30 合流
疲労の色濃いまま、休憩を挟まず事情を説明しきった槍持ちの女の子――アキちゃんに、温かいお茶を用意してあげる。
話の内容にいろいろ思うことはあるけれど、まずは彼女を休ませないと。
といっても、バックパックから着火剤を取り出して複製し、乾いた木の枝を複製して組んで作った焚き火で水を沸かして、パパっと淹れたものだけど。
「……なんでしょう、手際が良すぎてちょっと引きますわね。
薪拾いが一本で済むのは驚異的ですわ」
「やってることがもはやサバイバルじゃなくて、ほぼグランピングなんだよね」
なんてことをひそひそ話すお嬢様二人にも温かい紅茶をお見舞いしてやった。
複製品だからランクは落ちているけれど、オリジナルが聖ヤマ女村で貰った高級茶葉のパックなので、複製品もたぶんCランクくらいの味になるはず。
「……コップを中身ごと『複製』すれば手早いのでは?
そういうズルいことはさすがにできませんの?」
「その場合、『複製』でランクが落ちた茶葉の紅茶をさらに『複製』で1ランク下げちゃうから。
どうせなら、少しでも美味しいものを飲んでほしいじゃん」
言うと、三人の女の子が呆れたように首を振った。なんだよ。
「変わりませんね、イコマ先輩は」
と、槍持ちの門番……アキちゃんが笑った。
「守護班がモンスター対策のため、徹夜で警戒対応をしていたときも、こうして温かい飲み物を出してくれましたよね」
「あー……。もしかして、マッシュベアが近くに出たとき?」
頷かれる。
なんとなく、おぼえているような気もする。
「イコマ様、いったいいくつのフラグを立ててきましたの?
先ほど聞いたお話によりますと、カグヤ様なる女性もイコマ様をお慕いしている様子ですし」
「フラグって……。そんなもの、過去に一度も立ったことがないよ。
カグヤ先輩も仲は良いけど、後輩としてかわいがってくれているだけで、特別な関係ってわけじゃないし」
「……」「……」「……」
「えっ、なに? 三人そろってその微妙な表情は」
「審議中だよ、お兄さんはちょっと黙ってて。
――で、実際どうなの。そのカグヤさんってひと。
お兄さんと……『私の』お兄さんと、どんな関係で――」
なんの審議だよ。先輩後輩だって言ったろうに。
まあいいや、僕は今のうちに片づけしとくか。
手を動かし、火の始末をしつつ、アキちゃんが教えてくれた情報について考える。
レイジが、僕に責任をとらせようとしているという。
そうか。ふむ。
……いや、追い出したのはお前だろ!
そこまで感情が激しいほうではないけれど、レイジの言動にはさすがに怒りを感じる。
僕がいなくなった余波が思っていたよりも大きいことに、いささかの罪悪感も覚えないわけじゃないけれど、僕に全責任を押し付けようとする魂胆には納得がいかない。
カグヤ先輩は『逃げろ』と言ってくれているし、逃げることにしよう。
聖ヤマ女村での『複製』依頼が終わったら、ダッシュで県外に逃げるか。
どこがいいかなぁ……。
片づけを終えて振り向くと、三人の女の子がまだ何やら深刻な顔で額を突き合わせていた。
まだやってんのかよ。ていうか、結局なんの話だよ。
「――カグヤ先輩はデカいよ」
「――どれくらい?」
「こう、小ぶりなメロンというか……」
「では、ヤカモチのほうがありそうですわね。スイカですもの」
「でも身長が低めだから、総合するとちょっとビビるくらいスタイルがいい」
「あう……。やっぱりおっぱいなんだ……私のおなかは遊びだったんだ……」
「おなかは遊びってなに?」
「その理屈でいくと、ヤカモチの優勝になってしまいませんこと?
ナナ同様おなかを舐められてますし、胸も豊満ですし」
「おなか舐められてるってなに?」
マジでなんの話だよ。
会話を邪魔するのも申し訳ないけれど、そろそろ時間が怪しくなってきた。
今日の探索は成果なしだ。仕方ない。
「三人とも、もう戻る時間になっちゃったから、戻ろうよ。
今日もヤカモチちゃんのおなかをぺろぺろするんだからさ」
声をかけると、よよよ……とナナちゃんが地面に崩れ落ちた。
「ああ、やっぱりヤカモチが優勝なんだ……!」
「……わたくし、胸もおなかもなかなかのものだと自負しておりますし、立候補しようかしら」
「イコマ先輩、さっきからおなかおなかって、なんの話ですかコレ」
それは僕が知りてえよ。
探索パートもやりたいんですが、ひとまず物語優先で進めていきます。
事態が落ち着けばイコマも探索する余裕が出て来るでしょう……たぶん。
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