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第五章【悪党北海道脱出編/魔弾暴発《マジックバレット・アウトバースト》】

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3 試される大地



 数分後、雪が止んで、分厚い雲が流れていった。

 急に広がった青空の下で火を吹き、びしょ濡れの体を乾かす。

 レイジにも熱風を送る中で、気づく。

 吹雪の間は気づかなかったが、人生で一度も見たことがない光景が広がっていた。


「すご。まったいらや。こんなに平らな地面、はじめてみたかもしれん。地平線っていうんやろ」

「じゃあここ、関東平野か? いや、それにしても……広すぎる」


 レイジもぐるりと周囲を一望して、顔をしかめた。


「おれたちは静岡から神奈川に向かって、関東大ダンジョン圏に入り、東京を目指していた。そうだよな?」

「なんの確認やねん」

「いいから答えろ。神奈川に入った直後、おれたちは光る床を踏んで、気づいたら吹雪の中にいた。だよな?」

「……せやった。いきなりアンタが死にかけたから、びっくりしたわ」

「うるせえクソガキ。あー、クソ。やべえな、こりゃ」


 なにがやねん、と無言で睨むと、レイジは二の腕でごしごし顔をこすって水滴を落とし、真っ白な息を吐いた。


「少なくとも、本州にこんな場所はねえ。関東平野なら狙えば地平線が見える場所もあるかもしれねえが、少なくともこんなに広大な平地ってのはまずねえ」

「……つまり? どういうことなん?」

「本州じゃねえんだよ、ここは。日本かどうかもわからねえ。おい、とにかく人工物探せ。道路標識でも看板でもコンビニの廃墟でもなんでもいい、文字が書いてあるやつだ」


 そう言われても、ただで手伝う気はない。

 タマは無視して、雪を両手ですくった。

 こうもたくさん積もった雪は、はじめて見た。

 じぃ、とよく観察してみる。


「食うなよ。腹くだすぞガキ」

「食べへんわアホ」


 ほんとうは、ちょっと舐めてみようか、とか思っていた。

 雪をその辺に放り投げて、雪をかき分けるレイジのあとに続く。


「ガキ、空飛んで人工物探せや」

「飛ばれへん。羽ないもん」

「役に立たねぇガキだ。竜じゃねえのかよ」


 ぼやきながらも、レイジはむき出しの両剣で雪を掻いてゆく。

 それでいい。

 タマは原則、着いていくだけ。

 料理とか、物資補給とか。

 レイジができないことを、代わりにやるだけ。

 そういう旅を、もう四ヶ月以上も続けて来た。


 雪を掻いて進むこと、数時間。

 レイジが眉をひそめて、つま先で雪をまさぐった。


「なんかあるな、ここ」

「なんか?」

「雪の積もり方と融け方が違う」


 両腕の剣でほじくるようにして、レイジが雪をどける。

 出てきたのは、倒れた金属柱だ。


「なんや。ただの棒かいな」

「馬鹿オマエ、これ道標だぞ。端っこ探せ、住所がわかる。火はやめろよ、またびしょぬれになるのはごめんだ」


 注文が多い。

 イヤな顔で、タマも雪に両手を突っ込み、抱えた雪塊を背後にぽいぽい投げていく。

 Aランクのパワーがあれば、この程度は簡単だ。

 小さな体だが、重機並みのパワーを発揮できる。

 すぐに青い看板が出て来た。


「あった」

「見せろ」


 レイジが駆け寄ってきて、ほっと息を吐いた。

 看板に日本語が記されているからだろう。

 だが、すぐに険しい顔に戻る。


「なんて読むのん、これ。ちない? しいない?」

「……稚内(わっかない)だ。クソ」

「どこそれ。関東なん?」


 レイジがいらいらを隠そうともせず、剣を振るった。

 ずぱん、と金属製の看板が両断される。


「北海道。しかも道北だな。やべえところに飛ばされちまった」

「北海道! 私、はじめてきた!」

「はしゃぐんじゃねえ! おい、方位磁石出せ。日本地図も。人里まで何キロあるんだ? 雪中歩行には限界があるぞ……」


 ぼやくレイジをよそに、タマは壮大な大自然をぐるりと見渡し、ほう、と感嘆の息を吐いた。


 ――すごいとこきてもうた……!


 テレビでしか見たことのない場所だ。

 一面の雪だけでも絶景である。

 もう一度ぐるりと一回転したところで、雪の上に異変があった。

 ぼう、と雪の上で紫色の光が揺れたのだ。


「お。光り出した」

「あ? なんか見つけたのか、クソガキ」


 まるで炎のようだが、炎ではない。

 温かさを感じない光が、ゆらりゆらりと揺れながら、レイジたちを包囲するように展開している。


「クソが。なんか、いるな。北海道特有のモンスターか? おい、タマ。警戒しろ」


 タマは両角をぽりぽりと掻いた。

 竜の感覚は、人間のそれをはるかに凌駕する。


「気づいてなかったん? 雪ン中に十匹以上おるで。転移直後からずっとつけられてる」

「ンのクソガキが!」




★マ!


北海道には一度だけ行ったのですが、時間制限があったため自由に見て回れませんでした。

コロナが明けたら旅行したいな。


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― 新着の感想 ―
[一言] レイジ。 調子乗ってあれこれしてたけど、これでも元大学生なんだよなぁ。 割と知識量とか知能はそこそこあるという再認識。
[一言] 稚内ならとりあえず南に行けばなんかある、と考えるかそれとも、北の宗谷岬まで行って人里を探すかの選択……北行って何もなかったら戻ることになるし南かなあ?
感想一覧
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