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#壊れた地球の歩き方 【コミカライズ全3巻発売中!】  作者: ヤマモトユウスケ@#壊れた地球の歩き方 発売中!
断章【いってんご】

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フジワラ教授と合法ロリメイド先生



 フジワラは聖ヤマ女村の正門前にいた。

 貴重な建材を調達するため、県南部の山間部へと向かっている途中で立ち寄ったのだ。

 村内に入ることはできないが、補給は受けられる。

 今回の調達は、いささか時間がかかるはずだ。


 ――メガソーラーのパネル、か。


 県南部の山奥にあるソレを『建築』スキルで以って解体し、古都へ運び込む。

 イコマの『複製』でもある程度は補えるが、今後、古都で人々が暮らしていくことを考えるならば、良質なモノを早急に確保する必要がある。

 電力さえあれば、廃墟から発掘した諸々の物資も使えるようになるだろう。

 いまはまだ初夏だが、半年後には冬が来る。

 六か月以内に『古都の人口を支えられる備蓄』ができるよう、設備を整えなければならないのだ。


 ――なにより、イコマ君は古都に定住しないからな。A大村の二の舞は御免だ。


 奪還戦争から一月が経った。

 カグヤも容体が安定して古都へ帰還したし、イコマも毎日『複製』ざんまいだ。

 古都の情勢が安定すれば、すぐにでも発つつもりなのだろう。

 いつも以上に張り切ってモノを増やしまくっている。


 ――大阪か京都か。どちらに行くにせよ、過酷な旅になるだろう。


 仲間たちがバックパックに荷物を詰め込んでいくのを横目で見る。

 山奥からバラしたパネルを持って降りるのは難航するだろうが、連合軍から工兵隊を二部隊も借り受けられた。

 古都の再開拓もあるというのに、レンカの剛毅な判断には頭が下がる。


 フジワラたちは道の整備をしながら山間部へ向かう予定だ。

 メガソーラーを搬入するには、道がいる。台車が通れるくらい整った道が、だ。

 割れたアスファルトに板を渡して通れるようにしたり、道をふさぐ大樹を切り倒したりと、簡易処置ではあっても時間はかかるだろう。

 交代で古都に戻りつつ、合計で一ヶ月以上はかかるだろうと試算した。


 ――ひょっとすると、イコマ君の出発には立ち会えないかもしれんな。


 残念だ。

 古都を取り返した英雄ではあるが、この壊れた地球では――否、どんな環境であってもそうだが、あらゆる別れは今生の別れになり得る。

 出立前に、いま一度、話をしたかったのだが。

 思わず、薄い吐息を漏らしてしまった。


「どうしました、フジワラ様。

 物憂げな表情をなさっていますが」


 と、そこでフジワラに声がかかった。

 甘くて細いが、よく通る声だ。


「おや、見られてしまったか。

 英雄が旅に出る歴史的瞬間に立ち会えないかもしれないと嘆いていたところだが。

 門番先生は……イコマくんには会ったのですかな?」

「療養地との往復で聖ヤマ女村(ここ)を経由したので、その際に」


 声の主は、小さな体躯の女性。

 ほっそりとした体は、まるで小学生か中学生のようなのに、年齢で言えばイコマたちより上だというのだから驚きだ。

 侍女(メイド)育成コースの教師は、生徒たちと同じ楚々としたセーラー服を着用しているため、なおいっそう幼く見えてしまう。


「最後かもしれないからな。別れを言っておくべきだった」

「最後、ですか。……フジワラ様。

 ひとつ、質問をしてもよろしいでしょうか」

「構わないが……なんだね?」


 澄ました顔の教職員は、まっすぐフジワラの顔を見つめた。


「イコマ様の旅立ちを止めようとは、思わないのですか?」

「思わない」


 フジワラは即答した。

 即答が意外だったのだろう、門番の教師はむっとした顔になった。


「生徒を死地に送り、それを良しとするのですね?」

「ふむ。まあ、そういう見方もするか。

 ナナ嬢は教え子だったのかね?」

「別学科なので、直接教えたことはありませんが。

 直接の教え子でなくとも、彼女たち生徒の安全に責任を持たねばと思うのは、おかしなことでしょうか」

「おかしくないとも」


 むくれた顔の少女――少女ではないか――に、思わず苦笑する。

 だが、前提が違う。


「私は教授だ。

 古典の研究者であって、講義こそ行うが、決して教師ではないのだよ。

 キミだって大学と高校の違いは知っているだろう?

