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#壊れた地球の歩き方 【コミカライズ全3巻発売中!】  作者: ヤマモトユウスケ@#壊れた地球の歩き方 発売中!
第一章【古都奪還戦争編/妬まれて追放されたけど、実は『複製』スキルで戦闘から生産までなんでもこなす万能ワーカーでした。今さら帰ってこいと言われてももう遅いです。】

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37 悪女



 守衛室での会議の際、レンカちゃんは戦争を宣言した。

 だけど、それはA大村との戦争ではない。


 モンスターとの戦争。

 古都奪還の侵攻作戦である。


 聖ヤマ女村の生徒会長であるレンカちゃんは、その立場上、集団暴走(スタンピード)の対処が最優先だ。

 村を守るのが、長の役目なのだから。

 本来、(イコマ)とレイジとカグヤ先輩とA大村がどうとかこうとか、極論、関係ない立場なのである。

 集団暴走(スタンピード)かどうかは不明ではあれど、防衛の準備を進めつつA大村と戦争する余裕なんてない。

 だけど、彼女はこう思ったのだ。

 逆にこの混乱を生かせないか、と。


「いっそ先に攻めてしまえばよいのです。

 ――えっ!? 先っちょを責める!? そんな、いやらしい!」


 後半は思うだけで口に出さないでほしかったけれど、つまるところ、先制攻撃論である。

 攻められる前に攻めてしまえ。

 やられる前にやってしまえ。


 集団暴走(スタンピード)が起こるよりも先に、モンスターに奪われた古都を取り返してしまえ、と。


 今までも、夢想したことは何度もあったらしい。

 僕だってある。文明崩壊歴に生きる人間なら、だれもが一度は考える。


 古都を奪還すれば、そこに溢れるモンスターを駆逐できれば、と。


 けれど、あまりに多くの物資、人手が必要だから夢はあくまで夢であった。

 しかし。


「イコマ様。ここには、あなたがいるのです」


 消耗品の専門家。

 『複製』使いの僕が、レンカちゃんの前にいるのだ。


「問題は人手でした。

 聖ヤマ女村総住民八百人、そのうちモンスター討伐に出向けるものは五十人もいませんの。

 過去に都と呼ばれた平城の街を攻めるには、あまりにも心もとない数ですわ。

 戦闘要員が最低でも二百人、古都に先陣を張るならば補給要員も含めて一千人は必要ですもの」


 聖ヤマ女村だけなら、どう考えても足りない。

 そう、聖ヤマ女村だけならば、だ。


「A大村――近畿で最大クラスの人口を持つ村。

 かの村を動かすための鍵と、繋がりを持てましたの」


 『農耕:A』によって五千人超の人口を支え続けたカグヤ先輩が、聖ヤマ女村にアキちゃんを送ってきた。

 亡命すら視野に入る混乱の中で、レンカちゃんはA大村の中枢とコンタクトを持てたのだ。


「ならば、いまこそが好機。

 アキ様がおっしゃったように、わたくしもこの事態を好機だと捉えましたの。

 モンスターが溢れつつある今は、到底好機には思えないかもしれませんが……それはおそらく、逆なのです。

 だって、人口が減る確信はあっても、増える希望はないのですから。

 集団暴走(スタンピード)が起きれば、被害は必至ですもの。

 ゆえに――いまが攻め時。

 いまこそが私たちの桶狭間。

 もしかすると最後かもしれない、好機です」


 レンカちゃんは、言う。


「カグヤ様を起点とし、A大村住民に『古都への亡命』……もとい『古都開拓』を呼び掛けていただきますの。

 当然、荒唐無稽と思われるでしょう。

 けれど、いまのA大村は『流されやすい』状態です。

 当たり前の生活を失い、モンスターが増えつつある上に、厄介な人間関係のトラブルまで抱えている。

 あらゆる現実が不安が増大させているでしょう。

 ひょっとすると、A大村の未来さえ危ぶむほどに。

 そして現在、かの村で強い影響力を持つ者が、愚かにも当村付近に狩猟班主力ハンターを引き連れて来ております。

 A大村はいま、押せば倒れるような状態なのです。

 この状況を利用し――つけ入りましょう」


 レンカちゃんは酷薄な笑みをこぼし、その細い顎に指を当てた。


「彼らの『仕方ない』を、利用するのです。

 そう思わせてしまえばよいのです。

 彼ら自身、流されるままに『仕方ない』からイコマ様へひどい仕打ちを……いえ、これはわたくしの個人的な怒りですわね。

 ともかく、カグヤ様、アキ様に住民たちの『仕方ない』を誘発していただくことで、数百……あわよくば、数千の人口を古都へ向かわせることが可能でしょう」


 当然、その多くは戦士ではない。

 そう指摘すると、レンカちゃんはさも当然であるかのように首を傾げた。


「それはわたくしたちもでございましょう?

 戦士でなくとも戦わねばならないときがあるのは『仕方ない』と思いませんこと?」


 ……悪女だね。

 頬を引きつらせながらそう伝えると、レンカちゃんは嬉しそうに笑った。


「過大な誉め言葉ですわね」


 褒めてないんだけどなぁ。


「とはいえ、戦闘経験のない素人に、戦闘を行わせるつもりはありませんの。

 彼らに行っていただくのは、生産職としての活動ですわ。

 我々の目的は『古都の奪還』ですもの。

 街を街たらしめる最大の要素は『人類が生活する共同体』であること……モンスターを討伐するだけでは不十分なのです。

 住む人がおりませんと。

 ですから『亡命』なのですけれど」


 亡命というか、再開発というか。

 いや、この場合は『再開拓』だろうか。


 失った街を、再び拓く。


 ぞくぞくした。

 背中に震えが来て、指先に熱っぽい感覚が集中する。

 天変地異に壊され、木々に浸食され、モンスターに奪われた街を取り戻す。

 壮大な計画に、戦争への恐れ以上の――期待感。


「そして、気になっているでしょう。

 なぜこの一手によって、カグヤ様とイコマ様を愚か者から保護することになるのかというとですが……。

 ……なんですか、その『そういえばそうだった!』みたいな顔は。

 もう少し緊張感を持ってくださいな、大人になってくださいまし」


 返す言葉もねえ。


「さて、とにもかくにも、これがキモなのですが――」


 レンカちゃんは、手で僕を示した。


「――この戦争、一軍を率いる大将を、イコマ様にやっていただきますの」


 ……。

 …………。


「えっ?」




次回、閑話、カグヤの続きです。


2020/10/28の日間ハイファンタジー1位取りました!

ありがとうございます!!


今後もよろしくお願いします!


★マ!



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