表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
#壊れた地球の歩き方 【コミカライズ全3巻発売中!】  作者: ヤマモトユウスケ@#壊れた地球の歩き方 発売中!
第五章【悪党北海道脱出編/魔弾暴発《マジックバレット・アウトバースト》】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

245/266

18 やぶをつついて蛇を出す



 ダンジョンの消えた札幌は、ほかの地域がそうなったように、敵性モンスターが少ない。

 それこそ、大通公園のど真ん中に陣地を広げてもなんとかなる程度には。

 ただし、札幌に潜む野生の脅威は、モンスターだけではない。

 ハルは荷ほどきをしながら、あっけらかんと言った。


「ヒグマは普通に出るよぉ」

「くまさん、おんの!? 見たい!」


 目を輝かせるタマと対極に、レイジは心底いやそうな顔になった。


「モンスター出現後も生き残ってんのか、ヒグマは」

「うん。ホムラセッコ程度なら返り討ちにしちゃうし、むしろ増えてるんじゃないかなぁ。ヒグマの天敵って、武器を持った人間とトラらしんだけど、北海道にトラはいないからねぇ」


 ハルは荷物から顔をあげて、のそのそと雪に潜り込むヤウシを指さした。


「ヒグマと正面から戦えるモンスターは、たぶんイテツチグモくらい。ヤウシはかなり大きい個体だから、そんじょそこらのヒグマには負けないだろうけど、もう一回り小さかったらヒグマに食われたりするよぉ」

「くまさん、そんなに危ないん?」

「そっかぁ、タマさん、大阪のひとだったねぇ」


 首をかしげる。

 タマにとって熊は、ハチミツ好きのかわいい生き物の印象が強いのだが。


「札幌は、もともと自然が多いところでねぇ。札幌市内でもヒグマはよく出て……うん。すごく危ないんだぁ」

「……かわいくないのん?」

「体長三メートル、体重五百キロ近くに育つこともある、大型の肉食獣だからねぇ。人間も食べちゃう。鋭い爪と牙があって、木登りも得意。それが時速五十キロ以上で追いかけてくるの」


 竜王のスキルシステムに換算して、パワーもタフネスもスピードもAランク相当だ。

 いまのタマと正面から殴り合える。

 ……体格の差で、タマが負ける可能性も、十分ある。


「くまさん、こわい……」

「冬眠中じゃねえのか? 夏のハイキングじゃあるまいし、ばったり遭遇なんてことはそうないだろ」

「ヒグマって、冬眠しないのもいるの。そういうのは飢えで凶暴化してて、最悪なんだぁ。崩れたビルの中に巣を作ることもあるから、気を付けてねぇ。出発前に一匹は仕留めたけど、ボクがいない間にまた住み着いてるかも」

「わかった。ま、見て回れるとしても、せいぜい大通公園の周辺だけだろ。そう遠くには行かねえよ。ビルの中にも入らねえ」

「了解だよぉ」


 そういうわけで、日が暮れるまで、少しだけ周囲を探索することにした。

 レイジはタマについてくるらしい。

 タマはきょろきょろ周囲を見回して、決める。


 ――あの倒れたテレビ塔、見に行こ。


「レイジさん、テレビ塔」

「あ? わかった」


 笑顔のハルを置いて、雪の上を歩く。

 雪上の歩き方も、この三日でずいぶん慣れた。

 えっちらおっちら、しばらく歩いたところで、レイジがぼそりと呟いた。


「ヒグマの話。ありゃ、うそじゃねえだろうが、事実でもねえな。餌がなくて困ってるなら、ダンジョンの消えた札幌よりも、餌の……狩れるモンスターの多い地域に移動するはずだ。。やっぱりなんか隠してやがるぜ、あいつ」


 レイジのぼやきを無視して、雪から突き出した傾いだビルのがれきに足を乗せたところで、タマは顔をしかめた。


「う。臭う……」

「死臭か?」


 うなずく。

 そこかしこから、濃密な死の臭いが漂ってくる。

 雪の上では気づかなかったが、この街にはかなり強い死臭がある。


「……がれきの下。かなり、死んではる」

「地下街か。雪に覆われてるから、臭いもこもってんだろうな。そのぶん、がれきが崩れて開いた穴からは、強い臭いが出る。天変地異に加えて、この三年近くで崩れたり沈んだりしたんだろ、相当な数の死体があるって考えんのが妥当だな」

「私は行かへんけど、レイジさん、見に行く?」


 ――牧場屋敷のときみたいに。


 暗にそう問うと、レイジは首を横に振った。


「札幌はエルフ女のホームだ。地下に行くなと言われた以上、行かねえほうがいいだろ。刺激するのは得策じゃねえ」

「まだ警戒しとるん……? ハルさん、やっぱり悪い人ちゃうと思うねんけど」


 レイジは鼻を鳴らした。


「そうだな。悪いやつじゃねえかもしれねえ。だがよ、クソガキ。良い、悪いってのは、だれがどういう基準で決めるんだ?」

「そら……常識的に考えたら、わかるやろ」

「そんなら、その常識ってのは、だれが作ったんだ? いいか、クソガキ。ハルからは、たしかに悪意を感じねえが……悪意がねえからといって、害がないとは限らねえ」


 言葉の意味が分からなくて、タマは眉をひそめた。


「どういう意味なん」

「さっさとずらかりてえんだよ。底が見えねえやつを相手してるほど、余裕のある旅じゃねえ。てめえを置いていってもいいんだぜ、こっちは」

「……そういうつもりなんやったら、わかった」


 しぶしぶうなずく。

 ゆっくり札幌を歩いて回りたかったが、仕方ない。

 もともと、レイジの最期を見届けるのが目的だ。

 観光は主題ではない。


「ハルさんと戦闘になったら、アンタ負けるもんな。敵に回すようなことはしたくないわな」

「うるせえな。仕方ねえだろ、剣と銃じゃリーチが違いすぎる。……悔しいが、あいつの戦闘の腕はほんものだ。狩人としても、戦士としても。やぶをつついて蛇を出すのは、馬鹿のやることだ」


 レイジが顔をしかめてそう言ったあと、ふと真顔になる。


「だが、まあ……蛇を食っちまうっていうのも、手ではある……か?」


 そして、なにかを思案するようにうつむいて……ややあってから、にやりと唇をゆがめた。


 ――なんか、悪いこと考えとるわ。


 タマは半目でレイジを睨んでから、またテレビ塔に向かって歩き始めた。



★マ!


書籍二巻発売!コミカライズ連載開始!書籍二巻発売!コミカライズ連載開始!

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↑の☆☆☆☆☆を押して作品を応援しよう!!

TOブックス様から書籍一巻発売中!!

TOブックス様のサイトはこちら
― 新着の感想 ―
[一言] 貴重な遠距離担当だから……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