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#壊れた地球の歩き方 【コミカライズ全3巻発売中!】  作者: ヤマモトユウスケ@#壊れた地球の歩き方 発売中!
第一章【古都奪還戦争編/妬まれて追放されたけど、実は『複製』スキルで戦闘から生産までなんでもこなす万能ワーカーでした。今さら帰ってこいと言われてももう遅いです。】

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59 帰ってこいと男は言った



 僕らが薙刀を支えにして近づくと、体中に薙刀を生やしたドウマンが喉奥を鳴らして笑った。

 本当に、よく笑うドラゴンだ。


『――くぁ、は。

 くく、ああ、愉快よなぁ……』

「なにがそんなにおかしいの。

 アンタ、死ぬんだよ?」


 眉を顰めるナナちゃんに、ドウマンが黄色い竜眼を向けた。


『かはは。逆に問うぞ、薙刀使い。

 死や滅び、命の終わりほどおもしろいコンテンツはほかにないだろう。

 終わるときほど力強く、まばゆく、一際美しく輝くものではないか』

「アクシュミ」

『たわけが。人類に言われたくないわ』


 思わず苦笑してしまう。

 そりゃそうだ。人間に言われたくないよな。

 この竜は意志を持ち、魂を持ち、価値観を持ち、そして――人間とは相容れない。

 大量虐殺を行った竜の一味とはいえ、僕はコイツがどうしても嫌いになれない。

 僕の中にある『子供』が、この竜を否定できそうにない。


「ドウマン。僕らの勝ちです」

『いいや、まだだ。わしはまだ生きておるぞ。

 竜の息の根を止めたくば――どうすればいいか、わかるな?』

「……首を落とせと言うのですね」


 ドラゴンの伝承の多くは、そうやって決着する。

 首級を上げ、凱旋し、勇者たちは力を誇示した。

 このドウマンも例に漏れず、伝説の終わりを望んでいるのだ。


『かか。よくわかっているではないか。

 わしはもう動けん。絶好の機会だぞ。

 ついでに得意の『複製』で、わしの力も持っていくがいい』

「……あなたは、僕らの敵ですもんね」


 がふ、とせき込んで竜が笑った。


『甘いな、イコマ。

 甘すぎる――その甘さは致命的だぞ、貴様』

「いいんです。

 僕はこの甘さと、一生、上手に付き合っていくって決めたんですから」

『くはは。それはそれは……。

 また、辛く苦しい生き方を選んだのだな、邪道の弱者よ』


 竜は静かに目を閉じ、言った。


『だが、悪くない。いや、あえて良かったといおう。

 楽しい遊戯であったぞ、イコマ。

 そして貴様が率いる凡夫の群れよ。

 わしの最期が、貴様たちでよかった――』


 ドウマンはそれっきり、なにも言わなかった。

 笑いすらしなかった。

 静かな竜の鱗に手を触れ、目を閉じる。

 スキルがひとつ。ありがたく頂いていこう。


 それから、僕は制圧部隊の力自慢たちと協力してドウマンの黄金の薙刀を持ち上げた。

 どずん、と鈍い音と共に、古都の主の首が落とされる。

 その肉体も、黄金の薙刀も、さらさらと黒い粒子へとほどけて古都の空へ散っていく。


 あとに残されたのは、丸い石が一つだけ。

 それを見て、僕らはようやく――終わったのだと、実感した。

 ゲームのようなファンファーレもなにもなく。

 だけど、その代わりに歓声がある。

 両腕を振り上げ、勝鬨(かちどき)を上げ、僕らは空に黒い粒子を見送った。

 突き抜けるような青い空へ。



 ――戦争開始から二か月弱。


 僕らはついに古都を奪還したのだ。



 ●



 宮跡の正門を出て、朱雀の名を冠する道に出る。

 バリケード。壊れた街。

 昔の生活は、いまだに遠いけれど。


 僕らが取り戻した街だ。


 勝利を噛みしめながら、みんなが待つバリケード前へと向かう。


「お疲れさまでした、マコ様」

「ごめん、レンカちゃん。

 もうバレちゃったんだ」

「あら。でも大丈夫ですわ、遅かれ早かれですもの。

 その様子を見るに、受け入れられたようですし」


 レンカちゃんが口元に手を当てて笑った。


「マコ様が――イコマ様がいたから、勝てた。

 イコマ様がいなければ、この勝利はなかった。

 そんなこと、今さら説明せずとも皆様おわかりですもの。

 ですわよね?」


 問いかけに対して、仲間たち――制圧部隊や工兵部隊のみんなが、おう、と返す。

 それだけで、心がじんわりと温かくなる。


「美少女じゃなかったのは残念だけどな」

「隊長が隊長なのに変わりはないし問題ないです」

「むしろおれは男のほうがお得だと思う」

