13 うそついてる
「北海道も、ぜんぶじゃないけれど、主要な村は回ったつもりだし。ボクもそろそろ、いっぱいひとがいるところに行きたいなぁ」
「いっぱい人がいるところ、ねぇ」
目を閉じたタマの耳に、ふたりの会話が届く。
寝ようとしてすぐ眠れるほど、そして気になる会話をスルー出来るほど、タマの神経は図太くなかった。
「とすると、古都か。いいんじゃねえか?」
「ラジオでも、ひとがたくさんいるって言ってたねぇ。一度は行ってみたいや。……レイジさん、関東を目指してるんだよねぇ? どうしてぇ?」
「……竜の奇跡を求めて、だな」
「魔石が欲しいのぉ?」
「それ以上のものが欲しい」
「それ以上のものってなあに?」
――わあ。よう聞くなぁ。レイジさん、ぜったい苦い顔してるやろ。
「てめえ、ずけずけ来すぎだろ。……まあいい。要するに、死者の蘇生だよ。死んだ女を生き返らせたい。力のある竜ならソレができるらしい。だから、会いに行く。以上だ、わかりやすいだろ」
「へえ。生き返らせたいひと、いるんだぁ。だれぇ?」
「だれでもいいだろ。……てめえはいねえのか? そういう相手」
「ボク?」
レイジにしては、踏み込んだ質問だ。
踏み込まれたお返しということだろうか。
「家族とか、恋人とか。いねえのかよ」
「いないよぉ。ぱぱとままはねぇ、子供のころに死んじゃった。恋愛もしたことないし」
「友達は?」
「……友達なら、ひとりだけ。ずうっと前に、死んじゃったけど」
「そいつを生き返らせられるかもしれねえなら、どうだよ」
「生き返らせたら……いいなぁ、それ。もう一回、会いたいなぁ」
ハルはしみじみとそう言った。
レイジはそれ以上、なにも聞かなかった。
数時間進んだところで、休憩が入った。
平原を抜けて、巨大な針葉樹が立ち並ぶエリアに入りつつあった。
ちょうど昼時だ。
「おい、ハル。おれとタマで薪取ってくる。見える場所からは離れるつもりはねえ」
「いいのぉ? ありがと。ボクはヤウシにごはんあげとくねぇ」
勝手に決められるのは嫌いだ。
タマはレイジを睨みつけたが、さっさと樹林のほうへ向かって行ってしまったので、仕方なく追随する。
「なんで私なん。ていうか、結局薪拾うん、私やろ」
「まあ聞け、クソガキ」
レイジはつま先で巨大針葉樹の根っこに落ちている雪を蹴飛ばして、息を吐いた。
「屋敷でな、地下室を見てきた。死体もだ」
「せやろな。それは臭いでわかった」
「エルフ女に言ったか? おれが地下に行ったって」
タマが首を横に振ると、レイジは少しヤウシのほうを伺って、すぐに顔を戻した。
「死体はたしかに四体あった。その点は言ったとおりだったが……少なくとも死因は餓死じゃねえ。なんで死んだのかはわかんねえが」
「餓死じゃないってのは、わかるんや」
「餓死は見た目に出る。だが、あの死体は違う。きれいなまま死んで、地下室で凍ってた。外傷もなし。命だけ消えたみてえな死に方だ」
命だけ消えたような。
――おしゃれな表現、似合わんわぁ。
タマは半目でレイジを睨む。
「……生命力だけ、吸い取られたんかもしれへん」
「そういうスキルあるのか、クソガキ」
「知らん。けど、あるやろ。想像力が許す限り、あらゆるスキルが存在しうるんや」
「てめえが言うなら、そうなんだろうが」
レイジが剣先で示した枝を拾う。
枝にも種類があって、燃やすべきではないものもいくつかあるのだという。
正直、違いはわからないが。
「ようするにだ。あの女、うそついてるぜ」
「……うそとは限らんやろ。餓死やと思ったんちゃうの」
「物資不足に苦しむ北海道で二年も生きてきたんだぞ。死体の見方を知らないわけがねえ」
「そうかもしれへんけど、なんでうそつくん?」
タマの疑問に対して、レイジは顎でヤウシのほうを示した。
ハルが手を挙げて、こちらに歩いてきている。
ヤウシにごはんを与え終わったのだろう。
「理由はいろいろ考えられるが、まだわからん。警戒しとけ、クソガキ」
悪党は小声でそう締めて、手の代わりの剣を振り返した。
★マ!