 大学生は自己責任が基本であると」

「……ええ。そうでしょうね」


 メイド教師は、嘆息した。


「これは的外れな質問ではないかと、うすうすわかってはいました。

 ですが、当校最後の教師として、ナナを簡単に送り出してよいものか、と。

 そう自問してしまうのです」

「最後の……なるほど、それでは相談相手もいなかろうね」


 思わず目を細めてしまう。


 ――いなくなったとは聞いていたが。


 校長は逃げ出した、と誰かに聞いた。

 その他の教師も多くが、恥知らずにも校長に追随したと。

 では、追随しなかった者たちはどこへ行ったのか。


「逃げ出したものたちと男性教諭以外は、キミよりも先に逝ったのだね」


 門番先生は目を伏せてゆっくりと頷いた。


 ――男性教諭はレンカ嬢が追い出して、それ以外の教師陣はすでに……か。


 過酷な環境だ。

 初期のA大村でも、学校運営に携わる大人たちが学生をかばって――ということが多々あった。

 お嬢様が通う学び舎ならば、なおさらそういうことが多発しただろう。


「なるほど。

 さぞかし多大な心労だったろう。

 しかし、納得したよ。

 ゆえにキミは門番先生なのだな」


 仲間たちがこちらに手を振っている。

 補給が終わったらしい。手を振り返しておく。

 少し休憩したら、また出発だ。


 ――だが、もう少しくらい、この若人と話す時間はある。


「キミは導くのではなく、守ることを選んだのだな。

 この村に残る最後の大人として、彼らの盾になるべくここに立った。

 そうだろう? 先に逝った者たちと同様に」

「……そうです。せめて盾になろうと思って。

 導くのは、適任がおりましたから」

「レンカ嬢か。逸材だな、あの子は」


 言いつつ、思う。

 この小さな女教師は、薙刀を持って門番になったのだ。

 戦争中も彼女はここに残って、門を守り続けていた。


 ――健気なお嬢さんだ。


 フジワラはふっと笑う。

 大人とはいえ、まだ二十六歳だったはず。

 大学卒か専門学校卒か、メイド教師の来歴は想像もつかないが、学校での勤務年数は二年から四年程度に違いない。

 まだまだ新人、ようやく仕事に慣れてきた頃だったろう。


 ――では、普段の飄々とした言動は、不安を押し隠すための防衛反応か。


「レンカ様は天才です。

 あの恵まれた肉体ならば、グラビアモデルで天下を取ることも可能でしょう」

「そんな話はしてないのだが」

「アダルト方面でも大活躍間違いなしでしょうね」

「それは本当に教職の発言かね?」

「私はぺったんこなので、少し嫉妬してしまいます。

 まあコレはコレで需要はあるし、テクニックは私の方が上でしょうが」

「ツッコミ入れたのに続けるのだね……?」


 本当に防衛反応なのか、やや疑問になってきた。

 コイツこれが素なのでは? とフジワラは首を傾げつつ、やんわりと言う。


「そういうからかいをする相手は、イコマくんだけにしたまえ」


 すると、門番先生が固まって、ぎぎぎと首を傾げた。


「……なぜ、イコマ様だけなのです?」

「出発が気にかかっているのは、ナナ嬢だけではないだろう?

 別に隠すことはない、私くらいになると見ているだけでわかるものさ」

「む、むぅ……。意外と鋭いのですね、フジワラ様は」

「専攻が古典でね。恋慕と浪漫は専門分野だ」


 半目で見られるが、気にしない。

 似合わないのは百も承知である。


「門番先生、いまばかりは門番を離れて古都に行ってもいいのではないかね?

