29 でかい、ちいさい
聖ヤマ女村に来て五日目の早朝。
僕は村の外、大樹林に呑み込まれた旧市街地にいた。
探索のためだ。
僕の『複製』の元手がないと意味がないので、狙いは珍しい物資の回収である。
「で、そっちはなに狙いなの? ホーンピッグ?」
「あら、イコマ様はブタがお好きですの?
――いやらしい! そんな、メスブタだなんて!」
言ってねえよ。
割れたアスファルトを一緒に歩くのは、ナナちゃんとレンカちゃんだ。
レンカちゃんが「外に行くなら、わたくしをエスコートしてくれませんこと?」と同道を申し出て、さらにナナちゃんが護衛としてついてきた。
集団暴走の予兆があるかどうか、レンカちゃん自身の目で確かめたかったらしい。
二人とも、セーラー服の上からモンスターの革製の胸当て、すね当て等の防具をプラスしている。
僕が作ったものだ。
『複製』依頼リストに剣道の防具が入っていたので、どうせならと最初からデザインしてみせたら、レンカちゃんは呆れていたけれど。
加工班での経験から、多少の細工は可能だし。
ギャングウルフ戦の反省から、ナナちゃんは防具の必要性を強く感じたらしい。
これまで軽いテーピングだけで戦っていたというには驚いたけど、『薙刀術:B』と『スピード強化:B』の組み合わせを持つナナちゃんにとって、攻撃は避けるものであり、受けるものではないから当然といえば当然か。
『パワー強化』を持たないナナちゃんにとって、重量のある剣道等の防具はあまり適していないから、デザインして良かったとも思う。
「どう? 動きに支障はなさそう?」
「軽くていい感じ。
あ、でも、ちょっと違和感あるから、ちょっと締めてほしい」
「じゃ、いまやっちゃおっか」
崩れた民家の陰に入り、ナナちゃんの脇の下のベルトに触れる。
着るたびに微調整できるよう、ベルトで固定するタイプにした。
人間は個々人で体格が違うけれど、同一人物であっても環境やコンディションによって数センチ単位でサイズが変わるそうだ。
A大村の加工班で覚えた知恵である。
「ちょっと締めるよ」
「ん……、あ、お兄さん、ちょっと力入れすぎ」
「あ、ご、ごめん」
「もう。もっと、優しく……して?」
きゅっ、とフィットするように締める。
ナナちゃんは軽いステップでくるりと回ると、笑って頷いた。お気に召したらしい。
僕らの様子を見ていたレンカちゃんが、笑顔でうんうんと頷いた。
「破廉恥ですわね!」
「どこが!?」
「逆にいまの会話が破廉恥に聞こえない人類っていますの?
……ああ、イコマ様。わたくしのぶんもお願いいたします」
レンカちゃんが両手をバンザイして胸を張った。
胸当てに潰されてはいるけれど、それでもラージサイズだとわかる立派なものが、存在感を主張する。
いかん、あまり見ないようにしないと。
女子の体を舐めまわすように見る変態だと思われてしまう。
実際に舐めまわすのは治療行為だからセーフだけど、舐めまわすように見るのはわいせつ行為と思われても仕方がない。
気をつけねば。
努めて平静を保ちつつ、レンカちゃんの傍に寄り、脇の下のベルトに触れる。
「どれくらい締める?」
「揺れないくらい、でお願いいたしますわ。
胸のお肉が、内部でこう、上下に揺れて擦れてしまうので。
――え!? 胸揺れ!? いやらしい!!」
「一人で勝手に盛り上がるパターンのやつやめろ」
隣でナナちゃんが自分の胸当てに触れて「ゆ……れ……?」と首をかしげているのは見なかったことにする。
「ていうか、その……いやらしく聞こえたら申し訳ないんだけどさ。
レンカちゃん、下着のサイズ合ってないんじゃない?」
「あら、お気づきですか。お恥ずかしい……」
胸当てのベルトを締めると、レンカちゃんが「んっ」と息をこぼした。
「制服の在庫はそれなりにあるのですけれど、下着は保健室の予備くらいしかなくて。
