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#壊れた地球の歩き方 【コミカライズ全3巻発売中!】  作者: ヤマモトユウスケ@#壊れた地球の歩き方 発売中!
第一章【古都奪還戦争編/妬まれて追放されたけど、実は『複製』スキルで戦闘から生産までなんでもこなす万能ワーカーでした。今さら帰ってこいと言われてももう遅いです。】

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49 微妙な顔と中ボス攻略



 幸いにも、鹿は深追いしてこなかった。

 半径五十メートルの円がやつのエリアらしい。

 鹿の速度で追撃してくるスケルトンリーダーの刃をかいくぐり、命からがらバリケード前まで逃げ帰ると、鹿たちはスイッチが切れたようにこっちを見なくなった。

 敵視(タゲ)が外れた、ということだろう。


 最初の立ち位置に戻って、また微動だにしなくなる。

 機械のごとき行動パターンで、いかにもゲームのボスっぽい。

 バリケードの前で二人してへたりこみ、『スン……』と固まったスケルトンリーダーと名称不明なAランクの鹿を眺める。


「気づかなかった僕のミスだね、これは」

「……ごめんなさい」


 苦笑する。


「なんでナナちゃんが謝るの」

「……うう。私がもっとしっかりしてれば。

 背中、大丈夫……?」

「大丈夫だよ、痛いけど――でも、大丈夫」


 半泣きになった少女の頭を撫でる。


「生きててよかった。次は勝つ。

 それでいい。そうでしょ?」

「……ん」


 こくん、と頷くナナちゃんは、いつもの凛々しい様子と違って、ティーンの少女そのものだった。

 しばらくそうしていると、ふと視線を感じた。

 振り向くと、バリケードの隙間から部隊員たちと目が合った。


「……え、なに?」


 両手をあわせて「百合がとうございます……」と拝まれたんだけど、もうめんどくさいし疲れているのでなにも言い返さないことにした。



 ●



 さて、僕らが倒すべきは鹿である。

 名前もわからぬ鹿――仮称『なんかスケルトン生む鹿』、略してスケ鹿をどうやって倒すのか。

 その発想の一端は、すでにレンカちゃんからいただいている。


「骨の鎧の下が獣系モンスターと同じ血肉の通った生物であるなら、むしろ与しやすい相手であるはずなんだ。

 近接戦闘で勝てる可能性は低いけど、それは本来イノシシもクマもオオカミも一緒。

 それなのに僕ら人類によって山に追いやられたのは、僕らには武器と、それを扱う両腕があったからに他ならない。

 人類は基本的に無力でどうしようもない。

 だけどその手は未来(スコップ)を握るためにある……!」

「……と、言い訳をするお姉さんなのでした」


 半目で僕を見るナナちゃんに、『複製』で生み出したスコップをどんどん手渡していく。

 それらは、やっぱり半目でなんだか微妙な顔をしている工兵たちにリレーされ、やがて全員に行き渡った。

 なんだよぅ。

 正攻法がダメだったんだから、邪道でいくしかないじゃんか。


「いやあ、場所が公園で助かったね!

 下がコンクリだったら掘れなかっただろうし!

