33 竜装甲
雪の積もる大通りで、タマは感覚を掴みつつあった。
――ライフルの弾丸は、音より速いんや。
音速がどうこう、という話については、あまり理解していないが。
音を聞いてからでは避けられないと、体感していた。
――けど、光よりは速くない。
地下では、互いに視覚以外の感覚器で対応していたため、気づかなかったが。
地上なら、よくわかる。
――銃口の光を見て、避ければええ。
『まっすぐ』の魔弾は、それで避けられる。
ステータスオールAで、なおかつ竜の感覚器を持つタマならば容易だ。
問題はそれ以外の魔弾。
『まがって』の弾丸に込められている魔力量は『まっすぐ』とほぼ同じ。
いくら鋭敏なタマの竜角といえど、エンチャント内容を遠距離から推察できるほどではない。
全弾回避というわけにはいかず、紫鱗を使ったガードを何度も使わされている。
――距離詰めて制圧するんが、いちばんええけど。
魔弾の回避と防御。
タマの軽い体に、衝撃はよく通る。
距離を詰めようとしても、雪と魔弾によって思うように走れない状況だ。
地上に出てから、すでに十分ほどが経っているが、雪と瓦礫だらけの大通りで、タマはハルにじりじりとしたにらみ合いを強いられていた。
――ハルさんの弾丸が尽きるまで待てば勝てそうやけど、ハルさんがその『詰み』を考えてないはずあらへん。
雪煙の向こうを睨みつけながら、タマは両手に魔力を集中させる。
紫色の毒々しい鱗が積層して、篭手のように小さな両手を包み込む。
さらに、幅広の分厚い竜爪が、ぐぐ、と伸びて、さながら竜の両腕だけを移植したかのような、異形のシルエットを形作った。
「ええ感じやな、コレ」
――自分の体を、竜に近づけたり、遠ざけたり。そういうのは、なんとなくわかってきた。
今までよりもはるかに『竜種』が体に馴染んでいる。
全身を鱗で覆うことができれば完璧だったが、そこまでの変化はまだ難しそうだ。
両腕のみ、両足のみ……など、対になる二部位までが限界だろう。
いまはこれで対処するしかない。
……と。
視界の端でなにかが光った。
瞬間、竜篭手を構える。
がきん、と音を立てて、鱗にあたった魔弾が弾け飛んだ。
防御したあとすぐに、口から連続で黒火球を放って、銃口が光った方向へばらまいておく。
――ハルさんは、弾丸がなくなる前に『即死の魔弾』を私に当てたい。そのための作戦を考えとるはずや。私は逆に、『即死の魔弾』を撃たれる前に距離を詰めて、ハルさんを……。
爪をこすり合わせて、ぎゃり、と鳴らす。
――……終わらせる。
その覚悟は、できている。
また、視界で光があった。竜篭手を振るって弾く。
放射熱で溶けた雪の上を跳ねて、再び走りだす。
再度の閃光。光った方向ではなく、タマの右側から飛んできた。
『まがって』だ。
篭手で弾くが、受けた角度が悪かった。
衝撃で疾駆が一瞬止まる。
「くっ……!」
その隙に、ハルがまた移動を開始する。
大通りを、ひしゃげたテレビ塔のほうへと向かっているらしい。
――高いところを取る気ィやな。
タマ自身、火球を用いるからわかる。
基本的に、遠距離攻撃は高所を取ったほうが有利だ。
登られると、マズい。
――しゃあない。イチかバチかや。
両手の竜篭手を解除する。
黒い煙になって消えていった篭手の代わりに、次は両足を紫の鱗が積層した。
つま先から太ももの中ほどまでを強固に覆う装甲。
――防御しても、衝撃で足止めてまうんやったら。
リスクは、あるが。
「スピード上げて、ぜんぶ避けながら距離詰めたる……!」
その両足に、ぼう、と黒い炎が灯った。
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