 ナナ嬢とイコマ君に会っておくべきだよ、キミは」

「いえ、私は――」

「キミは積極的に見えて、実際は『一歩引く』タイプだろう。

 しっかりアピールしたまえ、『自分もキミの大奥に入りたい』とな」

「……大奥とはまた古風な言い方をされますね。

 まあ、たしかにバリエーションとしてロリキャラが一人くらいは居たほうがよさそうではありますが」

「そうやって茶化すあたり、やはり本気度は高いようだねぇ」


 くく、と思わず喉奥から笑いがこぼれてしまう。


「そうでなくとも、別れはしておくべきだ。

 別れ言葉が言えないのは辛いぞ?」

「……ご経験がおありで?」

「想像にお任せするがね」


 フジワラはそっと左手の薬指に触れた。

 長年連れ添った伴侶は、二年前の天変地異以降、行方知れずである。

 わかっている。あの日、フジワラがA大で講義をしているあいだ、伴侶は古都の家で生活を営んでいたのだ。

 足を悪くした妻が、逃げられたはずもない。

 いまはただ、金属製の小さなリングの感触が、すべて。


「キミがここで守ることを選んだように。

 私は、この壊れた地球でも、若人には精一杯悔いなく生きてほしいのだ。

 イコマ君は旅に出るべきだ。

 彼がそれをやるべきことだと信ずるならば、な」

「それが死と隣り合わせの旅路でも、ですか?」

「いいや、いや、いや。門番先生。

 人間はいつだって死と隣り合わせなのだとも。

 どこへ行こうと、だれといようと、なにをしようと、死はいつだって我々の隣にいる」


 地球が壊れて、その実感が濃くなっただけ。

 壊れる前からずっと、生と死は切り離せないものであったはず。


「命短し――とね。

 少なくとも、キミが茶化す相手は私ではないはずだぞ?

 ギャングウルフなどの敵性モンスターも激減したし、このタイミングでわざわざ聖ヤマ女村を狙う悪い男も少ないだろう。

 メイドがどうかは知らないが、少なくとも教師は無私で仕えるものではなく、生徒と共に歩むものであると思うがね」

「……本当に、ロマンチストですね」

「言っただろう? 浪漫は私の専攻だ」


 言って、バックパックを背負い直す。

 仲間たちはもう準備万端らしく、整列して点呼を取っている。

 フジワラも一参加者として並ばねばなるまい。

 『建築』関係の代表ではあるが、野外行動に関してはお荷物な初老なのだ。


 ――まったく、こんなに運動させられては、健康になってしまうではないか。


 まだそちらにはいけそうにないと、左の薬指に内心で告げる。


「そろそろ行かねば。

 幸運を祈るよ、門番先生。いろいろとね」

「そこまで言われてしまえば、行かざるを得ませんね。

 久方ぶりにお休みをいただくとしましょうか。

 今年も去年も有給を使っていませんし、せっかくなら一週間ほどしっかりと」


 若人は大人っぽく笑う。

 小さな体躯ながらも、その大人っぽさがよく似合っている。

 しかし、それでもフジワラから見ればまだまだ若人だ。


 ――恋せよ、とまでは言わないが。


 せめて、この壊れた地球で、ひとりでも多くの若人が幸せになればいいと、フジワラは思う。



ギャグキャラ(イコマ)がいないとネタが加速しない……!!(主人公をギャグキャラ扱いするな)


次回はたぶん「レンカちゃんとヤカモチちゃん」です。

両方ギャグキャラなので(ヒロインをギャグキャラ扱いするな)下ネタ振れるはず……!!


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― 新着の感想 ―
[一言] 古都に住まうフジワラの初老(_’ この人位年喰ってる大人が殆どいなくなっているっぽいから、逆に貴重な存在だな(。。
[良い点] ハーレム展開は嫌いではないけど、くらいのスタンスですが、 このお話に関してはすんなりと「むしろそうであれ」と思えますね。 シリアスにおっさんをぺろぺろするシーンとか来たら地獄かよと [気に…
[気になる点] 三文字……書き溜めとかいいながら実質、白紙? [一言] 第二章、超楽しみにしてます
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