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#壊れた地球の歩き方 【コミカライズ全3巻発売中!】  作者: ヤマモトユウスケ@#壊れた地球の歩き方 発売中!
第一章【古都奪還戦争編/妬まれて追放されたけど、実は『複製』スキルで戦闘から生産までなんでもこなす万能ワーカーでした。今さら帰ってこいと言われてももう遅いです。】

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39 閑話 レイジ、経緯を知る



 レイジは自分がハメられたことを知った。


 がらんとした村内に残るものたちは、残った物資をまとめたり、基地としてA大村を保持するために残された最低限の人員ばかり。

 話しかけても「ああ」とか「はいはい」とか生返事ばかりで、一向にちゃんとした情報が得られない。

 そんな中、A大村に残していた狩猟班員のひとりをようやく見つけて、愕然とした。

 半泣きでレイジに事の次第を報告した狩猟班員は、もう心が折れている様子だった。


「あ、あいつら、おれらのこともずっと見張ってて、知らせに行こうにも……できなくて!」

「わかった、もういい、泣くな、黙れ」


 手短に言って、レイジは深く息を吸った。

 いらいらする。

 長く息を吐き、心を落ち着けようとする。

 ああ、いらいらする。


 ごんッ


 と、A大村に轟音が響いた。

 A大村の入り口に置かれたバリケード。

 太い木材を束ねて作ったその壁に、牙骨剣がずぶりと突き刺さっている。


「――クソどもが……ッ!!」


 落ち着けるわけがない。


「カグヤは古都に行ったんだな!?

 さっさと追うぞッ、てめえら!」


 叫んだレイジに、冷ややかな声がかかった。


「無理だろう。一週間以上のサバイバルに、強行軍じみた移動。

 そんな体で古都方面に行くだって?

 やめろやめろ、風呂でも入ってゆっくりしたほうがいいじゃないかぁ?」


 褐色肌の美人だ。

 槍を持った女兵士を伴って、レイジの方へと歩み寄ってきている。

 守護班班長のミワだ。


「ミワぁ……!

 どういうつもりだ、こいつはァ!」

「どうもこうも、ウチらは人類のために頑張りますよってことさ。

 ああ、アンタらも手伝ってくれるかい?

 役立たずなそこの馬鹿(レイジ)はともかく、後ろの馬鹿どもはギリギリ改心の余地ありだ――そうだろ?

 いまなら性根を叩きなおすくらいで勘弁してやるから、どうだい。

 守護班に入りたいやつはいるかい?」


 堂々と。

 守護班班長、ミワがレイジの前で堂々と、部下に『裏切れ』と声をかけている。


 ――舐めやがってェ……ッ!


 首元から沸騰するように血が上り、一瞬、視界が真っ赤に染まったような錯覚さえ覚える。

 気づけば、レイジの右手がミワの細い首をひっつかんで持ち上げていた。

 護衛が槍をこちらに向けるが、ミワは苦しそうにしつつも、手のひらを立てて護衛を制した。

 笑っている。

 それがなおさら、いらいらを加速させていく。


「ひ、く……はは、レイジ。

 すぐ暴力に訴えるんだなぁ、おい。

 小物の証拠だぜ」

「今までおれにびくびくしてたくせに、急にどうしたよォ、雑魚女ァ……!

 体でわからせられてえか、あァ……!?」

「口説き文句としちゃゼロ点だな、早漏野郎。

 けほっ、周りを見ろよ。

 おまえの恥ずかしい先走りがみんなに見られちまってるぞ」


 はっとする。

 以前より人の減った村内だが――住民は、それでもまだ半数以上が残っている。

 せわしなく動き、移住の準備を進めていた彼らが。

 動きを止めて、レイジを見ている。


 狩猟班班長が、守護班班長の首を絞めている様を、見ている。


 慌てて手を離すが、もう遅い。

 ただでさえ、『声がデカいだけの役立たずではないか』という情報を広められているのに、それを助長するような言動を、見られた。

 こういったニュースの伝達の速さを、レイジはよく知っている。

 自分が積極的に悪用し、他人を潰してきたのだから。


 これ以上の行動は、群衆の『目』に封じられた。

 このシチュエーションを狙ってきたのだ。

 あえてこちらを挑発してきたのだ。

 雑魚だと思っていた、他班の班長が。


 ミワが首をさすりつつ、にやりと笑った。


「さて、さて。

 さっきも言ったが、なあおい、狩猟班。

 その足りねぇ頭ァ、よおおおく使って考えな?

 強者に媚びてきた馬鹿どもならわかるよなぁ……?

