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#壊れた地球の歩き方 【コミカライズ全3巻発売中!】  作者: ヤマモトユウスケ@#壊れた地球の歩き方 発売中!
第一章【古都奪還戦争編/妬まれて追放されたけど、実は『複製』スキルで戦闘から生産までなんでもこなす万能ワーカーでした。今さら帰ってこいと言われてももう遅いです。】

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48 スケルトンリーダーと鹿



 正攻法だ。


 四時間ごとのスケルトン生成が終わった直後を狙って戦闘を仕掛ける。

 まずは僕が乗り込み、可及的速やかになんとかしてスケルトンリーダーを討伐。

 中ボスマスを制圧し、工兵によるバリケード設置に移行する。


「と、いう感じでいこうと思う」

「ダメに決まってんでしょ。

 『なんとかして』ってなに、『なんとかして』って。

 正攻法じゃなくてノープランじゃん、それは」


 最前線、大公園隣接マスに張った天幕内でナナちゃんに相談したところ、ばっさり切り捨てられた。


「なんでおに――お姉さんが単騎特攻する感じになってるの。

 馬鹿なの? また馬鹿になったの?

 大丈夫? おなかぺろぺろする?」

「いや、正気だけど……」

「やっぱり飽きたんだ……!

 うう、そうだよね、本陣でヤカモチを思う存分ぺろって来たんだもんね……!?」


 ぺろって来てねえよ。怪我もしてないのに。

 いやまあ、ともかく。


「相手が達人級なら、他のみんなを送り込んで死なせるわけにはいかないから、僕かなぁと」

「あのねえ、お姉さん。

 気持ちはわかるけど、それで将軍が死んだら笑い話にもならないよ。

 こういう時のための人材が目の前にいるんだから、うまく使ってくれないと」

「こういう時のための人材――って、まさか」


 ナナちゃんが傍らに置いた薙刀を手に取り、笑った。


「達人には達人をぶつければいいの。つまり私だよ」

「でも、それじゃあナナちゃんが危険に――」

「うん。だから守ってね?」

「――あぇ?」

「一緒に戦いに行って、一緒に帰ってくるの。

 マコお姉さんが私を守ってくれたら、私に危険はないよね。

 私の危険はお姉さんが持っていってくれる。

 だから、私は絶対に安全。でしょ?」


 それだけ言って、ナナちゃんがさっさと天幕の外に出てしまった。


「……あはは。優しいなあ、もう」


 彼女の優しさに甘えることにしよう。

 そこまで言われてしまえば、引くのも失礼だろう。

 次のスケルトン生成の対処が終わり次第、僕とナナちゃんの二人でスケルトンリーダー討伐を決行しよう。



 ●



 バリケードの前で、黒い粒子が風に溶けていく。

 数百体の骨が砕かれた証だ。

 疲れ切った顔の戦士たちにサムズアップで見送られ、僕らは芝生の上を歩く。


「さっさと終わらせよう、お姉さん」


 僕の装備はセーラー服と革製防具、両手に薙刀・オリジナルとレプリカを一本ずつ。

 それから背中にライオットシールドを背負っている。

 そして、ナナちゃんの装備はセーラー服と革製防具――だけ。

 もちろん、武器無しで戦うわけじゃない。


 持っていた薙刀・レプリカをナナちゃんに手渡し、瞬時にオリジナルに『複製』を発動。

 いつでも渡せるストックとして薙刀・レプリカをもう一本用意しておく。


「頼りにしてるよ、お兄さん」


 と、ナナちゃんが小声で言った。

 ここからは周りの仲間たちもいない。

 僕らだけの戦場になる。

 は、と息を吐いて、呼吸を整調。

 意識を研ぎ澄ませ、ただスケルトンリーダーをじっと見つめる。


 がしゃり、と、それまで微動だにしなかった骸骨騎鹿兵がこちらを向いた。

 距離は五十メートルほど。なるほど、ここからがボスエリアってわけか。


 たっ、と軽い音を立てて、ナナちゃんが駆けだす。

 『スピード強化:B』のトップスピードは時速40キロメートルを超える。

 Cランクの補正しか持たない僕にはついていけないけれど、それでいい。

 僕は『複製』使いの戦いをするだけなのだから。


「せぇ……のッ!」


 小気味よい掛け声とともに、ナナちゃんの薙刀の一撃が走る。

 柄の端を持ったフルスイングが、スケルトンリーダーが防御のために立てた骨の巨刀とぶち当たり、


 がぃいんッ!!


