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第五章【悪党北海道脱出編/魔弾暴発《マジックバレット・アウトバースト》】

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21 死者の群れ



 ぼんっ、と音を立てて、小さな爆発が起こった。

 急激な気化による体積の増加が、雪とがれきを弾き飛ばしたのだ。


「……あー、びっくりした」


 爆発の中心には、タマがいた。

 周囲に陽炎が揺らめくほどの熱を、全身から放出している。

 雪を弾き飛ばした爆発は、この熱によるものだった。


 ――地面踏み抜いて、雪とがれきに埋もれてたんか。ちょっと気絶してた? 三十秒くらいやろか。


 まずは自身の状態をチェックする。

 ずたぼろのメイド服とパーカーが、さらにぼろきれに変わりつつあった。

 寒さは感じないので別に構わないが。

 周囲を見回すと、膝の高さまで床に水のたまった、がれきの散乱する地下街だ。

 水はかなり冷たいが、地下だからか、凍り付くほどではないらしい。

 それと。


 ――やっぱり死臭が濃いわ。なんなん、これ。


 顔をしかめる。いい加減、慣れてきつつある。

 視線を上げれば、大穴から茜色の空が覗いている。

 がれきを蹴って跳びあがり、地表に戻ることもできそうだが、雪を崩してしまう可能性もある。

 危険そうだ。


 ――翼があったら、飛んで出られるんやけど。


 ないものはない。

 仕方ない、とため息を吐いて、タマは歩き出した。

 地下街であれば、地上への出入り口もあるはずだ。

 崩れた壁の案内表示に従って、すぐそばの階段へ向かったが、


「うわー。あかんわ」


 雪とがれきで埋まってしまっていた。

 別の階段を探すしかないらしい。

 タマは鼻を鳴らして、角に意識を集中させた。

 風の流れを読めば、地上に通じる出入り口を探せるかもしれないと判断した。

 だが。


 ――あかんわ。死臭が強すぎて、風を読むどころやない。


 眉をひそめ、ひとまず別の方向へ歩を進める。

 角の知覚でわかるのは、膨大な数の死者がいることだけ。


 ――いっそ。見に行くんも、ありか。この死臭の源まで。


 レイジの言葉が脳裏にちらついた。

 ハルには『隠しごと』があって、レイジはおそらく『死臭と隠しごとには関係がある』と思っている。


 ――ハルさんが、ええ人か、わるい人か。


 善悪の基準なんて、タマにはわからない。

 がれきをくぐり、踏み越え、たまった水を気にも留めずに進むと、広場のように開けた場所に出た。

 予想はしていたが、視界に映る光景に、顔をしかめる。


「……」


 死体。死体。死体。

 広場に散乱する、死者の群れ。

 温度が低すぎるためか、腐敗はそうひどくないが、放置された死肉のひどいにおいがする。

 凍りきっていないのは、たまった水のせいだろう。


「外傷なし。飢え死にでもない……か。ふうん」


 これまでの旅で、死体なんて幾度となく目にしてきたタマだが、死因が特定できない。

 体に傷はなく、痩せているわけでもなく、しかし、命だけを失っている。

 まるでだれかに吸い取られたみたいに。


 ――牧場の死体。レイジさんが言うとったやつと、おんなじやな。


 近づいて、角の知覚で知る。

 そして、気づく。

 あるはずのものが、ない。

 竜だから、気づけた。

 レイジにはわからなかっただろうが、タマにはわかる。


「なんや、これ」


 困惑する。

 人間にあるはずのものが、感じられない。

 二年前、すべての人類に等しく与えられたモノ。


「スキルがない……?」


 竜角をどの死体に向けても、空虚な質感が返ってくるだけ。

 人間が持つ、無限の想像力のリソース。

 竜が生まれ、竜が扱う夢想(ファンタジー)の感触。

 それが、軒並み感じられない。

 不明な死因も、おそらくソレと関連しとるんや、と直感する。


 ――スキルと生命力を吸い取った? どうやって? だれが? なんのために?


 疑問して、すぐに思い至る。

 他者のスキルと生命力をリソースとして転用するスキルがあるのだろう。

 どうやって、は問題ではない。

 だれが、なんのために……は。


 ――そっか。そういうことなんやな。


 背後の気配で、なんとなく、わかってしまった。

 弾けるように振り返ると、がれきの影から、ゆらりと人影が現れる。

 長い耳を持つ麗しい美貌に、気の抜けるふにゃっとした笑顔。

 真っ白な防寒具と真っ白なライフル。


「見たんだねぇ、タマさん」


 エルフのハル。

 タマは、じっとハルを見つめた。


「ハルさん。あんた……他人の命使ってエンチャントしたんか」


 ハルは微笑んだまま、爪を噛んだ。


「うん。そうだよぉ。隠してたのに、どうして見ちゃうかなぁ」




★マ!


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― 新着の感想 ―
[一言] とあるスマホゲームでは「他人の命で打つステラ」という名言がありましてね(。。
[一言] タマからドラゴンのスキルだけ抜いたら健康な人に戻るんじゃろか?
[気になる点] 竜よりもバケモノ。 でも、死体があるところにわざと泊まっているのは、 見せたいから、だよねえ。
感想一覧
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