41 小細工
「で、作戦会議ですけれど」
「ちょっと待って、この体勢のままやるの?
このくんずほぐれつ絡み合った状態で?」
「確かに、もう少し落ち着いた体勢のほうがいいですわね。
――くんずほぐれつ絡み合う!? いやらしい!」
言ってね――言ったわ。
いやらしい意味は全くないけれども。
絡まった包帯をほどきながら立ち上がりつつ、僕はレンカちゃんに聞く。
「で、どうなの? 首尾は」
「上々ですわ。すんなりと進んでおりますの」
レンカちゃんが包帯から抜け出そうと四苦八苦しつつ、答えた。
思わず苦笑してしまう。
澄ましているけれど、レンカちゃんの立てた作戦はかなり大胆だった。
「それにしても――まさか、聖ヤマ女村付近の旧市街地に移民のキャンプ村を作るなんてさ。
レイジたちと鉢合わせたら、大変なことになったんじゃない?」
呆れつつ言うと、包帯塗れになったレンカちゃんが――意外と不器用なのかよ――不遜に笑った。
「あのお馬鹿さんたちが旧市街のキャンプ地からA大村へ帰還する際、直進ルートを選ぶのは目に見えておりましたもの。
ですから、A大村からの亡命民の方々には自然公園を仮設キャンプ代わりに一時滞在していただきましたの」
僕が一週間ほどサバイバルをしたあそこである。
「お馬鹿さんが旧市街を出発したあと、旧国道を通って来村していただければ鉢合わせることもございません。
タイミングを計るのは、少々手間でしたけれどね」
簡単に言うけれど、その裏に隠された労力は大きい。
『スピード強化』と『タフネス強化』を持つ子たちがリレー方式で駆け、情報を伝えたのだという。
伝令の偉大さ、重要さを身を以って知った。
「聖ヤマ女村付近の旧市街地までは、太い国道を使えるから大人数の移動向きだしね。
つーかレンカ、アタシごと絡まっていくのやめてくんない?」
道はガタガタで車は走れないだろうけれど、歩いて移動は可能なのだ。
ほかならぬ、ギャングウルフ戦での消耗から回復しきっていなかった僕らがそうしたように。
ともあれ、第一陣だけで五百人超を超える移民団が。
そして、最終的にはA大村のほぼ全員が。
聖ヤマ女村近辺の旧市街地に集い、そこから古都を目指す手筈だ。
「旧市街地の仮設キャンプを運営維持するのは、カグヤ様、フジワラ様といったA大村班長たちに行っていただけます。
寝床や日用品、消耗品はイコマ様が複製したものを運び込めば事足ります。
問題はモンスターの駆除でしたけれど、ほら、周辺の安全確保はあの乱暴者たちが一週間も頑張ってくれてましたもの」
本当に大胆だな、と思うのはコレだ。
レイジたちが泊まることを、利用した。
ハンターとしては優秀で、生き残るのに長けた狩猟班である。
キャンプ地の安全確保はしっかり行なっていたはず。
ハメる相手すら利用してしまうなんて、このお嬢様は本当に……。
「……怖いなぁ、レンカちゃんは」
「殿方を手のひらの上で転がし、絡めとり、気づけばがんじがらめ。
それくらいできて当然ですわ、生徒会長ですもの」
レンカちゃんはキメ顔で言ったけれど、いよいよ致命的なレベルで包帯に絡まっているので、ちょっと締まらない。
絡めとられてがんじがらめなのはキミだよ。
なにしてんだよ。
「ちょっとレンカ、そんなに動かないし!
アタシまで絡まっちゃったじゃん」
「あうぅ、ヤカモチちゃんだっけ。
その……お、おっきいんだね……ごくり。
はっ、まさかこれでいっくんを誘惑して……!
悪いおにくめ! こうしてやる!」
「あっ、カグヤっち、そんなに強くしちゃっ、だめえっ……!」
いやホントになにしてんだよ。
ややこしい絡み合い方をする女性四人の包帯を端っこからほどきつつ、話を続ける。
「で、僕は軍を率いて古都を攻めればいいんだね。
A大村の戦士数、工員として動員可能な人数も確認できたし、計画はだいたい考え終わってるけどさ。
最後にもう一回確認するけど、本当に僕が大将でいいの?」
レンカちゃんのほうが適任に思えるんだけど。
しかし、意外なことにレンカちゃんは断言した。
「むしろ、イコマ様しかいらっしゃいませんわ。
イコマ様以外には不可能だと言ってよいでしょう。
そうですわよね、ナナ?」
「そうだよ、お兄さん。
自分がいま『統率:C』を持っていること、忘れたの?」
――あ。
そういえば、そうだった。
レアだからと削除せずに残しておいたけれど、コレはもともとギャングウルフの頭目のスキル。
「つまり、現在のイコマ様は『群れのリーダー』として最適なのです。
『傷舐め』といい『統率』といい、ギャングウルフは厄介なモンスターですけれど、スキルには助けられっぱなしですわね」
「指導者の軍略補正と、部下の意気補正。
素人だらけの古都奪還戦争でも、お兄さんのスキルがあれば軍として、もとい群として成立するはずだよ」
そう言ってもらえると、ちょっとばかしの自信になる。
ただ、僕にはもうひとつ拭えない不安があった。
「でも、A大村のみんなはその……僕に対してあんまり良い印象を持ってないんでしょ?
逃げたっていう印象は、完全にはくつがえっていないらしいし……。
正直、スキル補正があっても従ってくれるかどうか」
そこで、がばっ、とヤカモチちゃんが勢いよく立ち上がった。
包帯が引っ張られ、ほどけかけていたほかの三人の包帯がきゅっと締まって大変なことになっているけれど、ヤカモチちゃんは一切気にせずえへんと大きな胸を張る。
「そこでアタシが小細工を弄するってわけ!
任せてちょーだい、イコマっち!」
「こ、小細工?」
聞き返すと、包帯まみれのヤカモチちゃんが両手でピースを作り、にんまりと笑った。
「つまり、イコマっちだって気づかせなきゃいいんだし!」
悪いおにく(今週の素敵な日本語)
などと言いつつ、カグヤ先輩も相当悪いおにくをお持ちです。
次回、小細工を弄されたイコマと作戦概要です。
★マ!