28 幕間 太政大臣と忍者と机の下の女装(女装抜き)
「サイコパスとはなにか、ですの?」
古都ドウマンの太政大臣、レンカが執務室で首をかしげた。
右手にはマドレーヌを、左手には紅茶の入ったティーカップを持ち、おしとやかとは言えないティータイムを見せつけている。
対する質問者は若い忍者隊長タンバだ。
「はい。ユウギリと『サイコパスって、ようするになんだろう』という話になって。看守さんに聞いたら『レンカさんが詳しい』と」
「あら。わたくしも別に専門家というわけではありませんけれど……」
「あの、おじゃまでしたら、ぜんぜんいいですよ」
「いえ、見ての通り、ちょうど休憩中でしたので、構いませんわよ。けれど、どう説明したものでしょうか……」
レンカはカップを置いて、顎に指を当てた。
マドレーヌを一口かじってから、机の下に声をかける。
「ちなみにマコさまは、サイコパスってどういうものだと思われますの?」
「えー、僕?」
「ちょっと待ってもらっていいですか」
タンバが手のひらを立てて『待って』のポーズをとった。
――明らかに、イコマさんの声が机の下から聞こえましたよね。
重厚な木製の執務机の裏側は、タンバのほうからは見えないが。
「あの……なぜ机の下に……?」
「え? ちょっと用事があって」
「机の下にですか?」
ひょっこりとイコマの顔だけが机の裏から出てきた。
ウィッグと化粧をしたマコさんバージョンである。
「なんだっけ、サイコパスだっけ。あれでしょ、ナイフぺろぺろするひとでしょ」
「マコさん、そのまま会話する気ですか?」
「その認識、根強いですわよね。サイコパスはこう、猟奇的な殺人者で、という認識。おそらくいろいろな映画やドラマの影響だと思われますけれど」
「レンカさんもそのまま会話する気ですか?」
タンバのツッコミに、イコマが苦笑した。
「言っておくけど、別にイヤらしいことしてたわけじゃないからね。机の下にティースプーン落としちゃって。それが床の溝にハマったの。木製板張り合わせの床だからさ」
「ええ。お恥ずかしいですけれど、わたくし、手先が少々……ちょっとだけですけれど、不器用でして。取ろうとして潜り込んだら、なぜかスプーンが溝の奥へ奥へと……奥へ奥へと!? そんな、いやらしいですわね!」
「それ久々に聞いた気がしますね」
「ですから、偶然お菓子を持ってきたイコマさまに、とってくれないかとお願いいたしましたの」
「そういうわけだよ、タンバくん。僕はイヤらしいことひとつもしてないし、やましいこともないんだ。男子中学生の年齢だと、なんでもかんでもエロに結び付けちゃうのはわかるけど」
「心外な言われ方ですが……いえ、勘違いしたのはこちらの落ち度ですね。失礼いたしました」
「まあ、気持ちはわかるけどね」
言いつつ、マコさんが机の裏で立ち上がった。
机で隠れた下半身はわからないが、少なくとも上半身は裸だった。
「ぜったいイヤらしいことしてましたよね!?」
「いやだなぁ、タンバくん。せっかくのチャイナドレスを汚したくなかったから、仕方なく脱いだだけだよ。執務室はきれいだけれど、さすがに床となるとその限りではないでしょ? 衣装を思いやった結果だよ。僕は衣装を大事にする男なんだ。長く着られるようにしたいからね。特にチャイナは布が長いから、這いつくばると床に広がってしまうんだ。まさかチャイナドレスで床を掃除するわけにはいかない、そうだろう?」
「言い訳が長いとなおさらうそっぽく聞こえます……!」
というか。
――あれ? チャイナドレスって、構造的にこう、すっぽり上から下まで着るタイプですよね。
タンバはマコさんの上半身を見ないよう、両手で目を覆いながら気づく。
つまり、机の裏側にはパンツ一丁のマコさんがいるわけで。
「あの、マコさん。ひとまず、服を着ていただけますか。目のやり場に困りますので」
「僕、男だから気にしないよ? ……まあ、タンバくんが気にするなら別か。タンバくん、ソファの上にチャイナドレス置いてあるから、取ってくれる?」
「あ、はい」
目をつむったまま、タンバは危なげなくソファに近づき、置いてある布を取った。
ぱさりと布の落ちる音がする。
チャイナ以外にもなにかがあったらしい。
さすがに目を開けて拾うと、女性用の下着だった。
フリルつきで、なにかこう、気合いの入ったデザインである。
これがここにあるということは、つまり、執務机の裏側にいるマコさんは……。
「やっぱりイヤらしいことしてましたよね!?」
「で、タンバさま。サイコパスというのは、精神病質のことですの」
「そしてレンカさんはやっぱりなにもなかった感じで話すんですね!?」
★マ!
一話で納めようと思ってたけど、殺伐とした状況なので強弱付けるために下ネタ入れたら長くなっちゃったから分割します。
……下ネタ入れたから長くなっちゃったから分割しますってなに……?(正気)
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