27 閑話 レイジ、痕跡を見つける
レイジは『イコマはすぐに見つかるだろう』と考えていた。
あの貧弱なパクリ野郎は近隣の村に逃げ込んでいるだろうから、情報を集めながら手当たり次第に村を当たれば、イコマを見つけるのは簡単だろう、と。
だが、大ハズレだった。
見つからない。見つかる気配もない。噂さえもない。
物資補給を受け付けた話すらないとなれば、お手上げだ。
あのひょろい男がサバイバルに長けているとは思わないが、しかし、早々にそのあたりで死んだとも思えない。
――ああいうタイプは、しぶといんだよな。
潰しても潰しても、なぜか起き上がってくるやつらがいる。
文明崩壊前の思い出だ。小学校の教室。中高のクラブ活動。大学のサークルにゼミ。
幾度となくうっとうしい邪魔者を潰してきたレイジだが、イコマは簡単には潰れないタイプだと見ていた。
ゆえに、死んだとは考えない。
だいたい、死んでいたらどうすればいいのか。
アイツにはA大村に混乱を招いた責任をとってもらわないといけないのだ。
報告で「死んでいました」なんて言えば、それこそ追い出したレイジの面目が立たないではないか。
近隣の村々を回り終えたのちに、レイジたち狩猟班はようやくひとつの痕跡を見つけた。
この方向には村はないため――数日進めば忌々しいメスどもの村はあるが、あんな村は存在しないのと同じだ――捜索の範囲に含めていなかったのだ。
しかし、もうほかに探す場所もないため、念のためと言い訳して探してみると、あっさりと見つかってしまった。
腐って地面に落ち、食い荒らされてはいるが、血抜きと解体を行われたホーンピッグの死体である。
「レイジさん、やっぱりこっち方向だったじゃないですか。
イコマみたいな雑魚はどっかの村に逃げ込んでるはずだから、こっち方向にはいないって、完全にレイジさんの読み違い――」
偉そうに意見してくる部下を牙骨剣の柄でぶん殴って黙らせる。
モンスターの骨と牙で作らせた、頑丈なだけで切れ味の悪い武器だが、レイジは気に入っていた。
『剣術:B』を持つレイジは、どんななまくらでも一流以上に戦える自信がある。
錆びた包丁でさえ、レイジにかかれば名刀だ。
それゆえに、レイジにとって重要な要素は『丈夫さ』であった。
そう、牙骨剣は丈夫なのだ。
どれだけ雑に扱っても。
八つ当たりしても壊れないほどに。
「らァッ!」
牙骨剣を振り下ろし、レイジは腐ったホーンピッグの頭蓋骨を叩き砕いた。
クリティカルな感触が手に返ってくるが、すっきりしない。
いらいらが晴れない。
このブタの死骸には角がない。
ということは、人間が利用するために狩ったのだ。
十中八九、アイツだ。
ああ、いらいらする。レイジは思う。
雑魚の動きが予想と違う。事態が思った通りに進まない。手下が愚かにも意見してくる。
すべてが順風満帆であれば、今ごろはカグヤがレイジの強さに惚れ、あの豊満な肢体を楽しめていたはずなのに。
――クソが。それもこれも、全部あのパクリ野郎のせいだ……!
「おい、ヨシノ!」
ひとりの狩猟班員に声をかけた。
近隣の高校から避難してきた、若い女だ。もちろんレイジのモノである。
悪い女ではないが、カグヤほどの魅力は感じない。
ネコみたいに甘えてくるのもうっとうしい。
一発ヤって捨ててもよかったのだが、ヨシノには便利な能力があるため、近くに置いている。
「はい、せんぱぁい! なぁに?」
するりと腕に絡みついてくる女に、死体を指さしてみせた。
「『追跡』を使え。ブタを殺したやつを追うんだ」
「わかった! でもぉ、せんぱぁい。あたしぃ、ご褒美欲しいなぁ~」
ムカつくときにムカつくことを言う女だ。
黙って従えば良いのに、余計な要求をしてきやがる。
――ちょうどいい、カグヤが手に入ったら部下どもにやるか。
手下の不満も溜まってきたと感じている。
息抜きが、溜まったモノの発散が必要だろう。
万事うまくいったらヨシノを使わせてやることにしよう。
レイジは内心でそう考えつつ、甘えてくる馬鹿な女と唇をあわせた。
「ほら、これでいいだろ」
と優しく囁いてやれば、ヨシノは赤く染まった頬で頷き、死体のそばにしゃがみ込んだ。
チョロいメスだ。これだからガキは楽でいい。
年上で少しヤンチャな男と見ると、すぐにケツを振る。
――まあ、そうじゃねえのもいたがよ。
聖ヤマ女村。
忌々しい記憶だ。
レイジが善意から助けてやろうとしたのに、それを拒み、あまつさえ追い出した。
生意気なメスガキどもの村だ。
レイジは地面に唾を吐き捨て、思う。
あの村のことは、思い出すだけでいらいらする。
――クソッ。やっぱ、一回すっきりして落ち着くか。
レイジはブタの死体の前で、女の腰を抱き寄せた。
「ヨシノ、追跡前にちょっと付き合え」
「え? あん、外でなんて……せんぱい、だいたぁんっ」
ウザいが、馬鹿で使いやすい。
そういう意味では、ヨシノは非常にいいメスだ。
捨てても後悔しないところまで含めて。
レイジ最低だなって思いながら書いてたけど、読み返すと思ってたよりも最低で「レイジ最低だな……」と思いました(今週の情報量過少ニュース)
次回も閑話、カグヤ先輩目線です!
本編は次々回からとなります!
「面白い!」「続きが気になる!」と思った方はブクマと★!