サイズ違いになっても、二年前のものを仕方なく着用しておりますの。
わたくしはマシですけれど、二年前に一年生だった子は、成長期もあいまって……その、サイズがなくなってしまった子もおります」
「わ、大変だ。余裕があったら増やすよ?」
「またあなたはそうやって軽々しく言って……もう」
男の僕にはあまり理解ができない事柄ではあるけれど、A大村を出るときに槍持ちの子に感謝されたことを思い出す。
やはり女性にとって身につけるものは大切なんだろう。
しかし、二年前に一年生だった子というと、僕の知る中ではナナちゃ――。
うん、ナナちゃんはスレンダーだからいいか。考えないようにしよう。
あとはヤカモチちゃんくらいしか知らないけれど、あの子は大変そうだ。
患者衣のおなかをめくり上げているときとかかなりわかりやすいけど、相当大きいもんな。
ひょっとするとカグヤ先輩よりも大きいかもしれない。
グラビアモデル顔負けのスタイルである。すごい。
「お兄さん、なんでいま一瞬私を見たの?」
「ん? なんのことだい?」
「いや、絶対見てたよね。しかも『あっ』みたいな顔したし」
「ん? なんのことぱい?」
「同じこと言ってごまかそうとしな――いや同じじゃない!
いま『ぱい』って言った! ぜったい『ぱい』って言った!
わ、私だって小さくはないもん!
まわりにデカいヒトが多いからわかりづらいけど、ちゃんと普通サイズはあるもん!
入学前の健康診断でも平均サイズですねって言われたサイズだもん!」
え、それって……。
僕がなんというべきか困っていると、レンカちゃんがかわいそうな子を見る目でナナちゃんを見た。
「それは二年前の平均値のまま、ぜんぜん成長していないということでしょう?
中学三年生のおこちゃまサイズのまま……うふ、かわいらしいですわね。
ちなみに身長は何センチ伸びましたの?
身長がしっかり伸びているのであれば、相対的に見ればむしろ小さくなっていっているようなものだと思いますけれど」
「会長きらい!! いいもん、私はおなかで勝負するもん!」
ナナちゃんはセーラー服を捲って、健康的なおなかを露出した。
白い肌が朝の木漏れ日の下でまばゆく見える。
いや、急になにしてるの?
「ほら、お兄さん! どう!?
ぺろぺろしたくなってきた!?」
「ならねえよ。
ナナちゃんは怪我してないでしょ。
怪我してない子のおなかは舐めないよ」
「今さら理性的にならないでよ!
私の体を舐めまわしたくせに!!
うう、やっぱりもう飽きたんだ……!
そうだよね、ヤカモチのおなかはA5級だもんね……」
「A5級って、そんな牛さんみたいな言い方はどうですの……?
――胸もあいまって乳牛プレイですって!? いやらしい!!」
言ってねえよ。
と、そんな風に騒いでいたから、気づいたのだろう。
がさり、と背後で音がした。
はっとして振り向くと、そこにいたのはヒトだ。
見覚えがある。
槍を携え、大きなバックパックを背負ったA大村の門番の子。
疲れた様子の少女は、僕の顔を見てホッとしたように笑った。
「イコマ先輩! 声がしたからもしかして、と思ったんですよ!
よかった、馬鹿どもよりも先に見つけることができて――」
言って、門番の子が固まった。
ややあって、笑いつつも頬を引きつらせた門番の子が首を傾げた。
「イコマ先輩は、いったいなにを……?」
え、なにって。
万歳する金髪縦ロールお嬢様のレンカちゃんの脇をまさぐりながら、セーラー服のおなかを露出する半泣きの黒髪ヅカ系美少女のナナちゃんとお喋りしているだけだけれども。
密命を果たすため、昼夜を問わず単騎駆けて来た疲労困憊なアキちゃんが、イコマくんを見つける感動的な展開でしたね。
うーんエモい!
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