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#壊れた地球の歩き方 【コミカライズ全3巻発売中!】  作者: ヤマモトユウスケ@#壊れた地球の歩き方 発売中!
第一章【古都奪還戦争編/妬まれて追放されたけど、実は『複製』スキルで戦闘から生産までなんでもこなす万能ワーカーでした。今さら帰ってこいと言われてももう遅いです。】

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31 守衛室会議



 午後、守衛室には五人の人間が集まっていた。

 聖ヤマ女村騎士クラブ、筆頭騎士(エクィテス)ナナちゃん。

 同じく騎士クラブ、この五日間で普通に歩けるまで回復したヤカモチちゃん。

 聖ヤマ女村の指導者である生徒会長レンカちゃん。

 A大村から僕に警告を伝えるためやってきたアキちゃん。

 そして、僕――元A大村住民の『複製』使い、イコマ。


 いやはや。


「……あの、なんでみんなこんなに集まってんの?

 今日、なんかこういう予定あったっけ」

「え? お兄さんをA大村の魔の手から守るための会議じゃないの?」


 ナナちゃんが首をかしげた。僕も首をかしげる。

 午前、探索から帰還後、予定通りヤカモチちゃんをぺろぺろした。

 昼飯を食ったら『複製』依頼をこなそうと、そんな風に思っていた時間帯である。


「いや、だからソレは僕が逃げれば済むって話じゃん。

 ねえ、アキちゃん。そうでしょ?」

「はい、私はイコマ先輩にそう伝えるために来ました」


 ほら。簡単な話じゃん。

 と思っていたら、アキちゃんは首を横に振り、言葉を続けた。


「しかし、聖ヤマ女村でイコマ先輩を保護していただけるのであれば、これほど安全な場所もないと思っております」


 え。どういうことだろう。

 困惑していると、生徒会長モードに入ったレンカちゃんが目を細めた。


「理屈はわかりますわ。

 ひとつは『逃げること』の困難さ。

 どこまで逃げればいいのか、いつまで逃げればいいのかが不明瞭な逃避行なんて、終わりのない苦行みたいなものです。

 もうひとつは当校が『女人村』であること。

 『男子禁制』を盾に、追手の入村を拒むことが可能です。

 中にいる限り、イコマ様の安全は保障できますわね」


 そして、とレンカちゃんは指を一本立てた。


「これが最大の理由ですけれど。

 最悪の場合、くだんの先輩、カグヤ様の亡命先として最適であること。

 そうでしょう?」

「……なるほど、さすがは名高い聖ヤマト女子高等学校生徒会長。

 こちらの狙いなどお見通しというわけね」

「腹の探り合いなど不要ですわ。

 わたくしたちは女性が駆け込む最後の場所を提供するもの」

「では――!」


 アキちゃんがぱっと顔色を明るくした。


「ええ、いざというときはカグヤ様の亡命を受け入れましょう。

 イコマ様も、これまで通り外部の食客という立場であれば、滞在期間を延ばすことは可能です」

「ありがとう……! これで先輩たちを守れる……!」


 な、なるほど……。

 僕は手元で革防具を複製しつつ、ドキドキしながら事の成り行きを見守ることにした。

 どうなるんだろう。


「あの、イコマっち?

 コレ、アンタの話なんだから、そんな他人事みたいな顔してちゃダメなんじゃ……」

「はっ。そうだった、僕の話だった」


 なんだか、こんな風になるなんて思っていなかったから、脳みそが追い付いていない。


「ええと……つまり、カグヤ先輩の安全は確保できるってこと?」

「亡命した場合ですけれどね。わたくしの肩書に懸けて、安全はお約束いたしますわ」


 それは安心だ。

 僕はほっとしつつ、『複製』の続きを行うことにした。

 しかし。


「だけど、それって『亡命したあと』が本番だよね。

 全面戦争も辞さないってことでしょ?」


 ナナちゃんが僕の複製した防具を、邪魔にならないよう部屋の隅に積みながら、そんなことを言う。

 ど、どういうこと? 戦争って?