 ――それでは今より『スケ鹿の真下まで掘り抜いて落とし穴作って落として火ィつけて丸焼きにする作戦』を開始します」

「お姉さん、せめて身も蓋もないうえにクソ長い作戦名くらいはなんとかしてほしいんだけど!」

「じゃあ『鹿さん土葬作戦』で」


 全員が顔を見合わせ、微妙な顔でまばらにうなずいた。


「……まあ、今回限りと思えば」

「ネーミングセンス微妙なのもマコ様の萌えポイントかもしれん」

「作戦内容はともかく、安全なのには違いないしな」


 というわけで、穴掘り開始である。

 半径五十メートルの円までは反応しないことがわかっているので、バリケードで退路を確保しつつ、念のためさらに十メートル離した距離六十メートル地点を入り口に設定。


 『スピード強化:C』を削除して、工兵の一人から『建築:C』を複製。

 穴掘りも坑道の建築だと考えれば補正が入るらしく、穴を支える建材は僕の『複製』で用意可能だ。

 下方向に最低でも五メートル、横方向に六十メートル以上も掘るのは困難だけれど、工兵の数は多いしステータス補正もある。

 制圧済みのマスから、工事用ドリルなど電動の工具も発掘できた。

 ソーラーパネルの簡易電源を持ち込んで、昼の間だけではあるものの、稼働させられるだろう。

 五日から一週間程度で穴掘りは完了するはずだ。


 スケ鹿のタゲが地下にも向くのかとか、スケ鹿に地中攻撃の手段がないとは限らないとか、いろいろ考えるところはあるけれど、試してみなければなにもわからない。

 やるしかないのだ。


 作戦には問題が一つあった。

 ナナちゃんたち地上の制圧班には四時間に一度、一週間で四十二回発生するスケルトン大群の制圧という莫大な負荷がかかる。

 これをどうするか、なのだが――ナナちゃんはため息をついて、手を挙げた。


「邪道なら、私にも一個アイデアがあるよ。

 一回試してみないとうまくいくかわからないけど、試してみる価値はあると思う」


 なにやら考えがあるらしい。

 気になって聞いてみると、なるほど、いかにもナナちゃんらしい対処法で笑ってしまった。

 意外と武断派なのだ、この少女は。


「それじゃ、まあ――ご安全にってことで、ひとつ」


 こうして僕らの作戦は開始した。



 ●



 そして成功した。


 あっけなかった。

 達人同士の斬りあいとか、地中でモンスター発生とか、特になかった。


 一応、地中でもスケ鹿の敵視に反応したようだけど、地下五メートルに攻撃する手段はなかったらしく、地上でうろうろするだけだった。

 そして、ナナちゃんたちの対処法も鮮やかに成功したため、スケルトン対処も大して苦にならなかった。


「ほら、『上限数までスケルトンを生成』だとしたら、毎回倒したぶんと同じだけ生成されるわけでしょ。

 だったら倒さなければいいんじゃないかって思ったの。

 問題は本当に『上限数』なんてものがあるのか、だったんだけど……」


 どこか得意げに、ナナちゃんが右手に持ったものを持ち上げた。

 かたかたと顎骨を揺らすソイツは、しゃれこうべ。

 スケルトンの頭蓋――のみ。


「正攻法で挑んだとき、スケ鹿がスケルトンリーダーの頭を踏みつぶしたでしょ?」


 そういえばそうだ。


「もしかしたら、わざとなのかもって思って。

 『スケルトンリーダーのエリア内上限数が1だったから、踏みつぶすことで再生成可能にしたのかも』って。

 だったら、エリア内に発生(スポーン)上限数があるって仮説は信憑性があるじゃない?

