表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
#壊れた地球の歩き方 【コミカライズ全3巻発売中!】  作者: ヤマモトユウスケ@#壊れた地球の歩き方 発売中!
第一章【古都奪還戦争編/妬まれて追放されたけど、実は『複製』スキルで戦闘から生産までなんでもこなす万能ワーカーでした。今さら帰ってこいと言われてももう遅いです。】
3/266

3 出立



 太陽が沈む前に、A大村を出た。

 正門を振り返れば、見張り担当の女子学生が複雑そうな顔で僕を見ている。

 見送りは断った。カグヤ先輩をはじめとして、仲の良かった住民たちは残念がったけれど、仕方がない。

 僕に良くしてしまうと、レイジたちが良い顔をしないだろうし。


 敷地外に向き直ると、学校を囲うように、木々で作ったバリケードがいくつも設置されている。

 モンスター対策に作ったものだ。

 作成を手伝ったし、補修作業には何度も参加した。

 もう手伝うことはないのだと思うと、なかなか感慨深い。


「……あの、イコマ先輩」


 そこで、槍を持った見張りの女子が小声で僕を呼んだ。

 きょろきょろと周りを見回して、他人の目がないことを確認している。


「どうしたの?」

「これ、どうぞ」


 手渡してくれたのは、布の包み。

 開いてみると、こんがり焼かれた丸いパンと、竹筒に入った綺麗な水だった。

 僕の数少ない持ち物である、バックパックにしまわせてもらう。


「カグヤ先輩から頼まれて。渡してくれって。

 『鑑定』持ちがBランク判定したパンだそうです。

 複製して食べて、と」

「本当に……優しいなぁ。お礼を伝えてもらってもいい?」

「はい、もちろんです。

 あと、あの……私からも、僭越ながら全女子住民を代表してお礼を。

 イコマ先輩がいなかったら、私たち、こんなに快適に過ごせなかったと思います」

「買いかぶりだよ」

「いえ、買いかぶりじゃないです。

 だから私が今日の見張りなんですよ。

 守護班全員の総意で、先輩に餞別を渡そうって決めて、見張りのシフトを変えたんです」


 見張りの女の子は、僕の手にそっと触れた。


「私、『タフネス強化:B』持ちなんです。

 今は複製していないと、カグヤ先輩に聞きました。

 よかったら複製していってください」

「……ありがとう。

 いま『パワー強化』と『スピード強化』しか持ってないんだった」

「レイジ先輩に見つかるとうるさいので、これくらいしかできませんけど……」


 僕の『複製:B』が発動し、彼女の『タフネス強化』を複製する。

 『複製』スキルは、劣化コピーの能力。

 たとえばパンに使えば、もうひとつパンを生み出せる。

 他人に触れた状態で使えば、その人が持つスキルを複製し、自分のモノにできる能力でもある。


 強力な能力だけれど、いくつか制約がある。

 僕の『複製:B』が複製したものは、オリジナルよりもランクが下がるのだ。

 Bランク判定を受けたパンに使っても、ランクそのままではなく、Cランクのパンしか生み出せない。

 さらに、複製品のランク上限は『複製』スキルのランクの一つ下までと決まっている。

 たとえば、カグヤ先輩の『農耕:A』を複製した場合、僕は『農耕:C』を獲得するといった具合で。

 また、所持できるスキルの上限個数は『複製:B』を含めて合計六個まで。

 六個持っている場合は、所持スキルの複製を解除しないと、新たなスキルを獲得できない。


 このスキルによって、僕はA大村内のほぼすべての班の手伝いができた。

 カグヤ先輩たち農耕班の手伝いをするときは『農耕:C』を。

 バリケードや校舎を修理したり増築したりする大工班を手伝うときは『建築:C』を。

 『達人級』の補正を得られるBランクには及ばないものの、Cランク補正は『その道のプロ』と同等の補正を得られるので、重宝されたものだ。

 各班の班員は所持しているスキルによって振り分けられているけれど、例えば大工班の全員が『建築』スキルを持っているわけではなかった。

 だいたいの班はBランクが一人はいるけれど、ステータス補正系の能力しか持っていない住民も多い。

 Cランクスキルを複製して扱える僕は万能ワーカーと呼ばれて、それなりに頼りにされていた……と思う。


 見張りの女の子の『タフネス強化:B』を複製し、『タフネス強化:C』を獲得する。

 スキル所持数に上限があるから、普段は不要なステータス補正系スキルは消していたのだ。

 旅なのでステータスを補正しておこうと思っていたけれど、急な追放だったから『タフネス強化』を再複製し忘れていた。

 カグヤ先輩が僕の所持スキルの内訳まで把握しているとは思っていなかった。

 本当に、あの人は後輩をよく見ている。


「複製完了。助かるよ」

「いえ。これくらい、今までイコマ先輩がしてくれたことに比べれば些細なことです。

 イコマ先輩が複製してくれた下着やケア用品があったから、快適に過ごせていたんです。

 女子連中は先輩のことこっそり『ブラジャー大明神』と呼んで崇めていたくらいですから。

 今まで本当にありがとうございました!」

「うん、こちらこそスキルをありがとう。

 でも二度とその呼び方で崇めるな」


 とまあ、そんなこんなで。

 なんだか締まらない最後になってしまったけれど、僕はもう一度だけA大村にそびえる校舎の群れを見上げてから、学び舎を後にした。

 お世話になりました。



「面白そう!」「これからが楽しみ!」と思った方は、下の☆☆☆☆☆を集めると次のステージへの扉が開きます。

ヒント:最後のスターはコインをすべて集めると、ある場所に出現するぞ!



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↑の☆☆☆☆☆を押して作品を応援しよう!!

TOブックス様から書籍一巻発売中!!

TOブックス様のサイトはこちら
― 新着の感想 ―
[良い点] 突然のブラジャー大明神に星5 言葉が遊びが楽しいと期待しちゃいます
[一言] (´-ω-)人 巨乳の守り神様……
[気になる点] 洗剤とか日用品も供給できなくなるわなぁ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