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第五章【悪党北海道脱出編/魔弾暴発《マジックバレット・アウトバースト》】

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10 札幌ダンジョン



 ハルは思い出す。

 ケイドロ……警察と泥棒。

 シンプルなルールだった。


「アレか。警察と泥棒に別れて遊ぶやつ。助け鬼だよな? 鬼……警察は泥棒を全員捕まえたら勝ちで、泥棒は……」


 レイジが首をかしげた。


「……泥棒側って、どうしたら勝ちなんだったっけな」

「休み時間いっぱい逃げ切ったら勝ちやろ」

「学校の休み時間なら、そういう決め方になるんだろうがよ。ダンジョンでは、どういうルールだったんだ? そもそも、人間と竜のどっちが泥棒だったのかもわかんねえし」

「竜が警察側だよぉ。で、人間が泥棒側だったの。捕まって一時間以内なら助けられるっていうルールでねぇ」


 ハルはマグロのステーキを箸で割って口に運び、舌鼓を打った。


 ――自分でやるより、美味しいねぇ。


 やはり知識のある人間はいいな、と思う。

 食えればなんでもいいが、美味しいに越したことはない。


「札幌ダンジョンはねぇ。雪の積もる大監獄でさぁ」

「大監獄? 札幌なのにか? 北海道で刑務所つったら網走だろ」

「札幌にだって刑務所はあるよぉ。むしろ、女子刑務所は札幌にしかなかったりするし。道内の刑務所はぜんぶ札幌矯正管区だよぉ」

「詳しいな、おまえ」

「えへへぇ」


 札幌大監獄ダンジョン。

 迷路のように入り組んだ通路には、どうしてなのか、雪が積もっていた。

 足場が悪くて走りにくい場所を、警察……というか、看守型モンスターから逃げ回りながら、竜の討伐を目指すダンジョンだったのだ。


「看守の目をかいくぐって監獄最深部の竜の部屋に辿り着き、監獄所長である竜を倒して、晴れて大監獄を出所……ていう流れなの」


 ダンジョンの入り口は、札幌大通りの端に設置された巨大で重厚な鉄扉。

 その鉄扉を抜けると、雪の積もる大監獄内部に招待される。


「両側に独房が並ぶ通路で出来た迷路を、ずぅっと進むだけのダンジョン。ところどころの看守室には看守長がいてねぇ、倒すと魔石がもらえるの。プレイヤーが捕まるたびにダンジョンの形が変わる仕組みだから、出口の近くでも安心できないの」


 襲い掛かってくる看守は、揃いの制服を着た体長二メートルほどの真っ黒なマネキン型モンスター。

 ステータスでいえば、オールC程度の相手。

 武器は警棒のみで、決して倒せない相手ではなかったが、倒してもいつの間にか復活しているし、数も多いから、危険を冒してまで戦う理由はほとんどなかった。

 それらを率いる看守長は三メートルほどの大きさで、ステータスはBランク相応。加えて、Aランクの特技……魔法や格闘術などを駆使してくるので、厄介だった。

 看守長をすべて倒すことで、監獄所長の座す所長室への扉が開く……というわけだ。


「プレイヤー……捕まった人間は、どうやって助けるんだ?」

「通路両側の独房のどこかに閉じ込められているから、見つけて、鍵を開けるの。鍵は看守長が持ってて、ぜんぶで六種類だったかなぁ。ダンジョン広いから、あんまり見つけられないし、見つけても持ってる鍵と扉が合わなかったら解放できないんだぁ」

「ややこい。むずかしそうなダンジョンや」


 タマが眉をひそめると、レイジが剣の先でマグロステーキを切り分けて言う。


「攻略法はいくつか思いつくな。おれはそもそも挑まねえがよ。通路が変形するダンジョンは嫌いだ」

「……せやな。私もきらいや」


 ――レイジさん、挑まないんだぁ。へぇ。


 関東大ダンジョン圏に挑んで、北海道に飛ばされてきたはずだ。

 なのに、ダンジョンには挑まないと言う。


 ――事情があるんだろうなぁ。聞いてもいいのかなぁ。わかんないなぁ。


 ハルはにこにこ笑いながら、思う。


 ――このふたりは、待ってるひととか、仲間とか、いるのかなぁ。いないんだろうなぁ。


 だって、そういう臭いがする。

 タマの呪い。レイジの性格と両腕。


 ――厄介事の臭い。厄介者の、臭い。


 孤独と疎外の、すえた臭い。

 鼻つまみ者から漂う、人間社会に馴染めなくなってしまった者たち……同族の臭い。


 ――どうしようかなぁ。


 ハルの悩みをよそに、タマはレイジに向かって首をかしげる。


「レイジさんの思う攻略法って、どんなん?」

「軍勢を率いていれば、なんとかなるタイプだ。看守はステータスはそう高くないし、倒せるんだろ? だったら、物量で押し流すのがいちばん楽だ。古都みたいに軍隊があるなら、それでいける」

「北海道には軍隊なんかないやろ」

「軍隊とまではいかなくても、犠牲前提で人数揃えりゃ、それだけで攻略は楽になる。看守たちから逃げ回り、攪乱する……いわば囮役の頭数を揃えて、本命の戦士たちを中ボス、大ボスまでしっかり送り届けられればいいわけだ。戦士を先に行かせるために、わざと捕まったりするのもありだな、いっそ」


 レイジが剣の切っ先に突き刺したマグロステーキを噛んで、ハルを見た。

 睨むでもなく、笑うでもなく、ただ見る。


「エルフにされたアンタが本命の戦士。そんで、それ以外の人間が囮役。『なにか意味のある死に方をしたい』……やけになって、そう願った札幌近郊集落の人間どもは、そういう戦略をとった。違うか?」


 ハルもまた、マグロステーキを咀嚼して微笑んだ。


「そうだよ。あたりぃ。ボク以外が犠牲になっているあいだに、ボクが攻略を進める作戦だったの」




★マ!

今日から毎日更新再開のつもりです!

書き溜めはない(絶望)

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― 新着の感想 ―
[一言] まあルールからすると袋のネズミにならないためにおとりをたくさん出すのは常道ですよね。あとは足の速いアタッカー次第……。
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