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第五章【悪党北海道脱出編/魔弾暴発《マジックバレット・アウトバースト》】

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35 疾駆



 テレビ塔が、崩落する。

 積雪の下、ひび割れたコンクリートが砕け散っていく。

 鉄とコンクリートとケーブルと、ほかにもたくさんのなにかが引きちぎれていく音を、タマは聞いた。


 ――魔弾、やっぱりほかにも種類あったんやな。でも……。


 倒れるテレビ塔を目がけて走りながら、思う。


 ――今まで通りの方針で問題ないはずや。種類を気にしてもしゃあない。ぜんぶ避けんと、どっちにしろ距離詰められへんし。


 黒炎を纏う足で走りながら、竜角で舞い上がる雪の向こうを知覚する。

 ハルは、砕け、倒れつつあるテレビ塔の下にいた。

 逃げるそぶりは見せていない。


 ――決める気ィやな、ハルさん。


 こちらに牽制の射撃を撃ち込みつつ、ハルはテレビ塔をちらりと見上げて、微笑んだ。

 ビル換算でおよそ三十階建ての高さになるタワーだ。

 たいていの電波塔と同じく、四本の脚で支えられている。


 ――逃げんと、ここで戦うんやな?


 鉄骨間の隙間が広い根元にいるハルのほうが、回避しやすいだろう。

 対するタマはといえば。


 ――左右、どっちか。


 倒れてくるテレビ塔を、大きく回避する必要がある。

 避けること自体は簡単だ。

 だが、テレビ塔を叩きつけられた道路は崩壊し、地下ともども破壊されてしまうだろう。

 回避は大きく、距離は長くなる。

 そうなれば、タマの回避後の隙を狙うなり、さらに距離を空けるなり、高所の狙撃ポイントを取るなり、ハルの取れる選択肢は多くなる。

 時間稼ぎとしては、相当なものだ。


「……って、思ってるんやろ」


 タマは両足の黒炎に力を籠める。


「竜やぞ、私は。鉄の塔なんぞにビビってられるかいな」


 だから、左右のどちらにもいかない。


「まっすぐや」


 巻き上がる雪。砕けるアスファルト。引きちぎれるケーブル。

 まっすぐ倒れてくる、赤い鉄の塔。


 ――ぎりぎりまでジャンプはせえへん。空中を狙い撃ちされたら、避けようがあらへんし。


 ゆえに、ただ走る。

 視覚には頼らない。

 竜角の第六感を信じて、ルートを選ぶ。

 風を断ち切る音と共に降ってくる、赤い鉄の塔に……。


「おお……!」


 タマにしては珍しく、声を上げながら踏み込んだ。



 ●



 轟音と共に、タマの姿が倒れたテレビ塔と雪煙の中に消えていくのを、ハルは見ていた。


 ――左右どっちにも、避けなかったねぇ。


 いつも通りに微笑んで、うなずく。


「そう来ると思ったよぉ」


 ぐらぐらと揺れ、崩れていく地面を身軽に跳ねてテレビ塔の根元に飛びつき、安定しない鉄骨をするする登る。

 エルフの肉体はバランス感覚がいいし、関節も柔らかい。

 この程度の曲芸は、たやすく……はないが、なんとかこなせてしまう。


 ――ボクに『エルフ種』を与えたのは、ボクがそういうスキルを持っちゃダメな人間だったからなんだろうなぁ。あえてボクに渡したんだ、あの竜は。


 ぼんやりと、そんなことを考えてしまう。

 タマがいろいろな質問をぶつけてきたせいだろうか。

 柄にもない、と事態に集中しなおす。

 破壊の音が大きすぎて、長耳の知覚精度は落ちているが、それでも十分だ。


 ――タマさんは賢いし、実はけっこう負けず嫌いだよねぇ。ぜったい、左右には避けないと思ったよぉ。だから……。


 仔竜のスペックに任せた正面突撃。

 倒れたテレビ塔、崩壊する鉄骨のすき間を走り抜けてくると読んでいた。


 ――狭くて入り組んでいて、崩れつつある鉄骨の通路。来るとわかっていれば、左右より狙いやすいよねぇ。


 ゆえに、目を閉じて待つ。

 耳が千切れそうな轟音の中から、小さな音を探す。

 それは鉄を蹴る音。少女の荒い息遣い。鱗がこすれて発生するさざめき。

 揺れる鉄骨の上で、雪国のエルフはライフルを構えた。

 装填するのは、魔弾。

 大量の魔力を込めた、強力な一発。


 ――うん。


 そっと、ライフルを構える。


「……聞こえたよぉ!」


 かっと目を見開いて、引き金を絞った。

 弾丸は、鉄骨の隙間をすり抜けて、一直線に飛んで――しかし、紫色のシルエットは、ぎゅるりと身を捻った。

 避けられたのだ。


「……今のも、避けるぅ!?」

「ようッ、やくッ! 近づいたで、ハルさん!」


 鉄骨の上。彼我の差、およそ十メートル。

 慌てて次の弾丸を装填しようとするハルに、黒い炎を両足に纏わせたタマが迫る。


「やば……!」

「いっせーのっ、せっ!」


 気の抜ける掛け声とともに、見た目以上の膂力を持つ少女の細腕が振るわれた。

 ラリアット気味に振るわれた腕が、ハルの腹部に突き刺さり。


「ごッ、ぶふッ」


 血反吐をまき散らしながら、ハルは鉄骨に叩きつけられた。



★マ!

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― 新着の感想 ―
[一言] パパさん直伝ラリアット!(破壊力大)
[一言] 吹っ飛ばすと距離が空くから詰めたまま仕留めなきゃ!
感想一覧
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