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第五章【悪党北海道脱出編/魔弾暴発《マジックバレット・アウトバースト》】
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14 不意打ち



 ハルはぱっちりと目を開く。

 起床の時間だ。

 場所は海沿いの小村跡、崩れた廃屋。

 旅程も三日目に突入して、時刻は早朝。

 今日で札幌に到着する予定なのだが。


 ――あれぇ?


 目覚めて、すぐに気づく。

 隣の寝袋にくるまっていたはずのレイジがいない。

 タマも、気配がない。

 ふたりして同時に姿を消すというのは、解せない。


 ――こういう場合は、行き先を告げてから行動するのがふつうだよねぇ。


 サバイバルの基本だ。

 昨日、薪を拾いに行くときも、お互いに見える範囲で行動したし、なにをしに、どこへ行くか、必ず報告していた。

 今朝はそれがない。

 ハルを起こさないように、こっそり出たわけだ。

 つまり。


 ――なにか、ふつうじゃないことが起こっているか。あるいは、ふつうじゃないことを企まれているのかなぁ。


 ライフルを掴んで、廃屋の外へ出る。

 寝ているあいだにまた雪が降ったらしい。

 廃屋周辺には分厚い雪の壁が出来上がっていたが、どこにいったのかはすぐにわかる。

 『竜の呪い』とやらに侵されたタマほどではないが、『エルフ種』の感応能力は高い。

 生き物の気配がする方へ足を向ける。

 すぐに、雪上に足跡を見つけた。

 ふたつ、別方向へ伸びている。


 ――大人サイズのサバイバルシューズがレイジさんだねぇ。ちっちゃい素足はタマさんだ。素足って、どうかしてるよねぇ。


 身体性能が現実離れしている。

 ハルの見立てでは、性能でいえば、ハルよりもレイジよりもタマが上だろう。

 ただし、単独行動で生き残るのはレイジのほうだよねぇ、とも思う。

 レイジだって、別に弱いわけではない。

 モンスターに襲われて窮地に陥るような弱者ではないし、サバイバルの知恵もある。

 どちらの足跡を追うかは、すぐに決まった。


 ――うん。レイジさんのほうだなぁ。


 大きい靴跡を辿る。

 雪上に続く足跡を、ぐしゃぐしゃに崩れた古民家の角を曲がるところまで追って、


「……お?」


 ハルの耳がぴくりと動き、なにか小さな音を察知した。

 とっさに上を見て、気づく。


 ――屋根の上!


 不意打ちだった。

 鞘付きの剣の刺突が、たしかな力と速度をともなって、ハルに降ってきていた。

 素早く転がって避け、ライフルを構える。


「ちィ!」

「あはは! いきなり、びっくりだぁ!」


 防寒具を雪塗れにしながら、トリガーに指を添えて微笑む。


「レイジさん。どういうつもりかなぁ?」


 不意打ちを仕掛けてきたのは、レイジだ。

 大柄な男は目を眇めてハルを見た。


「どういうつもり、なぁ。そりゃ、こっちのセリフだぜ。どういうつもりだ?」

「なにが?」

「地下室の死体を見たぜ。ありゃ、餓死じゃねえ。昨日一日考えたんだがよ、やっぱり直で聞くのがいちばんわかりやすいだろ」

「あちゃー」


 ――やっぱり、見てたんだぁ。あそこに泊まったのは、失敗だったねぇ。


 いつもこうだ、とハルは内心で舌を出す。

 行き当たりばったりで行動して、失敗してしまう。

 そういう性格なのは、自覚しているのだが……どうにも治せない。


「あの死体はなんだ? なにを隠してる? てめえの目的はなんだ? おれたちをどうする気だ?」

「質問いっぱいは混乱するからやめてよぉ」


 矢継ぎ早に繰り出される質問のあいだも、レイジは剣を構えたまま。

 もちろん、ハルもライフルを構えたまま。

 この距離なら、ライフルの最大の利点、遠距離戦ができない。


 ――足跡はブラフだねぇ? 角を曲がったところで雪の上に乗って、伏せてたんだろうなぁ。ううん。やっぱり、疑り深いなぁ。


 近距離戦に持ち込むため、こういう手段をとったのだろう。


「初日に言ったでしょお? ボクにだって、言えないことはあるんだよ」

「真意を教える気はねえってか」


 一瞬、レイジの殺意がざくざくとハルの肌を刺して切り刻んだ。


 ――わあ。すごい殺意だなぁ。


 ハルはいっそう微笑みを濃くした。

 どれだけの殺意を浴びてもトリガーを引かないハルを見て、レイジは嘆息して殺意を収めた。


「……本気じゃねえよ。鞘も付いたままだしな」

「またまたぁ。その気になればいつでも抜けるでしょ? 鞘なんてさ」

「ああ。だから……おれをその気にさせるなよ、エルフ女」


 笑うハルに、レイジは唇を横一文字に引き結び、渋い顔をした。


「おれァ、無事に本州に渡れれば、それでいい。悪いが、変な策謀巡らせる女にはいい思い出がなくてな。どうしても警戒しちまうんだ。いっそ殺しとくかって思うくらいによぉ」

「それは危ないなぁ。レイジさん、ちょっとおかしいとこあるよねぇ」

「てめえに言われたかねえよ。どういう家で育ったら、そんなに殺意に慣れるんだ?」


 ――育ちのこと言う男のひとって、ボク、嫌いだなぁ。


 ハルは目を細めて、トリガーを引いた。

 炸裂音と共に、弾丸がレイジの頭の横をかすめ……遠方の屋根の上で、雪に紛れてこちらを伺っていたホムラセッコの胴体に穴をあける。

 人間の気配を感じて、群れが近づいてきているらしい。


「安心していいよぉ。ボク、レイジさんが無事に本州に渡れるよう、お手伝いするからさぁ」


 笑顔で告げるが、やはり、レイジは笑い返してくれなかった。




★マ!



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― 新着の感想 ―
[一言] エルフだと思ったら(心の中)ダークエルフでした(。。
[気になる点] レイジさんの良い人化が止まらない。
[一言] なおタマ……
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