振る。呼吸を止めて、意識を刃先に集中する。

 現在、僕の体はただ最高の一閃を生み出すためにある。

 それ以外の動作を削ぎ落し、一瞬に命を懸ける。


 より速く、より鋭く。


 四十本斬ったあたりで、完全に固定が不要になった。

 五十本を超えて、理屈ではなく感覚で、粘液の向こうに手ごたえを感じるようになった。

 六十本以上を斬って、気づけば。

 僕にまとわりつき、拘束し、命を奪おうとする触手がなくなっていた。


 ひどく短くなった触手をうごめかせ、薙刀一夜城の檻に囚われたローパーが三体、所在なさげに粘液を床に垂らしていた。


「――ぷはぁ……!」


 息を吐く。無呼吸の一撃を、いったい何度繰り返しただろうか。

 視線を下にやると、僕もずいぶんねとねとになっていた。うええ。

 ジャージが無惨な姿になっている。


「ま、これも勉強代だよね」


 最初に床に突き立てた薙刀・オリジナルを引き抜いて、最速の一閃を放ち。

 ローパーの本体を三つぶった切って、僕はドヤ顔を決めた。


「僕にかかれば、こんなもんってわけよ。

 どうだユウギリ、見てるかダメ運営の性悪ドラゴンめ……!」


 言った直後に、また膝カックンみたいな衝撃が来て、ダンジョンが『組み換え』られた。


「うわっ!?」


 広場のような場所だ。

 『高級』『出会い』『無料案内』等のネオンに照らされ、中央には朽ち果てた噴水の残骸があって。


「……あいつぜったい趣味悪いでしょ」


 そして、僕の周囲にはローパーがざっと二十匹ほど、うぞうぞと蠢いていた。

 薙刀・オリジナルを構えつつ、レプリカを連続で数本、複製する。


 合流できるのは、もう少し先になりそうだ。



次回、ようやく三階層。


★マ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↑の☆☆☆☆☆を押して作品を応援しよう!!

TOブックス様から書籍一巻発売中!!

TOブックス様のサイトはこちら
― 新着の感想 ―
[良い点] ドウマンのやつが面白いとか言ってたやつがこいつか [気になる点] チートじゃ! チート野郎じゃ! [一言] でも普通に頑張るやつだし、よし、鍛えよう! っていう流れを想像した(_’
[気になる点] 僕のスピードはランクB。ナナちゃんと同じだ。  ナナちゃんと同じように薙刀を振るえない理屈がない。  いや、タフネスもパワーもBなのだから、彼女以上の一撃だって目指せるはずなのだ。 …
[一言] 王道で突き通したのにもう一度って、イコマのこと邪道とか言えないレベルで狡いやろ。そもそも壊れるようにできてる床に問題があるのに邪道だからペナルティとか思考回路がキモすぎる。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