 と激音が空気を震わせた。

 刃と柄を含めて三メートルの長物。

 達人(ナナちゃん)が振るう、遠心力を加えたフルスイング。

 その威力はすさまじく、通常のスケルトンの頭蓋なら十個まとめてでも砕き壊すだろう。

 だけど。


「硬い……!」


 さすがは上位個体の持つ武器だ。

 巨刀の硬度は通常の骨剣よりも高いらしく、小さなヒビがひとつ入っただけだった。


 フルスイングは隙が大きい。

 衝撃で腕はしびれ、振り回した武器先端の重量に体が持っていかれる。

 その隙を見逃すスケルトンリーダーではない。

 鹿が瞬時に歩を進め、三メートルのリーチを埋める。

 スケルトンリーダーの巨刀が薙刀の根元、その持ち主を切り裂かんと閃き――空を切る。


 ナナちゃんが、武器を放棄したからだ。


「次っ!」


 武器を手放して跳んだナナちゃんが叫ぶ。

 跳ぶ先は、直上。


 ――ここ!


 空中で前転を決めるナナちゃんめがけて、薙刀・レプリカを投擲する。

 『パワー強化:C』の怪力で、長物を槍のようにぶん投げる。

 一歩間違えば味方への攻撃(フレンドリーファイア)だけど、ナナちゃんは達人級の薙刀使い。

 飛んできた薙刀をつかみ取り、投擲の勢いを活かして体を制動するなど朝飯前である。


「もう一回……!」


 ナナちゃんの言葉通りだ。今度は上から下へ。

 回転の勢いを最大に活かした空中兜割りのスイングが、巨刀を空切らせたスケルトンリーダーへとぶちかまされる。

 衝突。またしても激音。

 スケルトンリーダーの巨刀が稲妻のような素早さでひるがえり、ナナちゃんの兜割りを受け止めた。

 衝撃が柄へと流れ込み、びりびりと震えてナナちゃんの手へと返っていく。


「――く、う」


 びき、と受け止めた骨の巨刀にヒビが入る。

 ばきん、とぶちかました薙刀の柄が中央からへし折れる。

 なんという威力のぶつかり合いか――衝撃でたたらを踏んだ鹿が数歩下がり、空中で身を丸めたナナちゃんが猫のように地面に降り立つ。


 これで、まだたったの二合。


 ほんの数秒の間に起こった死の遣り取りに、背筋が凍りそうになる。

 近づいても骨の雑兵を生み出してこないから、ラッキーだと思ったけれど、違った。

 リーダーだけでも、十分すぎるほどに――強い。


「――次!」


 だけど、呆けている時間はない。

 僕は達人じゃない。

 彼女たちの戦いについていくんだ、瞬きする余裕もない。

 タイミングを読んで間合いを保ち、一合すら見逃すことなく薙刀を『複製』して投げ渡す。

 蝶のように舞う美しい少女にあわせて腕を振り、武器を渡す。

 鹿の速度で吶喊する騎兵と打ち合うナナちゃんに、得物を贈る。

 ただそれだけのことが、こんなにも――難しい。


 だけど、それにも終わりが来た。


 十合か、二十合か。

 ばぎんッ、とひときわ大きな破裂音にも似た音を立て、薙刀の一撃が骨の巨刀をぶち折ったのだ。

 これが僕らの作戦。

 いつぞや、ナナちゃんと話したラストアタックを連打できる『複製』スキルの強みを生かした、『相手が剣の達人ならその上から剣ごとぶっ叩く』作戦である。

 つまり――物理ゴリ押しの正攻法。


「とった……ッ!」


 巨刀を砕いた勢いをそのままに、振り回された薙刀がスケルトンリーダーの首を捉えた。

 風を切り、兜ごと跳ね飛ばされた頭蓋が、芝生の上にぽすりと落ちる。

 主を失った鹿が混乱したのか、うろたえたように足を踏んで後退し、その首をばぎんと踏みつぶす。

 やや遅れて、鹿の上にあった骨の体が力を失い、ずるりと崩れて粒子に散った。