 いま強者なのは、だぁーれだっ?

 そこにいるたった一人の馬鹿(レイジ)か?

 それとも――」


 両手を広げ、ミワが言う。


「――A大村、聖ヤマ女、両村あわせて総勢五千と八百人いる大衆(ウチら)か」


 最初に動いたのは、左肩を負傷し、テーピングを巻いた部下だ。


「しゅ、守護班に移籍しますぅっ!」


 三日前、レイジが肩を割った肩だ。

 鞭のため、見せしめにした馬鹿。

 移動の三日間、何度も小突き、笑いものにしてやった。

 そうすることで、さらなる見せしめになるからだ。

 そいつが足をもつれさせながら、ミワの後ろに走って着いた。


「おい、てめえ!」

「もうッ、おれは嫌だッ!

 アンタに命令されんのもッ、殴られんのもッ、骨折られんのもッ!

 うう、う、うんざりなんだよおッ」


 震えながら叫んだ雑魚は、まるでみっともない。

 だが、


 ――まずい……ッ!


 経験則から知っている。

 吠える雑魚ほど、仲間を呼ぶものだと。

 そして仲間とは――いま、レイジの後ろにいる者たちであると。


「すんません、レイジさん。

 おれも向こういきますわ」


 軽く言って、動くものがいる。


「じゃあな、班長」


 吐き捨てるように言って、動くものがいる。


「……すんません」


 こちらを見ず、ただ小さく謝って動くものがいる。

 なにも言わずに、こちらを見もせずに動くものもいる。


 無理やり力で止めることもできた。

 だが、そうすれば。


 ――それも全部、愚民どもに見られちまう……!


 やられた。ハメられた。いったい誰が。どこの何者が。

 こんなにあくどい方法を思いついたのか。

 考えるまでもない、あの金髪のメスだ。

 聖ヤマ女村のメスガキが、入れ知恵しやがったのだ。

 怒りをこらえるあまり、噛みしめた奥歯が砕けそうだった。


「おうおう、薄情な部下どもだねぇ。

 おまえら、いっちゃん下からやり直させてやる。

 なあに、ウチのしごきは優しいから安心しな。

 三食昼寝付きだ。行儀よくしてれば、の話だけどな」


 ミワが楽しそうに言って、踵を返した。


「それじゃ、レイジくぅん!

 アタシらは古都で楽しくやってるから、キミもキミでごく潰しなりに頑張ってくれたまえ。

 ヨシノちゃんと一緒にアダムとイブでもやってみるか?

 二人だと寂しいだろうし、ちょうどいいだろ!

 アッハッハ!」


 そうして。

 レイジの傍らに残ったのは、おろおろしている馬鹿な女がひとりと。

 バリケードに突き刺さった、一本の牙骨剣だけになった。


「あの、せんぱぁい……?」

「うるせえ、黙ってろッ!」


 いや、まだ残っている。

 レイジには残っているものが、たしかにある。


 怒りと、スキルだ。

 他人より優れたスキルが、『剣術:B』と『パワー強化:B』が、レイジには残っているじゃないか。


 頭蓋の中で沸騰する怒りが、レイジの思考を回転させる。


 こんな状況になったのは、さて、だれのせいだ?

 ミワか? 聖ヤマ女村のメスどもか?

 よくしてやっていたのに裏切ったカグヤか?


 ああ、そうだ。

 もちろん全員ぶちのめす。

 ぶちのめして、わからせてやる。

 生まれたことを後悔させて、ずたぼろになるまで使い倒して、ぶっ壊れたらモンスターの餌にでもしてやろう。


 だが。

 こんなことになった事の発端は、そもそも誰だったか。

 聖ヤマ女村には、いったい誰を追っていったのだったか。


「イコマぁ……ッッ!!」


 あいつだけは。


 ぜったいに。


 殺す。



そういうわけで、ざまぁ回……? なのでしょうか。

ここでワンステップ踏んで、という感覚なので、ざまぁ一回目と称するべき?

まだまだ流行への理解度が低い私でありますが、お付き合いいただければ幸いです。


キャラクター紹介

・ミワちゃん 褐色肌美人で性格が悪くて割と小心者だけど心根はいい人。背は高いがちいさい。



★マ~!


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― 新着の感想 ―
[良い点] ちいさい守護 [気になる点] (器が)ちいさい班長 [一言] 小さいっていい事だよね!(時と場所と場合による)
[一言] 認められないものだよね 自分自身の若さゆえの過ちってやつはさ この先の更なるざまぁが楽しみです
[一言] レイジ、逆恨みも甚だしいな
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