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#壊れた地球の歩き方 【コミカライズ全3巻発売中!】  作者: ヤマモトユウスケ@#壊れた地球の歩き方 発売中!
第一章【古都奪還戦争編/妬まれて追放されたけど、実は『複製』スキルで戦闘から生産までなんでもこなす万能ワーカーでした。今さら帰ってこいと言われてももう遅いです。】

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52 一歩



 古都南西部にある寺社史跡の庭。

 そこで六体目のスケ鹿が燃える穴を囲んで、僕ら前線部隊は本陣から持ってきたパンをかじっていた。

 星がよく見える、空気の澄んだ夜だ。

 達成感が身に染みる。僕らはついにやったのだ。


「いやー、中ボス討伐完了お疲れ様!

 今回も過酷な戦い(工事)だったけど、乗り越えられたのはみんなのおかげです!

 おそらくこれが最後の中ボス、残すところは宮跡だけ。

 古都奪還戦争開始から一ヶ月半、みんな本当にありがとう!

 不安もあると思うけど、その不安はぜんぶ僕に預けて次に備えましょう!

 そう、勝利はもう目前、僕らの手の中にあるといっても過言ではないんですから!」


 返事はない。ただ、ぱちぱちと火の粉が跳ねる音が、夜の闇に響いてる。

 そして隊員たちは全員、半目で僕を見た。


「……みんなしてなんだよぅ、その微妙な顔は!

 あっ、こら! 溜め息を吐くな!」


 半目でパンをかじりながら、ナナちゃんが穴を見つめた。


「なんでわざわざここで食べようと思ったの……?

 やっぱりお姉さん、ちょっとサイコなとこあるでしょ」

「サイコとは失礼な、むしろ中ボスぜんぶ終わって最高って感じでしょ?

 ――隊長に向かってなんだその顔は!」

「見てコレ、アヒル口」

「映えを狙うんじゃないよ」


 まあいい。

 こほん、と咳払いして立ち上がり、両手を打ち鳴らす。


「ともかく、大ボスエリアと目される場所、宮跡の正門が解放されました。

 みんな宮跡内部が気になってると思うけど、まずは残りのマス目を制圧するのが先です。

 工兵はマス目内の安全確保と、道路の瓦礫撤去を優先してください。

 古都内の動線が確保できれば、再開拓は進みますから。

 ただ、スケルトン発生源(スポナー)が消えたとはいえ、油断は禁物です。

 残党スケルトンとの散発的な戦闘に注意するのはもちろん、古都の外に残っているモンスターが侵入するケースもあるかと思います。

 制圧済みのマスであっても、要塞化が終わるまでは決して油断しないように」


 周囲、数十人の隊員たちが大きく頷く。

 もう見慣れた仲間たち、心強い同志たちだ。


「そのあとが、本番。

 大ボス討伐、おそらくドラゴンとの戦いがあると考えられます。

 文明の破壊者、人類最大の敵、伝説の怪物――いろいろ呼び名はありますが、やることは変わりません。

 退路の確保、偵察と攻略法の確定。

 大丈夫、今まで通りにやれば、僕らなら勝てます。

 勝てば古都を取り戻せるんです。

 ……たとえ勝ち方が微妙だとしても。だよね?」


 周囲、隊員たちから軽い笑いが漏れる。

 僕も笑顔を返しつつ、さらに言う。


「僕はいま、『僕らなら勝てます』と言いました。

 ですが、追い込みをかけるため、ひとつ事実を追加しましょうか。

 ――『僕らは勝たなければなりません』と」


 強い言葉だ。


「現在もまだ、古都周辺の野生モンスターが各村の近くで観測されています。

 集団暴走(スタンピード)の予兆は続いていて、そちらの対処が必要です。

 そして、県内の人類は徐々に古都へと移動を始めています。

 旧A大村と聖ヤマ女村の連合軍以外、つまり僕らの村以外からも、話を聞きつけた希望移民が古都に向かってきています。

 これを聞くと、もう後戻りできないところまで来た、と思う方もいるでしょう。

 一大事業が始まろうとして……ううん、もう始まっているんです。

 大ボスが倒せるかどうかもわからないのに」


 ぱちぱち、と燃え盛る穴の爆ぜる音が、よく聞こえる。

 五月も半ばだ。

 気温も湿度も上がって、夜でも少し暖かいと感じるくらいになってきた。


「僕とレンカちゃん――聖ヤマ女村代表は、現在こう考察しています。

 『集団暴走(スタンピード)は宮跡内の存在によって引き起こされる』と。

 僕らが開いた扉の向こうにいるものが、果たして本当にドラゴンなのかどうなのか、僕にはわかりません。

 いえ、二年前から、なにも本当のことなんてわかっちゃいないんです。

 僕にはなにもわからない。みんなもそうでしょう?

 この壊れた地球のことなんて、なにひとつわかりゃしない」


 少し、笑ってしまう。

 スキルやらステータスやら、そんな意味のわからない新しいルールを押し付けられて。

 国も政府もなくなって。

 よくもまあ、こんな戦争を試みたものだ。


「なにも見えない暗闇の中で、僕らはずっと仕方なく――そう、仕方なく歩き続けてきました。

 歩くしかないから、わからないなりに、ただ『こちらが前だ』と思ったほうへ。

 だけど、ここに来た僕らにはもう、見えています。

 道しるべが、ようやく見えたんです」


 僕らがいる古都南西部の寺社の庭。

 ここから東に行くと、大きな道がある。

 古都の南北を通る巨大な大通り、朱雀の名を冠する道。

 その道を北上した先に、門がある。

 竜に通じるその門を、僕らは今日、開いた。

 思わず握った拳に力が入る。


「宮跡は、最後の一マスになります。

 僕らがこの一ヶ月以上、必死に塗りつぶしてきた地図の最後のマス。

 後戻りできないんじゃないんです。

 僕らはやっと、戻れるんです。

 二年前失った場所に。

 理不尽に追い出されてしまった家に。

 もちろん、いきなりとはいきませんけれど。

 世界はやっぱりぶっ壊れてて、元通りになるまでどれくらいかかるか、本当に戻るのかもわかりません。

 でも、ようやく、一歩目を踏もうとしています。

 帰り道の一歩目を歩こうと、足を踏み出しているんです。

 ようやく――ようやく、戻れるんです」


 握りしめた拳を胸に当てる。

 革製防具の上で、ぎゅっと強く握りしめる。


「戻りましょう。

 取り戻しましょう。

 僕らにしかできないことです。

 僕らにしか踏めない一歩が、あるんです」


 は、と一度深い呼吸を入れる。

 熱い吐息がこぼれる。

 高まっている。

 昂っても、いる。


「勝たねばなりません。それは事実です。

 だけど、それだけじゃない。

 ようやく歩き出せるんです。

 この壊れた地球の上で、一歩目を」


 ナナちゃんが小さく微笑んで、胸のカメラを僕に向ける。

 こんなシーンを撮影されているのは少し気恥ずかしいけれど、僕は拳を空へと突き上げた。


「古都を取り戻す最後の戦いに!

 そして、地球を取り戻す最初の戦いに!

 気合い入れて、歩いていきましょうっ!」


 おうっ! と良い応答が空へと上がっていく。

 僕と同じように固く握られたいくつもの拳が、星空に向いていた。



次回、ついに宮跡突入です。

ラストバトルだー!


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― 新着の感想 ―
[一言] ところで、レイジくんは今頃何をしているんだろうかねぇ(_’ 単体戦闘能力は高いから、変なタイミングで横やり入れられたらしんどい(。。
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