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第五章【悪党北海道脱出編/魔弾暴発《マジックバレット・アウトバースト》】

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25 善悪を知らぬ仔竜



「……ふぅー」


 タマは長い息を吐いて、体の熱を振り払う。

 少々、疲れた。


 ――全身発熱に加えて熱息(ブレス)で直火加熱やったけど。本気の本気でやっても、一瞬しか沸騰させられんか。


 あたり一帯、突沸で巻き上げられた水の湯気が漂っていて、蒸し暑い。

 うまくいってよかった、と思う。

 走って逃げながら、全身発熱で周囲の気温を上昇させておき、最後のとどめとして熱息を使用した。

 ぎりぎり、一瞬だけ沸騰させられた。

 二つ先のテナントくらいまでは、沸騰範囲に巻き込めたはずだ。

 衝撃だ、またがらがらと崩れてきた地下街の天井を避けて、タマは歩き出す。


 ――できたら、逃げて終わりたいけど。


 そうはやすやすと逃げさせてはくれない雰囲気だ。

 だからといって、タマの側から積極的に反撃する覚悟はない。

 いや、正確に言えば。


 ――私には殺す覚悟がない。殺さへん覚悟もない。


 どっちつかずだ。

 脳裏に浮かぶのは、三人の男。

 ぎらついた渇望を胸に恋人の復活を望む、殺す覚悟を決めた男。

 へにゃりとした笑顔で人々の望みをかなえて回る、殺さない覚悟を決めた男。

 それから……。


 ――パパ。


 悪役(ヒール)レスラーから、本物の悪に堕ちた父は、殺す覚悟を決めた男だった。

 いや、善悪の基準がどういうものか、タマは答えを出していないため、父が『本物の悪』だったのかどうかはわからないが。


「……そもそも、あんのかな。本物の悪とか、善とか」


 口に出してみると、なんだか、一気に安っぽくなった。

 『ほんもの』だなんて。

 コメディドラマだって、もう少し捻った言い方をする。


「わからんなぁ。わからんわ。なあんも、わからん」


 経験が足りない。

 そう思ったとたん、なぜだか、ずきりと角がうずいた。


 ――わからんままなんは、気色悪いわ。


 それを知ることが大切だと直感する。

 どうにかして、知るべきだと。

 角が、そう訴えている……気がする。

 だが、わからない。

 知り方がわからない。

 わからないときは、どうするか。

 いつも通りだ。


「ほなら、聞いてみよか」


 レイジに聞いても欲しい答えは返ってこないだろうから、ほかのひとが良い。

 イコマあたりだと、面白みのない答えしか出てこないだろう。

 だいたい、ここは北海道で、イコマは古都だ。

 遠すぎる。

 父であるアダチは、もうどこもいないし。

 そうなると、質問先は。


 ――ちょうどええやん。


 現在、世間一般で見れば、巨悪と言って過言ではない相手が、自分を狙っているではないか。

 生の意見を聞く絶好の機会だと、タマは思った。


「ハルさんに、聞いてみよか」


 命を狙われているとしても、そうすべきだと思った。

 逃げるよりも、話を聞いてみるべきだと。

 ずきり、ずきり、と角がうずく。

 理性を越えたところで、なにか、重要な変化が起ころうとしていた。

 タマはちらりと背後を見て、鼻を鳴らす。


 ――ハルさん、けっこう逃げたな。私の知覚範囲外や。沸騰で死んだわけやなさそうやけど。


 死臭のせいで少し鈍っているが、それでも相当な範囲で気配と魔力を探れるタマの角。

 その範囲の中にいない。

 つまり、ハルにとっても、あの長い耳の知覚範囲の外になるはずだ。

 いまなら、多少余裕がある。


「……殺されへんように立ち回りながら、質問するんか。ちゃんと答えてくれるかなぁ」


 のんきにそんなことを呟きながら、タマは通路を進む。

 どちらにせよ、死臭の濃い地下にはいたくない。

 質問するにしても、外に出てから――と、考えたそのとき。


 ぎんッ!


 という激しい音と共に、タマの体がきりもみしながら吹き飛んだ。

 その後、金属が弾けるような音が激しく連続し、タマのいる通路で跳ねまわり、水しぶきをあげる。


 ――なんや!?


 おそらく、この音の正体が、タマの肩にあたったのだとわかる。

 ……痛みはあるが、それほどではない。

 Aランクのタフネスを抜くほどの威力はなかった。

 タマはがれきの影に身をひそめながら、あざになった肩をさすって、気づく。


 ――魔弾ちゃうな、これ。ただの弾丸や。


 どうやら、ハルが攻撃方法を変えてきたらしい。




★マ!


本日、書籍版二巻の発売日となっております!

三巻も出したいので買ってください!

Web版にない書き下ろしもいっぱいあるよ!


・本編【大阪なにわダンジョン解放編】には書き下ろし三万文ほど加筆修正

・巻末特典SSは【イコマの休日】

・TOブックスオンラインストア限定特典SSは【イコマ、お好み焼きを量産する】

・電子書籍版限定特典SSは【ユウギリ・ビフォーアフター】

・新規イラスト化キャラはアダチさん、タマコちゃん、ユウギリ(大人バージョン、ロリバージョン)

・さらに巻末にあきづき弥先生のコミカライズ第一話をまるまる収録


作者は三巻も出してマッパニナッタ先生の描くタンバくんが見たいんだ!

なにとぞご購入のほどよろしくお願いいたします……!!


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― 新着の感想 ―
[一言] ドラゴンの使命は人を滅ぼすこと、遊ぶことだとしたら。 ドラゴンの本能は人を知ること…? 今のとこ、ユウギリとの共通点はそれくらいしかわからん。
[一言] ドラゴンの浸食が進みそう……
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