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#壊れた地球の歩き方 【コミカライズ全3巻発売中!】  作者: ヤマモトユウスケ@#壊れた地球の歩き方 発売中!
第一章【古都奪還戦争編/妬まれて追放されたけど、実は『複製』スキルで戦闘から生産までなんでもこなす万能ワーカーでした。今さら帰ってこいと言われてももう遅いです。】

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38 閑話 カグヤ、先導する

(ごめんなさい、今回はいつもの倍くらいあります)



 カグヤにとって、イコマの助けになるかどうかが最重要だ。

 そうでなければ、この戦争に乗る意味がない。


 アキがA大村に戻った二日後のこと。

 A大村の大ホールに住民たちが集まっていた。

 公開班長会議の緊急開催だ。

 参加できるものは仕事の手を止めてでも参加せよと、そうお触れが回ったのは午前のことだった。


 壇上にいるのは、狩猟班班長を除く班長連合十一人。

 一人足りないが、だからこそ開催した。

 その一人がいない今こそが、好機だったから。


 再左端に座るカグヤは立ち上がり、マイクを手に取った。


「本日は急な開催にもかかわらず、多くのご参加、ありがとうごじゃいます」


 噛んだ。


「……」


 やめて、そんな目で見ないで。

 いや、いい。堂々といこう。

 胸を張って、そう、ドーンと胸を張って話そう。


 ……胸を張っただけで群衆が「おお……」とかどよめくのはセクハラではないだろうか。

 まあいい。

 注目されているのは緊張するけれど、注目されなければ意味がない。

 カグヤは深く息を吸い、吐いた。


「ええと、今回は私――農耕班班長カグヤから、報告と提案があるので集まっていただいた次第です」


 努めて笑顔で言う。

 インパクト重視でいこうと、昨夜、A大村内の仲間と徹夜で台本を書きながら決めたのだ。


「みなさん――」


 言って、少し溜める。


「――古都に、住みたくはありませんか?」


 そんなセリフから、カグヤは話を始めた。


 聖ヤマ女村と合同での古都奪還戦争。

 古都再開拓のための住民募集。


 その概要を話し終えたころには、大ホール中に喧騒が飛び交っていた。

 侃々諤々とは、こういうことを言うのだろう。

 ああだこうだと声が飛ぶ。

 できないとか、無理だとか、そんな場合じゃないだとか。


 カグヤは汗がにじむ手をジャージの表面でぬぐって、再びマイクを握りしめた。

 まだ、説明が終わっただけ。

 本番はここからなのだ。


 可能な限りの人員を、煽って、乗せる。

 政治を、行うのだ。


 震える声を抑えて、カグヤはマイクにそっと声を乗せた。