「でも嘘ついてたのは事実だし補償として使用済みタイツを所望します」


 最後に言った兵士からはちょっと距離を置こうと、じんわり温かくなった心に決めた。


「イコマっち、ほんッとーにおつかれさまだしっ!」

「ありがと、ヤカモチちゃん」

「これで大々的に『僕は女装癖です』って言えるね!」

「着たくて着てるわけじゃないからね!?」


 ヤカモチちゃんは相変わらずだ。

 アキちゃん、ミワ先輩がそんな遣り取りを見て笑っている。

 ああ、終わったんだ。

 なにもかも――。


 そこで人混みをかき分けて、小さな影がバリケードの前に躍り出た。

 ツナギを着た小さな体にいっぱいの元気を詰め込んだその人は、


「カグヤ先輩っ!」

「いっくん! おつかれさま!

 移民も全員、こっちに来たんだよー。

 英雄イコマの雄姿を見るために、ね!」


 笑顔満開のカグヤ先輩だ。

 彼女の背後に、移民団と思しき人々が見える。

 一様に笑顔で、僕らに手を振っている。


 そっか、二か月ぶりくらいか。

 またね、の約束は、どうやら果たせたようだ。

 あのとき貰った勇気と約束が、僕をここまで運んでくれた。

 その感謝をしっかりと伝えなきゃいけない。


 僕たちは笑いながら駆け寄り――。




 ぞぶり




「――あぇ?」


 カグヤ先輩が首を傾げた。

 小さな体。その中央。

 胸の真ん中から、赤く染まった剣が生えている。


「え? あ、れぇ……?」


 牙骨剣だ。僕もA大村で組み立てたことがある。

 モンスターの牙と骨を組み合わせて研ぎ上げた、無骨でシンプルで、だけど丈夫な武器。


 その武器が、カグヤ先輩の胸から突き出している。

 背後から突き刺されたのだ。

 カグヤ先輩のうしろに、いつの間にかボロ布をフードのように被った長身の人影が立っている。

 気配を感じさせず、抜刀の前触れすらなく、剣を突き刺した。


「せん、ぱい……!?」

「あ、は。いっく、ん――」


 ぞるりと剣が引き抜かれ、先輩の体が崩れ落ちる。

 慌てて駆け寄り、抱き抱える――大丈夫、息はある!

 処置を行なって、あとは『傷舐め』で治せるはずだ!

 この際、魔石を使ってランクを上げたっていい。

 ぜったいに助けなきゃ……!!


「ヒトを斬るのは初めてだが……案外、柔らかいんだな」


 絶句する僕の前で、牙骨剣を持った下手人がかぶっていたフードを脱ぎ去った。

 コイツ――!!


「ふは」


 笑うのは、長身の男。

 顔面に濃い疲労の色を浮かべ、血走った瞳で僕を睨みつける。


「パクリ野郎が英雄だと……!?

 ふざけんな、ンなわけねえだろうが!!

 英雄はいつだっておれだ、そうだろッ!?」

「れ――レイジぃ……ッ!!」

「なあ、おまえらもそう思うだろ!?

 戦争なんてばかばかしい!

 古都に住む? ふざけんな!!

 おれたちの村はA大村だ、そうだろ!?」


 A大村、狩猟班の元班長。Bランクの剣士。

 レイジが、大仰な身振りで両手を広げ、狂ったように叫んだ。


「帰ってこい、全員ッ!

 いま帰ってきたら許してやる!!

 なあに、問題ねえ!!

 多少トラブルはあったが、おれたちなら元通りうまくやれるさ!!」


 凶刃を持つ男の言葉に――すぅ、と心の奥が冷えていく。


 帰ってこい?

 許す?

 元通り?



 カグヤ先輩が、血まみれなのに?



「……ざけんな」

「あァ?」


 拳に力を入れて、レイジの顔面を睨みつける。


「ふざけんなって言ったんだ。

 レイジ……おまえ、僕の大事な先輩を傷つけたな」

「ふざけたことを言ったからだ。

 仕方ねえだろ、なあ? このパクリ野郎が」


 ナナちゃんたちに先輩の体を預けて、立ち上がる。


「ぶちのめす」


 短く言い捨てて、拳を握りしめ。

 ばきん、と手の内で魔石を割り砕く。


 僕はドウマンからもらった『竜種:C』を『竜種:B』へとランクアップさせた。



ここから一章の最終局面です。

いろいろ感想があるかなー、と思いますが、明日の更新を待っていただければ!


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― 新着の感想 ―
[一言] あらあらまぁまぁ。 もう自分が何やっているのかもわからなくなっちゃったわけか(_’ 半端に回る頭が外道を加速させる(。。 まぁ、噛ませ犬の最期の灯なのか、これが。
[一言] ドウマンって 芦屋道満から?
[良い点] ここでレイジ!? 意外にもきっちりチャンスを待ってやがったんですか!
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