 あまりにもあっけない最期だけれど、スケルトンリーダーは消滅した。


 勝ったのだ。


 思ったよりもあっけないけれど、勝てて良かった。

 ナナちゃんも同じように思ったのだろう、僕を見てほっとしたように笑い――


「危ないッ!」


 ――慌ててナナちゃんに飛びつき、抱きかかえる。


 衝撃。背中に強い痛みが走る。

 たまらず吹き飛ばされ、ナナちゃんごと地面を転がった。


「お兄さん!?」


 ナナちゃんの悲鳴に「大丈夫」と応える余裕もない。

 受け身も取れずにごろごろと転がった僕らは、あるものを見た。


 鹿だ。骨の鎧を纏った鹿。

 その鹿の足元に、影がある。


 広がる影から伸ばされたのは、巨刀を握った骨の手だ。

 次いで、もう一本の手が影から伸ばされ、地面を掴み、水面から体を持ち上げるようにして――スケルトンリーダーが現れた。


 影の中から逆袈裟で斬られたのだと理解する。


「……盾背負っといてよかったよ、ほんとに」


 衝撃で痛む背中から、深い傷の入ったライオットシールドを外し、芝生の上に投げ捨てる。

 刃は背中に届かなかったけれど、劣化カーボンのライオットシールドを一撃でダメにしやがった。

 なんて威力だ。背中がめちゃくちゃ痛い。

 強く打ち据えられたようなものだからだろう。


「ごめんなさい、お兄さん――!」

「ナナちゃん、それはあと。それよりアイツだよ」


 スケルトンリーダーが鹿にまたがり、こちらに向き直った。

 がしゃがしゃ、がらがら、と音を立てて顎骨を鳴らす――笑ってやがる。

 短く鋭い呼吸を一回入れて、意識を切り替え直したナナちゃんが、油断なく視線を送りながら立ち上がる。


「影から無限に復活するってこと!?」

「いや、たぶん違う。

 アイツにとって上に乗ってる骨は、僕らにとっての薙刀みたいなもの……なんじゃないかな」

「じゃあ、本体は……っ」


 スケルトンリーダーがボスなのではない。

 スケルトンリーダーは、ボスの武器なのだ。

 武器を運用しているのは、骨の下にある本体――つまり。


「うん。鹿が本体なんだと考えるべきだ。

 よくよく考えてみたら、影もアイツの足元から出てた。

 最初からあっちも考慮すべきだったんだ」

「くそ鹿め、よくもお兄さんを……! 直接叩き切って――」

「待って、ナナちゃん。落ち着いて。

 あの鹿、『鑑定:B』持ちが見てもモンスターだってわからなかったんだよ」


 『鑑定』は同格以下の対象しか看破できない。

 それがわからなかったということは、ランクのない生物か、あるいは――『鑑定』のランクを超えるモンスターか。


「いったん撤退するよ、ナナちゃん。

 この鹿、最低でもランクAだ」


 今回は僕らの負けだ。

 なんとかして撤退して、命を次につなげよう。

 だけど――相手が魔法動体系でなく、獣系モンスターなら大幅に話が変わってくるな。


 なんなら、僕はうっすらと笑みを浮かべてすらいた。


 この鹿になら、きっと勝てる。



一回一回の戦闘が微妙に長いので、さっぱりと仕上げていきたいですね(願望)

なお鹿はモンスターであり、元々公園にいた鹿はだいたいオオカミやらなんやらに食われました。


次回、鹿攻略です。



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― 新着の感想 ―
[一言] 毒入り鹿煎餅を投げるのか!?
[一言] ペロペロが足らない…
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