「この戦争には大きなメリットがあります。

 モンスターを古都から排除し、安全が確保できれば、古都で生活できるようになります。

 二年前に置き去りにした大量の物資も手に入ります。

 古都を取り戻せば、近畿内外から多くの人員が流れてくるでしょう。

 そうなれば、古き平城の都は一千年以上の時を経て再び日本の中心となり、日本復興の第一歩になるはずです」


 言うと、隣の席の老人が手を挙げ、マイクを握った。


「建築班班長フジワラが疑問を呈するがね。

 メリットはみんなわかっているんだ。

 誰もが一度は考えるさ、あのモンスターの巣窟をどうにかできれば、とね。

 だが、カグヤくん。問題は『可能かどうか』だ。

 違うかね? 成功の可能性がいかほどか――それが最大の問題点だ」


 フジワラ教授がそう言い、群衆へと視線を向ける。


「『古都の奪還』……お題目は結構だが、現実味がない。

 みんな、そう思っているようだが?」

「今回、連合軍を率いるリーダーは優秀ですから。

 勝利を信じるに足るヒトが、導いてくれます」


 誰が率いるかは言わない。

 告げるタイミングは今ではない。

 イコマが率いると告げれば、『イコマが悪い』と煽られ、印象付けられた世論は戦争参加を渋るだろう。

 それではいけない。

 ……いまは、まだ。


「加えて言えば、戦争参加は可能不可能の話ではなく、避けられない話であると考えています。

 ある意味、『仕方ない』ことではないかと。

 モンスター増加の傾向は、住民の皆さんも実生活の中で感じていることでしょう。

 私もたくさんのご意見を受け取りました。

 ……そして調査の結果、私たちはひとつの結論を得ました。

 今後、村に籠っていても、いつかは滅びてしまうだろう、と。

 ですよね、守護班班長」


 聞くと、中央席に座る褐色肌の女性が頷き、マイクを取った。

 守護班班長、ミワだ。背後にアキが控えている。

 守護班はそもそも反レイジ派閥。根回しは済んでいる。

 ……フジワラ教授と同様に。


 つまり、これは茶番だ。

 だけど、情報を持たない群衆は、この劇的な討論を茶番だとは思わない。

 少しばかり心が痛いけれど、ひとりひとり説得している暇はない。

 正論で世論は動かない。必要なのは、感情と感動だ。

 悔しいけれど、それだけはあの愚か者の上手な部分だった。


「守護班班長、ミワが応えるぞ。

 事実として、守護班(ウチ)が対応する事案も増えてるよ。だいたい二割増しくらいかね。

 最初はあの馬鹿ども――失敬、狩猟班がサボっているからだろうと思ったが、それにしても多すぎる。

 本来は古都周辺に棲む強力なモンスターが、こっち側にまで侵食してきているのさ。

 ウチらは集団暴走(スタンピード)の予兆じゃないかと見てるがね」

「だが、いまは対応できているんだろう?

