１９ 終わったら
傾いたテレビ塔の鉄骨を歩いてのぼる。
遠くに行けないなら、せめて遠くまで見たいと、タマは思った。
だから、登っている。
なお、レイジは思わなかったらしい。
地上で留守番だ。
――地上より、死臭が薄いわ。
やはり、地下に『死』が集中している。
地下街に積み重なる遺体を想像して、タマは眉尻を下げた。
――地下には、ええ思い出がないなぁ。
大阪地底に作られた王国。
なにわダンジョン。
支配者であった竜は、もう死んでいる。
イコマが攻略したのだから、つまり、ユウギリはもういないのだ。
――なんべんも考えた。
元凶はだれか、と。
とうぜん、竜だ。ユウギリだ。
――せやけど。
元凶がいるからといって、幾人もの命を奪った父親の罪が消えるわけではない。
……父親の死を願ったタマの罪もまた、消えない。
――善悪を、だれが決めるんか、か。
レイジに言われた言葉が、脳内で反響する。
そんなこと、考えたこともなかった。
だって、善いことは善いことで、悪いことは悪いことなのだ。
基準があるとすれば、それはどんな基準なのだろう。
考えながら歩いて、鉄骨を飛び移り、また歩く。
ひとりで歩いていると、思考ばかりが進んでいく。
――基準が、どうあれ。私もレイジさんも、悪や。それだけは、たしかや。だから、終わらせなあかん。
いずれにせよ、結論はひとつだ。
己の悪事の辿り着く先を見なければならない。
レイジという男の最期を見届けなければならない。
それが、いまのタマのすべてだ。
すべてが終わるまで、タマに自由はない。
――終わるまで？ 終わったら、私は自由なんか？
内心で自問する。
罪人たる己に自由はあるのか。
自由は与えられるのか。
与えられたとして、なにができるのか。
なにか、したいことがあるのか。
「終わったら……」
ぼんやりと口ずさむ。
終わったあとのことなんて、なにもわからない。
考えていない。考える余裕もない。
けれど。
「……次はゆっくり、見て回りたいな」
気づくと、テレビ塔の折れたあたりまで登ってきていた。
これ以上登るのは危険だろう。
周囲を見渡せば、真っ白な雪に覆われた廃墟が広がっていて。
遠景には大自然が広がっている。
――やっぱりすごいわ、北海道。
しばらく、ぼうっと景色を見て……陽が落ちてきたと気づく。
そろそろ降りようと思って下を見ると、テレビ塔の根元でレイジが剣を振っていた。
剣先を地面に向け、なにか叫んでいる。
耳を凝らすが、断片的にしか聞こえなくて、困る。
「そこ目掛けて降りろ……って、こと？」
首をかしげる。
雪が分厚くて、クッションになる場所なのかもしれない。
そういう風に、受け取った。
だから、跳んだ。
着地は問題なくこなす自信があった。
相当な高さだが、タマは竜だ。
下が雪であろうとなかろうと、怪我なんてするはずがない。
ひゅるる、と風切り音を聞いて、脚から落下する。
着地。
ばふっ、と雪を散らして、しっかりと着地したはずのタマの足元が……不安定さに揺れた。
「え……っ！？」
疑問の声をあげる間にも、がらがらと音を立て、足元が崩れていく。
がれきだ。
雪に覆われてわからなかったが、この場所は地面に開いた穴をがれきが埋めていたような、そういう危ない足場だったのだ。
さらに。
――死臭……！？
崩れたがれきの下から立ち上る、あまりにも濃密な死の臭い。
一瞬、体が完全にすくんでしまった。
その一瞬があれば、がれきを踏んで飛び上がり、崩落から逃れられたかもしれないが。
すくんでしまったものは、仕方がない。
がらがらと、がらがらと。
がれきと一緒に、タマの体が地下に吞み込まれる。
★マ！
本日ワクワクワクチンチンチンなので、明日から１～３日ほどお休み予定です。
ＧＷ中に書くつもりだった短編も仕上がっていないので、更新再開時にはそれもアップしたいです（願望）
『＃壊れた地球の歩き方』コミカライズ連載開始してます！！！！
イコマくんのケツが見られるのはコミカライズ版だけ！！！！
