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第五章【悪党北海道脱出編/魔弾暴発《マジックバレット・アウトバースト》】

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23 ひとつ、いいことを教えよう



 タマは、自分に戸惑っていた。


 ――なんでやろ。


 ハルのやったことを聞いても、やはり怒りが湧いてこない。

 戸惑いや驚きはあっても、憤りはない。


 ――やっぱり、私、どっかおかしいんかな。


 竜になったせいか、あるいはこれまでの旅路のせいか。

 人間の死に、心が揺れない。


「……まあ、ええわ。ハルさんは、わるいひとやってんね」

「わるい? ボクが?」

「ほかにおらんやろ。ええひとやと思ってたのに、がっかりやわ」


 ハルが猟奇殺人鬼だったことよりも、ハルがうそをついていたことのほうが、タマにはショックだった。

 そんなタマのショックを知ってか知らずか、ハルはいつも通りに微笑んだ。


「――ひとつ、いいことを教えよう」


 美貌のエルフが、指を一本立てて、歌うように言葉を放つ。


「人間はね、他人のことなんてなにひとつわからないんだ。みんな、わかったふりをしているだけ。その"ふり"がうまいかどうか、行動が模範的かどうか。"わかったふり"のうまさが、社会性の評価に直結するのさ」


 ああ、きっとこれはだれかの受け売りなのだな、と、タマは思った。


「社会性の評価っていう言い方は難しかったかな? どれだけ立派か、どれだけ優秀か……ってこと。言い換えようか。社会性なんてものは、とどのつまり"人間のふり"でしかないのさ」


 だって、あまりにも得意げに語るものだから。

 自分の言葉じゃないのだとわかってしまう。


「このいじらしいアピールが下手な人間は、どれだけ仕事ができても『仕事ができる』と思われないし。実はほとんど仕事をしていなくても、このアピールが上手な人間は『こいつは優秀だ』と思われてしまう。本質なんてどうでもいいの」


 空虚な言葉の羅列が、地下街に滴って落ちる。


「人間はみんな、見たいものだけを見て、見たくないものは見なかったことにする。信じたいものだけを信じて、信じたくないものは信じない。だからコロッと"人間のふり"に騙されちゃう。きみにもわかるでしょ。だから、ひとつ言いたいのはね? ひとつ言いたいのは……」


 ハルが首をかしげた。


「……なんだっけ。ここから先は、忘れちゃったなぁ」

「ふぅん。で、それ、だれの言葉なん?」

「ボクが刑務所でお世話になってたひとだよぉ」

「あんた、刑務所入っとったんか」

「そうだよぉ。ほんとうなら、まだ服役してるはずだったの」


 いっそ呆れてしまう。

 天変地異のあと、札幌から逃げ出そうとした理由がわかった。

 どさくさに紛れて脱獄したのだ、ハルは。


「ほんで、そのお世話になった人は、どうなったん? 一緒に逃げへんかったんか」

「あったかかったよ?」


 最悪の答えが返って来て、タマは顔をしかめた。


「ハルさんみたいなひとを、サイコパスっていうんかな。ナイフ舐めたりしはる?」

「刃物を舐めると危ないよぉ」

「ほなサイコパスと違うか」


 サイコパスがどういうものかは、知らない。


 ――私、知らんことばっかりや。学校行けてへんからしゃあないけど。


「ハルさんは、私もエンチャントの素材にしたいんか?」

「するつもりは、なかったんだけどねぇ。でも、いまはタマさんのあったかさが、気になって仕方ないや」

「私が抵抗せえへんと思うか?」


 ハルはライフルを揺らした。


「ふたり一緒なら、難しそうだと思ってたの。レイジさんもタマさんも、なまら強いっぽいし。特にタマさんは、今まで見ただれよりも強そうだから、困ってた」

「自分より弱い人しか、襲わへんのか」

「うん。だって、返り討ちにされるの、いやだもん」

「札幌の竜は? ハルさんよりは強かったやろ」

「強かったけど、あのときはまだみんながいたからねぇ。壁があれば、勝算はあったもん」

「壁、か。……さよか」


 ライフルの銃口と、目が合う。


 ――各個撃破なら、私もレイジさんも殺せると。私を殺したら、次はレイジさんに行くんやろなぁ。


 なんとなく、レイジはもうとっくに逃げ出している気がした。

 危機感知のセンサーだけは、タマより鋭い男だ。


 ――どうせやったら、レイジさんから狙ってくれたら良かったのに。


 そうしたら、今ごろは……。


 ――そうしたら? 今ごろは?


 タマは自分の想像に苦笑した。

 レイジとハルが戦えば、おそらく相性差でハルが勝つ……と頭ではわかっているのだが。


「なんでやろ。あのアホが負けるとこ、想像できへんわ」

「え? なんの話?」

「こっちの話」

「そっかぁ」


 ――私はまだ、あのアホの終わりを見届けてへん。


 大阪ではあれほど「自分は死ぬべきだ」と思っていたのに、なぜだかいまは「死ぬには早いかな」なんて考えてしまう。


「まあ、足掻こか」


 つぶやいた直後、白い銃口が火を吹いた。




★マ!


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― 新着の感想 ―
[一言] 余裕がある感じの関西弁ってなんかバリバリ強者感あるよねw
[気になる点] いやーハルさん、死体くらいかたずけておこうよ。 ・・・北海道ってバカっ広い(褒め言葉)からもう少しサイコじゃない人が生き残っていてもいい気はする。
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