 わざわざ危険な戦争に赴く必要はないんじゃないか?」


 フジワラ教授が再度、疑問を呈する。


「今はそうだ。だが、うちの武器だって消耗品さ。

 相手が多ければ多いほど消耗は激しく、被害は増え、いずれ……まあ、二か月は持つだろうな。

 ただし、コレは集団暴走(スタンピード)が起こらなかった場合だ。

 もし起これば――守りきれるかどうかは、もう知らん」


 ざわり、と群衆がどよめいた。


「もう知らん、って……そんな無責任な物言いはどうかと思うがね?」

「責任があるからって、なにもないところから物資は生み出せないさ。

 いまモンスターの大群に攻められたらすぐに死ぬ。

 死ななくても、このままじゃそのうち死ぬ。

 これはもう事実以外の何物でもないさ。

 だいたい、無責任っていうなら――」


 ちらりとミワが空席を見た。

 誰も座っていないその席は、普段ならば乱暴な男が座る席である。


「――はん。

 まあ、いい。いねぇならいねぇで仕方がないさ。

 ウチら守護班は古都奪還に賛成だし、参加したいと考えている。

 被害は出るだろうが、A大村にこもって精神すり減らしていくよりも『生き残る可能性が高い』戦争だと踏んでるからね。

 なにより、これでも残存する人類の一員として、この戦争には参加する意義があると思うねぇ。

 人類復興の一歩を踏めるなら、参加は当然だろう?」

「なるほど、理屈は通っているな。

 だが、なおさら『勝てるかどうか』が不安だ。

 優秀なリーダーがいるとはいえ、我らには物資がないのだろう?」


 フジワラ教授のちょっとわざとらしい言葉に、こほん、とカグヤは咳払いをして、注目を集め直す。

 さて。

 大事なのは、自信だ。

 あたかも自分が正しく、必ず成功するかのように見せるのが重要なのだ。

 もう一度、胸を張る。「おお……」はいらん。話を聞け。

 ともかく。


「私は、勝つと信じて――いえ、間違いなく勝てると確信しています」


 強い言葉だ。普段ならあまり使わない断言を、積極的に使っていく。


「現在、聖ヤマ女村には数千を超える武具、防具が揃っています。

 優秀な戦士も、優秀なリーダーもいる。

 ただ、人員が足りない。聖ヤマ女村は総員八百人程度の村です。

 A大村には五千人を超える住民がいる。近畿最大の人口がある。

 わかりませんか? これはチャンスなのです。

 私たち近畿に住まう人類に与えられた、最後のチャンス」


 一息入れて、続ける。


「二年前、私たちは天変地異と、それに続くモンスターの群れに蹂躙されました。

 苦々しい、思い出すのも辛い記憶です。私も多くを失いました。

 ……親しい人も、友人も、家族も。

 もう、あんな思いはしたくない。

 だけど――」


 拳を握る。

 小さな拳だけれど。

 茶番だらけの舞台だけれど。

 これだけは、事実だ。

 カグヤたちは壊れた地球を生き抜いてきた。

 土にまみれ、汚れにまみれ、それでも命を繋いできた。


 二年前よりも、カグヤの小さな拳は、ずっとずっと強いのだ。


「――いまの私たちは、二年前と違う。

 そうでしょう?

 私たちには、戦う力があります。

 スキルと武器があります。モンスターの知識があります。

 この苦しい二年間を生き抜いてきた、たしかな実績と経験があります。

 勝てるんです、いまなら」


 立ち上がって告げると、相対するようにフジワラ教授が手を挙げた。


「では、レイジくんを待って決めるのはどうだね?

 こういうとき、戦闘の専門家に意見を聞かないのはどうかと思うが」


 ――ここだ。


 フジワラ教授ではなく、群衆の目を真っ向から見据え返す。

 じぃっ、とカグヤの顔を見つめる視線の群れに気圧されそうになるけれど、ここで言わなければ、立ち上がった意味がない。


「では、逆に問いますが――彼がなんの役に立つというのですか?」


 カグヤにしては、相当にキツい物言いだ。

 群衆のざわつきが大きくなる。

 正念場だ、とカグヤは気合いを入れなおす。

 告げる。


「事実として申し上げますが。

 彼は自分の権威と暴力を笠に着て、心無い言動を繰り返していました。

 皆様の中にも、お心当たりがある方がいるのでは?

 彼の暴力的な行いを、見聞きした記憶がある方は。

 それでも、彼には力があるから、スキルがあるからと許容してきた方々が。

 しかし――」


 首を傾げて、カグヤは問いかける。


「――彼がなにかを為したことが、ありましたか?

 獣を狩る。モンスターを狩る。なるほど、それが仕事でしょう。

 だけど、それは彼にしかできないことでしょうか」


 これは欺瞞だ。

 (レイジ)にしかできないことではないが、(レイジ)が殺生に適していたことは本当なのだから。

 それでも、言おう。


「大きな言葉と身振りで人心を惑わし、あたかも自分が代表者かの如く振る舞っている――けれど、蓋を開けてみれば結果は伴っていない。

 それが彼の正体ではありませんか?

 彼はもう一週間以上、まともに狩猟班の仕事をしていません。

 自ら追い出したイコマくんを『彼が望んで出ていった』などとうそぶいた挙句、手のひらを返して『すぐに連れ帰る』などと言って。

 しかし、実態はどうでしょうか。

 彼が村を出て、もう何日が経ちましたか?

