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第五章【悪党北海道脱出編/魔弾暴発《マジックバレット・アウトバースト》】

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15 試し



 タマの角、竜の知覚は、五感のどれにも属さない。

 神秘の在り方を直感的に理解する第六感ともいえるものだ。

 だから、遠くから見ただけでも、よくわかった。


 ――ふたりとも本気やない。


 斜めに傾いた電信柱に座って、ハルとレイジの立ち合いを観戦した。

 あの距離なら、レイジが有利だろうと思ったが、ハルの落ち着きようは並大抵のものではない。

 恐怖を感じないのだろうか、と思うほど、いつも通りの笑顔だった。

 冷や汗すら流さない胆力は、見事の一言に尽きる。


 ――パパもかなりの狸おやじやったけど、それ以上やわ。


 やはり竜殺し。

 イコマもなかなかだったが、ハルからは底知れないなにかを感じる。


 ――と、思ってしまうんは、レイジさんがヘンなこと言うたからやな。


 唇を尖らせて、電柱の雪を蹴り落とす。

 あの小心者が必要以上にハルを怖がるから、めんどうなことになった。

 これでハルが怒って、ふたりを置いていってしまったらどうする気なのか。

 というか、よくしてくれた相手を疑うなんて、やっぱり失礼だと思う。


 ――謎や、隠し事なんてさ。だれにでもあるやろ。


 善人か悪人かにかかわらず。

 電柱から飛び降りて、廃屋に戻る。

 レイジとハルもちょうど戻ってきたところだった。

 ハルがにっこり笑って、タマに言う。


「タマさん、ひどいよぉ。試すなんて」

「ごめんなさい、ハルさん。そこのアホが警戒しろとか言うから、そんなに疑うんやったら直接聞いたらええやんって」


 もっとも、うそを吐く相手に直接聞いても、またうそを吐かれるだけだ。

 だから、まっとうじゃない状態で問うことにした。

 うそを吐けない極限状態……戦闘中に。

 ただし。


 ――ちょっと不意打ちで脅かして様子見るだけ。その予定やったのに。


 あそこまで殺意をまき散らせ、とは言っていない。

 タマは半目でレイジを見た。


「……ほらな。言うたやろ」

「うるせえ。悪かったな」


 レイジは苦々しげに顔をしかめて、廃屋に入る。


「荷物とってくる。もう出発だろ。タマ、おまえも」

「わかった」

「ボクはヤウシを起こしてくるねぇ。ついでにコレあげてくる」


 ハルが笑顔でホムラセッコの死体を引きずっていく。

 ヤウシは少し離れた場所にある大きめの車庫で寝ているはずだ。

 タマはハルの背中を見て、はあ、と息を吐いた。


「……ほんまに無駄な時間やったな。でも、これではっきりした」

「まだ安心できねえ。おれのほうに来ただろ」

「それがなんなん?」

「ちょっとは自分で考えろ、クソガキ。ふつうの人間なら、てめえのほうに行く場面だったんだよ。わざわざおれのほうに来たっつうことはだな――」


 ――めんどくさ。


 タマは素直にそう思って、レイジの言い訳がましい言葉をぶった切った。


「怖がってただけやろ、ごちゃごちゃ抜かすなや。殺すつもりやったら、とっくに殺されとる」

「殺したくない理由があるのかもしれねえ。生きてねえと目的を果たせない、とかよ」


 目的。


 ――目的、なぁ。


 タマは視線を鋭くした。


「アンタはどうなん」

「……あァ?」


 問う。


「目的を果たす気ィ、まだちゃんとあるか? 最近のアンタ、なんでもかんでもビビり散らす三下や。なあ、おい。――覚悟、あるんか?」


 タマの周囲の雪が、どろりと崩れ出す。

 竜の憤りが、熱となって周囲に放射されているのだ。

 レイジが数歩後ずさった。


「クソガキ、てめえ」

「覚悟はナマモノなんやろ? 半年前のあの覚悟。ヨシノさん生き返らせて、その手で殺されるっていう、あたまおかしい目的を果たす覚悟は、もうないんちゃうか?」


 じり、と一歩近づく。

 蒸気を纏い、自分よりはるかに背の高いレイジを睨みつける。


「ないなら、いまここで私が終わらせたろか?」


 ぼう、と唇の端から炎をこぼす。

 いつでも焼き殺せる。

 そういうポーズ。


「ないように見えるか、クソガキ」

「見えるから言うとんねん」


 レイジは、冷や汗だらけになりながら――ぎろりとタマを睨みつけた。


「覚悟するのはてめえだ、クソガキ。親父同様首落として殺してやる。おれァ、ヨシノ以外に殺される気はさらさらねえんだからよ。邪魔するやつは、だれだってぶっ殺す」


 そう言った。

 だから。


「そか。ほんならええわ」


 タマは炎と熱をあっさりと引っ込めた。


「……あ?」


 最初から、焼くつもりなんてなかった。

 ポーズは、ただのポーズだ。

 拍子抜けした顔のレイジに、半目で告げる。


「極限状態なら、うそは吐けへんねんやろ。その覚悟、信じたる」


 レイジは一瞬あっけにとられたあと、忌々しそうに唸った。


「おれを試しやがったな、クソガキ! ……つか、おまえ。口からしか火ィ出せないんじゃなかったのか。なんだいまの発熱。新技か?」

「ふん。私かて、日々成長しとんねん」




★マ!


来週ワクチン三回目があるので、その前後で何日かお休みするかもかもかもです。

書き溜め作れたら途絶えず更新します。



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― 新着の感想 ―
[一言] タマはあんまり成長するといかんのでは……? ワクチン3回目(ファイザー×3)はきつかった……熱はそれほどでもなかったんですが悪寒がきつかったんですよねえ。念のため解熱剤とスポドリかゼリーあ…
[気になる点] ワクチン接種3回目で私や父は大丈夫だったけど、一番若い息子が38℃の発熱がありました。 ご注意を!
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