34 倒壊
ハルの聴覚が、異変を察知した。
どうやら、ただでさえAランクあるタマの速度が、さらに上がったらしい。
――ずるいよぉ!
唇を尖らせて、うしろ向きに走りながらライフルの引き金を絞る。
タマの攻撃のたびに雪が巻き上がるため視界は悪いが、お互いに感覚器が鋭いもの同士の戦いだ。
それに。
「目立つねぇ」
黒い炎は、白い積雪の上でよく目立つ。
シルエットの変化だって見て取れるくらいだ。
――でも、どうして両足に炎を纏わせて、速度が上がるのぉ? どういう仕組み?
首をかしげる。
まさか、黒炎を噴射してブーストしているわけではあるまいが。
人間の脚から炎が出たところで、上向きに一回転してしまうのがオチだ。
おそらく、足の炎は『強化リソースを可視化したモノ』なのだろう、とハルは判断する。
魔力を使って、脚力を強化しているのだ。
――ボクのエンチャントと同じ感じだねぇ? ただ、鱗の強化先を腕から足に切り替えたあたり、エンチャントと違って一時的な強化でしかなくて、同時に複数個所は強化できないのかなぁ。
『まっすぐ』『まがって』をリズムよく一ダースほど撃ちこむが、ジグザグに疾駆するタマには当たらない。
完全にランダムな方向に、速度に強弱をつけながら切り返すため、ハルの弾丸でも捉えきれない。
――あはは! 弾丸避けのセオリーを野生でやっちゃうんだもんなぁ! どっちが獣だよぉ!
目測だが、時速換算で百キロ近くは出ている。
雪上でなければ、そしてジグザグ走行でなければ、もっと速いはず。
もはや、弾丸での足止めは不可能だ。
確実に距離を詰められてしまう。
――悪竜タマ! おっきい竜ほどじゃないけどぉ、簡単に勝てる相手じゃなくなったかなぁ。
難しい相手になった。
無気力な少女のままでいてくれれば、楽だったのに。
――でも、ボクには『しんじゃえ』があるからねぇ。
当たれば、勝てる。
当てれば、殺せる。
そこはやっぱり、変わっていない。
問題は、当たってくれないこと。
遠距離からの狙撃が当たらない理由は、圧倒的なステータス。
こればかりはもう、覆しようがない。
――マズルフラッシュを見てから避けてたよねぇ。ううん、そうなると……。
ステータス以外のところで勝負するしかない。
――多少のリスクは、仕方ないかぁ。
ハルは背後のテレビ塔をちらりと確認し、新しい魔弾を装填した。
地下では使いづらかったし、地上でもあまり使いたくはない魔弾。
『まっすぐ』『まがって』の、およそ十倍ほどの魔力を込めたもの。
「『くだいて』……拠点の近くでは、使いたくなかったよねぇ」
ライフルを構え――タマに背を向ける。
狙う先は、テレビ塔の根元。
傾き、ひしゃげた鉄塔の下で、鋭い狙撃音が響いた。
★マ!
同じくスピードAのタンバくんは時速80キロくらい出せますが、タマは黒炎エンチャントでそれ以上の速度に。
ただ、雪上なので速度が落ちているような感じです。
『#壊れた地球の歩き方』書籍版2巻が発売中です!
Web版にない書き下ろしもいっぱいあるよ!
・本編【大阪なにわダンジョン解放編】には書き下ろし三万文字ほど加筆修正
・巻末特典SSは【イコマの休日】
・TOブックスオンラインストア限定特典SSは【イコマ、お好み焼きを量産する】
・電子書籍版限定特典SSは【ユウギリ・ビフォーアフター】
・新規イラスト化キャラはアダチさん、タマコちゃん、ユウギリ(大人バージョン、ロリバージョン)
・さらに巻末にあきづき弥先生のコミカライズ第一話をまるまる収録
ぜひぜひ買っていただけると嬉しいです!!