 さて、彼はいったいどこでなにをしているのでしょうか。

 その間の狩猟任務は、守護班が無理をして補っている状態なのですよ」


 ミワの「そうだぞ、寝てないんだぞ」というちょっと雑な応援を聞きつつ、畳みかけるように言う。


「もう一度問います。

 集団暴走(スタンピード)が起こるかもしれない。

 そんな大事な時に村に居ない男が、いったいなんの役に立つというのです?」


 その言葉に、フジワラ教授はもう一度群衆を見渡し――そして、大きく頷いてから着席した。


「続けてくれ、カグヤくん。

 キミの話をね」

「では、僭越ながら」


 一息入れて、カグヤは右手を挙げた。

 宣誓のポーズで、告げる。


「私、カグヤは聖ヤマ女村の協力のもと、古都への移住を宣言します。

 これはもう、決めたことです。

 古都を奪還したならば、古都で生活ができるよう、街を再開拓する必要があります。

 その際、私の『農耕:A』は必要な能力であると自負していますから」


 ここで『農耕:A』のことを再確認するのは、ちょっとずるいな、と自覚している。


「私とともに古都へ赴いてくれる人員を募集します。

 生産を営み、文明を再興させられる非戦闘員こそが、この戦争には必要なのです。

 取り戻すのです。あの日の生活を。あの日の日本を。

 二年前に奪われた、私たちの故郷を」


 そう。

 そもそも、今日は会議をするつもりなどない。

 最初に言っていた通り、報告と提案をするだけ。

 そのための茶番で、そのための集会だ。


 すでに『必ず行く』と決めている。


 班長連中への根回しもとっくに済んでいる。

 レイジへの反感を利用し、班長以外にも多くの住民に協力を取り付けた。

 村に残っていた狩猟班の連中にも、わかりやすく『見張り』をつけているから、めったなことはできないだろう。


 そして、カグヤにとってはなによりもバツがわるい事実ではあるが――カグヤに付いてこないと、モンスターがどうにかなったとしても、死ぬ可能性が高い。


 だって、たったいま『古都奪還後、古都の住民を支えるために必要だ』と再確認した通り、カグヤは強力な食糧供給スキル、『農耕:A』を持っているのだから。


 あらゆる農耕作業、作物育成にAランクの補正をかけるカグヤがいたからこそ、A大村は五千人超の人口を支えられてきた。

 熱に浮かされた人間は、人類の未来のために立ち上がってくれるだろう。

 だが、現実が見えている人間にとって、これは脅迫じみた提案に見えるかもしれない。


 『(カグヤ)はA大村を放棄するけど、どうしますか』と。


 そこまで考えが至った人間は、こう考える。

 『それならば、参加するのは仕方がない』と。

 『仕方なさ』を補強する要素として、『我々は戦闘員ではなく、開拓人員である』と伝えてある。


 ――それだったら、いいかな。

 ――だって、この村に居ても仕方がないんだから。

 ――自分が戦闘しないなら、まだいいか。

 ――仕方ない、仕方ない。


 そんな風に、思わせる。

 そう思わないヒトたちにも、あらかじめ声をかけておいた住民たちが、それとなく周囲の村民を誘導してくれる。

 仕方ないじゃないか、と。


 カグヤの眼前、すでに群衆は傾いている。

 古都への希望と、戦争への仕方なさに。

 傾いて、こぼれて、その先はカグヤの手のひらの上だ。

 こっそりとほくそ笑み、『ああ、私っては悪女の才能もあったんだねぇ』なんて思いつつ、カグヤは最後のセリフを言った。


「参加希望者は、早めに申し出てください。

 近日中、早ければ明日にでも第一陣を出発させます。

 もう一度言いますが――我々はいま、最大のチャンスを迎えているんでしゅ」


 最後、ちょっとだけ気が抜けたけれど、そこは許してほしい。




投稿時はいつも不安でいっぱいですが、こういうシーンは特に「うまく書けてるかな」「いろいろ破綻したりしてないかな」「盛り上がりは十分なのかな」と心がどきどきして眠れなくなってしまいます。

昨日も八時間しか眠れませんでした。


ともあれ、楽しんでいただければ幸いです!


次回も閑話、レイジ視点です。


★マ~!


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[一言] いこまくんは男でもぺろぺろするのだろうか?
[良い点] 熱い展開になってきましたね! こんなのすごく好きです!
[一言] 世論の動かし方は確かにそういうのもあると思いますが。 この世界の議論の動かし方が仕方ないの一辺倒過ぎるかなと 動かし方考え方は人それぞれで尚且つ男女、年齢、知識によって差異はでるものと私は思…
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