 レンカちゃんは頷き、神妙に言葉を続けた。


「あの乱暴者は、カグヤ様の亡命にかこつけて、当村に襲撃を仕掛ける可能性が高い……ということですわ。

 おそらく、A大村と我が聖ヤマ女村、それに伴い付近の村も巻き込んだ大戦争になりますわね」

「えっ。で、でも、さすがにA大村がレイジの個人的な執着で動くなんて思えないけど……。

 しかも、周りの村も巻き込んで、なんて」


 思わずみんなの顔を窺ってしまうけれど、みんな真面目な顔で、だれも冗談だとは思っていないようだ。

 にわかには信じられないんだけど。


「ええと。いいかな、お兄さん。

 カグヤさんの亡命は『農耕:A』がA大村からなくなるってことだよ。

 そうなれば、ただでさえイコマお兄さんを失って物資に不安を抱えていたA大村の住民はどうなると思う?」

「……補填を補うために頑張って働く?」


 僕以外の全員がため息を吐いた。

 なんだよぅ。普通はそう思うもんじゃないのかよぅ。


「あのねえ、イコマっち。

 いい? そんな考え方ができる人間は少ないの。

 それまで『あって当然だったモノ』を失った人間がどうするかなんて、わかりきった話っしょ。

 ――奪い返そうとするんだし」

「うば……え、そんな考え方する?」

「するよ。実際にしてきたじゃん」


 ヤカモチちゃんが守衛室の天井を指さした。


「例えば電気。

 アタシらは『失った電力という快適さ』を取り戻すために、山奥からメガソーラーのパネルを引っぺがして、身も蓋もない言い方するならパクってきたんだよ。

 天下のお嬢様であるアタシらが、だれの断りを得ることもなく、所有者に対価を支払うこともなく。

 快適な生活を、取り戻すために――奪ったの」

「それ、は……」


 言葉が詰まる。

 僕にも身に覚えがあることだ。

 今日はなにも回収しなかったけれど、旧市街地の探索の主な狙いは『崩壊した家屋に眠っている文明の品を拾うこと』で、対価を支払ったことなんてない。

 言い方を変えれば、盗掘に他ならない。


「だけど、この壊れた地球で生きていくためには仕方ないこと……だと、思うんだけど」

「それだし。『生きる』って、どういう状態かってこと。

 心臓動いてりゃいいの? 違うでしょ」


 ヤカモチちゃんは、わずかに赤い筋を残すのみとなったおなかを、服の上から撫でた。


「極端な話、『当たり前の生活』のことを、アタシらは生きるって呼んでるわけだし。

 程度の違いはあれ、その『当たり前』を失ったとき、アタシらは『当たり前』の状態に戻そうと行動する――それが『生きる』ことであり、正しい行動になる。

 電気を取り戻すためにパネルをパクるのは仕方ない。

 物資確保のために市街地で盗掘するのは仕方ない。

 そして――」


 はぁ、とヤカモチちゃんがつまらなさそうに息を吐いた。


「――カグヤっちを取り戻すため、聖ヤマ女村に戦争を仕掛けるのは仕方ない。

 人間って案外、そんな風に思っちゃうもんだよ。

 それも自分が違和感を覚えないくらい自然に、ね」

「だ、だけど……みんながみんな、そうってわけじゃないでしょ……?」

「もちろん、全員がそうじゃない。

 でも、そのレイジってヒト、明らかに他人を煽ってその気にさせるのが上手いタイプじゃん。

 A大村にとって戦争は『仕方ない』し、それにあの村は大きいから。

 A大村との取引で物資を補っていた近隣の村の事情も加味すれば、『戦争の大義名分』は揃ってるっしょ」

「ヤカモチの言う通りですわね。

 つまり、大義名分とは『大衆の生活のため』、つまり『生きるため』ですわ」


 ……。

 絶句してしまう。なにも言い返せない。なにも否定できない。

 僕が追い出され、しかし「帰ってこい、責任をとれ」と言われている現状が、なによりの証拠だ。

 『生きるため』ならば。

 『今の生活を失わないため』ならば。


 大戦争が起こっても『仕方ない』――と。


 そして、なによりも驚いたのは。


「みんな、よくこんな短い時間でそこまで考えられるね……?」

「短い時間って……午後まで時間あったでしょ。

 それに私たち、女子だもんね」


 ナナちゃんがあっけらかんと言って、全員が頷いた。

 どういうこと?


「女子の学校生活は戦争だから。

 同級生、先輩後輩、男子女子、先生にOGまで、根回し暗躍なんでもござれ。

 昨日の友は今日の敵、親友とバチバチやりあうことなんて日常茶飯事なの。

 戦争慣れしてるんだよ、女の子は」


 ……。

 女の子、超怖い。



過去一番真面目な話をしている回かもしれない。

なんとかして下ネタを入れようとしたけど入りませんでした。

――え、きつくて入らない!? 卑猥な!!



「面白い!」「続きが気になる!」と思った方は★とブクマ!


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― 新着の感想 ―
[一言] 女の恐ろしさを如実に語る回でしたね。ペロペロ分が少なかったのは残念ですがほぼ完治していればやむなしですね。
[良い点] 主人公の天然さがイイ [気になる点] 主人公の方がお嬢様かと思うくらいお花畑思考で、よくそれで旅をしようとしてたなと。
[気になる点] 山奥からメガソーラーのパネル 初出の時はギガソーラーとあったのですが、どちらが正しいのでしょうか?
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