36 読み合い
――勝った!
タマは確信する。
加速した状態からの一撃を入れた。
ステータスオールAの攻撃だ。
たとえエルフであろうと、当たれば重傷確定である。
事実、ハルは口から血をたらりと垂らし、真っ白な防寒具を赤く汚している。
「……あは、は。ヤウシの糸で編んだインナーに、五十人分のあったかさで『まもって』って、エンチャントしてあるの。それでも、これだけかぁ。イヤになっちゃうよぉ」
「喋れんのか。すごいな、内臓割れとるやろ」
タマは呆れつつ、一歩、ハルに近づいた。
鉄骨の上、彼我の差およそ三メートル。
必中必殺の距離だ。
「どっちにしても、もう満足に動かれへんやろ。向き合った状態では、ハルさんの弾丸はぜったいにあたらん。私がもう一撃、今度は頭に入れておしまいや」
そう、勝ちだ。
どうあれ、勝ちであるはずなのだ。
なのに。
「……なんで、笑ってるん?」
「ボクは、いつも……げほ、笑ってるでしょ? いつも通りなだけだよぉ」
勝ち確であるはず、なのに。
悪い予感がする。
背中を誰かに人差し指で撫で上げられているかのような気持ちの悪さ。
――なんか、ある!?
瞬間、ただの直感に従って、とっさに左腕を掲げた。
それが、功を奏した。
ごんッ!
「つ、あ……!?」
タマの左腕に、強烈な衝撃が入った。
横合いから飛んできたなにかが直撃したのだ。
――角の知覚範囲の外から、避けられへん速度で飛んできた……!?
衝撃が、タマの軽い肉体を揺らす。
がしょん、と高速のリロード音が聞こえる。
ハルが、同じく赤く汚したライフルを、震える腕で操作していた。
「……勝ち確なら、油断するよねぇ」
鉄骨から足が離れてしまった。
弾き飛ばされて、宙に浮いている。
タマの思考は、いまだに困惑の中にあった。
「『あたって』の魔弾。『狙撃術』スキルがあるから、ほとんど使わないんだけど……」
言われた瞬間、ぶれる視界で理解する。
先ほど避けた魔弾。
あの一発が、ぐるりと大きな弧を描いて、タマの側頭部に戻ってきたのだ。
――避けられる前提で撃ったんか!
だとすると、攻撃されることすら織り込んでいた。
読み切られていた。
――あかん!
直感する。
この構図は、いけない。
なぜって、ハルはライフルを持ったまま、鉄骨に体を預けるような態勢で。
タマは鉄骨から弾き飛ばされ、落ちている状態だ。
「さすがのタマさんも、空中ではさぁ――」
花が咲くみたいに、ハルがにっこりと笑う。
「――避けられないよねぇ?」
至近距離。
真っ白なライフルが、ぴたりとタマの眼球を捉えた。
その銃口の奥に、莫大な量の魔力を感じる。
殺意と、怨念と、死も。
「じゃあね、タマさん」
たん、と。
短い炸裂音が大通りにこだました。
★マ!
文章量バランス調整ミスってめっちゃ短くなっちゃいました。
そろそろ戦闘終わります。
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