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第五章【悪党北海道脱出編/魔弾暴発《マジックバレット・アウトバースト》】

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4 キツネ



 タマはじっと目を凝らし、雪の平野を見た。

 紫色の炎がゆらりと揺れる。


 ――お化け屋敷の人魂みたいや。


 ゆらゆらと揺れながら、円を狭めてふたりに迫ってくる。


「……なんだ、こいつら。魔法動体系か?」

「知らへん」


 レイジは両腕の剣を構え、タマは直立したまま、じりじりと時間が過ぎる。

 視認できる距離にまで近づいて、その正体に気づく。


「キツネか。ダンジョン産のモンスターじゃなさそうだが」


 レイジの呟きに応じるように、こん、と獣が鳴いた。

 紫色の炎を纏う、雪に紛れる白い毛皮の狐。

 炎纏っているのは、スキルによるものか。


「炎を操るようなスキルでも持ってんのか? にしては、足元が溶けてねえのが気になるな」

「考えてもしゃあないやろ」


 タマは無造作に足を踏み出した。

 『竜種:A』のステータス補正はすべてAランク級。

 たいていの相手は正面からスペック差で押し切れてしまう。

 四か月の旅のあいだ、戦闘の機会は少なくなかった。

 レイジという、巨大村落の狩猟班リーダーを務めた男がそばにいたのも、経験として有利に働いた。

 モンスター相手の戦闘ならば、タマはすでにそれなり以上の手練れと言えた。


「おい、うかつに手ェ出すな、クソガキ」

「小手調べや」


 唇をすぼめて、口の中で火炎を練る。

 放射ではない。イメージするのは、矢だ。

 フッ、と細く息を吐くように、射出する。

 火炎弾。これもまた、旅の中で得た竜の技。

 雪上に熱の融跡を残して飛び……着弾。

 派手な水蒸気爆発と共に、雪面が弾け飛び、しかしキツネに傷はない。

 あっさり避けられたらしい。


「遠すぎる。不意打ち以外で当たる距離じゃねえ」

「うっさい」


 だが、局面は動いた。

 キツネたちが一斉に走り出したのだ。

 雪の上、紫の炎を揺らしながら、レイジたちに向かって一直線に。

 まだ距離は開いているが、タマはひらりと身をひるがえし、近くに雪に手を突っ込んだ。


「おい、なにしてんだ」

「見とき」


 首根っこを引っ掴んで、雪の中からずるりと引き抜いたのは、一匹のキツネだ。

 激しく暴れているが、獣の爪や牙はタマの肌に通らない。

 紫の炎も纏っておらず、ぎらぎらした獣の目をタマにぶつけている。


「おいおい。向こうが不意打ち狙いなのかよ」

「炎出してるやつらが出てきたあたりで、雪の中這ってきた」


 角の超感覚があるから、気づけた。

 レイジが舌打ちをする。


「思い出した。アレだ。ラジオでやってたやつだ。北海道土着のめんどうなモンスター」

「なにそれ」

「ホノオ……ホムラ……なんたらいう名前だったと思うが。雪中から不意打ちを仕掛けてくるんだとよ。キツネ型だとは知らなかったが」


 捕まえたキツネが、ぼう、と燃え上がった。

 熱くない。

 タマが竜だから、ではない。

 そもそも温度が高くないのだ。

 獣毛のいくつかの部分が、紫色に光っている。

 それが炎のように見えていたらしい。


「バイオルミネセンスか? どういう生態だ、このキツネ」

「ばいおるみ……? なにそれ」

「ホタルとか深海のイカとかが光るやつだよ。知らねえのか」

「知らん。教えて」


 タマは腕を振ってキツネをぶん投げる。

 すぐそこまで駆け寄ってきていたキツネにぶつかり、きゃいん、と鳴いた。

 レイジもまた、とびかかってきたキツネを両断し、息を吐く。


「クソが。これ終わったら教えてやるから、本気で戦え」


 だったらがんばるか、とタマは両手を構えた。

 キツネの群れに相対し――直後、タマの正面のキツネの胴体が、弾け飛んだ。


「……え?」

「あ? なんだ、いまの」


 あっけにとられる。

 なにか、タマの知覚外から、超高速の物体が飛来して、キツネの体に命中した……の、だと思う。

 さらに数発、音を切り裂いて飛んできた物体が、キツネの命を次々に奪う。

 弾ける血肉に少しひるんでしまったタマに、レイジが鋭く声を飛ばした。


「弾丸だ、タマ! どっちだ!?」

「――あ、あっち!」


 ぎゅん、とタマの感覚が唸る。

 首をひねって、飛来物が飛んできた方向を向く。

 目を凝らすと、数キロ先の雪上に動くものがあった。

 またしても、白。

 雪色の生物。

 複数の足を持つ、巨大な白い蜘蛛だ。

 野生ではない。

 大量の荷物を背負い、さらには人をのせている。

 その人は、細長い筒のようなものを構えていた。


 ――遠い! あの距離から攻撃当てたん!?


「伏せとけ、クソガキ。誤射されたらおまえの鱗でもダメージ入るぞ」


 大人しく、言われた通りに伏せる。

 ばすばすばすばすッ、と音を立て、連続で放たれた弾丸がキツネの群れを瞬く間に駆逐した。

 落ち着いたと判断して立ち上がると、白蜘蛛がかしゃかしゃと足を動かして近づいてくるところだった。

 体高二メートル以上はあるだろうか。

 バンか軽トラのようなサイズ感の節足動物は不気味だが、白い甲殻と複眼が不思議と美しい。


「おーい。あんたら、なまらあぶなかったなぁ。ホムラセッコの群れに囲まれるなんてな」


 のんびりした声と共に、巨大な蜘蛛の上からひらりと女が飛び降りた。

 その女すらも、白い。


 ――こっち来てから、見るもんぜんぶ真っ白や。


 雪に紛れる雪上迷彩装備を着込み、担いだライフルも白に塗られている。

 帽子の下に見える肌も雪のように白く、金色の髪は肩口で整えられ、そして……耳が、横に長い。

 尖っているフォルムは、まるで妖精か、あるいは。


「だれだ、てめえ。ていうか、なんだ、てめえ。その耳」


 レイジの唸るような問いに、女はまったく気圧されなかった。


「ボク? ボカぁねえ、ハルっていうの。でね、この耳がなにかっていうと……」


 ハルはにっかりと陽気に笑った。


「『エルフ種』っていうの。見た目は違うけど、根っからの道民だから、あんまり気にせんでね」




★マ!


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[一言] ドワーフに続いてエルフ! なお、スナイパーな模様。
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