6 旅路
「ボクのスキルは『狙撃術:A』だけだったんだけど、札幌の竜が『エルフ種:B』をくれたんだぁ。これがすごく便利なスキルでさぁ」
ハルの説明は、すごく短かった。
「竜、倒せるなって思って。試してみたら、実際倒せたの」
「どういうスキルなんですか?」
タマの疑問に、ハルがにっこり笑う。
「魔力とスピードにBランクの補正。あと、魔力を直感的に使えるよぉ」
「魔力を直感的に……? 魔法を使えるってこと?」
「とは、ちょっと違うかな。説明が難しくて」
ハルは空を見上げて、首をかしげた。
「夜来る前に、雪原を抜けたいなぁ。移動しながら、お話ししよっか」
レイジが同意し、そういうことになった。
タマはワクワクしながら、ヤウシの上に飛び乗る。
――蜘蛛に乗るのんなんか、はじめてや!
尋常ではない跳躍力を持つタマとは違い、レイジはハルに教えられるまま、ヤウシの足の付け根に足をかけて、器用に登る。
両手の剣でヤウシを傷つけないよう、鞘を装着してある。
「こういうとき、手ェないと困るんだよな……。あのボケ、いつか殺してやる……」
ぶつくさ言いながら、鞍に座った。
イテツチグモのヤウシは一見乗りにくそうだが、真っ白な鞍が取り付けられていて、四人くらいは座って乗れるようになっている。
ハルも慣れた様子でヤウシによじ登った。
「エルフ女。この鞍、ホムラセッコの革か」
「ハルって呼んでよぉ。ええとね、木と鉄パイプで作った鞍に、革を張り付けてあるの。これがないと寒い日に肌が鞍にくっついちゃったりして、無理やりはがすと皮膚がびりびりーってなるんよ」
レイジは顔をしかめた。
びりびりーってなるのを想像したのだろう。
「札幌までは、どれくらいで着く?」
「二日かなぁ。寄り道はなしで、最短だよぉ。途中、狩りはするけどねぇ」
にっかり笑って、ハルは手綱をとった。
「ヤウシ、走って」
カチカチと顎を鳴らして、ヤウシが走り出す。
蜘蛛の足は八本。胴体をほとんど揺らさずに、雪上を走り出す。
揺れはほとんどない。
多脚ゆえに、胴体が上下に揺れず、高さが安定しているのだ。
――わ。はやいなぁ。足がぎょうさんあるからかなぁ。
周囲を見回すと、真っ白な地平線や、盛り上がった丘のようなものも見えるが、真っ白だ。
楽しそうにするタマを、レイジがイライラした目で見て、「やれやれ」とでも言わんばかりに首を振った。
そして、ハルに向き直る。
「おい、エルフ女――ハル。札幌はどうなってるんだ? ダンジョンだったんだろ」
「街があるよぉ。でも、人はいない。ボクだけ」
「……札幌まで滅んだのか」
「うん」
ハルは微笑んだ。
「札幌は、寒さよりもダンジョンのほうが大変だったなぁ。村が呑まれちゃって」
タマは、手綱を握るハルを見た。
微笑んでいて、感情は読めないが。
――大阪と一緒や。
呑まれて、滅んだ。
いま、大阪は古都の援助を受けながら、ユウギリキャンプを中心に再開拓を進めているはずだが、札幌は滅んでしまったという。
どうしてそんな差が生まれたのか、タマにもわかる。
「インフラ系のスキル持ちがいなかったか、いても早々に死んじまったか。……あるいは、人間同士のいざこざで追放でもしちまったのか?」
レイジが自嘲気味に「はん」と鼻を鳴らした。
「詳しく聞かせろよ、札幌ダンジョンのこと」
「ちょっと、レイジさん。失礼やで」
タマはレイジの太ももを強めに叩いて――「いってえなボケ! パワーAで殴るな!」――ハルにおずおずと言った。
「ごめんなさい。言いたくなかったら、言わんでええですから」
「ううん、いいよぉ。でも、ごめんねぇ。ボク、そういうお話するの、すごく苦手で。とっちらかっちゃうけど、いいかなぁ」
うなずくと、ハルはにっこり笑った。
「じゃ、まずは二年前の……天変地異のことから話すねぇ」
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