32 見下ろす男
レイジは地上、大通りの脇に建つ廃ビルの屋上で、のんびりとマグロを食っていた。
マグロ塊を両手の剣で百グラム程度のブロックに切り分け、剣先に刺して焚き火で表面をあぶり、そのあたりの雪で急冷したものだ。
外は焼けているが、中は生。
醤油を少しつけると抜群だ。
――うめえなぁ。いいよな、北海道ってよ。
両手が両手なので、ハルの備蓄から勝手に拝借した醤油のボトルを開けるのに手間取って、結局フタを切り落として使っているが、やはりマグロには醤油が合う。
酒か白米もあれば、なおよかったのだが、ないものは仕方ない。
剣に刺したままのマグロに豪快にかぶりつき、
――それにしても、よォ。
ぼやく。
「長いんだよ、ボケ。いつまで地下でうだうだやる気だ、あいつら。モグラかっての」
さっきから、何度か地鳴りのような音は聞こえている。
地上の雪が崩れたりもしていて、場所によっては巨大な陥没が起こってもいる。
戦闘の余波なのは間違いないが、竜角も長耳もないレイジでは観測のしようがない。
「……お」
そのとき大通りの端から、どうっ、と雪が吹きあがった。
地下への出入り口をふさいでいた雪を弾き飛ばして、黒い炎が空気を舐める。
少し焦げ臭いにおいが漂ってきて、鼻を突く。
――クソガキだな。本気になったか。
一度も見たことのない色の炎だが、レイジはタマの仕業だと確信していた。
次のマグロを焚き火であぶりながら、ビルの端に立って大通りを見下ろす。
噴き上げられた雪が舞っていて、地上のほとんどが白灰色で染められているため、戦闘を見ることはできないが。
――ちらちら光ってんの、マズルフラッシュだな。あの勢いの炎から逃げて、反撃までしてんのかよ。やっぱり竜殺しは強いな、オイ。そりゃそうか、最低でもパクリ野郎と同格だもんな。竜相手でも、ある程度は互角に……。
そう思ってから、苦々しい顔でマグロをかじる。
「……いや、あのボケを認めているわけじゃあ、ねえ。冷静な判断だ。竜殺しなんて、そう何例もないバケモンだぞ。シンプルな戦力比較に過ぎねえっての」
誰にともなく、言い訳を呟いておく。
つまらないプライドだと自覚しているが、そのつまらないプライドがレイジをここまで生かし続けてきたことも理解している。
「はん」
鼻を鳴らして、廃ビルの端にどっかりと座り込む。
眼下では、黒炎とマズルフラッシュが閃き、甲高い銃声や、なにかが割れたり砕けたりする音が絶え間なく響いてきている。
なおさら、酒があれば、と思う。
――戦闘をツマミに呑めたのによォ。
マグロをかじる。
――ま、あっても、飲む暇はねえか。そろそろ、こっちも動いとく必要があるしな。
剣先に刺したマグロを歯で抜き取って、塊を口からぶら下げたまま、立ち上がる。
行儀悪く、マグロを咀嚼しながら廃ビル屋上の出入り口へ足を向けた。
「さぁて。負けんなよ、タマ。おれァ、てめえに賭けてんだからよォ」
★マ!
短めでスマン。スマンついでですが、たぶん明日は更新ないです……!
スマン!!
明後日は更新できると思っていますが、用事にどれくらい時間かかるか&どれくらい疲れるかちょっと不明なので、あんまり期待せずにのんびり待っていてくださると幸いです。
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