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第五章【悪党北海道脱出編/魔弾暴発《マジックバレット・アウトバースト》】

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26 跳弾



 跳弾。

 それが、沸騰攻撃から逃れたハルの次なる一手だった。


 ――魔力を感知されてるのなら、魔弾じゃない通常弾丸を使えば、イケるかと思ったけどぉ。


 タマの角の知覚範囲は、三日間の旅の中でざっくりと把握している。

 その外からライフルの銃弾は届くが、ハルの耳でも状況を把握できない距離になってしまう。

 だから、狙撃先は推測で撃った。


 ――従業員用通路の先、逃げた方向はわかってる。沸騰とかで通路が崩れて道が変わっている可能性もあるけど、とりあえずそっち方向に跳弾を投げ込めば、牽制にはなるよねぇ。


 素早く装填と射撃を繰り返す。

 ハルの耳にとっても、知覚外の場所への狙撃だ。

 着弾確認もできないが、そこは数でカバー。

 跳弾するたびに威力は減衰するから、威力については期待していない。

 あまり当てる気もない。あくまで牽制だ。

 そもそも、跳弾は狙ってできるものではないし、跳弾の方向をコントロールすることは不可能なのだが、


 ――『狙撃術:A』……どこをどう狙って撃てば、どこにどう届くか。跳弾した結果までわかっちゃうんだから、すごいよねぇ。


 スキルなら、それが可能になる。

 テンポよく撃ち続けて、二ダースほど弾丸を消費してから、首をかしげた。


「……反撃なし。例の沸騰も、こちらへの呼びかけもなし。逃げられちゃったかなぁ」


 あるいは、威力の減衰した通常弾丸など、気にも留めないほど硬いか。

 そういうことなら、牽制にもならない。

 ふむ、と三秒ほど考えてから、ハルは歩を進めた。

 ざぷざぷと水音を立てながら、通路を歩く。


「んー。やっぱり、着弾確認ができないんじゃ、ダメだねぇ。眼球も狙えないしぃ」


 つぶやく。


「それに、もし当たりどころが悪くて死んじゃってたら……そう簡単には死なないだろうけど……タマさんのあったかさが、流れていっちゃうもん。ダメだよぉ、それは」


 ――北海道は、寒いからねぇ。あったかくないのは、ダメだよねぇ。


 音に注意しながら通路の角を曲がる。

 かすかに耳に音が届く。

 知覚範囲に、タマが入った。


 ――がれきの影にいるんだねぇ。ちょっと、息が荒いかなぁ?


 運よく跳弾が当たってくれたらしい。

 どころか、想像以上にダメージを負っている。

 鱗以外のところにあたってくれたようだ。


 ――タマさん、体の強度はともかく、体重軽いからかなぁ。


 衝撃だけでも、けっこうな打撃力になるらしい。

 ざぷざぷとブーツで水をかき混ぜる。湯気は出ていない。


 ――温度も高くないねぇ。沸騰攻撃は怖いけど、前準備はいるみたいだし。


 追い込めると判断し、さらに歩く。

 もうひとつ角を曲がれば、タマの潜むがれきが見える……そんなときに、声がした。


「ハルさん。ちょっと戦闘やめてもろて、質問してもええか?」

「タマさん? なあに?」


 ここまで近づけば、魔弾だろうが通常弾だろうが関係ない。

 ハルはそっと『まがる』魔弾を装填しながら、問い返す。


「タマさんの質問なら、なんでも答えるよぉ?」

「さよか。……うそやな。いま、魔弾入れたやろ」


 ――ああ、やっぱり魔力には鋭いねぇ。


 微笑みながら、壁に身を寄せて立ち止まる。

 警戒されている。

 いま攻撃するのは、少々リスキーか。


「……質問してる間は、攻撃しないよぉ」

「……ま、攻撃されても、防ぐけど。なあ、ハルさん。善悪ってなんやと思う?」


 首をかしげる。


「さっき言ったとおりだと思うよぉ? 人間のふりがうまいひとは善いひとで、人間のふりが下手なひとが悪いひと。ここでいう人間っていうのは、『社会にいる普通のひと』って意味ねぇ」


 より正確には『大多数の人間が普通だと想像するひと』だろうか。


「人間のふり、か。ハルさんは上手やったな。昨日までは」

「あはは。でしょ? コツはね、笑顔だよぉ。ボク、そういうの得意なんだぁ」


 ハルは通路に溜まった水に、うっすらと映る己の顔を見た。

 きれいな顔だ。傷もなにもない、顔。

 その顔で、にっこりと笑う。


「だから、ボクは善い人間なんだよねぇ。上手だからさ」

「悪趣味な冗談やなぁ」

「冗談のつもりじゃないんだけどなぁ。親切にすべきときは親切にできるし、いつも笑顔でいるでしょお? 会ったとき、タマさんとレイジさんを助けたのもそうだし。ちょっと、我慢できなくなって、いけないことをしたりもするけど、でも他人を傷つけたりはしないもん」

「……はあ? アンタ、山ほどひと殺したやろ」

「ボクは殺してないよ。力になってもらっただけ。あったかい、力にさぁ」


 少し間が空いてから、またタマの質問が飛ぶ。


「ハルさんって、いつからそう(・・)なん? いつから……その、いけないことをするようになったん?」

「うん? いつから。いつから、かぁ……うーん」


 戦闘中だというのに、ハルは少し、考えてしまった。

 そんな質問をされるのは、ずいぶん久しぶりだったから。


 ――いつからだったかなぁ。


 少なくとも、生まれたときから、こう(・・)だったわけじゃないとは、思うのだが。




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[一言] サイコパス!? と思ったけどこの無法地帯、所詮この世は弱肉強食なのよね……。
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