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第五章【悪党北海道脱出編/魔弾暴発《マジックバレット・アウトバースト》】

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11 覚悟はナマモノ



 看守から逃げられる速度を与えられた。

 攻撃力を補えるエンチャント能力を与えられた。

 けれど、攻略に十分な強度は与えられなかった。

 だから。


「耐久力を、人間の数で補ったわけだ。合理的だな。強い盾職がいねえなら、枚数を増やすしかねえ」


 レイジが淡々と言った。


「わからねえ話じゃねえが、大変だっただろ。勢い込んで『自分が犠牲になる』って覚悟したところで、その覚悟ってやつは長続きしねえ。覚悟した瞬間がピークだ。徐々に徐々にすり減って、当日は逃げ出す奴も多かったんじゃねえのか?」

「そうでもないよぉ。背水の陣だったからねぇ」


 タマが首をかしげる。


「覚悟って、減るん?」

「大阪の雑魚剣闘士どもをおぼえてるか? あいつらだって、最初は竜を倒すって意気込んでたはずだろ。命懸けで挑んでやるってな」

「……あー、そういう」


 言われてみれば、そうかもしれない。

 タマは思う。


 ――最初から最後まで、覚悟が決まってたんは……パパだけやった。


 少なくとも、タマからはそう見えた。


「覚悟ってのはナマモノなのさ。マグロと一緒だ。いちばんうまい瞬間を過ぎれば、時間ごとにまずくなる。特に自分の命を懸けるなら、なおさらだ。一分一秒、命が続くごとに、死への恐怖を意識する時間も長くなるからな」

「合理的じゃないよねぇ、人間のそういうところって」


 ハルの言葉に、レイジが薄く笑ってうなずいた。


「そうだな。合理的じゃねえ。感情的だ。そして感傷的でもある」

「なんなん、その言い回し。気取りすぎちゃう?」

「うっせえ、クソガキ」


 タマの軽口に言い返して、レイジはハルを見据えた。


「ところでよ。竜を倒した『とっておきのお願い』ってのは、どういうエンチャントなんだ? 竜を殺すほどの威力だ、ただの銃弾じゃねえだろ」

「ボクが込めたお願いはね、『殺して』だよ。当たったら、死ぬ弾丸」


 あっさりと告げられた言葉に、レイジが渋い顔になった。


「……冗談だろ? そういうお願いは魔力消費がけた外れになるって、てめえ言ってたじゃねえか。もし事実だとしたら、とんでもねえチート能力だ」


 ハルは微笑む。


「たしかに、莫大な魔力を消費するエンチャントだよぉ。だけど、魔力の代わりになるものもあるんだぁ。代表的なのは、魔石かなぁ」

「魔石って、スキルを強化するアイテムだろ。そういうほかの使い方できんのか?」


 片眉をあげるレイジに、マグロの刺身……というか、切り身にかぶりつきながら、タマが答えた。


「魔石はスキルと一緒で、想像力のリソースやから。底上げが必要やで」

「詳しいねぇ、タマさん。それも『呪い』の影響?」


 うなずく。


 ――でも、竜に通じるレベルの奇跡なんて、それこそSランクオーバーの魔力が必要なはずやけど……魔石何個使ったんやろ。十個? 二十個?


 相当な数の魔石を使ったのだろうな、とぼんやり思う。


 ――うん?


 そこで、引っかかった。

 タマはマグロから視線を上げて、ハルを見た。

 笑顔だ。にっこりと微笑んでいる。


「あの、ハルさん。中ボスって……」


 質問をしようとしたところで、タマの皿にマグロの塊がどんと投下された。

 レイジの剣先で切り取られた、大トロの部分。

 ランプに照らされた脂がてらてらと輝いている。


「おらクソガキ、これも食え。残すのはさすがにもったいねえ」

「……私、大トロより中トロのほうが好きやねんけど」

「じゃあ中トロも食え」


 さらに追加される。


 ――なんや。話の途中やのに。


 むくれながら、大トロにもかじりついて、頬をほころばせる。


 ――北海道のごはんは美味しいってテレビで言うとったけど、ほんまなんやなぁ。




★マ!


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― 新着の感想 ―
[一言] さすがレイジ。 頭の回転は速い(_’ そしてハルはいつもニコニコ顔系無表情って感じの怖さを感じる(。。
[一言] ドロケイにおいて取得される大量の魔石……
[良い点] レイジは気付いててわざと質問させなかったんだろうなぁ 不器用な親切さですね
感想一覧
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