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第五章【悪党北海道脱出編/魔弾暴発《マジックバレット・アウトバースト》】
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24 狩り



 ハルは予想通りの光景に、微笑んだ。


 ――やっぱり! この距離からでも、効かないよねぇ!


 装填していたのは、『まっすぐ』の魔弾。

 命中率と貫通力に秀でたCランク相当の魔弾が、タマの振るった右腕にたやすく弾かれた。


 ――鱗の強度、反応速度、高速で飛翔する弾丸を弾ける膂力!


「すごいなぁ、タマさん!」


 素直な感嘆の声を上げつつ、ハルは次弾を装填しながら、駆け出す。

 『まっすぐ』はダメだ。通常の弾丸もだめ。

 かといって、『しんじゃえ』魔弾もリスキーだ。

 高い魔力が込められている魔弾は、おそらく撃った瞬間に弾種が警戒されて回避される。


 ――角が厄介だねぇ。


 センサーとして機能する、両角。

 『竜の呪い』と言っていたが、ただの呪いではないだろう。


 ――たぶん、ボクの『エルフ種』と一緒だ。竜になる呪い……というか、スキル。


 溜まった水をパシャパシャ鳴らしながら逃げ出すタマの背中に、呼びかける。


「あは! タマさんも、竜に押し付けられたんだねぇ」

「どっちかっていうと、パパに押し付けられたんやけど」


 タマが強く柱を蹴って、テナントの角に飛び込んだ。

 振動に耐えかねて、地下街のがれきと雪が不穏な音を鳴らす。


 ――ボクの耳と、あの角じゃ、性能が違いすぎるかなぁ。スペックもタマさんが上。攻撃力は……。


 崩れる天井を走って回避しながら、かつては料理店だったテナントの中を目掛けて、もう一発弾丸を放つ。

 タマはハルに背中を向けたまま、がれきの影に身をひるがえして回避した。

 戦力を比較すれば、わかる。


 ――十分、勝てるねぇ。


 攻撃力もタマが上で、ハルは一発殴られただけで怪我は避けられない。

 エルフの体は、華奢とまではいかないが、頑丈というほどでもない。

 しかし、攻撃力の点で言えば、ハルには一撃必殺の即死弾丸がある。

 確実に当てられるシチュエーションでしか使えないとはいえ、ハルも『当てれば勝てる』攻撃を持つのは同じ。

 スピード、タフネスでは負けているが、攻撃距離はハルのライフルが上。

 タマの火球も脅威ではあるが、決して速い攻撃ではない。

 トータルで見れば、ハルが劣勢だが。


 ――でも、札幌はボクのホームだもん。


 タマはテナントの裏から地下街の従業員専用通路に入ったらしい。

 あそこはただでさえ入り組んでいるが、壁面や天井の崩壊もあって、行き止まりが多いのだ。

 土地勘と構造物への理解度が、強弱の関係をたやすくひっくり返す。

 なにより。


 ――タマさん。人間と戦ったこと、ないよねぇ。殺したことなんて、やっぱり、ないよねぇ……!


 にっこりと微笑んで、ハルは地下街を駆ける。


「あは。反撃してこないなら、ヒグマより楽だよぉ」


 地下のことなら、だれよりも詳しい。

 崩れたがれきで入り組んだ通り道も、繋がっている地上建造物も。

 すべて、ハルのテリトリーだ。


 ――とはいえ、まったく反撃してこないわけ、ないよねぇ。札幌市外にまで逃げられると、さすがに追いかけられないだろうし。


 できれば、地下街で仕留めたい。

 がしゃんっ、と薬莢を弾き出して、次の魔弾を装填する。


 ――『みぎにまがって』だよぉ。


 エンチャントを施した弾丸のストックは、合計百発以上ある。

 用途に合わせて、さまざまな効果のエンチャントを施してあるが、そのうち、竜に通じるレベルの『しんじゃえ』魔弾は二発。

 それ以外の弾丸でタマを追い込まなければならない。

 長い耳をぴくぴくと動かし、ハルは料理店のカウンターに飛び乗ってライフルを構え、撃った。

 放たれた弾丸は、がれきのすき間をすり抜け、従業員用通路に飛び込んで右曲がりの軌道を描き、視界から消え。


 ぎいんっ!


 と硬質な音が通路の向こうで反響した。


 ――ん。弾かれたねぇ。やっぱり鱗かなぁ。視界の外、曲がった通路の先からの狙撃でも防いじゃうのかぁ。タマさん、規格外だよ。


 エンチャントと『狙撃術:A』の合わせ技。

 不安定な曲芸軌道の魔弾も、ハルの腕前なら、百発百中に持っていける。

 威力は足りないが、鱗のある腕で弾いているあたり、攻略するならそこか。


「鱗のないところ。皮膚も堅そうだし、確実に追い込める一撃としては……」


 うん、とうなずく。


「眼球だねぇ。脳まで届けば『しんじゃえ』の節約になるかもしれないし」


 装填。次は汎用性の高い『まっすぐ』だ。

 ハルは走って通路を曲がる。


 ――反撃はなし。


 耳に届く音が、変わった。

 水をパシャパシャと叩いて走る音が止んだのだ。


「止まった?」


 一つ先の角で、タマが止まった。

 諦めたのだろうか。

 賢い少女だが、少女は少女だ。

 精神的な負荷には弱いだろう。

 額の汗をぬぐって、ハルは微笑み――。


「……汗?」


 違和感に気づく。


 ――地下とは言え、雪まみれな一月の札幌で、足元が水浸しの場所で……汗?


 息を切らして走っていたから気づかなかったが、明らかに周囲の温度が高い。

 防寒具がやけに蒸し暑い。

 脳内で警戒音が鳴り響く。

 なにが起こるかは不明だが、なにかが起こることだけは、わかった。

 すぐにきびすを返して逃走を開始した――直後。


 ぼこぼこ、と足元の水が、震えた。


「……沸騰!?」


 ないと思っていた反撃は、ハルが思っていたよりも周到に仕掛けられていたらしい。

 地下街の水が、ぼっ、と爆ぜた。




★マ!



書籍版二巻5月20日(明日)発売!(明日)


(明日)


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ぜひぜひ買ってくれよな!!

(明日)


なお、早いところだともう店頭に並んでいる書店もあるそうです。


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― 新着の感想 ―
[一言] むしろ地下じゃなくて広い地上こそがスナイパーのテリトリー……穴倉はドラゴンのホームよ?
[気になる点] タマちゃんにできるかわからないが、狭い地下街で火を吹かれたり、イコマなら粘液で満たして、酸欠にされたらダメなきがする。土を操作されるとかも。 エンチャント弾を過信し過ぎ。
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