22 いけないこと
「なんで隠してたん?」
「だって、見つけたら怒るでしょ?」
いつもと変わらないトーンで、ハルが言う。
タマは、自分でも驚くほど冷静なまま、問いを投げた。
「ここにおる人らは、こうなることを……エンチャントの素材にされることを、納得してたん?」
「うん。もちろん」
「つまり、ダンジョン攻略のために、使ったんやな?」
「そうだよぉ」
「うそや」
タマは断言する。
だって。
「札幌ダンジョンを攻略するために使ったんやったら、死体は札幌ダンジョン内か、札幌近郊の拠点に残るはずや。攻略後の札幌には残らんやろ。ここにいるんは……」
言いよどむ。
「……ダンジョン攻略後、札幌解放後に使われたひとたちや」
タマは幼い。
人としても、竜としても。
けれど、決して愚かではない。
「ハルさん、言うてた。札幌ダンジョンの中ボスは六体やったって。つまり、魔石の数は六個や。でも、竜を即死させるほどの魔弾となると、最低でもSランク魔石級のリソースが必要や。どう考えても、リソースが足りへん」
算数の授業は満足に受けられていないが、これくらいなら指を折らなくたって数えられる。
気まずそうなハルに、タマは言う。
「攻略前から、他人をリソースにしとった。そうやな?」
「……うん」
「そんで、これはただの勘やけど。攻略前も、攻略後も。ハルさんは素材にしたひとたちの同意なんか取ってへんねやろ」
ハルは困ったように微笑んだ。
エルフの微笑みは、その怜悧な美貌とは違って、人懐っこくて、無垢で、子供っぽい。
「だって、聞いたら断られちゃうんだもん」
「ダンジョンを攻略するために、無理やり魔弾にしたんか」
――中ボスに竜。何人消費したんやろ、ハルさん。
Aランクスキルを持つものたちでも、おそらくは数十人単位でエンチャントの素材にしないと足りない。
そして、Aランクスキル持ちなんて、そうやすやすと見つかるものではない。
ハルはおそらく、大量の低ランクスキルと、その持ち主たちの生命力までもをリソースに変換して、竜殺しの魔弾を作り上げたのだろう。
「……覚悟はナマモノ。ダンジョン攻略のとき、みんなが自分から囮になったっていうんも、うそやな? ホンマは、ハルさんが後ろから追い立てて、無理やり囮にしたんやろ」
「タマさんは賢いねぇ」
「賢かったら、こんな呪いは受けてへん」
真顔で応じつつ、わからないことがある。
周囲を一瞥して、タマは聞く。
「なんでこんなことしたん?」
理由だ。
理由が、わからない。
「ダンジョン攻略までは、わかった。でも、そのあとは? 攻略後にも、魔弾を作る意味はないはず」
「……理由を言っても、怒らない?」
「不思議と、ハルさんには怒ってへん」
「そっかぁ。……あのねぇ」
ハルはうつむいて、自分の体を両手で抱きしめた。
「エンチャントをするとき、ねぇ? 他人の生命力とスキルをリソースにする場合、その人を動けなくして、手を繋いで、『エルフ種』のエンチャントを起動して……一度、変換したリソースを、ボクの体に通して素材にするんだけどねぇ」
エルフの細い体が、ぶるり、と震える。
「他人の生命力ってねぇ、すごいんだぁ。あったかくて、力強くて、まるでそのひとに包まれているみたいで……それが、なまら気持ちよくてさぁ」
いつも通りの微笑みが、地下街に溜まった汚水に反射して見えた。
「いけないことをしたとは、思ってるんだよぉ?」
★マ!