 鹿は五十メートルの円の外には出てこないし動かないんだから、その外で首だけにしちゃえば、潰して再生成も不可能になるでしょ」


 事実、そうなった。

 ナナちゃんたちはバリケード後ろに数百のどくろを並べることになったのだ。

 足を砕き、手を砕き、首を割って頭だけにされたスケルトンたちは、かたかたと顎の骨を揺らすことはできても、攻撃も自滅もできなくなった。

 前線基地の見た目が完全に人食い蛮族の村になることを除けば、非常にスマートな対処法だと言える。

 かたかたうるさいので寝るときは隣のマスまで後退して寝たものの、次第にみんな普通にどくろの横で寝るようになった。

 慣れって怖い。


 もちろん、交戦中に頭蓋を砕いてしまうこともあったけれど、最初に五十のスケルトンを頭蓋だけにすれば、次のスケルトン生成の数は五十減る。

 少しずつ前線に飾る頭蓋の数が増え、生成数が減っていき、十回目のスケルトン生成では百体程度になり、十五回目にはついに数がゼロ体になった。


 これはとても大きな成果である。

 付近の制圧したマスに散発的に襲ってきていたスケルトンもゼロになったのだ。

 どうやら『近隣エリア内の上限数』があるらしい。

 あとは発生源(スポナー)さえなんとかできれば、一帯の安全確保ができるだろう。


 スケルトン対処もうまくいって、地中も安全であれば、もはやなにも問題はない。

 『建築』スキルによる技能を生かしつつ、スケ鹿の真下まで掘り進め、大きめの空洞を作成。

 鹿のジャンプ力は二メートル以上あるというし、Aランクモンスターなのだからもっとすごい能力が使える可能性もある。

 そのために深さもしっかりと五メートル確保したのだ。


 あとは、制圧済みのマスから発掘した花火を分解、その中身を複製して大量の劣化火薬を用意し、五十メートルのボスエリア外に全員退避したあと、地中から爆破。


 ぼご、と鈍い音がして地面ごとスケ鹿が真下に落ちた。

 スケルトンリーダーは咄嗟に跳びあがって穴から逃れ、あわあわしながら(骨ってあわあわするんだ)穴を覗き込んでいたので、ナナちゃんが後ろから不意打ちで頭を刎ね、再生産できないように加工した。

 なんというか、あの強敵がこのあっけなさ。

 これもまた戦いの無情というやつであろうか。


 さて、恐る恐る穴を覗き込むと、土と石と建材とかまみれになって、半分埋まったスケ鹿がいた。

 じたばたしている。

 蹄足動物は、横たわった自分の上に障害物をのせられると、身動きが取れなくなるらしい。

 たとえ障害物を跳ねのけたところで、この五メートルの縦穴は抜け出せまい。

 うーん、人類なら手があるんだけどね!

 ふはは、手を持たない鹿の身に生まれたことを恨むがいい……!


「お姉さん、この光景見て高笑いできるの、人格を疑われるよ……?

 私はいま、猛烈に心を痛めているというのに」

「いやコレ動物虐待じゃないからね!?

 モンスター討伐だからね!?」


 ともあれ、発掘した灯油やら複製したラードやら、とにかく燃えるものをいっぱい穴に流し込んで着火した。

 ナナちゃんは終始悲しそうな顔をしていた。ごめんて。


「……これ土葬じゃなくて火葬じゃない?」

「めっちゃ焼肉の匂いする……」

「本陣戻ったらクマ肉焼くか……?」


 煌々と燃え上がる穴の前で、部隊員みんなが顔を煤で汚しつつ、口々に言う。


「いやあ、みんな、一週間よく頑張ったね!

 達成感がある勝利ってこういうことを言うんだね!」


 と、僕が笑顔で腕を振ると、彼らはスケ鹿が燃えていく穴から、ゆっくりと僕の顔に視線を移した。

 誰も何も言わず、無言であった。


「な、なんだよ! 勝ったんだからいいでしょ!?」


 そしてやっぱり、全員が微妙な顔をしていたのであった。



 ●



 Aランクモンスターだけあって、HP的なものは相当に高かったらしい。

 三時間ほど燃やして、ようやくスケ鹿は絶命した。


 僕らは見事、激戦の末に中ボスを討伐したのである。


 こらそこ、微妙な顔をするんじゃないよ。



しかさん……(´;ω;`)


前回の戦いと温度差がすごくて書いてる僕が風邪をひきました。

みなさんもお気を付けください。


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[良い点] 良し、爆破しよう と同じ考え方だ(_’ [一言] 相手の居場所が分かっていて。 相手が動こうとしないのなら。 そりゃまず、敵の陣地破壊が鉄則だよね!
[一言] 憎いあん畜生を火葬で撃破。 流石は仮装で女子高生ってますね。 ペロペロはやはり無しなのは残念無念。
[良い点] 正道で1度負けてから鍛えて同じやり方とかいうなろう系を無視した猫耳猫的解答例! [一言] 好き
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